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追放された鑑定士は、辺境の村で居場所を見つける

作者: 美波
掲載日:2026/03/01

追放されたのは、雨の降る夕方だった。


「ルーク、今日で終わりだ」


ギルドの個室で、リーダーはそれだけを告げた。

理由は聞かなくてもわかっている。

鑑定しかできない俺は、前線では役に立たない。


「……そうですか」


それ以上、言うことはなかった。

引き止める声も、謝罪もない。

ただ、席を立つ音だけがやけに大きく響いた。


外に出ると、雨は本降りになっていた。


「これから、どうするかな」


独り言は、雨音にすぐかき消された。


当てもなく歩き続け、気づけば辺境の村に辿り着いていた。


「――あの、大丈夫ですか?」


聞き慣れない、少し不安そうな声。


振り返ると、傘を差した女性が立っていた。

濡れた俺を見て、困ったように眉を下げている。


「よかったら、これ」


差し出されたのは、古いけれど丁寧に直された傘だった。


「……ありがとうございます」


それだけで、胸の奥が少しだけ緩んだ気がした。


「冒険者さん、ですよね?」


「ええ。まあ……今は、ただの放浪者です」


そう言うと、彼女は一瞬驚いた顔をして、すぐに微笑んだ。


「それなら、ここに住みませんか?」


「……え?」


「この村、人手が足りなくて。それに……悪い人じゃなさそうですから」


理由になっていない理由。

でも、その言葉がなぜか嬉しかった。


「私、ミリアって言います」


「ルークです」


名前を交わしただけなのに、

追放された時より、少しだけ世界が近く感じた。


雨はまだ止まない。


けれど、差し出された傘の下は、不思議と暖かかった。


追放された俺は、その日初めて思った。


――ここにいても、いいのかもしれない、と。



パーティを追放された日の夜、俺は辺境の村で一人、空を見上げていた。


「……静かだな」


都会の喧騒も、仲間の声もない。

あるのは、冷たい風と、心に残った空白だけだった。


「――あの」


背後から、控えめな声がする。


振り返ると、ミリアが立っていた。

手には、湯気の立つマグカップ。


「余ってたので……よかったら」


「あ、ありがとうございます」


受け取ると、甘い香りがした。

魔力回復の薬草を使ったお茶らしい。


「……不思議ですね」


ミリアがぽつりと言う。


「さっき会ったばかりなのに、ルークさんといると安心します」


その言葉に、胸が少しだけ締めつけられた。


「俺は、追放された冒険者です。強くもないし、有名でもない」


「知ってます」


彼女ははっきりと言った。


「でも、嘘をつかない人だってことは、わかります」


どうして、と聞こうとして――やめた。

理由なんて、いらないのかもしれない。


「……ありがとうございます」


その一言を言うのに、ずいぶん時間がかかった。


ミリアは照れたように笑い、夜空を見上げる。


「ルークさんがここに来てくれて、よかったです」


まるで、俺がこの村に来るのを待っていたみたいな言い方だった。


「あの、もしよかったら……」


彼女は少しだけ躊躇ってから続ける。


「しばらく、この村にいませんか?」


その問いに、俺はすぐには答えられなかった。


でも――


「……考えてみます」


そう答えると、彼女は嬉しそうに頷いた。


追放された俺の居場所は、まだどこにも決まっていない。


けれど――

信じてくれる人が一人いるなら、それで十分なのかもしれない。


夜風が、少しだけ優しくなった気がした。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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