勝機?
「おお……鉱石喰らいのHPがかなり減ってる……」
バイスさんに風属性の斧を渡した翌日、イベントページで鉱石喰らいのHPを確認すると、半分より少し多いぐらいまで減っていた。
多くのプレイヤーがタイガさんたちの戦闘動画を参考にして戦術を練り直したのもあるだろうけど、バイスさんのダメージも結構あるんじゃないかな。帰ってきたバイスさんに聞いたところ、結構いい線いってたと言ってたし。
実際に、斧の製作に携わった俺とアトラスさんの累計ダメージが結構伸びてたしね。上位パーティーまでとはいかないものの、中堅パーティーの一回での与ダメージぐらいは累計ダメージが加算されていたのだ。
バイスさんの与ダメージの一部が何%か分からないけど、そこまで増えたのなら結構なダメージを与えているはず。
これで、更に風属性+50の風樹の杖をプレイヤーに渡したら、もっと鉱石喰らいのHPの減りが早くなるのでは?
なんとか倒せそうな感じが出てきたぞ。これならルァイドの町も守れるはず。
「……問題は風樹の枝がもう無いところなんだよなあ……」
50本分作っちゃったから、もう在庫はないのだ。
新規で取りに行こうにも、俺たちのレベルではキヴァナ峡谷のモンスターに手も足も出ないし。
「とりあえず、今日は気分転換に各方面への遊具の配布に行ってこようかな」
最近は鉱石喰らいの対策装備の製作にかかりっきりだったし、それにエルダートレントさんにエルダートレントの杖を見せに行きたいし……。
俺はアトラスさんを誘って、トレントの島に渡ることにした。
**********
「ほう……これは……」
「以前エルダートレントさんから頂いた枝で造った杖です」
「ふむ、儂の枝を加工できるとはな。コウは余程の技術者か……」
「いえ、これのおかげです」
俺はアイテムボックスからキングウルフさんの歯を取り出して、エルダートレントさんに見せる。
「……なるほど、その風属性の牙があれば加工も可能か」
「ドワーフの人たちはこれが無くても加工していましたが、俺にはこれがないとダメでした。精進します」
「いや、最終的に目的のものができるのであれば、使うものは問わないものじゃ。ステータスが遜色ないのもいいものを造ろうというコウの気持ちが籠っているのじゃろうな」
エルダートレントさんがやたら褒めてくれる。正に『これには枝を提供したエルダートレントもにっこり。ぜひ見せてあげよう』って説明文の通りか……。
「あ、ありがとうございます」
「うむ、儂もいいものを見せてもらった。もっと造れるように追加で渡しておこう」
「えっ」
俺がそんなに気を遣わなくてもと言う前に、5本ほど枝をボキボキと折り始めるエルダートレントさん。
ちょっと待って、切り分けたものを加工したのですら数万Gするのに、そんなバーゲンセールみたいに……。
「あ、ありがとうございます」
「おいおい、こりゃ大量のお土産だな……ありがたいがいいのか?」
「うむ。また良いものができたら持ってくるといい。儂としても、自分の素材が加工されて役に立つのは嬉しいからのう」
「わ、分かりました」
しかし、これだけの量を杖で使い切るには……あ、そうだ。
初心に戻って椅子とかを造ってもいいんだな。エルダートレントさんの素材ならいいものができそうだし。
……でも、できることならエルダートレントさんに還元したいけど……うーむ、木が喜ぶ木の製品……?
「おー、エルダートレントの旦那、蜜を届けにきたぜー……お、コウもいるのか」
「アルラウネさん、お久しぶりです」
「久しぶりだねえ。クイーンビーからコウのことはちょくちょく聞いてるぜ」
「えっ」
……何か変なことは吹聴されてないだろうか。
ちょっと心配である。
「クイーンビー、アタシの蜜が気に入ったみたいでさあ、時々ここに来るんだよ」
「そ、そうなんですね」
「ま、アタシもクイーンビーのハチミツが気に入ったから、お互いにとっていいことだからありがたいんだけどね」
「それはよかったです」
うん、どうやら何事もないようだ。
しかし、飛んでここに来られるのはいいなあ……俺も空を自由に飛べたら……。
「そうだ、コウとアトラスもアタシの蜜を持って帰りなよ。いろいろなものを作ってるって聞いたから、これも役に立つかと思ってね」
「いいんですか?」
「ああ、代わりにまた何か遊具を作ってきてくれよ。みんなで遊べるやつがいいな」
「それならトランプはいかがです? エルダートレントさんたちも遊べますよ」
「ほう、それは気になるな」
「まずはおれたちとやってみるのはどうだ?」
俺はトランプをアイテムボックスから取り出して、ゲームやルールを実際に遊びながら説明していく。
エルダートレントさんはツタを自在に操って札を出す。器用だなあ……。
そして、盛り上がっているのを他のアルラウネたちに見つかり、どんどん輪が広がっていくことに。
「おー、気に入ったよ。長く遊べるようにいくらかもらおうかね」
「分かりました、それでは10セットほど……」
長く使えるとはいえ、配ってたらすぐになくなるから、多めに作っておいてよかった……。
しかし、簡単に作れるのに上位種であるアルラウネさんの蜜をもらってもいいものか。全然等価交換ではないのだが。
「これで娘とも楽しく遊べそうだ。ありがとうな」
「どういたしまして。娘さんも気に入ってくれるといいのですが」
「大丈夫さ、今までの遊具も全部気に入ってるからな。よし、それじゃ早速帰って遊ばせてもらうとするか」
アルラウネさんたちはトランプを大事そうに持って、東の草原へと帰っていった。
娘さんと遊ぶのが楽しみなんだろうな。
「コウよ、儂も遊べるものを作ってくれて礼を言うぞ」
「確かに、今までの遊具はエルダートレントさんの巨体では無理でしたもんね……今度はエルダートレントさんも一緒に遊べるものを考えておきます」
「うむ、それでは更に……」
「わー! ストップストップ! もう枝は充分ですから!」
更に枝をお土産にしようとするエルダートレントさんにストップをかけて、島を後にするのだった。
**********
「さて、もう少し属性装備の研究をするか」
各方面に遊具を配り終えてホームに戻ると、属性装備の仕様を研究することにした。
補正値+30の杖を装備して魔力を籠めると+15のものが造れる素材になる。
ライアやレイと協力して魔力を籠めると+30のものが造れる素材になる。ただし、アクセサリーだと+15が限界だった。
それなら補正値+50の装備でライアやレイと協力して魔力を籠めるとどうなるか。
補正値の限界があるなら杖が+30、アクセサリーが+15になるのだろうか?
「それじゃライア、レイ、順番に協力してくれる?」
「きゅー!」
「るー!」
俺はライアとレイと協力しながら、+50の装備で素材に魔力を籠めていく。
時々魔力量を調整しながらいろいろと試していき、杖用とアクセサリー用の合計10個の木材ができあがった。
これらを順番に杖に加工していき、杖とアクセサリーのステータスを見比べてみる。
……予想通り、杖はすべて+30、アクセサリーはすべて+15の補正となっていた。
「やっぱり、補正上限があるみたいだな……」
更に補正値をブーストさせるなら属性魔玉を使おうってことなんだろう。
それでも防具も込みなら合計+100以上の補正を付けることができるので、今後の攻略のカギになりそうだ。
……ま、こういう属性装備が増えだしたら、今後は魔女みたいな複数属性の攻撃をしてくるボスが増えそうだけど。地属性が+100なら風属性は-100になるわけで。
「ふぇー!」
俺が装備を見ていると、ニアも一緒にやりたいと主張する。
属性木材はいくらあっても困らないので、ニアと一緒に地属性の木材を作ることにした。
ニアも魔力の感覚は分かっているらしく、一発で地属性の木材を作ることに成功する。
「ふぇ?」
「うん、最初から成功できるなんて凄いね」
「ふぇー!」
俺はニアの頭を撫でると、ニアは喜んでぴょんぴょん飛び跳ねる。
見た目年齢相応の喜びの表現で、俺はそれを見てほっこりする。
「あ、それならポーションオブフォレストも作れそうかも」
「ふぇ?」
「ライアやレイと一緒に、ポーションに魔力を籠めるものだよ。やってみる?」
「ふぇー!」
どうやらニアも乗り気なようで、まずはライアと一緒に作ってみることに。
途中までは俺がやって、魔力を籠めるのを2人にやってもらう。
すると、またまた一発で成功する。
「ふぇ!」
「きゅー!」
2人は喜びを分かち合うために、ハイタッチする。これ、どこで覚えたんだろう……。
さておき、品質はライアとレイのタッグの時と同じで、地属性の2人で作ればポーションオブフォレストになるんだろうな。
「ふぇー」
「る!」
「……ん?」
ニアが手招きをしてレイを呼ぶ。
そして、ポーションを指差して俺を見ている。
「もしかして、三人で作りたいの?」
「ふぇ!」
「なるほど、それじゃ準備するね」
俺は再びポーションを作る作業を途中までこなし、魔力を籠めるのを三人に任せてみる。
三人が息を合わせて魔力を籠めていくと、ポーションが今までよりも濃い色に染まっていく。
「これは……」
そして、三人が魔力を送るのを止めると、ポーションが完成する。
【ポーションオブフォレスト(強):ランクC、MP自動回復効果を付与(15分)。1分ごとに最大MPの5%が回復する。3種の異なる種族が力を合わせて作った、森の香りが強く漂うポーション。深い緑色をしている。(強)と付けたのは効果が強くなったのを強調するためで、決して名付けが面倒になったわけではない。……絶対だぞ】
「……5%!?」
ポーションオブフォレストが2%だったのを考えると、かなり強くなっている。しかも、持続時間も10分から15分になってる……。
「ら! ら!」
そして、そこまで様子を見ていたブラウンが今度は手を挙げる。どうやら、3人を手伝いたいようだ。
ブラウンが手伝いに入れば、更に効果が上がるのだが……。
俺は更にポーションを準備すると、今度は4人に任せてみることに。
そして、出来上がったものはなんと8%!
毎分8%で15分持続って……これ、かなりの壊れアイテムじゃ……。
「くぅーん……」
……俺が驚いていると、寂しそうにスコールが鳴く。
そうだね、スコールは風属性だからポーションオブフォレストづくりに参加できないもんね。
「大丈夫、スコールにしかできないことも、いつか来るはずだから。ね?」
「……がう!」
こうして立ち直ったスコールと一緒に4人を見守りながら、8%回復のポーションオブフォレストを増産していくのだった。
**********
『おい、風樹の杖が出品されてるぞ!』
『しかも、毎分8%MPが回復するポーションまで!?』
翌日、俺が造りだめしておいた風樹の杖とポーションオブフォレストを出品すると、掲示板がざわついた。
これらを併用すれば、1戦闘での最高与ダメージを更新するのも夢ではないからね。
……風樹の杖の方は、50本までしか提供できないのが心苦しいけど……。
『これはいったい何たらしさんの仕業なんだ……』
『詮索はよそうぜ。出品者が匿名の時にはそれがマナーだ』
『すまん、レス消しとく。それにしてもここまで強いアイテムが来れば勝ったも同然だな』
『フラグ立てるの止めて頂けます!?』
『「やったか!?」ではないからセーフだと思う。思いたい』
こうして、鉱石喰らいの撃破も時間の問題かと思われた。
……のだが……。
**********
俺が寝たあと、日付変更後の戦闘配信を見ていたプレイヤーたちが一斉に掲示板に書き込んだ。
『おい、敵の数が増えてるぞ!』
『嘘だろ、ここにきて発狂モードか何かが発動したのか?!』
『見た感じ、小さい鉱石喰らいのようだけど……』
『そいつら、後衛を狙って動いてるみたいだな……向こうも連携してくるのか』
『しかも、鉱石喰らいに向かって放った魔法を身体で受け止めてる……肉の壁か』
その後、鉱石喰らいとの戦闘から帰還したパーティーが加わる。
『先に小さいやつを倒して今まで通りの戦術をしようとしたんだけどさ……小さいやつ、補充されるんだ……』
『見返してリスポーンする時間を計ったけど、だいたい30秒だったな』
『小さい方はあんまり強くないけど、そっちに気を取られてるとでっかい方に攻撃されるし、かと言って大きい方にかかりっきりだと後衛が攻撃されるし……どうすりゃいいんだこれ……』
『また対策を練らないとだな……いっそのこと小さいの無視してでっかいのに集中するか……?』
それからしばらく、深夜にも関わらず会議は続いていくのだった。




