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新たな出会い

1580年9月、伊達家は佐竹家を下野で破り和睦、南部家との戦は引き分けとなった。ここは、米沢城奥御殿、政宗が部屋に入ると、そこには政宗の妻である3人の姫が待ち受けていた。


亀姫、松姫、愛姫である。政宗は、三人の姫達に甲胄から着物に着替えさせてもらうと、夕食時となった政宗は食事をすることとなった。食事の準備が済み、政宗が上座に座ると姫達3人を代表して、亀姫が政宗に挨拶をする。


「政宗様、戦の御勝利おめでとうございます」


そう言って亀姫が頭を下げると、三人とも同じように頭を下げた。亀姫達は、政宗が無事に戻って来たことが嬉しかった。此度の戦は、伊達家にとって存亡をかけており、政宗が勝てたのも兵の質で勝った状況だったからだ。


「うむ。今回は佐竹義重が相手であったので、肝が冷えたわ。南部との戦も紙一重であった。戦の勝利は、運が良かっただけじゃ。戦続きで城に居らぬから、そなた達には寂しい思いをさせてすまない」


政宗が謝る姿を見た三人は、嬉しくてしかたがなかった。自分達を政宗に、愛されていると実感したからだ。


「そのようなこと、ございません。無事に戦から政宗様が、帰ってこられることが嬉しいのです。寂しいですが、松殿や愛殿が居るので安心して下さい」


亀姫が、政宗を愛おしげに見ながらこたえた。松姫や愛姫も、同様の顔を政宗に向ける。


「そうか。それならば、安心した」


政宗の顔が笑顔になる。度重なる戦において、政宗は多忙な日々を過ごしていたからだ。久しぶりに、妻たちの顔を見ることが出来たことが政宗にとって、幸せであった。


「政宗様、喜ばしい事が分かりました。松殿から話しますので、聞いてあげて下さい」


「松、どうしたのだ何かあったのか」


「はい。私、政宗様の子供を身籠りました」


驚愕な表情になった政宗は、一瞬言葉に詰まるが横に座っていた松姫を抱きしめる。


「まことか、でかした。ようやった」


政宗は、喜びの声を上げた。自分に子供が出来たのだ。これほど嬉しいことは無い。亀姫はこの時、複雑な気持であった。正妻である自分が先に、政宗の子供を身籠りたかったのである。しかし、松姫に伊達家の世継ぎが出来たのは目出度かった。抱きしめた松姫を政宗が離すと、亀姫は次の内容を政宗に報告した。


「殿、それから輝宗様の御側室の3人の方ですが、内2名の方が懐妊されており米沢の一室に住まれております」


「何と!!父上の子供が生まれるのか。二重の喜びじゃ」


政宗は、輝宗が死んだ後、母には命を狙われた。政宗を殺そうとした母は、実家の最上へと返した。今年は悲しみに暮れる年だと思っていたが、自分の子供が出来たことも嬉しかったが、兄弟も生まれてくるのだ。政宗は、その夜は感慨にひたりながら、今日までのことを妻達に話ながら食事を摂るのであった。


翌日、政宗は元宗、実元、留守、黒川、遠藤、小次郎、小十郎、綱元、忠康を集めた。場所は米沢城大広間、武将たちは、左右に別れており上座に近い場所に伊達家の一族が座っている。全員が集まり、評定の進行役の遠藤が政宗に内政の報告をする。


「会津地方の治水ですが、ようやく終わりました。予定より遅くはなりましたが、10万石もの領土が広がりました。また、旧安東領は、治水が進めば後5万石は広がるかと」


遠藤の報告が終わると、政宗は此度の評定について話し始めた。


「それは、重畳である。此度皆に集まってもらったのは他でもない、10日後に伊達家の商船が堺へと向かうが、その船にわし自ら乗るつもりじゃ」


集まった全ての武将が驚愕した。政宗が城を空けるのである。しかも、堺へと向かうのである。堺を納めるのは織田家、もし政宗が織田家によって捕らえられれば、伊達家の立場は危うくなる。集まった武将たちが、政宗の意見に具申しようとするよりも先に、政宗が言葉を継いだ。


「この時期なれば、佐竹も南部も動くまい。その理由は、もう冬となり雪が降ってこよう。調べたところによると、南部家では度重なる戦で領民からの怨嗟の声がでているようだ。南部としても、無理に今戦を起こそうとは思うまい。佐竹とは、休戦中である。盟約を破れば、北条がだまっていまい。なぜ、わしが堺に行くのかというと、わしは京へ行こうと思っておるのだ。父上から家督も譲られ、奥州探題も譲り受けた。朝廷へと挨拶に行こうと思ってな。それから、朝廷への使者として行くと伝えれば、織田家も捕えるようなことはしないだろう。それよりも、わしが上洛する理由はそれだけではない」


「他の理由といいますと、どういった理由ですかな」


実元が政宗に疑問を投げかけると、政宗が笑って皆を見回す。


「織田信長に会ってこようと思っての。上洛するのは、小十郎、綱元、忠康、行長と100名の兵を連れて行こうと思っておる。他にも堺の町にて、色々な者に会わねばならんからの」


「確かに、今であれば不都合はございませんでしょうが。なぜ、織田殿に会いに行かれるのですか」


元宗が困惑気味に政宗に問いかけた。


「尾張一国から、数多くの国を従えた信長に会って見たくなったのだ。何か、得られるものがあると思っての…」


政宗は、元宗にそうは言ったが、理由は歴史上の大人物である織田信長に会ってみたかったのである。また、信長の家臣には明智光秀、羽柴秀吉、柴田勝家などの有名な武将が多数いる。政宗は今回の外交で、有名な武将達にも会いたかった。そのための準備も、家臣達には秘密に進めていたのである。


意を決すると、政宗は家臣達にこれからの動きの指示をだす。


「わしが居ない間は、元宗殿に任せる。雪が降るまでに、兵士の鍛錬を中心に行ってもらいたい。留守の叔父上は、内政に努めてもらいたい。小次郎、父上の寺の建立は進んでいるか」


この時、小次郎は仙台における内政を任されていた。仙台城の築城を行っていたのであるが、父である輝宗が亡くなり、城を建てるよりも先に父の菩提を弔うことになる寺を先に建てることになったのである。


「はい、兄上。城の建築を後回しにして、寺を先に建てておりまする。寺の完成は、12月頃になるかと。城は、石垣が組み上がったところで止まっております」


小次郎からの報告が終わると、政宗が小次郎に方針を伝える。


「わしが居ない間に、内政を良くやってくれた。小次郎、ならば城は後回しにしておけ。今回の、旅で新たな家臣が伊達家に仕えてくれることになれば、その者に任せようと思っておるのでな」


「わかりました。先に父上の寺の建立に力をいれまする」


小次郎が頭を下げると、次に政宗は伊達の外交を一手に引き受ける実元に声をかけた。


「実元殿、武田家に行き今回の戦の顛末と、わしが織田家を尋ねる旨伝えて貰えないだろうか。同盟や友好を結ぶために行くのではない。織田殿に朝廷との間を、取り持ってもらおうと思っていると伝えて貰えないか。なんせ、京は織田殿に抑えられておるゆえな」


武田家に、伊達と織田が同盟するようなことが、無いことを伝えておかなければならない。武田家に勘違いをされて同盟破棄になることを政宗は望んで居なかったのである。これからの伊達家を考えると、武田家との同盟は大事だったからだ。


「分かりました。武田家へ使者として向かい、武田殿に織田家訪問の件を勘違いしないようによくよく、伝えておきまする」


実元が返答すると政宗は、これで評定は十分だと判断し評定を終えることとした。


「それでは、本日はこれまでとする」


「はっ」


政宗の一言で全員が頭を下げた後、政宗は広間を退室した。


時は移り、11月の寒い海の旅を終え政宗達一行は、伊達家の商船に乗り堺へとたどり着いた。ここは、伊達家お抱え商人鈴木屋堺店奥座敷、ここに政宗一行と安井道頓、小西隆佐、博多の商人である島井宗室、若狭の商人古河若太夫、堺の商人、納屋才助とその息子である納屋助左衛門が集まっていた。安井道頓が、島井、古河、納屋を紹介し挨拶を交わす。堺の商人である、納谷が島井、古河より先に政宗に声をかけた。


「政宗様、初めまして御意を得ます。私は堺の商人をしております納屋才助と申します。こちらは、息子の助左衛門でございます。この度は、私どもに何か商いの話があるとか。なんでございましょうか」


才助はこの時、自分たちに政宗が声をかけた理由が分からなかった。織田家に領土内において、伊達家の作っている農具や工具などの道具は、全て安井道頓が行っており、道頓は伊達家との商いによって、堺で一、二を争う程の商人になっていたのである。かわって納屋は、豪商ではあったが今の堺では中堅どころであったからだ。


「堅苦しいことは、よい。納屋殿の息子である助左衛門殿に、ルソンとの商いをお願いしたいのだ。船は、こちらで用意する」


政宗の話を聞いた才助の表情は、驚きのあまり口を開いてしまった。


「ルソンとの商い、驚くべきことでございますな。私共にルソンとの商い全てを任せて頂けるのですか」


「もちろんお任せする。商品は、伊達家の農具や工具等だ。海外でも、高値で売れると思うが」


「伊達家の農具や工具は、近江、中国地方でも人気の商品ですから、ルソンでも高値で売れる事は間違いないかと。私どもと伊達様の、取り分はどういたしましょうか」


やはり、商人である才助にとっては魅力であったが、海のかなたにあるルソンに行くのである。生半可な事ではない。失敗する可能性もある。政宗が才助に払うことになる見返りが重要だと判断したのだ。


「6割を納屋殿に、4割を伊達家が貰おう。その代り、ルソンで手に入る野菜等の苗や、海外の家畜、海外の本を仕入れて貰いたい。それと、海外の本を読めるように、海外の言葉が分かる人もお願いしたい。仕入れた物の金額それにも、伊達家から金は払う」


悪くない条件だと才助は思った。要は、伊達家に代わってルソンで、買い付けを行うのである。しかも、売れた金の6割は貰うことが出来、買い付けをした金も伊達家が払うと言う。魅力的な話だった。


「6割も頂けるのであれば、こちらとしても願ってもない話。お任せ下さい」


才助が政宗に、快諾すると政宗はその言葉に頷きながらさらに、自分の条件を才助に行った。


「ゆくゆくは、伊達家からも船を出したいのでな。これは、商いを行うこともあるが、先の話である。船乗りは伊達家の者を、外洋出来る様に船員として乗り込ませたいのであるがどうか」


政宗が、先の話と聞いて安心した才助は、政宗であれば納屋に不利な事を言ってはこないと人物を見定め政宗の条件を承諾することとした。


「分かりました。お力をお貸ししましょう」


納屋との話が終わると次に政宗は、島井、古河に声をかける。


「お忙しいなか、良くおいで下さった。島井殿、古河殿、御二人をここに呼んだ理由は、羽州にある土崎港と九州の博多港、若狭の敦賀湾の間で伊達家との商いをしていただきたいのだ」


二人は、うすうす何の話であるのかは、道頓に呼ばれた理由を予想していたが、やはり商いの話かと思った。


「伊達様との商いの話、魅力的でございます。ここに来る前に、安井殿や小西殿に商品を見せて頂いたが、あれ程の品であればこちらからお願いしたいところでございます」


島井が政宗に頭を下げると、同じように古河も伊達家との商売を同意し頭を下げた。政宗は、取引が決まったことを確認すると。島井に声をかける。


「他にも、島井殿にお願いしたいことがある。それは、明との交易の仲介をお願いしたい。伊達家としては、明の商人を紹介してもらいたいのだ。出来れば、ゆくゆくは明の商人とも商いを行いたいと思っておるのでな」


この発言に、島井は驚いた。大名が交易をここまで考えているなど、あまりなかったからだ。先ほどのルソンの話も驚いたが、明とも交易を考えているとは考えていなかったのである。


「わかりました。商人を紹介はしますが、明との商いは私に任せていただけますか」


やはり島井も商人である。紹介だけして、自分を蔑ろにされることは避けたかった。


「もちろん認めよう。明からの交易品は納屋と同じようにお願いしたい」


「わかりました。すべてお任せください」


島井が承諾するとその晩は、政宗一行と商人達の間で宴が行われ親交を深めることとなった。


翌日、鈴木屋には一人の武将が政宗を訪ねてきた。前述に述べてはいなかったが、鈴木屋は黒脛巾組の拠点にもなっている。ここの主人は、世瀬蔵人という忍びが商いを行っており、近江地方の情勢を政宗に伝えるために商いをしながら生活していた。世瀬は政宗から頼まれた、武将を探し回り見つけたのである。


探し回った武将は、この日政宗に会いに来たのであった。政宗に会って、家臣になるか決めるためである。鈴木屋の奥座敷に通された武将は、政宗達一行に囲まれる形で政宗の前に座った。


「初めまして御意をえます。某は、若狭の出でございます岡定俊と申します。私を家臣にしたいと政宗様より話があり、本日は罷り越しました」


政宗は、岡を見るとこの人が有名な岡定俊かと思った。見かけは、年をとった30代半ばのような顔をしている。しかし、当人は16歳と若い。この時、定俊は自分がなぜ政宗が家臣にしたいと言っているのか、分からなかった。自分は、蒲生家に仕えようと思い、蒲生家の居城である日野城を訪れたのであるが、門の前で、ある商人に声をかけられた。


忍びが自分を探していたことを驚いたが、さらに驚いたことは奥州の大大名である伊達家が自分を欲しているということに驚いたのだ。自分は、そこまで有名な武将ではない。戦で武をとなえたこともない。忍びを使って自分を探し回っていたそうだが、政宗が自分を家臣にしたいのか理由をまず聞きたかった。


「殿様がなぜ、某を家臣にと考えたのかそれを教えて頂けませんか」


定俊は、率直に政宗に説明を求めた。


「実はな、わしの父上は今年亡くなっておるのだが、その父上が枕元に立ったのだ。そして、そなたの名前をわしに話たのだ。そなたが伊達家にとって有益な武将であるとな」


これを聞いた、定俊はありえないとは思わなかった。この時代、占いなどによる神のお告げを信じる傾向が強かったからだ。政宗の話を聞くと、伊達家が自分を認めてくれているという気持ちがわいてきた。何も勲功がない自分を、奥州という遠い国から探し出し。伊達家に仕えるように言っているのである。伊達家の期待に応えたいと、定俊は考え始めた。


「わかりました。それで、某が仕えた場合のどの位の扶持米をいただけまするか」


やはり、仕えるのであれば気になるところである。政宗は、定俊が承諾してくれたことを喜び所領の話を行うことにした。


「そなたには、300石を与える」


これには、定俊も驚いた。まだ、結果などもだしていない自分に対して、300石などと大碌を与えてくれるのだ。定俊は、仕官の話を受けることとした。


「これから、何卒よろしくお願いします」


ここで、前野忠康に最初与えられた領土との差があるが、これは織田家の家臣である武将を引き抜くために大領を持って口説いたからだ。忠康は一族父や母だけでなく。前野長康が移り住むことを許した一族も連れて伊達家に仕えている。定俊の所領が、少ないのは定俊のみを家臣としたからであった。


定俊を家臣にしてから3日後、ある武将一行が政宗の元を訪れた。因幡にある鳥取城の戦に忙しかったのであるが、政宗を信長に合わせるために仲介を依頼した人物である。その人物は、忠康を通して話をつけていた。


茶室にて二人きりで会うことにした政宗は、武将を待っていたのであるが彼は政宗に対して腰を低くしている。未だに顔すら見せていない。これもこの武将の、立身出世にかかわっているのかと政宗はこの時思った。そういった考え事をしていると突然、目の前の武将から声をかけられる。


「初めまして御意をえます。それがしは、羽柴筑前守秀吉と申します。これからは、伊達政宗様と昵懇になりたく。よろしくお願いします」


一通りのことを話し終えると、ようやく顔を上げた。ここは茶室である。上も下もない。政宗が、顔を上げよという前に、顔を上げても粗相にはならなかった。秀吉の顔は、社会の教科書に出てくるような顔をしており、年齢よりも老けている顔をしていた。また、猿と信長に呼ばれたように猿に似ている。今は、政宗の顔を見て愛想よく笑っていた。


「此度は、織田家との間を取り持っていただき、ありがとうございます。某は伊達藤次郎政宗と申します。田舎者の大名でござる」


政宗のこの遜った物言いに、秀吉は驚いていた。自分は織田家の武将であるが、出が百姓である。織田家中においても、自分を見下した物言いをするものが多い。政宗自身も大名であるから、身分となれば高いがその自分に対して、礼節をもって対応してくれる。秀吉は、この事が嬉しかった。


「私のような下賤の出の者に対して、御心配りいただく言葉ありがとうございます。此度の信長様との謁見についてですが、話は通しておりますので安土城へとご招待いたします」


秀吉の話を聞き、政宗は信長がどのような人物なのか気になっていたので、秀吉に聞くことにした。


「信長殿の性格や、人物像を教えて頂けないか」


「お館様は、短気で怒りっぽい性格であり、長々と話すよりは事の次第を端的に求めまする。要領を得て話す事が寛容か、不要な事を言えば罰せられることもあり、会談もすぐ終わる可能性もありまする」


「好きな物は、どのような物を好むのかな」


「お館様は、珍しい物を好みまするな。そう言えば、伊達様が作られている農具や工具などものお好きでございます。一度会ってみたいとも、話していたとか」


「そうであるならば、良かった。此度、信長殿には伊達家で作った色々なものを持ってきたのだ、喜んでくれるとありがたいが。それで、いつごろ信長殿に会うことができるのかな」


「5日後にはお館様に、会う予定になっております。ところで、伊達様がお館様を訪ねる理由を教えて下さいませんか」


「此度はな、織田殿に朝廷とのとりなしをお願いしたいのだ。奥州探題を継いだことと、わしに官位が欲しくてな」


「官位と申しますと。どのような官位でしょうか」


「従五位上にあたる大膳大夫が欲しいのだ」


「そうでございますか。お館様にお伝えしておきます。お任せください」


秀吉の話を聞いた、政宗は色々と秀吉と話をしてみたくなった。人となりを知りたかったのである。


「筑前守殿、話はかわるがこの世の中がどうなればいいのか、考えたことはあるか」


秀吉は驚いていた。突然の質問である。しかも、何を自分に期待しているのかが分からなかった。自分は、これからの織田家を支え、中国筋を平定するために毛利を討とうと考えていた。世の中の事よりも、今を生きて行くことに重点を置いていたのである。そこに世のならいを聞かれるとは思っていなかった。


「学がない私が言うのもなんですが、これから先の世は身分など関係なく能力がある者が世を作っていくことが出来るようになればと…」


秀吉は自分の置かれている立場をよくよく考えていた。信長あっての秀吉である。草履取りから始まり、今となっては大名である。結果を出せば出世できる世の中。そういう世の中になれば、自分と同じような者達が出てこよう。秀吉は、そういう世の中になればと思っていた。


「実は、わしも同じように考えていてな。そのために、伊達領には学校を作ったのだ。そこで学んだ者達が、親の置かれている立場や階級など関係なく、伊達家の武将として仕えている」


秀吉はこの政宗の言葉を聞き、政宗の人となりを見た。織田家において、秀吉は下手に出て武将たちに陽気に接しておべっかを使っているが、それがなくなればといつもおもっていた。堅苦しかったのだ。


伊達家では、その様なことがないと聞くと、上に立つ人間次第で全ては変わると思った。伊達政宗という人物をさらに知りたくなったのである。この日から、信長に会うまでの数日間を政宗と秀吉は友好を築いていくのである。


5日後、政宗達一行は安土城へと向かっていた。付き従う兵達100名と政宗や小十郎達のいでたちは、変った格好をしていた。これは、政宗が考えた格好で西洋の服装を取り入れた格好である。


全員がズボンを穿き、上着は煌びやかな洋服を着ていた。道行くこの軍列を見ようと数多くの人達が政宗一行を見物に来る。政宗たちの奇妙な格好は、安土城に居る信長の元にも届いていた。


政宗が初めて信長の安土城を見た時は、本当に驚いた。自分が住んでいる米沢城など、相手にもならなかったからである。政宗は、一緒に行動をともにしていた秀吉と別れ、信長と会うために安土城大広間へと通された。


大広間に通されると、そこには数多くの織田家の武将が控えていた。政宗は信長が用意した場所に座ると信長に挨拶を行う。


「初めまして御意をえます。伊達藤次郎政宗でございます。これから、よろしゅうお願いします」


政宗が信長に声をかけると、信長が政宗に声をかける。


「伊達殿、顔を上げられよ。以前、武田家への援軍に赴いたそうだが、あれは織田家や徳川家と戦うつもりであったのか気になるところではあるが、まぁ良しとしよう。此度の謁見について猿から話は聞いておるが、なぜ官位がほしいのじゃ理由をしりたいのだが」


政宗が顔を上げると、目の前には煌びやかな格好をした。切れ長の目をした、彫りの深い武将が政宗を見ていた。


「大膳大夫は、伊達家の中興の祖であり奥州で一代勢力を築いたのですが、某の名前はその方から貰った名前なのです。ですから、その方が持っていた官位でもある大膳大夫の官位が、欲しいのです」


「そうか。ならば、光秀に伊達家と朝廷との仲介を任せよう。それで伊達殿、わしが聞きたいことはたくさんある。なぜ、伊達家は学校を作って領民に学ばせておるのだ」


「それは、領民が学び自分たちの生活を良くしようと考え、自分たちで商売を始め。農地も自ら開墾して増やしております。奥州に適した、農作物を作る様な努力をしております。戦国の世は、領主が領民達を生かさず殺さずで、搾取する世の中でございます。それでは、いけませぬ。領民達が、裕福になれば次には物を買いましょう。物を買えば、金が動きます。金が動けば、商人が潤い商人からの税も増えまする。税が増えれば、伊達家の収入が増える。いい事ばかりでは、ありませぬか」


政宗が笑うと、それを聞いた織田家家臣である。川尻秀隆が政宗に声をかけた。


「馬鹿な領民が賢くなれば、領主の言うことを聞かないのではないですかな。それでは、国を治める際に障害になるのではないですかな」


皮肉を政宗に、秀隆が声をかけると。政宗は、秀隆が座っている方を見てこたえる。


「今の世の領主が、そのような考えだから駄目なのです。領民が納得するような、内政を行えば逆らう者など出ようはずがありません。領民達は、領主が危急存亡になるとわかれば、力を貸すために動くでしょう。また、領民が賢くなれば、国を治める領主は領民を超えなければならず、領主や家臣達の平均的な能力も増えようかと」


政宗と秀隆のやりとりを見ていた、信長が笑いだし政宗に声をかけた。


「政宗殿の言う通りだ。馬鹿な家臣は、政宗殿の家臣には居なくなるな。なるほど、いい事かもしれん。わしが茶器を家臣に与え茶会を始めたのも、作法を学ぶことで家臣達に教養を持たせたかったからだ。学校を作れば、家臣の子供達は学校に行き学ぶ。なるほど、政宗殿の言う事は、理にかなっておるな。古い考えは、捨てねばならん。ところで、政宗殿そなた武田家との同盟を破棄し我が織田家と同盟を結ばないか」


この時、信長は政宗の人となりを見て同盟を結び、東北や関東は政宗に任せ、自分は西の中国、四国、九州の領土を得ようと考えた。信長は、政宗が奥州から珍しい農具や工具を近江地方や中国地方に、売っていることは知っていた。政宗の先見の明を信長は、認めていたのだ。


信長は、東の国にはあまり興味がない。西から新たに西洋の理や文化が入ってくる。東の国はこの事に、気づいていない。しかし、この時、信長は政宗がルソンや明との商いを考えていることを知らない。


信長の戦略としては、西の国々を得た後は、明に攻め込み日の本を出て戦おうと思っていた。すでに数え年で、48歳となった自分には、どれだけの時間が残されているのか分からない。時間がないのだ。東の国を落とす時間を西に向ける事ができれば、それだけ早く海外へと進出することができる。


政宗は聡明であると信長は感じ入り、同盟の話を持ちかけたのだ。しかし、この信長の提案に政宗は迷う事なく告げる。


「すみませぬが、織田家との同盟はお断りしたく思います。某の妻は、武田家の娘でございます。もし、伊達家が武田家との同盟を破れば、伊達家の信頼はなくなりましょう。某は、裏切られ父上を亡くし。此度は、同盟を破られ攻め込まれております。同じことを伊達家は、するつもりはございません」


政宗が同盟の話を断ると、信長が政宗を凄い形相で睨みつけた。信長の両目が、政宗の片方の目を睨む。織田家の家臣達が、固唾を飲んで見つめる。信長の勘気にふれたのだ。殺されてもおかしくはない。沈黙が続いた。信長が政宗に声をかける。


「わかった。それならば仕方がないな。同盟の話はなかったことにしよう。もし、伊達家と織田家が戦になれば、その時は楽しみにしておれよ」


「その時は、楽しみにしております」


政宗が、笑いながら信長を見ると、信長もつられて笑い出した。


「政宗殿、伊達家からの贈り物はありがたく頂戴した。話も面白かった。そなたに褒美を与えよう何がいいか」


「褒美などいりませぬ」


政宗が、また信長の申出を断った。しかし、政宗は褒美を受け取る訳にはいかない。褒美を受け取れば、家臣と思われているということである。政宗には受け入れがたかった。信長の家臣達は、ここまで信長に対して勘気にふれることを気にせず話す武将を見た事が無かった。一同驚いている。


「そうか、なれば政宗殿が欲しい物などあるか、そなたに何か贈りたいのだが」


信長が言い直したことで、政宗は信長にある人物を紹介してもらいたいと願おうと考えた。


「なれば、安土城を作った岡部又右衛門殿を紹介してもらえませぬか。仙台城の築城を頼みたいと思っているのです。この安土城を超える城を作りたいと思いまして…」


「政宗殿も面白いお方よ。あいわかった。又右衛門を紹介しよう。好きにすればよい。蘭丸宴の準備じゃ」


こうして、政宗は信長や織田家家臣との親交を深めるのであった。


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