邂逅
「……とは言ったものの、どうしたものか……」
妖精に歩み寄ると言っても、見えてなければ一緒に遊ぶこともできないしなあ……。
とりあえず、帰ったらギルドのみんなに相談してみるか。三人寄れば文殊の知恵と言うしね。三人より多いけど。
「ん? タケルからメッセージか」
俺はウィンドウを開いてタケルからのメッセージを確認する。
どうやら島の各地のダンジョンを巡ったが、ロックバードのダンジョン以外は浅い階層はすべてが水属性のモンスターで構成されており、地属性の補正値の高い武器があれば、浅い階層なら何とか攻略できそうとのことだ。
更に、浅い階層でレベルを上げれば深層に行くことも可能かもしれないので、準備をして来島したい……か。
地属性の補正が高い武器なら……エルダートレントの杖があるけど、装備するための必要ステータスが高すぎるからなあ。
……あ、バイスさんに造ってもらえば地属性の補正が更に高くなるから、それを使えばいけるか?
その旨をチャットでタケルに知らせて、俺は島から帰る準備を始める。
「そうだ、よければコウも少し遊んでいかないか? その間にアタシの蜜をビンに詰めるからさ」
「あ、それではお願いします」
アルラウネさんの蜜は上位種だけあって非常に甘く、ライアたちの大好物でもある。それを持って帰れるのはありがたい。
俺は他のアルラウネたちとトランプで遊びながら、タケルの合流を待つことにした。
「……ほう、こんな遊び方もあるのか。トランプとは奥が深いのお」
「それはアタシも同感だね。たった一つのものでここまでたくさん遊べるなんてね。……あ、そうだ。遊び過ぎてボロボロになってきたから、予備があったらもらいたいんだけどさ」
「もちろん大丈夫です」
そこまで遊んでくれるなら作った側としてもありがたいな。
俺はアイテムボックスからトランプを5セット取り出し、アルラウネたちに渡しておく。
それのお礼なのか、他のアルラウネたちからもたくさんの蜜をプレゼントされ、島から帰るころには100個を超える蜜入りのビンがアイテムボックスの中に増えるのだった。
**********
「……ということで、どうやったら妖精に興味を持ってもらえるかの相談なのですが……」
「なるほど、おれとしても気になってるし、会議をするか」
「私は妖精さんの服を作りたいですね……ふふふ……」
あ、アテナさんがいつもの服作りモードになってる。
……いや、待てよ?
「トランプで遊んでいる時に妖精が近くに来てるのは分かってるので、そこで服を見せてみます?」
「でも、受け取ってもらえるとは限らないだろ?」
「ええ、だから話しかけた後にその場に置いて帰って、後日確認に行けば受け取ってもらえたかどうかわかるはず……」
「なるほど、回数を重ねて好感度を徐々に上げていこうってことか」
「妖精のサイズは動画から把握できそうですが、アテナさんはいけそうです?」
「はい。ぴったりな服でもない限りは少々大きくても大丈夫でしょう。例えばワンピースとか」
よし、まずはアテナさんに服を作ってもらって、それでアプローチしてみよう。
それでダメならもう少し考えて……。
「あの、僕からもいいですか?」
「レックスさん、大丈夫ですよ」
「確かトランプを置いておいたらなくなっていたんですよね?」
「はい。その後、森の中では見つかりませんでしたが……」
トランプを妖精たちにわざと持って行ってもらった後に何回か森を捜索してみたが、トランプは見つからなかった。
トランプにも隠蔽魔法をかけているのか、それとも妖精の里に持って帰ったのか……その辺りはまだ判明していない。
「そういうことならトランプにも興味があると思ったので、トランプの絵柄を妖精にするのはどうでしょう?」
「なるほど……妖精を絵柄にすることで、妖精たちに『あなたに興味があります』と伝えるということですか?」
「はい。幸い妖精が映っている動画はたくさんありますし、容姿は個々人で違うので全員を描いておけば誰が来ても対応できると思いまして」
「それだけの数の絵を描くのは大変だと思いますが……よろしければお願いします」
「いえ、僕としても妖精の絵柄のトランプを売り出せるという利点がありますし……それに、妖精に気に入ってもらえたら嬉しいですしね」
こうして、服とトランプでアプローチをしてみることにした。
実行までに、俺も何か考えておきたいところだな。
**********
「タケル、これがタケルのパーティー用の武器と、ウィンドサーフィン用のセイルボード一式だ」
「おう、ありがとうな。これが代金だ」
「……ん? 何か多くないか?」
「そりゃあ未踏破のダンジョンを攻略できるかもしれないんだぜ? 色ぐらい付けるさ」
「ああ、そういえばそういう仕様があったな」
未踏破のダンジョンを初踏破することで、名前を残せたりアイテムが手に入ったりするんだよな。
俺には縁がないから完全に忘れてた。
ちなみにタケルたちはバイスさんの好感度がそこまで高くないらしく、武器は造ってくれなかったそうな。だから俺が代わりに依頼したのだ。
「コウは妖精の里探しだろ? ぜひ見つけ出してくれよな」
「ま、策はあるけど期待はしないでくれ。なんせまだ誰も妖精と話せたことすらないからな」
とあるプレイヤーが妖精の素体に変更してフォーリア森林に入っても、妖精たちが姿を現さなかったと聞くし、相当警戒心が強いんだろうな。
果たして俺たちの方法はどうなるか……。
「オレたちも格上のダンジョンだからなあ。気長に攻略していくさ。タイガたちに先を越される前にクリアしたいところだが……」
「一応、タイガさんたちから依頼が来たらバイスさんに武器を造ってもらってもいいよな?」
「ああ、それは大丈夫だ。バイスに依頼できるのは今はまだコウたちぐらいだろうし、他のプレイヤーからも依頼が来るかもな」
「……まあ、できる範囲で対応するよ。バイスさんの時間も無限にあるわけじゃないしな」
「だな。それじゃオレたちはトレントの島に行ってくるぜ」
「ああ、新しいモンスターの発見も期待してる」
こうしてタケルたちはトレントの島のダンジョンに、俺たちはフォーリア森林に向かうのだった。
**********
「へぇ、これがフェアリーサークルですか……現実でもこういう現象が起きると聞きますが、見たことはなかったですね」
「俺もここで初めてみました。綺麗な円形ですよね」
「自然の神秘ってやつだな。……よし、それじゃ遊ぼうぜ」
俺はドリアードのライア、アトラスさんはウルフのフェンちゃん、アテナさんはアラクネのシーダちゃん、レックスさんはウンディーネのウィンちゃんをそれぞれ連れている。
フェンちゃんには妖精の匂いに気付いたら合図を出して欲しいとお願いした。
これで俺とライア、アテナさんとシーダちゃんのペアと、アトラスさんとフェンちゃん、レックスさんとウィンちゃんのペアでトランプを始める。
妖精の興味を引くために、トランプの絵柄が見えやすい七並べをまずはやっていくことに。
そして、しばらくプレイしているとフェンちゃんが合図を出してくれる。
どうやら妖精が俺たちの傍にきているようだ。
そこで、トランプをしながらさり気なく妖精の話題を出していくことに。
「そういえばコウさん、妖精に会ったことがあるんですよね?」
「ええ、寝てた時に一回だけですが。できればもう一度会ってみたいですね」
「私もです! 会えたらこのお洋服をプレゼントしたいですね」
アテナさんはアイテムボックスからワンピースを取り出す。
真っ白なワンピースにところどころフリルとリボンが装飾されていて、かわいらしさを押し出している。
「ちなみに、羽に干渉しないように背面は大きく開いてるんですけど……ちょっとえっちですかね……」
「羽があるから着られるものは限られるので、しょうがないかと思いますよ。そういう羞恥心も人間基準とは違うかもしれませんし」
「だといいんですけど……あ、レックスさんの作ったトランプも妖精さんが描かれてるんですよね」
「はい、できるだけかわいく描きました! どんな性格の子なのか分からないので、あくまで予想なんですけど……会えたらもっと忠実に描けるのですが……」
などと、どんどん妖精に関する話題を出していく。
すると、途中から何回もフェンちゃんが合図を出し始めた。もしかして妖精たちが集まってきているのか……?
だが、それでも姿を現してくれない。まだ足りないのかな……?
「そうだ、せっかくなので妖精さんの像を、チェンジプラントで造りませんか?」
「コウさん、いいですねそれ。レックスさんの絵柄をもとにしますか?」
「ぼ、僕が描いたのですか?! 描いた絵を立体化って……ドキドキしますね」
「よし、誰が一番いいのができるか勝負だ!」
俺は最初に出会った子を造ってあげよう。
もしかしたら今日も来てるかもしれないし……。
こうして、俺たちはチェンジプラントで妖精の像を造っていき……。
「よし、完成ですね」
「あ、コウさん、これをこうすれば……」
「ああ、確かに……」
アテナさんは俺の造った妖精の像に手慣れた感じでワンピースを着せていく。
……いや、ホントにめちゃくちゃ手慣れてる……チェンジプラントでフィギュアを造ったことがあるから、マネキンみたいな感じで使ってたりするんだろうか?
「お、それいいな。おれの方にももらえるか?」
「あ、僕にもお願いします」
「もちろん、4人分ありますよ。私のにも着せておきますね」
そして、4人分の妖精の像に服を着せ終わり、フェアリーサークルの端っこにそれを置いてトランプを再開した。
これで興味を持ってくれないものかなあ……。
「……ちょっと人間! ボクこんなにちっちゃくない!」
俺たちがトランプをしていると、背後から声を掛けられる。俺たちを人間呼びするってことは……。
「ええと、ごめんなさい……?」
俺が振り向くと、そこには最初に俺が出会った妖精の女の子がいた。
そして、めちゃくちゃ胸を強調するポーズを取っている。……彼女の言う通り、確かにそこそこの膨らみがある。
……あれ? なんかクイーンドリアードさんのブローチの時にも似たようなことが……。
「……あっ」
妖精は俺たちに見られて冷静になったのか、羽を羽ばたかせて姿を消して逃げようとする。
「ちょっと待ってください! ちゃんと造りなおしたら、持って帰ってもらえますか?」
「……ま、まあいいけど……」
妖精は姿を再び現し、背を向けたままこちらを見る。
「それなら私の作ったワンピースも付けておきますね」
「う、うん……もらっといてあげる。あとそのボクたちが描かれてるトランプも置いていって」
「たくさん作れるので予備も置いていきますね。……あ、僕の絵も描きなおした方がいいですか?」
「もちろんじゃない! ……でも、今回はそれで勘弁してあげる」
どうやら俺たちの作ったものはプレゼントとしてもらってくれるようだ。
……これで、少しは仲良くなれたかな?
そう思っていると……。
「えー、エファちゃんだけずるーい」
「私も欲しーい。いいでしょ人間さーん?」
「ちょっとアンタたちだけずるい!」
……と、出てくるわ出てくるわ。総勢10人。どこにそんなに隠れていたのやら。
像を造っていた子にはそれとワンピースを、まだ造ってない子もモデルになってもらって像を造ってワンピースも渡して。
……そして、ふと気付く。
「あれ? そのリボン……」
「あ、これ? アンタが木に括りつけてたでしょ。邪魔だしもらっておいたの。置いていったんなら別にいいでしょ?」
「もし気に入ったのならもっとプレゼントできますけど……」
「あ、じゃああたし赤いのがいいー」
「こ、こら! 私が先! 私は緑色の!」
……なんだか賑やかだなあ。
めちゃくちゃ警戒されてたのは何だったんだと思うぐらいに、和気藹々としている。
「それでは希望の色があったらどんどん言ってくださいね。持ってない色はまた次回持ってきますので」
「あ、それならボクは赤と青と……」
こうしてさり気なく、次回会う約束も取り付けられた。
これなら、次は遊具を持ってきたら遊んでもらえるかな? あと、トランプも他の遊び方も教えてあげたいし……。
しばらくして、多くのプレゼントを抱えて妖精たちは森の奥へと消えていった。
ワンピースを着てても服ごと消えるし、持っているものも隠蔽魔法で消せるようだ。こりゃ俺が置いていったトランプも見つからないわけだ……。
何にせよ、初めての接触はうまく行ったし、もっと仲良くなれば妖精の里、フィアにも入れるようになるだろうか?
そんなことを考えながら、妖精にいい印象を与えられたことに胸をなでおろすのだった。




