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龍の後継者

この話の最後に、全国の地図を載せています。

感想やコメント、評価、お気に入り登録ありがとうございます。


これからも、異戦政宗記よろしくお願いします。

1580年11月半ば、政宗は小十郎、綱元、忠康、行長、岡を従えて安土城を訪れていた。信長と会った政宗は、岡部又右衛門に会い仙台城を築城してもらうために、又右衛門の家を訪れた。


政宗が家に来るとは思っていなかったために、又右衛門は驚いた。大名であるのだから、呼びつければ済むのである。政宗は、又右衛門に仙台に来てもらうために、自ら又右衛門の庵を訪れたのである。部屋に入ると又右衛門の上座に座る政宗に、又右衛門の弟子も合わせて頭を下げたまま言上する。


「それがしは、岡部又右衛門でございます。まさか、政宗様直々に我が庵を訪ねて下さるとは思わず。何の準備もしておりません。汚い所でございますが、御勘弁の程を」


又右衛門の姿を政宗は一瞥すると、頭を上げるように促した。又右衛門達と目が合う。又右衛門の目には、凛々しい姿の政宗の姿があった。まだ、14歳と年若いが威厳に満ちている。その姿を見た、又右衛門は信長と違った魅力に惹かれた。その瞬間、自然と頭を下げてしまった。


「又右衛門殿、頭を上げてくだされ。それがしが、伊達藤次郎政宗である。信長殿より連絡が来ていると思うが、わしは奥州の仙台に仙台城を築城しておるのであるが、石垣が組み上がったところで、築城がとまっておる。それで、安土城を築城したそなたの力をわしに貸して欲しいのじゃ。安土城は、煌びやかで威厳に満ち溢れておった。そのような城を奥州に作って貰いたい。どうであろうか」


政宗の問に又右衛門はしばし考えた。年齢が年齢だったからである。もし、此度の政宗の申出を受ければ、自分は奥州で死ぬかもしれない。安土城は自分にとって、最後の仕事と思い築城した。これ以上ない程の出来栄えで、信長からもお褒めの御言葉と褒美を貰った。


これから先は、仕事をせずに過ごそうと考えていたのだ。弟子たちも育っている。悠々自適な生活を送り、最後の時まで過ごそうと思っていたのであるが、政宗に会い気持ちに揺らぎが出た。


仙台城、どのような城にしようと思っているのであろうか。自分は近江地方から離れた事が無いため、奥州の城に興味を覚える。


「もし、許されるのであれば、城の図面などありませぬか。それを見て決めたいと思います」


又右衛門は、その発言をした後、しまったと口に手を当てた。又右衛門が城の図面を見て断れば、政宗は又右衛門を殺しかねない。城の図面を見れば、どこから攻め入ることができるのかが分かってしまう。


一度図面を読めば、ある程度覚えているので書き写す事も可能だ。そのような城の情報を政宗が、又右衛門に明かすであろうか。すると、政宗が小十郎の方を見て指示をだした。


「小十郎、又右衛門殿に仙台城の図面を見せて差し上げろ」


「殿、本気でございまするか。もし、又右衛門殿が断れば仙台城の秘密が漏れまするぞ」


「大丈夫じゃ小十郎、また考え直せばよい。又右衛門殿にわしは信頼で応えたいのじゃ」


「分かりました。しばし、お待ちを」


小十郎は、荷の中に入っていた仙台城の図面を取り出す。政宗に言われて此度、持ってきていたのだ。取り出した図面を又右衛門に渡す。又右衛門は、図面を見て驚愕した。その広さである。


仙台城は、小高い平山城であるが、山を使って上手い具合に設置された本丸は八層になっており城の表面色は白色である。そして、二の丸、三の丸までは考えていたが、四の丸が設置されている。内部の構造の図面まで目を通した又右衛門が静かに声を発する。


「素晴らしい」


政宗は、微笑みながら又右衛門に声をかける。


「どうだ。仙台城の築城を行ってはくれまいか。家族や弟子の移住も、伊達家が資金を出そう。もし、伊達家に仕えてくれるのであれば、家臣待遇としよう」


「私だけでなく、わが弟子や息子も家臣にしていただけるのですか」


「そうだ。まだ、家臣達に話してはいないのであるが、わしは奥州の城の減築を行おうと思っておる。城の量が多すぎるのじゃ。城の維持だけで金がかかる。今までは、領民に無償で城の補修などを行わせていたのじゃが、それはわしが辞めさせたのじゃ。伊達家で金を払って、今は補修しておる。しかし、金がかかるのだ。なれば、城の数を減らせばよい。わしが南部を倒した後は、敵は奥州には居なくなろう。そこで、重要な城だけを残し、その城を改築し、他の要らない城は破却いたすのじゃ」


政宗の意見を聞いた又右衛門は驚いた。武士にとって城は重要な拠点である。それを減築するとは…。考えもしなかった。自分が政宗に仕えれば、又右衛門の弟子や一族は政宗に仕え、奥州の全ての城を手掛けることになる。


これは、面白い。何年かかるか分からない。仙台城を建てた頃には、自分は死んでいよう。しかし、仕事はなくならない。自分の弟子や子供達が引き継いでくれる。自分が決めるこの一言によって、一族は一生この仕事を引き継いでいくのだ。


又右衛門は、政宗のこの願いを受けるのかどうするか迷った。そして、周りに座っている自分の弟子や息子を見る。皆の目を見ると、恐れなどはない。希望に満ちていたのだ。

又右衛門は、政宗の目を見つめる。心が決まった。最後の集大成を見せようと。


「わかりました。岡部又右衛門、そして一族や弟子は、これより伊達家に仕えまする」


「おお!!それは良かった。これからよろしくな、又右衛門殿」


この後、又右衛門達は家の片づけや引っ越しの準備を行い。堺を目指す事となった。政宗からは、必要なものは奥州で準備するということであったので、必要な物だけを持ち引っ越す事になるのであった。


又右衛門の承諾を得ると政宗は、安土城に与えられた部屋へと帰って来た。小姓の蘭丸に、信長への謁見を求めると応じられ信長の元へと向かった。信長が待つ部屋に入ると、一人知らない武将が頭を下げて待っていた。


信長の前に座り、簡単な挨拶を交わすと又右衛門の話に移り、又右衛門を仙台へと連れて行くことを告げると信長は、笑いだした。又右衛門は大工を引退すると言っていたが、それをやめて政宗の城を建てることにしたからだ。


「そうか。なればしかたないな。そうそう、政宗殿に昨日会っていなかった武将を紹介しよう。此度の朝廷とのとりなしを行うことになる、明智光秀じゃ」


政宗が光秀の方を見ると、光秀が言葉を発した。


「それがしは、明智惟任日向守光秀でございます。以後良しなにお願いいたしまする。先日は、お会いできず申し訳ございませんでした」


顔を上げた光秀を政宗は見る。そこには、年はとってはいるが若い頃は美男子であったであろうと思わせる顔つきの光秀の顔があった。


「伊達藤次郎政宗である。朝廷とのとりなし、頼みまする」


政宗と光秀の紹介が終わると、信長は政宗に声をかけた。


「政宗殿直ぐに旅立つのであろう。これで、お別れになるであろうな。そなたとの話は楽しかったぞ。また、語り合うことが出来ればよいがな。後、同盟の話であるが、もし気が変わったら使者を遣わして欲しい。出来れば、伊達家には敵になって欲しくないからな」


信長がこのような話をするとは、光秀は思っていなかったので驚いた。まさか、目の前にいるまだ14歳の若い太守を、信長が認めているのかと驚愕したのだ。信長が認める政宗との交友を深めねばと、光秀は考えるのであった。


「分かり申した。信長殿との話は、それがしも楽しかったので、また語り合いたいものですな。それでは、また会うことがあれば、それまではご壮健でお過ごしください」


「では、政宗殿さらばじゃ」


そう言うと、部屋を信長は退出していった。光秀と二人きりになると、光秀から政宗に話しかけてきた。


「政宗様、朝廷との渡はつけております。後は、お任せください。では、本日は京の近くにあります。我が坂本城へと行き明日、京へと入りましょう」


「そうか。では、坂本城へと向かうとしよう」


こうして、政宗達一行は安土城を出て、光秀の城である坂本城へと入ったのである。坂本城へは、船を使って移動した。移動の最中は光秀と政宗は話をすることとなり、その人となりを見た政宗は、どうしてこの人物が信長を討ったのかが分からなくなった。聡明で物事を深く考える人物であったからだ。


坂本城に着くと、政宗が泊まる部屋へと案内され、旅の疲れを取って欲しいとの光秀の申出により、風呂へと入ることとなり、その後は広間に通され食事をすることとなった。広間に通されるとそこには、光秀を含め2人の武将が政宗一行を待っていた。


上座に政宗が座り、全ての武将が席に着くと光秀より2人の武将の紹介が始まった。


「政宗様、こちらに座っておる2人は某の家臣であります。私の右に座っている武将は斎藤利光であり、その隣にいるのが某の娘婿になります明智秀満でございます」


光秀が紹介すると、二人の武将より政宗達にそれぞれ名を名乗り顔を上げた。政宗は、二人に対して政宗自身も挨拶をし、家臣達を紹介した。その後は、皆で食事をして酒が入ってきたところで、光秀が政宗に自分の気持ちを話し始めた。


「政宗様は、信長様をどう思われますか」


「そうですな。やはり、中国の三国志に登場する、曹操であるかと思うような武将でございますな。家臣をうまく使い。領土を広げ。苛烈な意思を持っておられる」


「なるほど。某は、信長様は鬼だと思っておりまする。苛烈な意思のために、家臣達はいつ自分の首が飛ぶのか怖いのです。佐久間殿等の戦功績がある者でも、信長様には捨てられます。佐久間殿の後は、それがしに任されましたが何時自分もそうなるかと思うと、心配なのでございます」


光秀は、自分の置かれている立場を政宗に相談した。普通、他国の武将にここまで話をすることは珍しい。政宗は、光秀の話を聞きこれが、明智光秀が信長を討った理由だと理解した。


光秀は、信長を恐れすぎたのである。そして、疑心暗鬼にかかっていた。後、2年もすれば光秀のこの気持ちは、暗い闇に支配されるまでになろう。ここで、政宗は光秀に信長との信頼関係は、心配しないように話そうかと考えたがそれをやめた。


政宗は、現代の知識があるため、歴史を知っている。政宗の活躍で、歴史は変わってしまったが、光秀には信長を討って貰わなければならない。その方が、後の戦を考えれば楽だと考えていたからだ。


信長が居れば、その家臣達の結束は強い。カリスマ性のある信長に皆が従っている。しかし、信長が居なくなれば、後世の世に伝わるように後家相同となるだろう。そこに、伊達家が関われば、伊達家が天下を手中に収めることが出来ると考えていたのだ。


「光秀殿の御懸念、政宗も分かりまする。もし、光秀殿に危機が迫り、逃げなければならないときは、若狭に伊達の船がありまする。近江の坂本城からは、近いでしょう。伊達家へと落ち延びられよ。伊達家が力を貸しましょう」


政宗がそういうと、光秀の顔は安堵の顔になった。


「その時は、よろしくお願いします」


光秀の気持ちを知る斎藤や秀満も、一緒になって頭を下げた。翌日は、政宗は朝廷へと謁見し大善大夫の官位を手に入れた。朝廷には献金を行い。帝からも声をかけられ、奥州探題や家督相続も帝より認められた。


政宗は、朝廷との謁見が終わると、光秀と別れ12月の寒い海を新たに家臣になった者達と、仙台へと帰っていくのであった。




年が明けて1581年2月になり、政宗達一行は米沢城へと帰って来た。無事に旅を終えたのである。政宗は、旅をした家臣達に休むようにいい。新たに家臣になった岡定俊、岡部又右衛門に屋敷を与えると、米沢の奥座敷へと向かいその日は旅の疲れを取ることとした。


松姫のお腹は大きくなっており、もうすぐ政宗の子供が生まれてくるということであった。予定は3月であり、政宗は初めての子供が生まれてくることを、心待ちにすることになるのである。


旅から戻った翌日、米沢の広間にはいつもの面々である元宗、実元、留守、黒川、遠藤、小次郎、小十郎、綱元、忠康が集まった。集まった全員より、政宗に年明けの挨拶が行われた。今年は、1月に政宗が不在であったので、毎年米沢城である新年の挨拶が行われていなかったのである。政宗より、今回の旅の報告があると、遠藤より昨年の伊達家の内政の報告が行われた。


「政宗様、昨年の伊達領の発展でございますが、伊達領は272万石になり鉄砲6000丁、新型鉄砲4000丁、手筒包400丁、馬50000頭、兵77500、投石器8器、南蛮船3隻、安宅船12隻、商業船6隻、中型商業船4隻、関船4隻、小早6隻となりました。兵は新兵が多いですが、訓練も4月までには終わるかと」


「それは、重畳であるな。今年は、南部を討つぞ。南部に借りを返すのじゃ」


政宗がそう言うと、全員が頷いた。すると、留守を預かっていた元宗が発言を求めた。


「政宗様が京へ向かわれている間に、上杉家から使者が訪れ伊達家との同盟をいたしたいと、願い出ておりますがどういたしましょうか」


この時、上杉家の内乱はまだ続いており、現在は織田家によって能登や越中まで攻め込まれており、同盟している武田家は北条、徳川、織田と戦っており援軍は望めない状態となっていた。


上杉家としては、伊達家に援軍を頼むほかなくなったのである。上杉家は、景虎側として参戦した伊達家との同盟には否定的な者達が多かったが、斎藤朝信、上条政繁が家臣達を説得し上杉家と伊達家の同盟を成功させようと動いたのであった。


しかし、伊達家が上杉家と同盟すれば、北条家が黙っていないだろうということを政宗は考えた。北条と同盟破棄になることは、避けなければならない。


「もし、上杉家と伊達家が同盟すれば、北条は同盟を破棄してこよう、それはまずいな。そこでだ。上杉家が伊達家の家臣になるとすれば、どうなるかな」


「それでございましたら。伊達家に降ったことになり、同盟をするわけではございません。北条殿をうまく説得できれば、分かっていただけるかと。それに、上杉家が織田家によって倒されれば、次に狙うは伊達家でございましょう。であるならば、上杉家を伊達家の家臣として迎え入れた理由は、織田家との戦になる前に手を打ったと言えばどうでしょうか。北条家も否とは言いますまい」


実元が発言すると、これを受けた元宗が発言する。


「しかし、上杉がどうでますかな。伊達家の下に降りましょうか」


「わしが、上杉景勝殿に会って口説けばどうであろうか。景勝殿も上杉家の存続を願われていよう。義を持って、当たれば嫌とは言うまい」


政宗の提案は、家臣達も納得する部分があった。伊達家が助けなければ、上杉家は潰れてしまう。滅亡するのであれば、伊達家の家臣になる可能性はある。景勝の説得が成功すれば、後は上杉家の家臣をいかにして景勝が抑えるかだけである。


斎藤、上条が納得すれば、伊達家の家臣となる事を景勝が決めたとしても、他の家臣も支持するだろう。後は、北条だけでなく武田家にも認めて貰う必要がある。武田家としては、もし上杉家が織田家に敗れれば包囲されることになる。これだけは、避けなければならなかった。


今、武田家は上杉家に援軍を送ることができない。上杉家が伊達家の者になれば、武田家への援軍や織田家への戦も連携して行うことが出来る様になる。これは、武田家に取っていい話であった。武田家の反感を買う事は、ないであろうと政宗は考えていた。


「武田家にも、話をつける必要があるな。今回は、実元殿には北条に行ってもらい。武田家には、小十郎に行ってもらおうと思うがどうか。小十郎は、勝頼殿の軍師である真田昌幸殿とも面識がある。使者としては、大丈夫かと思うが」


これを聞いた実元は、納得したように賛意をしめした。


「政宗殿、それはいい案だと思います。わしが、今まで伊達家の外交を一手に引き受けてきましたが、わしも齢でございます。外交を小十郎であれば、上手くやりましょう。これからは、わしと一緒になるべく行動し、小十郎に外交を引き継いでもらいましょう」


実元が納得したことを政宗は喜んだ。小十郎も自分が外交を任されるとは、考えていなかったが、伊達家に取って重要なこの外交の使者を務める事は誉れであり、実元に対して頭を下げる。


「わかりました。実元様、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願いします」


小十郎のこの発言を受け政宗は、頷くと。元宗に話を戻す。


「元宗殿、すまぬが上杉家と連絡をとり、斎藤、上条殿に伊達家の方針を伝え下され。もし、上杉家が伊達家の家臣となるのであれば、景勝殿と一度会いたいとお伝え願えませんか。実元殿、小十郎は使者として北条、武田に旅立ってもらいたい」


「わかりました。後は、お任せください」


三人が頭を下げるとその日の軍議は終わった。元宗は、すぐさま上杉家に連絡をとり斎藤や上条と会い伊達家の方針を伝える。斎藤や上条は驚いていたが、伊達家の北条家に対する立場を考えれば已むを得ないと考え、景勝に相談することとなった。


ここは、越後春日山城の一室、上座には上杉景勝が座り他には斎藤、上条、直江が居た。斎藤、上条より伊達家との同盟の話を聞くと顔にしわを寄せた。


「上杉家が伊達家の家臣になるだと…。そのようなこと、出来ようはずがない。そうなれば、義父も許してはくれまい。それに家臣も、黙っていようはずがない。なれば、織田家と戦い。滅びるまでじゃ」


そう景勝が発言すると、斎藤が景勝に詰め寄った。斎藤と上条は、伊達家の話を受けようと思っていたのだ。領土はどうなるかわからない。しかし、伊達家の家臣となれば、伊達家より援軍が来る。もし、援軍がなれば内乱も収束するだろうし、織田家とも上杉軍だけでなく、伊達軍とも一緒に戦うことができ。


能登は織田家に取られるかもしれないが、越中は守ることができるかもしれない。現在は、越中の富山城から東は上杉領になっており、越中の半分まで織田家におとされていた。伊達家が援軍をよこさなければ、来年には越後に攻め寄せて来るかもしれないのである。


そうなれば、援軍がない上杉家は滅亡。滅亡するぐらいであれば、伊達家の家臣になった方が、まだましだと二人は考えていた。


「殿、しかし上杉家を滅ぼす方が、不識院様は景勝様を責めましょう。ここは、涙を飲んで、伊達家に仕える事が上杉家を残すためには、一番の道かと他の家臣への説得は上条殿と某に任せていただければ、万事うまくやりまする」


そう言って、斎藤は景勝を説得する。上条も同じように景勝を説得するが、なかなか景勝は承諾しない。斎藤と上条が景勝を説得し始めてから2時間が経過した。二人の話がとまった時を見計らい、直江兼続が景勝に意見を述べた。


「景勝様、一度、伊達殿とお会いしてみてはいかがでしょうか。それで、伊達家の家臣になるか決めてみては、それからでも遅くはないはず」


これを受けた景勝は、頷き。政宗との会見をもつ事となったのである。場所は、会津地方の上杉家と伊達家の国境と決まった。


その頃、小十郎は躑躅ヶ崎館の武田家を訪れていた。広間に通されると、勝頼と昌幸の姿があり、二人に小十郎が挨拶をすると勝頼より声がかかった。


「政宗殿は、息災であるかな。松殿が身籠ったと聞く、伊達家と武田家の融和が出来ること、嬉しく思う。それで此度はいかがしたのだ」


勝頼に問いかけられると、小十郎は上杉家との今回の問題を勝頼に説明した。勝頼は、小十郎の話を聞き終えると、一度目を閉じ考えをまとめると、小十郎に話しかける。


「武田家としては、問題はない。上杉家と武田家は婚姻関係にある。景勝殿には援軍を求められるが、北条、織田、徳川と戦になっており、援軍の要請にこたえる事はできん。しかし、伊達家が上杉家を助け織田家と戦になれば、我が武田家と織田家を共闘することができる。これは、武田家にとっては願ってもない事じゃ。昌幸どう思う」


真田昌幸は言葉を受けると、賛意をしめした。


「上野の兵を今は、引き上げて信濃の守備につけております。上杉家との国境付近に、反逆した上杉家家臣の城があるため信濃の北に兵を用意しておりますが、上杉家の内乱が終息すれば、南信濃に兵を持っていくことができまする。そうなれば、武田家に取っては願ってもないことかと」


「そちもそう思うか。であれば、武田家は伊達家を支持しよう。上杉家が伊達家の家臣になること武田家は、反論はござらん」


「主にかわり、お礼を述べさせていただきます。勝頼様ありがとうございます。殿にこのこと、お伝えいたしまする」


小十郎は、初めての外交をこうして成功させることができた。この話の後、勝頼、昌幸と食事を摂ることになり交友を深めるのであった。


北条家に向かった実元は、北条氏政、幻庵、氏照、氏邦、氏規に囲まれ針のむしろの状態であった。伊達の現状を伝え、上杉家の話をすると氏政や氏照は激高し認めぬと言いだしたからだ。


景虎を景勝に殺されている。反対をする気持ちも、実元は分かっていたが何とか分かってもらいたいと二人を説得していた。かれこれ1時間たった時、幻庵が発言を求めた。氏政は、大叔父である幻庵に頭が上がらないので意見を聞くこととなった。


「伊達殿は、上杉の内乱の折には北条を助けていただいておる。内乱の間、1年間出兵していただいたが、北条からは何も見返りを求めてござらん。通常、援軍を頼んだのであれば、その見返りを渡すのが同義。伊達殿は、見返りを求めない理由をこう言っておられた。妻の実家のために兵をだした。今回は、伊達としても兵を減らしてござらんと言って援軍の報奨は、断られました。しかし、兵を動かせば兵糧や金など使っているはずでございます。それでも、北条に報奨を頼まなかった理由は、間違いなく北条との同盟を大切にしているからでござろう」


ここで、一つ息をつき氏政達を幻庵は見た。全員の表情が先ほどから、変わってきているのを確認すると言葉を続ける。


「伊達殿の今回の申し入れ、理にかなっているとそれがしは思う。確かに、上杉家が倒れれば次は伊達家じゃ。伊達家としては、織田家との戦になるまえに手を打つのは当然。ここは、北条として前回の援軍の借りを返すと考え、上杉家の伊達家への臣従を認めてはどうかと思うがどうでござろうか。氏政殿」


幻庵の言葉を聞き、氏政も冷静になったのか考えをまとめる。確かに、伊達家には借りがある。北条にとっても伊達家は、同盟相手として信じられる相手であった。それによくよく考えれば、伊達家は景虎のために援軍にすぐに動いてくれた。


対して北条は、秋まで里見の乱があり動くことが出来なかった。これによって援軍に遅れている。兵を向ける事はできたが、周辺の国境を固め無い訳にはいかず、断念したのだ。もし、兵を動かしていれば景虎を失うことは無かったであろう。


そう考え直すと、伊達家を敵に回す事が馬鹿らしくなってきたのだ。であれば、出る答えは一つであった。


「北条としては、伊達家への上杉家の従属認めよう。政宗殿によしなに、お伝えいただきたい。それと、先ほどは氏照含め、申し訳ござらん。もう少しで、大切な同盟相手を失うところであったわ」


氏政の話を聞き、実元は安堵の表情を浮かべながら。氏政等に頭を下げ謝意を述べるのであった。


元宗、実元、小十郎の報告を受けた政宗は、3月になり上杉景勝に会うこととなった。

場所は、会津と越後の国境の寺になった。伊達家側は政宗と元宗である。対して上杉家は、景勝、斎藤、上条、直江であった。まず、景勝が政宗に挨拶をする。


「それがしは、上杉弾正少弼景勝でございます。政宗殿とお会いしたく此度、この場をいただいたこと忝のうござる」


「それがしとしても、此度は楽しみにして参った。伊達大善大夫政宗である」


そう言って、景勝に顔を上げさせると景勝は政宗に声をかける。


「政宗殿、上杉家のことどうお考えになられているのか聞きたい。我らが伊達家に降れば、伊達家は上杉家に対して、どのように対応していただけるのであろうか」


景勝は、伊達家が上杉家の領土を、どう考えているのか気になった。没収し、家臣としてある程度の領土は与えるが、そのうち取り潰そうと考えていてもおかしくないからだ。


「景勝殿、わしは上杉家を家臣にはするが、景勝殿を友人と思いたいと思っておる。領土の話になるが、越後の領土は景勝殿に与えようと思う。越中、能登は織田家に取られるだろう。今年の4月に伊達家が援軍を出す。それで、越後の内乱を抑える。次に越中へと進む。伊達家では、兵農分離を行っておる。兵士は伊達家に直接仕えることとなる。そのために、越後や越中の兵を賄う資金は伊達家がもとう。越後の開発の金も伊達家がもつ、そのかわりに伊達家への一定の税を納めてもらうことと、銀山などの鉱山は伊達家にて管理する。工業や農業などの伊達家の特産品の手ほどきも、越後の民に教えよう。さらに、港の開発にも伊達家で金を出す。治水や開墾も伊達家で金をだそう」


この条件に景勝は、驚いた。従属する者に対して、これほどの恩恵を与えるのだろうか。兵士の金が浮けば、上杉家にとってありがたいことである。内乱や織田家との戦において、上杉家の金は貯えがすくなかったのだ。


伊達家が内乱を上杉軍と一緒に鎮めてくれれば、直ぐに乱は収束しよう。その後の、内政の資金も伊達家が出してくれれば、上杉家としては助かる。税もすぐには無理でも、2年もすれば、もとに戻るであろう。


「なぜ、そこまで上杉家にしていただけるのですか」


景勝が質問すると政宗はこたえた。


「上杉家は、義を持ってそれを知っている家であると某は思っている。わしは、これから伊達家の領土を広げていく場合、力になってもらう相手として、景勝殿は信頼に値する人物だと思ったからだ。どうであろうか。伊達家の家臣になってもらえないだろうか」


景勝の気持ちは、ここに固まった。


「喜んで、伊達家に馬の轡を並べましょう。これから、どうぞよろしくお願いします」


景勝が承諾すると、政宗からもう一つ願いがあると景勝に提案があった。


「景勝殿の妹を、わしの弟の小次郎に貰いたい。婚姻は4月、父上の1回忌が終わり次第、小次郎を元服させる。その上で、上杉殿の援軍に小次郎を向かわせる。どうであろうか」


上杉家としては、伊達家との婚姻は願ってもない話であった。


「わかりました。4月に妹を小次郎殿へ嫁がせましょう」


こうして、上杉家は伊達家の家臣となったのである。


挿絵(By みてみん)

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