隠蔽魔法
「……あ、結構な量の妖精の目撃動画がアップされてるな」
会社での昼休憩の食後に、スマホアプリで掲示板を見て最新の情報を集めていたところ、俺と同じ方法で妖精を目撃したプレイヤーが動画をアップしていた。
何個か見てみたところ、やはり寝ている間に何かしらの悪戯をすること、悪戯をするときは姿を現すことが共通しているようだ。
姿を消している時は他のものに干渉できない制約なのかな?
「お、コウも妖精の動画探しか」
「ああ、やっぱり気になっててな。新しいマップができたのにそこに入れないってのはな……」
「せめてヒントぐらい欲しいよなあ。ま、いろいろ試すのが楽しいっちゃ楽しいが……」
「タケル……じゃなかった、タケシは何かやったのか?」
「ああ、一応アラクネネットを準備して寝待ちしたけど、使う時に姿を消されてたら効果が発動しないんだよな。ほら、これが動画だ」
俺はタケシの動画を再生する。一番再生されている場所は……妖精が出現してからアラクネネットを使う所か。
確かに姿が見えている時に使って、それとほぼ同時に姿を消されて不発に終わっているようだ。
「もし捕まえられたら情報を聞けると思ったんだけどなあ……」
「しかしこの姿を消すスキル、ほぼ無敵のように感じるんだけどさ……拘束すらできないのはダメだろ」
「何かカラクリがあると思うんだけどなあ。コウにはこういうスキルに似たものを使える知り合いはいないか?」
「うーん…………あ!」
「オイオイオイ、いるのかよ。冗談で言ったのに……」
すっかり忘れてたけど、今はトレントの島にいるアルラウネさんだ!
元々は本土にいたんだけど、その時に『アルラウネ以外には見えなくなる』隠蔽魔法を森全体かアルラウネにかけていたはず。妖精はその魔法を自分にかけているのかもしれない。
隠蔽魔法の詳細をアルラウネさんに聞けば対策が分かるかもしれないので、俺はトレントの島に行くことを決めた。
「……なあ、オレもついて行っていいか?」
「ああ、トレントの島になるけど……行ったことはないのか?」
「あ、そこなのか。トレントの島は情報が出始めた時はまだレベルが足りてなくてさあ。気になってるんだよ、トレントの島にあるダンジョン」
「確かウンディーネが出てくるダンジョンがあったな。他のはまだ未調査なんだが……あの時は俺のギルドのみんなもレベルが足りてなくてさ。……ちなみに、タケシのギルド全員で行くのか?」
「いや、まずはオレだけで行こうと思う。行ってレベル差があり過ぎて即全滅しましたってこともあり得るから、ギルドの中でも速さが高いオレが行くのが適任かなと」
なるほど、速さが高ければそれだけ逃げるのもやりやすいわけで。
それに単独行動なら即判断して動きやすいし、悪くないな。一人だと不意打ちとか罠には弱いけど。
「ちなみにヨットで行くのか? オレはそんなに強い風魔法は覚えてないんだよなあ」
「いや、ちょっと違うものを造っててさ……ちょうど試そうと思ってたんだ」
「お、そりゃ期待してるぜ。……っと、そろそろ昼休みも終わりか」
「それじゃあ次の休みに行こうか」
「おう、それまでに探索が楽になるようレベリングしとくぜ」
こうして、俺はタケシとトレントの島に行くことになったのだった。
**********
「待たせたなコウ。それじゃティノーク海岸に行くのか?」
「ああ、途中でシルフィーさんに会えたらいいんだけどなあ」
「シルフの上位種か。確かに協力してくれたら楽に島に渡れるな」
「あ、いや。今回は渡したいものがあるんだ」
「ん? そうなのか?」
「まあ、以前のお礼なんだけど……最近会えてないものだから渡せてないんだよ」
渡したいものは、今回トレントの島に渡るためのものでもあるんだけど……。
ま、歩いているうちにふらっと姿を現し……。
「やほー」
「あ、シルフィーさん」
噂をすれば何とやら。ホントに風のように自由だわこの人。
何やら期待するような目でこちらを見ているが……。
「お礼。わくわく」
「もちろん準備してますよ。ただ、海で使うものなのでティノーク海岸まで一緒に来て頂けますか?」
「モチのロンよー」
……シルフィーさんのAI作ったのは誰なんだ……話していると時折、見た目年齢にそぐわない発言が混じるんだけど……。
まあ、風だからということにしておこう。そうしよう。
「ところでそっちはだれー?」
「あ、俺の友人のタケルです」
「ふーん。コウみたいに何か面白いものつくるのー?」
「いや、オレは戦闘専門で……」
「そーなんだー。じゃあわたしはコウがいいやー」
「……お前、どんだけ上位種に好かれてるんだよ」
「ははは……」
まあ、遊ぶものが少ない世界だから、遊びを作れるのが大きいのかもね。
もしシルフィーさんが楽しめる新しいものを提供できなくなったら……そこが縁の切れ目なのかなあ。そう思うとちょっと切ない。
「それじゃあ早くいこー。スピーダッ」
「……え?」
「……おい、めっちゃ身体が軽いぞ……?」
「ゴーゴー、レッツゴー、ひあういごー」
……もしかして、スピードアップのバフ?
でも、これは同じシルフであるシィルちゃんのスピードアップとは次元が違う……。
試しに走ってみると、とんでもない勢いで加速していく。これが上位種が使うバフスキル……?
「早く早くー」
「あ、待ってくださいシルフィーさーーーー…………」
俺たちは声を残すぐらいのスピードで、グラティス草原を駆け抜けていった。
その光景を見ていた他のプレイヤーたちによって、『グラティス草原にキングウルフ並みに速い何かがいる!』と掲示板に書き込まれ、またしてもUMAか!? はたまた新種のモンスターか!? という噂が広まるのだが、それはまた別のお話。
**********
「とうちゃーく。はやくはやくー、お礼お礼ー」
「わ、分かりました……これを飲んで少々お待ちください」
「おお、アルラウネの蜜……! ふふふ、わかってるねぇ……ゴクゴク」
ちょっと前にもらってたアルラウネさんの蜜をシルフィーさんに渡すと、シルフィーさんは休憩タイムに入る。
……この間に気持ちを落ち着けよう。まさか人間が自動車よりも速く走れるようになるなんて……。よくそれで脚が無事だったな……ま、ゲーム内だからなんだろうけど。
「うーん、うまい! もう一杯!」
「あ、今度はクイーンビーのハチミツをどうぞ」
「うむうむ、余は満足である」
「……なあ、コウ。クイーンビーのハチミツって割と貴重なんじゃ……」
「まあ、ツテがあるので……」
レイの蜜という対価は必要だけどね。俺がレイに払うのは一緒に遊ぶ時間だけど。
そして、シルフィーさんがハチミツを食べている間に、今回プレゼントするものを用意していく。
「ん、なんだそれ? ヨット……じゃないよな?」
「これはウィンドサーフィンで使うセイルボードとセイルだな」
「へー、初めて聞くな。……しかし、よくこんなの造れたな……」
「それは偶然なんだけど、うちのギルドにウィンドサーフィンやってる人がいてさ……それで、造り方を教えてもらったり、試走をしてもらったりしたんだ」
本当に偶然である。
ヨットや船以外に島に渡れる方法がないかネットで調べていた時に見つけたんだけど、構造が複雑そうで無理かなーって思って敬遠していたのだ。
そして、一応ギルドで相談してみようと思って、相談したらビンゴだったわけである。
「ま、操作は慣れるまで大変だと思うから、お互い頑張ろうぜ」
「ああ、濡れても大丈夫な服を持ってこいって言ってたのはこういうことだったのか……」
「おー、何これ何これー。ドキワクが止まらないー」
「ええと、これはこういうものでして……」
俺は使い方を俺なりにシルフィーさんに伝える。
俺も教えてもらってからそんなに回数をこなしたわけではないので、大丈夫かなと思ったのだが……。
「わー、たーのしー」
数分後、最初の1回だけ失敗したものの、すぐに海の上を華麗に滑っているシルフィーさんの姿が。
シルフィーさん、絶対センス〇持ってるな……。
「普通に空を飛んで海を渡るよりずっと楽しいー」
「気に入って頂けましたか?」
「うんうん、これでもうお礼は大丈夫だよー。さっき蜜とハチミツももらったしねー。それじゃー」
シルフィーさんは手足のようにセイルやセイルボードを動かして、地平線の彼方へと消えて行った……。
「……なあ、上位種って凄いんだな……」
「いやあ、あれはシルフィーさんが凄いんだと思うよ……」
その後、俺たちがトレントの島に渡るまで1時間ほどを要するのだった。これが実力の差か……。
**********
「ふぅ、何とか島まで来られたな」
「コウ、割とサマになってたじゃないか。現実でもウィンドサーフィンやってみたらどうだ?」
「近くにそういうのがあればやってみてもよさそうだな。結構楽しかったし」
「ああ、オレもだ。……それに、これがあれば風魔法が使えなくても気軽に島に来られるしな」
確かにコツが必要とはいえ、風がそんなに吹いてなくても大丈夫だし、一人乗りで気軽に渡れるからな。
島に来る敷居がだいぶ低くなりそうだ。
「俺も今まではアトラスさんちのシィルちゃんに頼ってたしなあ。いつでも来られるのはよさそうだ」
「これでダンジョンの調査も捗りそうだ……あ、楽しんでたから忘れてたけど、オレはダンジョンの方に行ってくるぜ。妖精の件はコウに任せた」
「おう、それじゃあ情報を得られたらメッセージで送るわ」
「こっちもだ。それじゃまた後でな」
「ああ」
俺はタケルを見送ると、まずは島の中心部に向かう。
アルラウネさんがエルダートレントさんに蜜を提供してるかもしれないし、まずはエルダートレントさんの所に行って、既にアルラウネさんが来たかどうかを確認するのが良さそうと判断したからだ。
「おお、コウか。よく来たな」
「コウが来るなら娘も一緒に来た方がよかったかねえ」
「お二人とも、お世話になっております。今日はお渡ししたいものがありまして……」
先日はバイスさんと一緒にきたのだが、その時に渡せなかった椅子とテーブルをアイテムボックスから取り出し、設置していく。
「お、いいねえ! これでトランプで遊びやすくなりそうだよ」
「それでは早速対戦するとするかのう?」
「それもいいけど、コウ、あんた何か聞きたいことがあるんだろ?」
「え? わ、分かるんですか?」
「まあね、これでも族長やってるんだ。その辺は分かるようになるさ。……で、どんなことを聞きたいんだい?」
「実は──」
俺たちは妖精の里に行くためにフォーリア森林で活動していること、妖精の里のヒントになるであろう妖精とどうにかして話をしたいことを伝えた。
「ふーん、そいつはコウの予想通り隠蔽魔法だろうね」
「アルラウネさんも使われていたものですよね?」
「ああ、アタシが使ってたのは隠蔽魔法の中でも認識阻害のやつだね。森にいるアルラウネをアルラウネ以外から見えなくするって条件でさ。でも、これも万能じゃなくてね……」
「……もしかして、触る、もしくは触られると魔法が解ける……とかでしょうか?」
「なんだ、分かってるんじゃないかい。他にも、コウの言っていた通りに匂いなどは隠せないのさ。アタシたちは蜜の匂いがしちまうからねぇ……それで感づかれたりもするのさ」
なるほど、妖精が悪戯をする時に姿を現すのはそういうことか。
そして、自分から誰かや何かに触る、もしくは誰かに触られた時に解除される、と。
……それなら、トランプなどをして遊んでいる所にやってきた妖精を、大きな投げ網みたいなもので自分たちごと捕まえれば隠蔽魔法が解除されそうではある……が。
「……友好関係を築きたいので、無理矢理捕まえるみたいなのは避けた方が良さそうですよね」
「ま、元々隠れ住んでいたアタシたちからすりゃあ、そういう事をされたら敵対しちまうね」
「ですよねえ……何かいい方法は……」
「ん? 迷う必要なんてあるか?」
「そうじゃ、お主は今までもクイーンドリアードなどと友好関係を築いてきたであろう?」
「そう……ですね。俺は俺の方法で歩み寄ってみます。ありがとうございました」
うまく行くかは分からないけど、俺なりの方法で妖精と友好関係を築こう。そう思うのだった。




