追放された鑑定士は、辺境の村で居場所を見つける
追放されたのは、雨の降る夕方だった。
「ルーク、今日で終わりだ」
ギルドの個室で、リーダーはそれだけを告げた。
理由は聞かなくてもわかっている。
鑑定しかできない俺は、前線では役に立たない。
「……そうですか」
それ以上、言うことはなかった。
引き止める声も、謝罪もない。
ただ、席を立つ音だけがやけに大きく響いた。
外に出ると、雨は本降りになっていた。
「これから、どうするかな」
独り言は、雨音にすぐかき消された。
当てもなく歩き続け、気づけば辺境の村に辿り着いていた。
「――あの、大丈夫ですか?」
聞き慣れない、少し不安そうな声。
振り返ると、傘を差した女性が立っていた。
濡れた俺を見て、困ったように眉を下げている。
「よかったら、これ」
差し出されたのは、古いけれど丁寧に直された傘だった。
「……ありがとうございます」
それだけで、胸の奥が少しだけ緩んだ気がした。
「冒険者さん、ですよね?」
「ええ。まあ……今は、ただの放浪者です」
そう言うと、彼女は一瞬驚いた顔をして、すぐに微笑んだ。
「それなら、ここに住みませんか?」
「……え?」
「この村、人手が足りなくて。それに……悪い人じゃなさそうですから」
理由になっていない理由。
でも、その言葉がなぜか嬉しかった。
「私、ミリアって言います」
「ルークです」
名前を交わしただけなのに、
追放された時より、少しだけ世界が近く感じた。
雨はまだ止まない。
けれど、差し出された傘の下は、不思議と暖かかった。
追放された俺は、その日初めて思った。
――ここにいても、いいのかもしれない、と。
◇
パーティを追放された日の夜、俺は辺境の村で一人、空を見上げていた。
「……静かだな」
都会の喧騒も、仲間の声もない。
あるのは、冷たい風と、心に残った空白だけだった。
「――あの」
背後から、控えめな声がする。
振り返ると、ミリアが立っていた。
手には、湯気の立つマグカップ。
「余ってたので……よかったら」
「あ、ありがとうございます」
受け取ると、甘い香りがした。
魔力回復の薬草を使ったお茶らしい。
「……不思議ですね」
ミリアがぽつりと言う。
「さっき会ったばかりなのに、ルークさんといると安心します」
その言葉に、胸が少しだけ締めつけられた。
「俺は、追放された冒険者です。強くもないし、有名でもない」
「知ってます」
彼女ははっきりと言った。
「でも、嘘をつかない人だってことは、わかります」
どうして、と聞こうとして――やめた。
理由なんて、いらないのかもしれない。
「……ありがとうございます」
その一言を言うのに、ずいぶん時間がかかった。
ミリアは照れたように笑い、夜空を見上げる。
「ルークさんがここに来てくれて、よかったです」
まるで、俺がこの村に来るのを待っていたみたいな言い方だった。
「あの、もしよかったら……」
彼女は少しだけ躊躇ってから続ける。
「しばらく、この村にいませんか?」
その問いに、俺はすぐには答えられなかった。
でも――
「……考えてみます」
そう答えると、彼女は嬉しそうに頷いた。
追放された俺の居場所は、まだどこにも決まっていない。
けれど――
信じてくれる人が一人いるなら、それで十分なのかもしれない。
夜風が、少しだけ優しくなった気がした。
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