ゴーレム用の装備
「……ふぅ、結構な数の風樹の杖を造ったぞ……」
タイガさんたちが鉱石喰らいとの戦いを配信した翌日、俺は風樹の杖づくりに追われていた。
というのも、みんな……特にランカーがこぞって欲しがるため、風樹の杖の詳細を公開したら生産が追い付かなくなるので、今のうちに作り置きをしておかないと。
しかし、風樹の枝が50本ちょっとしかないうえに、再度取りに行こうとしてもキヴァナ峡谷は俺一人じゃ無理なレベルなんだよなあ……。どうしたものか。
そして、シルフィーさんへのお礼の遊具をどうするか……とりあえず、いくらかは候補があるのだが……。
鉱石喰らいのイベントを解決してからでも良いとは言われたものの、早めにお礼はしておきたいところだ。
「……ん? アトラスさんからの入場申請か……ポチッとな」
「コウ、風属性鉱石を持ってきたぜ。これだけあれば足りるか?」
「ありがとうございます……って、よくこんなに集められましたね……」
「ま、おれの人脈ってやつだ」
「それでは一括で買わせて頂きますね」
俺はGをアトラスさんに振り込んで、風属性の鉱石を譲り受ける。
「魔玉にはしなくてもよかったのか?」
「ええ、魔玉以外にも使い道がありますので……」
「ほう、ちょっと聞いてもいいか?」
「実は……」
俺はアトラスさんに、属性鉱石を使ったバイスさんのゴーレム造りを手伝う予定があることを伝える。
「なるほどな。おれも興味があるからついていっていいか?」
「もちろんです。ゴーレムならアテナさんも誘いたいところですが……」
「今はちょっとものづくりに追われてるからな」
「ええ、まさかあのアイテムがそんなに人気になるとは思ってませんでした」
そのアイテムとはアラクネの糸で作る、敵の動きを止めるものだ。
名前はアラクネネットというまんまのものなんだけど、鉱石喰らいの動きも10秒間ほど止めることができる。
もちろん、その間は殴り放題なので、あればあるだけ売れていくのだ。
「アラクネをペットにできてるプレイヤーも少ないからなあ」
「アテナさんをはじめとしてまだ100人もいないんでしたっけ」
100人と言うと結構多く感じるかもしれないが、同接1万人はいるこのゲームで、イベント特効とも言えるアイテムがその人数で作れるかといえば……。
1人10個までしか持って入れないけど、1万人が使うとしたら10万個。
ぜんっっっっっぜん作り手が足りないのだ。
しかも、挑戦するたびに10個持って入ろうものなら……。
「多くの人に配りたいから1人1個制限してるとはいえ、それでも需要が高すぎるんだよなあ」
「……風樹の杖もどうなるか……今から戦々恐々としてますよ」
「ああ、あれはやっぱりコウの造った杖だったのか」
「ええ、まだ公表はしてませんが……とりあえず、全部に風の魔玉を埋め込んで補正値が+50の杖を50本造る予定です。それで風樹の枝の在庫がなくなるのですが……」
こっちも全然足りないんだよなあ……。まさかここまで注目されるとは。
「……ま、とりあえず気分転換にバイスに会いに行こうぜ」
「ですね……」
**********
「おう、コウとアトラスか」
「久しぶりだな。今日はいいものを持ってきたぜ」
「アトラスさん、それ俺のセリフ……」
俺はアイテムボックスから属性鉱石を取り出し、机の上に広げていく。
「おお……こんなにあるのか。これなら人造ゴーレム試作一号機を改良できそうだぜ。……ただ、今は鉱石喰らいの対応が先だな」
「一応、俺も杖を造って後方支援をしているのですが、結構タフでまだまだ倒せそうにないですね……」
イベントページから鉱石喰らいのHPが確認できるものの、まだ四分の一も削れていない。
日を跨いだ時の回復量が割とえげつないのだ。自前のHP回復がある上に防御効果のある地形の上に陣取っているボスぐらいヤバい。
「できるならオレも参戦したいところだが……人造ゴーレム試作一号機は地属性なんだよな」
「それなら、武器を風属性にするのはどうですか?」
「人造ゴーレム試作一号機が扱えるサイズの風属性の武器か……」
「それなら斧とかどうだ? コウが風属性の木材で柄を造って、おれが風属性の鉱石で刃の部分を造るとかさ」
「頼めるか? オレが造るとどうしても土属性が付いちまってな……」
「いいぜ。その代わり代金はよろしくな」
「しっかりしてんな。もちろん、色を付けて支払わせてもらうぜ」
斧、か。
斧と言っても、クレセントアックスとかバトルアックスとか種類は色々あるけど、どういった感じにするんだろうか。
「どんな形の斧がいいですか?」
「そうだな……片方に刃の付いたシンプルなやつかな」
「それならクレセントアックスですかね」
「よっしゃ。コウ、それじゃあ早速造ってみるか?」
「俺はエインズの町で大きめの木材を買ってきますね。それに風属性を付与して削りだしていきます」
「おれは……そういえばゴーレムに持たせるぐらい大きい刃なんて造ったことないな……風属性を持たせるなら、複数の属性鉱石をどうにかして継いでいくか……?」
「そういうのはオレが教えるぞ。何としても鉱石喰らいに一泡吹かせてぇからな」
こうして、ゴーレム用の斧づくりが始まった。
「……さて、木材を買ったはいいけど、これに風属性を付与して削りだしてかぁ……」
木材の大きさからして、かなりの大仕事である。
バイスさんのゴーレム、人の5倍以上の大きさがあるからなあ……乗り込むロボットみたいなやつだからしょうがないけど。
さて、まずは木材に風属性を付与して……ん?
……よく考えたら、先にチェンジプラントで変形させてから風属性を付与すればいいのでは?
今回の場合、もともと属性が付いている風樹の枝と違って普通の木材なんだし。
でも、大きい木材は高いから失敗するのが怖いので、まずは普通の小さい木材をチェンジプラントで変形させてから風属性を付与してみる。
……なんということでしょう。
属性を付与してから加工するより、加工して属性を付与した方が万倍早いではありませんか。
「うわぁぁぁぁ! 後乗せサクサクーっ!?」
なんで先にこの発想をしなかったのかと。思わず頭を抱えながら、自分への変なツッコミを口走ってしまう。
その声にビックリしたのか、外で遊んでいたライアたちが作業室に入ってくる。
「……あ、ご、ごめん……ちょっと自分が情けなくて……」
「ふぇー」
そして、頭を抱えていたせいか、一番小さい子であるニアに頭を撫でられてしまう。おいは恥ずかしか!
「あ、ありがとう……そうだ!」
せっかく新しい方法が見つかったので、木材をチェーンのように変化させて輪にし、先にアクセサリーを取り付けてペンダントにしてみる。チェンジプラントだと加工が楽なので、魔玉を入れる穴も開けて……っと。
そして、ニアへのプレゼントだから、仕上げに地属性を付与して……。
「はい、どうぞ」
「ふぇー……♪」
俺はペンダントをニアに付けてあげる。
ニアはペンダントを手に取り、中に埋め込んだ魔玉をうっとりとした表情で見つめている。
「きゅー!」
「るー!」
そして、ライアたちからも同じものが欲しいとの催促が。
「らー!」
ブラウンからは、剣に巻き付いた竜の口の部分に魔玉が欲しいとのジェスチャーが。
……男の子だなあ。
「はいはい、それじゃあ順番に造るからね」
こうして、ちょっと脱線しつつも俺は斧の柄を造っていくのだった。
**********
「バイスさん、こんな感じでどうですか?」
「おお、もう出来たのか。早かったじゃねえか」
「ええ、ちょっとブレイクスルーがありまして……」
「ぶれい……? ま、いい方法が見つかったんならいいことだ」
「それでは、実際にゴーレムで持ってみて、修正点を出して頂ければと」
「よっしゃ、任せな! あと『人造ゴーレム試作一号機』な」
「わ、分かりました」
そこには拘りがあるんだな……。
バイスさんはゴーレ……人造ゴーレム試作一号機を起動し、俺の造った柄を持ってブンブン振り回す。
「そうだな……結構しっくりきてるが、もう少し太い方が持ちやすいかな」
「分かりました、それでは変化させていきますね」
俺はチェンジプラントで柄を変形させて、再度バイスさんに振ってもらう。
それを何回か繰り返し、ようやく……。
「おお、いい感じだ! よし、これで進めていくぜ!」
こういった細かい調整ができるのがチェンジプラントのいい所だよね。
あと、依頼者と相談しながら造っていくのは結構楽しい。自分だけで造ってると分からないこともあるからなあ。
「それでは風属性を付与しますね」
「おう、頼むぜ」
俺は風樹の杖と風属性のアクセサリーを2つ装備し、木材に魔力を籠める。
ここで失敗したらまた木材の調整からなので、何とか成功させたい。
俺は集中して魔力を注いでいき、なんとか風属性の付与に成功する。
あとはこれを刃と組み合わせるだけなんだけど……。
「おお、コウじゃねえか。もうできたのか?」
「そうですね、持つ感覚もピッタリのやつです」
「それならおれも負けてられねえな。……そういや、刃と柄はどうやって連結させるんだ?」
「……あ」
「ああ、それなら楔で留めるとかいろいろ方法があるぜ。何個か造ってみるか?」
「ぜひ、ご教授ください」
ここで造り方を習っておけば、今後の武器作製にも使えそうだしね。
しかも、ものづくりが得意なドワーフ直々に教えてくれるなんて、そうそう無い機会だろうし。
「おれも頼むぜ。今後のために学ばせてくれ」
「よし、それならまずは──」
**********
「よし、こんな感じか」
「これで……あ、完成確認画面がでてますね」
「それじゃあ完成させてくれ。ステータスが楽しみだ」
「分かりました、それでは……」
俺はウィンドウを操作して、斧を完成させる。
さて、どんな感じの斧ができたのか……。
【クレセントアックス:ランクB、風属性+50、火属性-50、攻撃+175、刃が三日月の形をしている斧だから、クレセントアックス。まんまである。でも、英語にするだけでなんかかっこいい。……さておき、刃渡りが長いため扱いやすい】
「……これ、ツッコむところなんですかね?」
「まあ、説明文がふざけてるのはいつものことだからスルーしていいだろ」
でも、話題に出しちゃった時点でスルーできてないんだよなあ。
さておき、この攻撃補正はかなりのものだな……攻撃に全振りなところが実に漢らしい。
「ほぉ……これは結構な性能だな……よし! それじゃあ早速鉱石喰らいを殴りに行ってくるぜ!」
「ひ、一人でですか!?」
「ああ、コウたちなら分かると思うが、人造ゴーレム試作一号機はかなり頑丈だから問題ないぜ」
「た、確かにそうですけど……ケガをしないように気を付けてくださいね」
「おう! ……っと、その前に代金を渡さねえとな。……よし、それじゃあ改めて行ってくるぜ!」
バイスさんは俺たちに代金を手渡すと、ポータルから鉱石喰らいの部屋に飛んでいった。
「……なあコウ、あの斧どれだけダメージが与えられるんだろうな?」
「ちょっと見たかったというのはありますね……あ、動画は見られるんですかね?」
「それだ!」
俺たちはイベントページに飛んで探してみたが、バイスさんの姿はなかった。
やはりNPCだから見られないのか……ちょっと残念だ。そう思っていると……。
【INFO:特殊イベント『人造ゴーレム試作一号機参戦!』が発生しました。これ以降、ルァイドにいるバイスというNPCに特定のアイテムを渡せば、1日に3回まで鉱石喰らいのHPを一定量減らしてくれるイベントが発生します。このイベントを発生させたプレイヤーの累計ダメージに、バイスが与えたダメージの一部が加算されますので、ご活用ください】
「……おいおい、こんな特殊イベントがあったのかよ」
「しかも累計ダメージ加算って……確かに、ものづくり中心のプレイヤーには鉱石喰らいの相手は厳しそうですしね」
「エインズの町防衛戦のイベントの時の、アイテム納品の貢献度ポイントみたいなものか」
「これ、明日以降もイベント発生させますか?」
「だな。そうと決まれば斧の増産をしようぜ」
こうして、バイスさんも条件付きではあるものの、鉱石喰らいの討伐に参戦することになるのだった。




