イベントが終わって
「ふぁぁ……よく寝た……」
鉱石喰らいを撃破できて安心して熟睡したのか、いつもより遅い目覚めである。
とりあえず目を覚まそうと暖かい緑茶を淹れ、トーストしたパンに齧りつく。
そろそろフォーリア森林や妖精の里フィアの情報が出回ってるかな?
そう思いながらスマホの連携アプリからワールドクリエイターズ内の掲示板内を検索し始めたのだが……。
「……あれ?」
スレッド自体はたくさん立っているものの、肝心のフォーリア森林や妖精の里の詳細が全く出ていない。
『フォーリア森林に行ってみたけど、モンスターも出ないし同じところをぐるぐる回ってる気がする……』
『試しによく見る方法……木に目印を付けるやつ……やってみたんだけど、見事に入口に戻ってるな』
『ヴァノリモ大森林で使った導きの蝶は?』
『それが、全然反応しないんだよ……いったい何なんだ?』
『なんか狐につつまれてる気分だ……』
『つつまれたら暖かいな……つままれるだよ!』
『うーん……妖精は悪戯が好きとかよくある設定だし、もしかして俺たち遊ばれてる?』
『ま、そのうち誰かが突破してくれるはず……某は他力本願丸なり。それはそうと、鉱石喰らいの撃破のランキングが発表されてるでござるよ』
『マジか、ちょっと見てくる』
え、そうなのか。俺も見てくる。
イベントページからランキングを見て……と。
……あ、やっぱり上位にはいつもの面々が並んでるなぁ。
タイガさんやタケル、あ、ユニコさんの名前もある。配信者だから挑戦回数が多くて累計ダメージも多いみたいだ。
そしてそのままスーッと下にスクロールしていくと……。
・コウ
・アトラス
ん?
んん??
俺、ほとんど参加してないのに、ランキング上位の下の方に名前が載ってる……?
しかも、アトラスさんとほぼ同位ということは、もしかしてこれ……。
「……とりあえず、ログインしてみようか」
暖かい緑茶よりもハッキリ目を覚まさせられた俺は、自室に戻ってログインの準備を始めた。
**********
「アトラスさん、ランキングは見ました?」
「ああ、ほとんど戦闘に参加してねえのに上位の下の方に名前が載ってるもんだから、びっくりして飛び起きたぞ」
「ということは……」
「ま、原因はバイスだろうなあ」
バイスさんはNPCだからランキングには載らないが、アイテムを提供した時にバイスさんの鉱石喰らいに与えたダメージが、アイテムの提供者に加算されるので……。
「確かにクレセントアックスは2回提供しましたが……」
「それだけでこんなに上位に来るものか……?」
「後半は風の属性鉱石を鉱石喰らいに食べさせて、弱点を増幅させてましたが、それでここまでとは」
……いいんだろうか。俺、鉱石喰らいの戦闘なんて1回しか参加してないんだぞ?
まあ、アイテム提供による累計ダメージ増加が公式のものだからいいんだろうけど……。
「さすがに気が引けるので、上位入賞アイテムはバイスさんにお渡しすることにします」
「……おれもそうするか」
「ええと、上位入賞アイテムは……選択式みたいですね」
「なあ、それじゃあこういうのはどうだ? ごにょごにょ」
「内緒話の擬音をそのまま発音する人初めて見ました。いや、俺も似たようなことやったことありますけど」
「はっはっは、考えることは似たようなもんか。それはさておき……」
**********
「おっ、コウとアトラスじゃねえか。鉱石喰らいの時は世話になったな」
「いえ、こちらこそお世話になりました。それで、今日はそのお礼なのですが……」
「いいのか? オレはもらえるモンは何でももらっちまうぞ」
「それなら話が早い。これを食おうぜ」
アトラスさんはアイテムボックスから上位入賞アイテムを取り出して、バイスさんに提示する。
「ほう、肉か。……よし、ちょっくら酒を持ってくる」
「それでは俺たちは肉を焼く準備をしてますね。スペースはありますか?」
「ああ、ちょっと片付けるから待っててくれ」
バイスさんはそう言うと人造ゴーレム試作一号機を起動し、床の石や木材を部屋の隅に移動させていく。
「ちっとホコリが気になるが……こんなもんでいいか?」
「ああ、それならおれ……というかシィルがやっておくぜ」
「りゅ!」
シィルちゃんは風を起こすと、部屋のホコリを外へと追い出していく。
うーん、風が操れるって便利だなあ。
「よし、それじゃあ準備しようぜ」
「そうですね。七輪を造っておいてよかったです」
エインズの町防衛戦の時に造っておいた七輪が、ここでも有効活用できるとは。
ちなみに今回の上位入賞アイテムは『焼肉大河のカルビ200g』と『焼肉大河のロース200g』を選択した。
更に……。
「ん? 何だそれ?」
「あ、七輪と言う器具です。上に網を乗せて、炭を使って肉などを焼くものですね」
「ほう……ちょっと気になるが……まずは肉と酒だ!」
「よし、それじゃあ火を入れていくぜ」
アトラスさんは炭にファイアの魔法で着火し、網を乗せて肉を焼いていく。
じゅうじゅうという音と共に、肉の焼ける匂いが部屋に漂い始める。
「……そろそろいいか?」
「ああ、それじゃあ乾杯しようぜ」
「よし! ……鉱石喰らい討伐を記念して!」
「「「乾杯!」」」
「バイスさん、それではお肉はこのタレに漬けて食べてみてください」
「よし……ん? な、なんだこの肉! こんな肉今まで食ったことないぞ!?」
……まあ、現代日本の有名店の肉を再現したものだしなあ。
ゲーム内とはいえ、ファンタジーな世界の肉とはかなり違ってくるだろう。
「硬くなくて、するっと喉に入っていくからいくらでも食えそうだ……」
「まだまだあるので、どんどん食べてくださいね」
「いいのか? こんだけ美味い肉なんだ、さぞかし高そうに思えるが……」
「いえ、このお肉はバイスさんのおかげですので」
「オレの?」
俺たちは、バイスさんが鉱石喰らいに多大なダメージを与え、その貢献度が俺たちにも分配されたから、このお肉が俺たちの上の者から提供されたことを伝える。
……俺とアトラスさんだけの報酬だと400gだからすぐに無くなってしまうので、エルダートレントの枝を渡していた杖のお店のドワーフさんから売掛金を回収し、それでオークションのお肉を買い集めたのは内緒だ。バイスさんは間違いなく今回のイベント最大の功労者だから、遠慮なくどんどん食べて欲しいしね。
「……よし、それなら遠慮なく頂くぜ!」
「ライア、レイ、スコール、ブラウン、ニア、俺たちもどんどん焼いていこうな」
「きゅ!」「る!」「がう!」「ら!」「ふぇー!」
俺はみんなが食べやすいように肉を小さく切り分けてどんどん焼いていく。
……主食は魔石だけど、蜜なども食べるからお肉も大丈夫かなと思っていたけど、みんな美味しそうにお肉を食べてくれる。
スコール以外は肉食っぽくないけど大丈夫なあたり、その辺も細かく設定されてるのかなあ。
「きゅ!」
ライアが俺の小皿にお肉を乗せてくれる。
どうやら、みんなのお肉の切り分けで忙しくて、俺がほとんど食べてないことに気付いたらしい。
そして、その後はレイたちも続き、俺の小皿はお肉でいっぱいに。
「ありがとう。それじゃあ俺も食べさせてもらおうかな」
……俺はみんなの笑顔が見られればそれでお腹いっぱいだったんだけど……みんなの気遣いに感謝しないと。
……そして、昼過ぎから夕方まで焼肉パーティーは続き、お肉の在庫が尽きてお開きになる。
「いやぁ、楽しかったぜ。こんなに美味い肉が作れるなんて、人間はすげえな」
「ええ、ほんとにそう思います」
肉に限らず、現代の美味しい食材を作っている人たちの努力には脱帽するばかりだ。
「そういやあ、エルダートレントの枝を提供してくれたやつにも礼を言いたいところだな。あれのおかげで鉱石喰らいの攻撃をほぼ防げたしな……あれが無けりゃ、まだまだ時間はかかってただろうし」
「それなら、明日お礼に行きますか?」
「いいのか? ちと飲み過ぎたから、明日の昼ぐらいからなら大丈夫だが……」
「分かりました、よろしくお願いします。それではそろそろ片づけを……」
と、みんなの方をちらりと見るとニアはおねむのようで、椅子で静かに寝息を立てている。
「コウ、片づけはおれがやっておくから、みんなを連れて帰ってやんな」
「ありがとうございます、アトラスさん。それではお言葉に甘えまして……」
俺はニアを起こさないようにお姫様抱っこすると、みんなを連れてホームに戻り、ニアをそっとベッドに寝かしつけた。
……その後、ライアやレイにお姫様抱っこをして欲しいとせがまれ、ちょっとした食後の運動をすることになるのだった……。
**********
「……コウにエルダートレントの枝をくれたやつ、こんな島に住んでるのか。てっきり町に住んでるものだとばかり思ってたぜ……」
翌日、俺たちはバイスさんを連れてトレントの島に渡っていた。
そして、どんどん島の中心部へと向かって行く。
「なんか、視線を感じるんだが……」
「まあまあ気にせずに」
「ま、敵意は感じられないからいいんだがよ……」
そして、島の中心部に到着する。
「おお、でっかい木だな……もしかして、ここに住んでるのか?」
「ええ、その通りです」
「……入口は見えないが……?」
「おお、コウか。久しぶりじゃな」
「ええ、お久しぶりです、エルダートレントさん」
「……は? はあああああ!?!?!?」
バイスさんが驚いて腰を抜かしてしまう。
……ですよね。エルダートレントの枝を提供してくれたの、人間って思ってましたもんね。
「コウ、お前もしかして、エルダートレントから枝を直接もらったのか……?」
「はい、その通りです」
「やっぱり驚くよなー。コウの人脈……いや、モンスターだからモン脈か?」
「普通、上位種とはそう簡単に仲良くなんてなれねえからな?!」
ですよねー。
俺ですらなんでこんなに広がったのか分からないしさ……。
「ところで、今日は珍しい客人じゃのう? ドワーフか?」
「ええ、実は──」
俺は鉱石喰らいの経緯をエルダートレントさんにさっと話す。
「……なるほど、それでわざわざここまで来てくれたと」
「は、はい、お力添え頂いたことの御礼を是非と思いまして……」
「なに、そう硬くならなくとも良い。……ところで、その盾とやらをぜひ見てみたいのう」
「こ、こちらです……」
バイスさんはアイテムボックスからエルダートレントの盾を取り出して地面に置くと、エルダートレントさんはそれをツタで顔の近くまで持っていき、じっくりと眺めている。
「……うむ、綺麗な加工じゃ。相当腕が立つようじゃな」
「い、いえ……オレ……私はまだそれほどでは……」
普段と違う言動のバイスさん。相当緊張しているのだろう。
「儂の枝が村を救う役に立つとはのう。長生きはしてみるものじゃ。……そうじゃ、お主はまだまだ腕が上がりそうじゃから、これを持っていくがいい」
エルダートレントさんはそう言うと、いつもの枝ボキボキ祭りを始める。
とんでもない価値の素材がポンポン目の前に置かれていく光景を見て、バイスさんは絶句することしかできなかったのだった……。
**********
「……はー……今まで生きていた中で驚いた回数以上、今日だけで驚いた気がするぜ……」
「まさかこんなことになるとは思っていませんでしたが……」
エルダートレントさんがバイスさんに渡した枝の数、約30。
エルダートレントさんレベルになると、枝は折っても1か月もあれば元通りになるらしい。生命力ってすごいね。
とはいえ、かなり価値のある素材であることには間違いないわけで。それだけバイスさんが期待されてるんだろう。
「……昨日といい、今日といい、貴重な体験をさせてくれてありがとうな」
「いえいえ、こちらこそ鉱石喰らいの助力をありがとうございました」
「おれも色々鍛冶を教えてもらってるしな。こちらこそ礼を言わないとだ」
「……それじゃあ、オレの力が必要になったらいつでも頼ってきな。お前たちのためなら鍛冶でも何でも手伝うぜ」
「ありがとうございます。今後もよろしくお願いしますね」
【INFO:バイスの鍛冶屋が利用可能になりました。素材を渡すことでプレイヤーが作製できる装備を、より高品質で作製してくれます。ただし、地属性+30、風属性-30の補正が確定で付与されますので、使用の際はご注意ください。なお、利用にはドワーフ族の好感度が一定以上である必要があります】
**********
「……うーん、まだフォーリア森林は入口から進めないままなのか……」
ホームに帰ってから掲示板を確認しているが、新規マップのフォーリア森林は何も進展がないらしい。
百人以上で森林に入って数メートル間隔で人を配置し、どこからループしているかを試しているようだが、ループ地点が見つかっても特にこれといったイベントはないみたいだ。
「……俺も行ってみるかな?」
せっかくの新マップだし、ライアたちを連れて森林浴もいいかもしれない。
……そんな軽い気持ちで俺は次の予定を立てるのだった。




