白雪姫における平和的解決
「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは誰だね?」
「……非常に曖昧な質問ですね。
まず、「この世で」だけでは対象範囲の宣言として十分ではありません。貴女が尋ねているのは、この星、つまり太陽系第三惑星の表面上で生活しているホモ=サピエンスと称する生物の、雌の個体の中で、という意味ですね? それとも雄も含めましょうか?
……それから、「美しい」という言葉の意味を正確に定義しなければその質問に答えることができません。貴女の言っているのは、性格や態度、考え方といった、内面の美しさの話ではありませんね? 声や、姿勢、立ち居振る舞い、あるいは服装といったものについての美しさでもありませんね? 肉体の表面上の特徴、造形のバランス、色、質感といった部分に重点を置いた判断を求めているのですね?
その場合でも、どの要素をどの程度重要視するかによって変わってきます。その判断基準は一つではなく、人によって千差万別です。状況によっても変わるでしょう。いつ、誰にとって、どのような状況での「一番美しい」人なのか、これをまず定義する必要があります。その条件次第で、誰だって「一番美しい」と判断されることがあり得るのですから。また、それらの条件を決めて判断基準を限定できたとしても、それが時として……」
ガシャン。割れる鏡。叩きつけられた椅子。肩で息をする継母。
……こうして白雪姫は継母に憎まれることもなく平和に過ごしたのでした。