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源氏裏話  作者: 眼100
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末摘花ーあの和歌の秘密

これは源氏物語には描かれなかった裏の人々のお話し

 未来の世間では末摘花などと呼ぶけれど、私にとっては大切な紅様だった。




「もう!なんでそんなに家をまもるのよ!私たちが生活できないじゃない!」

「本当よ!私たちのことも考えてほしいわ!」

「こんなに訪ねてこないのだからきっと忘れられてしまっているわよ」

主人に対する愚痴が聞こえてくる。


 主人である紅姫さまに対しひどい言い方だとは思うが、言い分はもっともである。私たちは姫様からお給料をもらうのだが最近はもらえることの方が少ない。それでも彼女らが残っているのは、姫様を慕っているからであろう。

彼女らに断りを入れて洗濯物を干しに移動する。

 廊下には埃が積もっている部分もあり決して綺麗とは言えない。姫様の生活圏内だけはかろうじて綺麗にされている。


「姫様!家財を売りましょう?家を守ろうとするそのお心は大変尊敬いたします。しかしこのままでは生活が出来ません。叔母さまのご厚意も無碍にする気ですか?」

「わかっています。しかし私はこの家の主人。決して家を捨てるなどあってはなりません。」

「しかし…!」

 主人の部屋で姫様と老女房が口論をしているのを聞きながら洗濯ものを干しに廊下を歩く。


 その夜。女房達による会議が行われた。

「姫様は家財を売る気は一切ありませんでした。」

 老女房の一言で侍女たちが騒ぎ出す。

「どうするのよ…!」

「私はもうやめるわよ。付き合いきれない!」「私もよ!」

 バタバタと多くの人が部屋を出ていく。その中には洗濯場の彼女達もいた。残ったのは5人ほどだった

 静かなまま時間がたった。彼女らが部屋を出た際に舞った多くの埃も地面に落ちている。

「…姫様に秘密で家財を売ってしまうのはどうでしょう。」

 自分でも信じられないこと口走っていた。

「なんてことを言うのです!姫様を裏切るのですか!」

「そうでもしないと侍女はおろか姫様も食べるものがなくなります!」

「それは…」老女房も口をつぐんだ。

 その通りなのだ。私は間違っていない。悪くない。

 部屋の空気が重い。そのせいか足まで痛くなってきた。


「では、失礼します。」

 他の侍女が止めようとするのを無視し、部屋の外に出る。庭には雑草しか見えずその先の塀も崩れかかっている。妖怪でも出てきそうである。光源氏様がお尋ねくださっていたころはよかった。こんな話をしなくていいのだから…

光源氏様が誰誰の家に行った。などは多く聞くのでこちらに戻ってきてはいるのだ。なのに訪ねてこない。選択場の女房が言っていたことは合ってるのかもしれない。

廊下の向こうに姫様が見えた。今はお会いしたくない。進路を変えよう。背を向けて時に細い声が聞こえた。

「きっと…きっと光源氏様はお尋ねしてくださる。今は須磨から帰ってきたばかりで忙しいだけよ…」

 次の日から侍女たちによる裏切り行為は始まった。そのおかげで生活は豊かになった。姫様は家具がなくなったり特別なものを売られた時以外は何も言ってこなかった。


「光源氏様よ!早く準備を!」

「姫様!早く着替えて!」

「お香どこよ!見つかんないんだけど!全部は売ってないよね⁉︎」

 裾を踏んで転びそうになったり、引き出しを開けっぱなしで動くなど酷い騒ぎようである。さらには光源氏様がいらっしゃった興奮で主人である姫様への敬語も忘れ、裏切り行為も明言しながら準備する。少々おバカなのである。

ようやく準備を終え、お二人が話すのを侍女全員で盗み聞きする。

「あなたからの手紙が欲しくて、冷たくしていたのです。しかし、あなたの家の木を見て寄らずに去ることはできませんでした」

「木!?どれのこと!?」

「あの大きいやつでしょ、てか何で姫様返事しないのよ!」

「えちょっと待って!几帳の布挙げてんだけど!姫様がんば!」

「こんな庭になるまで待っていてくださって嬉しいです。ここまであなたを苦労させたのは私の本心ではなく、世間体のためで、許してくださいますね?今後の私が似たことをしたら責任はとります。」

「なんか上からじゃない?」

「責任はとります。ってそういうことよね!?」

「この生活もおしまいよ!最高!」

「んで何で姫様は黙ったままなのよ!」

「藤波の打ち過ぎがたく見えつるはまつこそ宿のしるしなりけれ」

「え和歌?どゆこと?」

「あんた和歌わかんないの?やばぁ笑笑」

「えおやじギャグ寒いんですけど?笑」

「松の話だよ。あとあんたたちうるさい」

「とても長い時が経ちましたね。須磨の話もお話しましょう。あなたの苦しさもわたしにしか話せないでしょう?と私は信じています。」

「やっぱ上からだな。うん」

「まぁ身分めっちゃ高いし、そんなもんじゃない?」

「てか、和歌よ!姫様早く返して!じゃないと捨てられるわよ!」

「ん?なんか姫様探してる?」

「あー、あの古臭い本じゃない?」

「可能性あるわ。和歌詠うときいつも参考にしてたし。」

「え…」

 最悪だ。私が売った本だ。知らなかった。売れるものは売ってたから…しかも言うて本だから安かったし。どうしよう…

「どした?顔色悪くない?」

「い、いや。大丈夫。なんでもない。」

 なんでもなくないよ!ばか!まじでどうしよ…。作る?わたしが作る?それしかなくない?

「紙!筆!貸して!どこ!」

「え、本当にどうした?」

「いいから早く!」

 半分ひったくるようにして受け取る。

「年を経て待つしるしなきわが宿は花のたよりに過ぎぬばかりか」

「和歌読めるの天才か?んで何で書いてるの?」

「姫様に読ませる。」

「は!?いやいや、それはだめでしょ!」

「だって!姫様黙ったままじゃん!このままじゃ光源氏が帰っちゃうじゃん!それにわたしのせいなの!」

「意味わかんないって!とりあえず落ち着いて。」

 同僚の制止をきかず、ほかの侍女が服を引っ張るのも無視して姫様のところへ向かう。姫様はびっくりしていたが紙を渡すと明らかに眉をひそめた。

「これはどういうことですか?」

「…和歌です。読んでください。」

 明らかに嫌な顔をしていたが、私の顔がぐちゃぐちゃだったからか低くかすれた声で読み始めた。


 光源氏様がお帰りになった後、姫様に呼び出された。

「なぜあのようなことをしたのですか?場合によっては解雇します。」

「申し訳ありません。姫様が本を探していたので…」

「…それと和歌を勝手に読むのに何の関係が?」

「…しが、私が…売ったんです。姫様の大切なものとは知らなくて…」

「そういうこと…」

 姫様は激情することもなく考え込んでいる。私のせいだ…涙が止まらない。泣きたいわけじゃないのに。というか泣ける立場じゃないのに。

「事情は分かりました。私のことを思ってのことでしょう。あなた方に苦労を掛けた私も反省することはあります。今回のことは不問にしましょう。」

 言葉が出ない。涙で溺れて声が出ない。謝りたいのに…

 姫様はただ泣くだけの私を静かに見つめた後、静かに立ち部屋を出た。


 その後、姫様は光源氏様に引き取られた。私は市場にあの本を探しに何回を行ったが結局見つからず、似たような本を姫様に差し上げた。姫様は黙って受け取られた。

源氏物語において自分的に面白い、不可思議だと思ったところを想像で書いています。

今回は末摘花の不自然に現代チックな和歌がどう生まれたのかを想像して書いてみました。

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