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人中の呂布





 気分は最悪だった。

 夜目に慣らしていたとは言え、呂布にとっても視界が染まるほどの赤黒い夜は初めての経験だった。点々と灯る篝火と敵兵を見下ろす赤く燃ゆる城、その両方が呂布の神経を嫌がおうにでも高ぶらせ、同時に凄惨な気持ちにさせた。

 自然と、槍を持つ手に力が込められる。

 敵兵が足元に群がる虫のように呂布の馬を目掛け集ってくる。呂布は、それをいつもどおり切り伏せた。

 何度も何度も、その動作を繰り返す。

 馬の足は止まることなく、ただ所作のみが夢の中のように意味もなく繰り返される。

 機械のように作業をこなすうち、呂布の脳裏に景色がかつての戦場が蘇ってゆく。視界にちらついていた過去の景色が、徐々に視界そのものを犯していくようだった。

 水没した城、人が赤い花のように敷き詰められた山肌、関から眺める雑兵の群れ。血の臭いが鼻をつき、呂布は自然と喉を鳴らした。

 

「呂布さん・・・・・・・?」


 背後からの怯えを含んだ声色に呂布の意識がもどる。

 そして、すぐに槍を構え突進してきた一人の兵の首を薙いだ。


「すまん」


 短く礼を述べ、呂布は息を吐き、気持ちと力を整える。あやうく持ってかれるところだった。

 呂布は敵の首を馬上で切り伏せながら、周囲を見渡した。

 兵の動き、視線、距離、そのいずれもがさきほどまでと間違いなく違い、明らかに良くなってきている。

 呂布は絶え間なく襲ってくる敵兵に槍を振るいながら、遠く―――燃える城までの道程を見据えた。

 先程まで駆け抜けてきた敵陣と明らかに違う、統制のとれた陣形の構えが見えた。兵卒の格好も黄色のような色に染まり始めており、いま自分が向かっている場所に、一軍が配置されているのは間違いなかった。


 知ったことか。


 呂布はそう断し、馬体をさらに伸ばす。

 整然と構える敵兵がいるならば、それを打ち破ってこその豪傑である。

 気合を込め、槍を薙いだ。

 馬上から伸びた槍が、無慈悲に周囲を囲む敵兵の命をまとめて奪い取ってゆく。

 身を裂く感触とともに、宙に赤い命が舞い、兵士たちが吹き飛ばされるようにして倒れていく。

 いつもどおりだ、と呂布は思った。

 どこの世界でも、同じことだとも。

 それでも、槍を振るうことはやめなかった。


 馬が木の柵を飛び越え、陣を抜けきる。

 蹄が大地を踏む音が馬体から伝わり、呂布は眼前を見据える。

 整然と整列した部隊が、扇を描くように呂布を待ち受けていた。

 一段目に、砲撃隊が膝を付き呂布に砲身を向けている。

 それよりも圧倒的に多いのは重装兵らしき、重厚な鎧に身を包んだ兵団だ。

 砲撃隊をなかば脅すように、威圧的に扇の大半を占め、圧迫している。


 呂布は手綱を引き、馬体を大きく仰がせた。

 直立するほどに大きく踊った馬が、その両足を地に付ける。

敵の兵を見聞するように見つめる呂布に、ティアが抗議の声を上げる。


「呂布さんッ、なんで馬足を緩めてるんですか?」


「黙っていろ。戦の途中だ」


 ひとしきり陣を眺めたあと、呂布は徐に槍を大きく振りかぶり、真横に振り下ろした。

 槍についていた鮮血が、雨のように地面に染みを作る。

 呂布が大きく声を上げた。


「どうした!? 俺はここに居るぞ。俺を倒そうという勇たる者はいないのか」


 堂々と、多勢に気圧されることなく、呂布が告げる。

 挑発の声に兵卒は動揺を走らせながらも、陣形を乱すことなく、澱ませることもなかった。

 よく調練されている、と呂布は口角を上げる。

 不意の事態にも冷静に応対できる兵など精兵以外にいるはずがない。


「ティア、あれはどこの兵かわかるか」


 呂布は静かな声で腰の後ろにいる少女に話しかけた。

ティアは自分が話しかけられるとは思っていなかったらしく、馬に座りなおそうと躍起になっていたところだった。

赤面しながらなんとか馬に腰を下ろすと、ティアは恐る恐るつぶやく。


「え? あれ、ってあの兵たちのことですか」


「そうだ。何でもいい。知っているか知らぬか教えろ」


「は、はい。って、まずいですよ。あの兵たち、旗が金色の獅子です。雷神ですよ! 雷神イエロの部隊です」


 ティアは恐怖を押し出して、呂布の背中を何度も叩く。

 ティアとしては分が悪い相手と戦うことは出来るだけ避けたかった。

 一方で、呂布は敵兵を侮蔑すればどれほどの効果があるか、ということを考え質問をしていたに過ぎなかった。相手の強弱など、大した問題としていない。

 呂布はゆっくりと頷くと、敵兵へと向き直る。ティアが忠告を聞いたものとして少しだけ安堵の表情を浮かべ―――呂布の声に一気に顔を青く染める。


「聞こえるか! イエロの部隊ども。俺一人にも腰を抜かす貴様らなど獅子ではない。腰抜けの猫だ。せいぜい母親の乳を吸っているのがお似合いのかわいい子猫だ。敵を打ち破る危害もないならば戦場になど出てくるな。子猫ども」


 明らかに、敵兵の漣が強くなる。

 怒りが渦を巻くのが呂布には感じられた。

 口をパクパクと開け閉めするティアをよそに、呂布はただ馬上でじっと待つ。

 漣のような怒りがざわめきとなり、喧騒と化して弾かれたように塩辛声が飛び出した。


「貴様、我が主君を侮辱するか!」


「誰だ。腰抜けを主君と仰ぐにふさわしく、大層愚昧な面構えだが」


 陣を分けるように登場したのは、一人の男だった。

 豪傑、と呼ぶにふさわしい肉厚な体と、濃いヒゲを蓄えた将軍らしき男だ。


「舐めるなぁ! 我こそは栄えあるイエロ伯爵軍の先鋒 かのレヴァンドロとはおれのことよ!」


 呂布を囲む兵たちがざわつき、そして英雄の登場を鼓舞する声援が飛び出す。

 ティアは呂布の背中を何度も両手で殴打した。


「雷神イエロの右腕の一人ですよ。呂布さん! なにやっているんですか。逃げましょう!」


 雷神イエロ。何度も飛び出す言葉の意味を呂布は理解していなかった。

 と、いうよりは。人物名かどうかも大した意味はなかった。

呂布が思ったことはふたつだ。その相手を打ち破れば、敵兵が動揺するか否か。

そして、


「そうか、貴様は俺と対峙する資格がありそうだ」


 自身の武に耐えうる豪傑であるか否かだ。

 呂布は口元を歪ませて、対峙する豪傑に対し手の甲を下にし、手招きした。

 額に浮かべていた血管を増やし、レヴァンドロが唾を飛ばす。

 

「舐めるなぁ、下郎が! 貴様はそもそも何だ! こんな戦争の真っ只中にわざわざ殺されにでもきたというのか」


「なるほど、名乗っていなかったな。だが」


 息をため、言葉を続ける。


「まだ貴様の程度を知らんのでな。名乗られる価値があるか証明してみろ、腰抜けの先鋒とやら」


 堪忍できぬ、とレヴァンドロの乗る白馬の蹄が地を蹴った。

 重い音を立てて、豪傑が呂布に向かってゆく。

 右手握る重厚なハルバートが、呂布のいる場所に狙いを定め、加速する馬の速度とともに、強烈な一撃と化した。

 あっという間に接近したレヴァンドロは、慣性と膂力を剛力とし、呂布に向かってハルバートを振り回した。

 呂布は一切馬を動かさず、豪傑の一撃を槍で受ける。

 峻烈な刃が交錯する。

 火花が散るほどの音と衝撃が呂布とレヴァンドロを挟んで起こった。

 余韻に浸るようにレヴァンドロが呂布の背後に馬体を数歩動かし、止まった。


「な・・・・・・」


 勝負は一撃だった。

 枯れた声が、驚愕を訴えた。

 自分の喉から流れる鮮血を確かめるように、レヴァンドロが地を拭った手のひらを見つめる。


「なるほどな。良い一撃ではあった」


 首だけをひねり、呂布が敗将に告げた。

 信じられないものをみるように、レヴァンドロは手と呂布を交互に見つめている。


「だが、まだ甘い。名乗られたくば、死んで出直せ」


 呂布の言葉を聞き届け、ずるりと敗将の体が大きく傾いた。

 金属音を立てて、敗将がだらしなく地に伏せる。

 呂布は斬り殺した相手に目配せすると、どうということもないように近づき、地面に落ちたハルバートを拾い上げる。

 鉛色の大きな刃が、ぬめりと怪しい光沢を見せた。


「いい獲物だ。俺が貰い受ける」


 そう告げ、呂布は腰の帯の隙間に槍を差し込む。

 新たな獲物を見つめ、幾度か振って感触を確かめた。


「うむ。鋒が昔の牙戟に似ているな。こいつは使いやすそうだ」


 満足したように笑みを浮かべる呂布に、ティアが唖然とした表情を見せていた。


「か、勝っちゃった。レヴァンドロ将軍に・・・・・」


 今まで幾度となくトッテムに辛酸を舐めさせた雷神イエロ。その先鋒として名高い豪傑レヴァンドロ。いずれも目の上で瘤に他ならず、トッテムの仇敵であった。だが、そのひとつがあっさりと、少女の眼前で陥落したのだ。

 驚かないわけがなかった。


「どうした、もう終わりか」


 イエロ軍の兵にも動揺が広がっていた。呂布の更なる挑発を捌くこともいなす事もできず、ただざわめきのみが広がっている。

 つまらん、と切り捨てて、呂布は堂々と馬を進める。

 ざわめきはざわめきのまま、兵たちはただ一歩一歩近づく呂布を見つめていた。

 紙を裂くように、陣が呂布を避ける形で道を譲っていく。

 蹄の音が淡々と響き、呂布は陣の中頃まで進んでいった。

 篝火がまるで誘導灯のように煌めいている。


「!?」


 ティアは突然の衝撃に身を固くした。

まるで鷹が巨大な爪で襲いかかったように、鋭い刃が呂布に迫ったのだ。ハルバートで撃ち落としたものの、その衝撃は殺しきれず、馬体が軋むような錯覚を覚えた。

 呂布から見て右斜め、宙に浮かび投擲したかのような角度の攻撃に、呂布は首を鳴らして答える。

 次いで、槍が降ってきた。

 やはり宙から迫ってきた槍は、風を切る甲高い音を奏でながら、呂布に向かって疾走する。

 ティアとしては目端で追うのがやっとの攻撃を、呂布はどうということもなく一刀で打ち落とす。

 追うように、さらに2つの槍が射出される。

 面倒とみるや、呂布は馬体を少しだけ傾け、下から馬体の脇をかすめるように鋒を持ち上げ、2本まとめて打ち砕いた。

 金属を割る甲高い音が場を支配する。

 肩でハルバートを受け止め、呂布は馬を走らせる。

飛び出した槍の角度から、呂布は見当をつけ、奇襲者へとにじり寄った。


「貴様か。いい筋をしているな」


 呂布は身を挺して進軍を止めようとする兵を数人打ち捨てて、膝を抱く男を場上から見据える。

 紺色の髪と黄色と銀の鎧が印象的な青年だった。鷹のような鋭い目で、呂布を睨みつけている。

 青年の脇に、先ほど呂布が打ち払ったものとよく似た槍が何本か積まれていた。

 歳は20ほどか、と呂布はあたりを付ける。


「・・・・・・そちらで丸まっている御仁はウィッシュトティア聖女と思われるが、いかがか?」


 立ち上がり、少年のような声で青年は呂布に尋ねる。

 呂布が目線だけ振り返ると、ティアが馬上でフードを深くかぶり、頭を伏せていた。


「どうした」


「ど、どうしたじゃないですよ。こんなイエロ軍の真ん中まで来ちゃって」


「そういう作戦だったぞ」


「ええっ、でも普通敵本陣の真ん中を突っ切るなんて思わないでしょう? それになんでこんなにのんびり乗馬しているんですか」


「なに、心配するな」


「だから、何度も言っていますが、答えになってま・せ・ん!」


 噛み付くほどにティアが声を荒げ、抗議する。

 フードが、身を乗り出したティアの勢いに負け、はらりと頭の後ろに落ちた。

 顕になった腰までの伸びる金髪と水色の目。

 イエロの陣がざわつき、嘆息がところどころ漏れた。

 感嘆の声を上げる兵たちに気づき、ティアは慌ててフードをかぶり直した。


「なんだ、ティア。貴様有名人か」


「ちょ、ちょっと。しーっ、です! なんで堂々と発表しているんですか!?」


「嘘は好かん」


 憮然と答える呂布に、頭を下げるような所作を見せると、対峙する青年は高らかに告げる。


「やはりか。私はイエロ家の子息。フェルン=イエロ。そちらの聖女、我が陣営にて保護したい」


「え、いやあのその」


 しどろもどろで右往左往するティアを、呂布は嘆息つきながら庇う。


「そいつはできん。俺はこの女の依頼でここにいる。こいつがいなくなれば、俺にこの戦場にいる意味がなくなる」


「それは好都合です。ぜひ、お引渡しを」


「それはできんと言っている。奪うならば、力づくで来い。腰抜け貴族の雷神の倅風情にその根性があるならな」


 ハルバートを掌の中で遊ばせて、呂布はフェルンに歯を見せた。


「挑発には乗りませんよ。護衛か傭兵かわかりませんが、貴方のような者に構っている場合ではないのでね」


 つまらなそうに表情を変える呂布に、フェルンは迅速に対応する。

 表情を崩さず、フェルンが両手に槍を握った。それぞれの鋒を外に向け、扇を逆さにしたようにし、次いで短く呪った。


「―――射出!!!」


 強烈な魔力を帯びた槍が、白い光に包まれる。フェルンはまるでナイフ投げのような所作で両手をクロスさせ、その勢いのまま槍を手放した。

 動作では考えられないほどに鋭い速度を得て、槍が呂布に殺到する。


「我が兵たちよ。敵を蹂躙しろッ」


 屈託のない声が、冷徹に苛烈な指示を告げる。右手を掲げ、大きく旋回。

 敵の動きを制限し、隙を突くように数で犯す。

 私兵たちの一斉集中攻撃を与え、護衛を殺し、危なげなく人質を確保する。

 失敗しようのない作戦であった。


「舐めるなよ」


 フェルンの目の前の男が、呂布以外であるならば。

 呂布はハルバートを地面に突き立てると、空になった両手で投擲された二つの槍を受け止めた。

 一際大きく膨らんだ両腕が、踊ることなく必殺の一撃を防いで見せた。

 フェルンは驚きを隠すことができなかった。

 殺到しようと息勇んでいた兵士たちも、錘のように足をすすめることができない。


「いきがるな、小僧」


 両手を開き、槍が地に落ちる。


「同じ攻撃を続けるなど、なんと工夫のない。その程度でいっぱしの将のつもりとはな」


「うけ、とめた・・・・・?」


 かろうじて出せた言葉がそれだった。

 フェルンにとって槍に魔力を纏わせ、射出する技は、奥義に等しい。苦心の末に編み出した、イエロ家の次代を担う者の立場、軍の統帥者として地位を確固たるものにするために編み出した、いわば象徴であった。それが、今魔力を出してもいない男によって破られたのだ。

 あってはならぬことに、フェルンは狼狽する。


「なるほど、これが貴様の奥の手であったか。つまらん」


 そう吐き捨てると、呂布はハルバートを抜き、馬を闊歩させる。

 フェルンの横を素通りし、陣形を組んでいたはずの兵たちが、尻込みし、道を譲った。

 気づいたように、数人の兵たちが徒党を組み呂布に斬りかかるが、結果はわかりきっていた。一瞬で切り伏せられた兵たちが、静かに地面に横たわる。


「貴方は、本当に人間か」


 恐れを持った眼が呂布を見つめる。

 フェルンは肩を落としながらも、腰に据えていたレイピアを抜き放つ。

 個で負けたとは言え、軍で負ける謂れはない。

 さきほどと違い、全兵の攻撃ならば、討伐できる。

 フェルンは歯噛みしながらも、レイピアを掲げようと右手に力を込める。


「無論だ。人中の呂布とは言われていたからな」


「ならばこの数から逃げきれると思うな、呂布とやら」


「ふんっ、一騎打ちで自分が勝てぬから数を頼みに戦とはな。投槍もどきは辛うじて勘弁してやったが、結果この始末だ。つくづく器の小さい小僧だ」


 正々堂々戦う度胸もないのか、と呂布は吐き捨てた。


「なにを」


「もういい。興ざめだ。先ほどの男の方がよほど気骨があったわ」


 フェルンは思考を回し、理解する。背中を見せる呂布の右手に握られた、見慣れたハルバートの意味を。


「レ、ヴァンドロ? まさか、貴方のその武器は、将軍のハルバートですか。では、将軍は・・・・・・」


 呪文のように唱えるフェルンの声に、兵たちが動揺する。

 雷神と称えられたイエロ伯爵軍の先鋒を担って来た猛将の死。

 それは、波紋のように全軍に広がろうとしていた。


「ああ、こいつは貴様と違ってそこそこ骨があったぞ」


 フェルンは言葉の意味を悟り、右手を力なく垂らした。

 心が奮わず、体の力が入らない。心が折れた、と自覚する。

 フェルンにとってレヴァンドロの死は特別な意味を持っていた。幼少期から自分を鍛え上げたうちの一人であったからだ。

 なにより、その強さはフェルン自身の体の傷が証明しているほどだ。

 兵としても同様に、軍最強として名高かった武人の死はそうそう拭えるものではない。

 周囲の兵が軒並みその戦意を顔から失わせていた。


 呂布は、当初意図していた以上に、敵兵の士気を削ぐことに成功した。


「ティア」


 呂布は陣の中で馬をかけさせる。

 敵兵たちはもはや見送ることしか出来ていなかった。

 呂布が軽くハルバートの刃先を向けるだけで、兵たちが一歩足を下げるほどだった。


「はい」


「これが英雄のすることか」


「―――っ」


 ティアは呂布にしがみつく手をこわばらせる。

 それは、声に出さなくとも答えになっていた。


「俺には、これしか出来んぞ」


 国を救う英雄が欲しいのならば、自分は向いていないのだと、呂布は言外で告げる。

 ティアが望む英雄がどのようなものであるかは呂布にはわからなかった。

 ただ、死んで生き返ったとは言え、今更生き方を変えることができる年齢でもないとも思えていた。ならば、今の自分の生き方が合うような目的でなければ役には立てないだろうとも。


 そして、正しく使ってもらえないならば、過ぎたる力としてただの凶刃と化すことも。

 そこまではわかるまい、と呂布は内心でごちる。

 ティアは呂布の言葉の意味をできる限り咀嚼し、言った。


「それでも、頼りたい、と私は思っています」


「いつか貴様に牙を剥くかもしれんぞ。こいつがな」


 呂布はハルバートの刃先をティアに見せるように掲げた。

 びくり、とティアの体が震えるのが伝わってきた。

 呂布は悲しい気持ちと、あきらめの気持ちがない交ぜとなりながらも、ティアの言葉を待った。

 どちらにしても、断るのは背後で震える少女の権利だからだ。


「私は・・・・・・」


 覚悟を決め、上ずった声でティアが答える。


 気がつくと大概の陣を抜け終わり、燃える城は間近に迫っていた。

 燃え上がる城壁が、熱を頬に滲ませる。


 ティアの言葉を聞こうと耳を傾ける呂布を嘲笑うように、





 銃声と共に馬体が揺れた。

 





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