フォーリア森林
「おー、ここがフォーリア森林か」
「きゅー!」
新規マップだけあって人が多いが、初日に比べるとだいぶ落ち着いてきたらしい。
妖精の里に行くために根気よく調査を進めている人も多いが、大半は1度来たら諦めてしまうのだとか。
「あ、たら……コウさんだ。もしかして、今回も何かしでかしてくれるのかな?」
今たらしさんって言いかけたよね!?
いつの間にやら不名誉? なあだ名が広まってるけど、上位種の人たちに知り合いが多いからまあ仕方がないか……。もう諦めよう。
「とりあえず、森を歩いてみようか?」
「きゅ!」
どこを進行方向にしても、最終的には入口に戻ってきてしまうのだとか。
とりあえず経験してみない事には何も言えないので、まずはフォーリア森林を歩いてみることにする。
「きゅ! きゅ!」
ライアは地属性というのもあって、森林が好きなようだ。両手を広げて日光を身体全体に受けながら俺の隣にふわふわ浮かんでいる。
ライア……ドリアードは足が根っこになっているので、歩きではなく魔力を使ってふわふわ飛んでいるのだが、俺が歩くのと同じぐらいの速度が出せる。
これは下半身が花になっているレイも同様で、飛ぶ速さはステータスの速さによって変わるのだとか。
最終的にステータスが数万とかになった場合、高速でジグザグに飛び回って敵に体当たりとかするようになるのだろうか……。
「……ん? あの人だかりは……入口か」
ライアとしばらく歩いていると、どうやら入口に戻ってきてしまったようだ。本当に道がループしてるんだな……。
「それじゃライア、レイと交代してもらえる?」
「きゅ!」
ライアにレイと交代してもらって、今度はレイと一緒に別方向に歩いてみることにする。
……というか、モンスターが出ないなら全員出せてもいいと思うんだけどなあ。もしかしたら、ループの謎を解き明かしたら普通の森に戻って、モンスターが出るようになるから1人までなのかもしれないけど。
……その後もスコール、ブラウン、ニアの順番にペットモンスターを交代し、すべて別方向へと進んで行ったのだが……やはり最終的に入口に戻ってきてしまうようだ。
うーん、本当に謎なのだ。
ただ、空気は澄んでるし、日当たりもよくてポカポカしていて、散歩には打ってつけの場所だなあ。
地属性のライア、レイ、ブラウン、ニアは喜んでいるし、また散歩に連れてきてもいいかもしれないな。
森林だけあって広いので、スコールはフリスビーで遊ぶこともできそうだ。草原とはまた違った雰囲気なのもいい。
「……あれ? スコールが出たがってる?」
今はニアが表に出ているけど、スコールが外に出たがっているようだ。何か見つけたんだろうか?
ニアにスコールと交代してもらうと、スコールは俺の方をちらっと見てから歩き出す。どこか気になるところがあったのだろうか。
「それじゃ、案内してもらえる?」
「がう!」
スコールは少し道を逸れて、森の中に足を踏み入れていく。一応、さっき通った道ではあるけど……。
「がう!」
スコールはとある場所で立ち止まり、脚で木の根元を指し示す。
これは……。
「……もしかして、蘇り草?」
俺は草を引き抜いてステータスを見ると、それは蘇り草だった。
へー、こんなところに自生しているのか……特殊ダンジョンのミミック部屋の宝箱以外でも採取できるんだな。
ランクはDだったけど、モンスターの危険もなく採取できるならこれはありがたいぞ。
……しかし、復活アイテムがこうも簡単に手に入るようになるってことは、これから先これが必須の環境になるって可能性も……。
「……ん? あれは……」
俺は少し先に、キノコが円状に広がったものを見つける。確かこれ、フェアリーサークルって言うんだったか。妖精の棲む森ならではだなあ。
大きさは直径10メートルぐらいか。初めて見たけど、これは結構大きい方なのかな。
「がう」
「……ん?」
スコールがフェアリーサークルの中央に行き、ごろんと寝転がる。
ああ、日当たりもいいしちょっと眠りたいのだろう。幸いモンスターも出ないし、俺もスコールの横に一緒に横になろうとする。
「がうがーう」
「あ、ありがとう」
スコールは尻尾で自分の身体を指し示す。どうやら枕代わりにしていいと言っているようだ。
それなら、と思って俺はスコールの背中に頭を預ける。……もっふもふだあ。
一応アラーム機能を20分後にセットして、と。
あと、録画機能も起動しておこう。もし寝てる間にモンスターにでも襲われたら、どんなモンスターが出るか分かるし……。まあ、モンスターなら殺気でスコールが気付いてくれると思うけど。
「それじゃあ、ちょっとだけおやすみ……」
暖かい陽射しの中、俺たちはすぐに眠りに落ちていった……。
**********
「……変な……つ……ここ……こうし……」
……ん? 誰かの声が聞こえるような……。夢かな……? VRゲームの中で寝て夢って言うのもアレだけど……。なんだか、花のような甘い匂いもするような……。
『ジリリリリ!!!!』
「ひゃっ! な、なに!?」
あれ? 女の子の声……?
さっきのはアラーム音だし……もしかして、誰かがいる……?
俺は慌てて飛び起きると、目の前に小さな小さな女の子がいた。進化する前のライアと同じぐらいのサイズで、背中には透明な羽が生えている。もしかして、この子は……。
「もぉー! こんなの聞いてないーっ!」
「あ、ちょっと待っ……ぐぇっ!」
女の子は羽を羽ばたかせたかと思うと、一瞬で姿を消してしまった。
俺は追いかけようとしたのだけど、なぜか躓いて転んでしまう。
「な、なんだ……?」
俺が足元を見ると、左右の靴紐が一つにまとまってごちゃごちゃになっていた。
さっきの子の仕業なんだろうか……?
俺はいったん靴紐を解いて結びなおすと、辺りを見回す。
しかし、妖精と思しき子の影も形もない。
「がう……?」
そして、スコールは今起きて異変に気付く。……あのアラーム音で気付かないなんて、意外とスコールの中の野生が抜けてるかもしれない……。
……とりあえず、録画機能で何か撮れてないか確かめてみようかな。
いや、その前に……。
「スコール、俺のこの靴紐に、俺以外の人間の匂いがついてない?」
「がう…………がう!」
スコールが靴紐を嗅ぐと、首を縦に振る。どうやら、さっきの女の子の匂いが付いているようだ。
確か花のような甘い匂いだったけど……。
「スコール、この匂いを追える?」
「がー……がう!」
もし匂いがここで途切れているのなら、フェアリーサークルに何かしら転移の機能があるのかもしれないと分かるのだが……。スコールは追えると言っているので、まずは森を探してみよう。
スコールは木々をかきわけ、道なき道を行く。
俺はそんなに低姿勢で走れないので、スコールにちょっと減速してもらいながら後をついていく。
「が……がう……?」
そして、少し大きな木があるところでスコールは匂いを見失ったようだ。
もしかして、この木に何かあるのだろうか?
……そう思って木の周りを探ってみたり、木に近づいてまじまじと観察してみたりしたのだが、特にこれといって変なところはない。
「……一応、目印をつけておくかな」
俺は木の枝にピンク色のリボンを数本括りつけると、その場を後にする。
ここで匂いが途切れているということは、ここから何かで転移するのか、それとも途中で匂いを残してしまったことに気付いて、スキルか何かで匂いを消したのか。
その辺りはまだ謎だけど、いつか謎が解けて妖精の里……フィアに辿り着けるといいな。
「帰ったら録画した動画を確認して、何か映ってたらアップしておくかな。……スコール、ここまで連れてきてくれてありがとう。それじゃあ帰ってみんなで遊ぼうね」
「がう!」
**********
『おい、これ妖精じゃないか?!』
『なるほど、あえて寝て無防備になることで、妖精を誘い出せるのか……?』
『罠を仕掛ければ妖精を捕らえることもできるんだろうか?』
『あと、妖精の素体に変更したプレイヤーのみで行ったら、仲間だと思って出てきてくれないかな?』
『なるほど、それは確かめてなかったかも』
『よし、ちょっと出かけてくる。人数による変化もないか調べたいな』
『協力するぞ俺』
『俺漏れも』
『その書き方久しぶりに見た』
帰って動画を確認したところ、俺の靴紐に悪戯をする妖精が映り込んでいたのだ。
それをアップしたところ一気に再生回数が爆上がりしていき、結ばれた靴紐のせいで転んだところまで多くのプレイヤーに見られてしまう。……うん、妖精が映ってたからといって、テンション上がって即アップなんかせず、ちゃんと最後まで確認してアップしようよ俺。
しかも、転んだところに『かわいい!』なんてコメントまで付く始末。
まあ、これがきっかけで進展があればいいんだけど……。
「ふぇー!」
「あ、俺の番? よーし負けないぞー」
今はトランプで大富豪をしているのだが、4人でやるため3回戦をしたら1人入れ替わる形でプレイしている。
ニアに呼ばれたのは、次に俺が入る番だからだ。今は6人だから、余った2人はブラックジャックなどの2人でできるものをしている。
……しかし、ここまでみんなが楽しんでくれるとはなあ。トランプ一つでいろいろなゲームができるのも大きいかも。
……楽しむ……。
「んー……もしかしたら……」
「るー!」
「あ、ごめんごめん、ちょっと考え事をしてたから……よし、それじゃあ始めよう」
**********
「なるほど。それで、私とシーダちゃんに同行して欲しいってことなんですね」
「お忙しいところすみません、でも、もしかしたらこれで妖精が出てきてくれるかもしれないので……」
「大丈夫です、私も息抜きしたいところでしたので。それでは行きましょう」
後日、俺はアテナさんを誘ってフォーリア森林にやってきた。
アトラスさんはバイスさんと意気投合していろいろと教えてもらっているようで捕まらなかったため、アテナさんにトランプができるペットモンスターをとお願いしてシーダちゃんを連れてきてもらったのだ。
そして、俺たちは先日妖精を目撃したフェアリーサークルに行き、フェアリーサークルの中心で輪になってトランプを始める。ゲームはルールが分かりやすい七並べだ。
俺、スコール、アテナさん、シーダちゃんの4人でゲームを始め、何回かプレイする。
「……がう」
「……パス? もしかして出せる札がない?」
「がうぅ……」
……なるほど、そういうことか。
……実は、妖精の気配や匂いを感じたら、俺の方を見て鳴いて欲しいとスコールに頼んでいたのだ。
そして更に、俺が質問を返すので、この前と同じ匂いだったら肯定、そうでなければ否定で返して欲しいと。
俺の質問への返答は肯定。つまり、先日と同じ妖精が来ているのではないかと言うことが分かる。
また、スコールが気配や匂いを感じるということは、妖精は姿が消せるということ。悪戯をするには打ってつけのスキルだけど、なんで靴紐を結ぶときに姿を現していたのだろうか……? 姿を消したままなら完全犯罪になるのに。何かしらの制約でもあるんだろうか?
さておき、妖精が来たということは、妖精もこういう遊びに興味があるってことなんだろう。
俺は妖精が来たことに気付かないフリをして、更にトランプで遊ぶことにした。
「あ、コウさん。そういえば蘇り草が自生しているんですよね? ちょっと探しに行きたいです」
「分かりました。……すぐに戻ってくるので、トランプは置いていきましょうか」
「そうですね。それでは案内をお願いします」
妖精が来てしばらくの後、俺たちは蘇り草を探しに行くことにして、トランプをフェアリーサークルの中に置いていくことにした。
そして、蘇り草を採取して帰ってきたところ……。
「あ、あれ? トランプがない……?」
「うーん、他の人たちが忘れものだと思って持って帰っちゃったんでしょうか? しょうがないですし、もう帰りますか?」
「ですね……トランプはまた作り直しましょう」
……おそらく、妖精がトランプを持って帰ったのだろう。計画通りではある。
これで後日、森のどこかでトランプが見つかれば、そこが妖精の里だと分かるはず。妖精が冒険者から見えないようにスキルを使って生活してるのなら、見えるものを渡せばいいはず。
まあ、トランプもスキルで見えなくできるのなら意味はないけど……やらないよりはマシだろう。
こうして、俺たちも妖精の里探しに協力することにしたのだった。




