「ちっちゃな歌姫」
電車に揺られながら、風邪薬の錠剤をラッパ飲みでざらざらと口に含んで、栄養ドリンクで流し込む。用量も用法も守ってない気もするが、気にしない。今日は待ちに待ったコンサートがあるのだ。四十度の熱がなんだ、うわははは。なんかテンションあがってきたー! 絶対に見に行くのだ! なんかあたま、もーろーとしてきたけどっ!
メインは某ヴァーチャルアイドルに良く似た名前のちっちゃな歌姫なのだが、実際には作曲担当と演奏担当、ダンスの振り付け担当、衣装担当に動画の編集担当など総勢六名になるグループで、なんと元は部活動の一環として始めたらしい。ヴァイオリンとピアノの二重奏によるオリジナル曲をバックに、ツインテールのちっちゃな女の子が歌いながら踊るという「やってみた」系の動画が某動画サイトで大ヒット。あっという間に人気に火がついて、高校卒業を機にプロデビュー、そしてついに迎えたファーストコンサート。
ちび歌姫は、裏で合法ロリと呼ばれているのもうなずけるくらいちっちゃくてかわいかった。
それがまぁ、飛ぶは跳ねるは大騒ぎ。あれだけ動いてちっともパンチラしないのは相当動きが計算されている。元々音楽に合わせて踊るのがメインなところがあったので最悪口パクでもしょうがないかと思っていたのだが、とてつもなくパワフルだ。息も切らしていない。
ところが、七曲目が終わったとき、異変が起きた。いままで凄くパワフルに飛び跳ねていたちび歌姫が、急に、まるで電池が切れたようにピタリと動かなくなったのだ。
ざわざわと会場がざわめく中、袖から、もうひとり、まったく同じ顔のちび歌姫が現れた。
「ごべんなざい、いまでんぢかえまふ」後から現れたちび歌姫は、ゴホゴホと咳をしながら、動きが止まった方の歌姫の背中をごそごそまさぐって何か入れ替えると、歌姫が動き出した。
口パクどころか、CD+ロボットだったんかいっ!
某ヴァーチャルアイドルは初音ミクのこと。書いててノリは楽しかったのですがオチが微妙。
せっかく風邪を押して見に来たコンサートがCD+ロボットだったのは残念でしょうけれど、初めてのコンサートで歌えなかったアイドルも残念だったんだろうなーとか。その辺を表現できなかったのが少々心残り。