鉱石喰らい対策
『おい、緊急イベントの内容見たか?』
『ああ、いわゆるレイドボスかな』
『HPを回復するのが厄介だな。じわじわダメージを与え続けるしかないのか』
『地属性っぽいから風属性の武器がいいかな。アクセサリーは地属性でダメージを軽減して、できるだけ長く戦闘をしてダメージを蓄積したいところだ』
『リジェネ効果のあるポーション欲しいよなあ。マジェネ効果のあるポーションはあるけど……』
『三層の隠し部屋にある宝箱から出てくる蘇り草もたくさん持っていきたいな。あれ発動するとHP全快で蘇生するし』
鉱石喰らいの情報が出てからというもの、掲示板の話題は緊急イベントで埋め尽くされている。
既に鉱石喰らいに挑んだパーティーもいるらしいが、まだ情報が書き込まれていないのを見ると、戦闘継続中なんだろうか?
『しかし、今回はジャイアントオーガと違ってペットモンスターが連れて行けないからなあ……どうしたものか』
『おれ、最近ずっと特殊ダンジョンに潜ってるせいで、ホームから出る時についてきたがるんだよね。ううっ、そんな目をされたら特殊ダンジョンに行くのをキャンセルするしかない!』
『分かる。うちの子かわいい』
分かる、俺も分かるよ。
俺は潜る頻度はそんなに高くないものの、やっぱり外に一緒にいきたがるんだよね。
最近はブラウンとニアはレベル上げで連れ出す機会が多いから、ライアやレイ、スコールがね……。
ちなみに、ブラウンとニアもレベルがだいぶ追いついてきた。ペットモンスターはレベル1で加入になるから、プレイヤーとのレベル差があると経験値が多くもらえる仕様になったらしい。
最初から敵の時と同じレベルで加入すればいいのにという意見もあるが、一緒に戦っていくうちに癖を把握するのもいいと思うんだよね。連携にも重要だし。
あと、徐々に強くなる過程を見るのが好きっていうのもあるかな。新しいスキルを覚えたら一緒に試すのも楽しいし。
……と、そんな事を考えていると掲示板に続報が届く。
『ぐわーやられたー』
『お、戦闘に行ったパーティーのご帰還だぞ』
『戦闘内容をkwsk』
『鉱石喰らいはモグラみたいなモンスターだったな。動きはそれほど速くはないけど、デカいから一撃が重い。あと単純にデカいからヒット&アウェイやろうとしても反撃される』
『ああ、射程外に逃げ切れないのか』
『それなら射程外からの遠距離攻撃がメインになるかなあ』
『な、なんだ!? あんな距離から攻撃できるのか!?』
『それでいて風属性ってことは属性矢や風魔法……風属性補正の付いた武器を売るチャンスだな』
『よし』
『造るのか?』
『属性武器など何個造ったか知れないよ』
……俺は今回は戦闘では貢献できそうにないし、俺もものづくりメインにするかなあ。そうすればライアたちとも遊べる時間が作れるし。
できれば風属性の補正をマシマシにして、風属性の補正値をできるだけ高くしたいが……。
「風属性の魔玉で+20、風草を使った魔女のホウキは+5で……合わせたら+25か」
うーん……もう一声欲しい補正値だな……。
アクセサリーにも風属性の補正を付けたいところだけど、前衛はダメージ軽減で地属性の補正がいいよな……。そうなると、前衛には風属性補正値の高い武器が欲しいところだけど……。
「とりあえずは風草を取りに行って魔女のホウキを造るところからかな」
「きゅー?」
「あ、ちょっとお出かけしようかなって」
「きゅー!」
「るー!」
「それじゃ、途中で交代しながら行こうか」
今回はフェルトリモ森林が目的地だから、モンスター出現抑制機能を使ってのんびり歩いて行こう。
ついでにシルフたちにも新しい遊具を持って行ってあげようかな。
**********
「りゅー!」
シルフたちへのお土産はトランプ。
ルールを説明すると、すぐにみんなが集まって七並べの対戦が始まっていた。
……他のゲームもあるんだけどなあ……ま、それは今後教えてあげるとして……。
「シルフさん、風草をもらって帰っても大丈夫ですか?」
「りゅ!」
トランプを見学してルールを覚えようとしている子が片手を上げて返事をする。いいよ、ってことなんだろう。
許可をもらえたので、風草を魔女のホウキが造れる分だけ刈り取っていると……。
「おー、久しぶりー」
「あ、シルフィーさんじゃないですか。お久しぶりです」
「なにしてるのー?」
「ちょっと風草を集めに来てまして」
「ふーん、何かに使うのー?」
「ちょっと風属性補正値の高い装備を造ろうと思ってるんです」
俺は鉱石喰らいを倒すために風属性の武器を造ろうとしていることをシルフィーさんに話す。
風属性の魔玉付きの魔女のホウキで補正値が+25。
これでアクセサリーを造ればおよそ半分の12ぐらい……とりあえず10と仮定して、2つで+20。
で、更にそれらを装備して+45の補正にして、ここからアクセサリーを造って20のものができるはず。
これを繰り返していけば、高補正値の武器ができると思う。あくまで予想では、だけど。
ただ、補正値が高くなれば高くなるほど素材に魔力を籠めるのが難しくなるから、どこまでのものが造れるかは分からない。
それでも、高補正の矢などが作れるのなら試す価値はある。
「大変なんだねー。……あ、そだー」
「どうかされましたか?」
「風草よりも風の魔力が宿ってるものあるよー」
「ほ、本当ですか!?」
「……か、顔が近いよー」
「きゅー!」
思わず身を乗り出してしまい、かなりシルフィーさんと距離が縮まってしまう。
それをライアに怒られて、俺はいったん心を落ち着かせることに。
「す、すみませんでした」
「分かればいいのー。……えーっと、おばーちゃんのいる森の西側に谷があるんだけど、そこにある木のことー」
「ヴァノリモ大森林の西……キヴァナ峡谷のことでしょうか?」
たしか新規マップを探すプレイヤーのサークルが見つけた峡谷だけど、モンスターのレベルが高すぎて調査できなかったところのはず……。
それなら素材の品質が高いのも納得なのだが……俺たちじゃモンスターに手も足も出ない気がする。
「うーん、人間が付けた名前は分からないけど、たぶんそこー」
「そこだと、おそらく俺のレベルだとまずモンスターが倒せませんね……」
「あー……それなら協力してあげるよー」
「いいんですか?」
ありがたいことなんだけど、俺が返せるものがないんだよなあ。
シルフィーさんレベルなら魔石にも困ってないだろうし。
「もちろんー。その代わり遊ぶものたくさん作ってー。その鉱石なんとかってやつを早く倒さないと、コウが遊ぶもの作る時間が減っちゃうー」
「分かりました。それでよろしければ……」
うーむ、若干のプレッシャー。
シルフィーさんが楽しめるものがないか、今度ネットで検索しておかないと。
「よーし、それじゃーれっつらごー」
「えっ……ええっ!?」
俺の身体がフワリと宙に浮く。
たまーに夢の中で空を飛ぶことはあるけど、その時の感覚に近い気がする。
もしかして、シルフィーさんが風を操って……?
「こ、これ、シルフィーさんの風ですか?」
「うん、早く行くには空を飛ぶのが一番ー。それじゃーいっくよー」
「きゅーっ♪」
ライアは凄く楽しそうにしているが、俺はしっかりとライアを抱きしめて、万が一途中で落下しても俺が下敷きになって大丈夫なようにする。
まあ、シルフィーさんがそういうミスをするはずがないとは思うんだけども。
……そして、凄まじい速さで俺たちはヴァノリモ大森林を飛び越え、キヴァナ峡谷へ到着することになる。
……その時の様子が一部のプレイヤーの間で噂になり、『ワールドクリエイターズ内にUMAが!? フライングヒューマノイド現る!』というタイトルで掲示板で話題になるのだが、そんなことはこの時の俺は知らなかったのだった……。
**********
「とうちゃーく」
「し……死ぬかと思いました……」
「きゅー♪」
若干の高所恐怖症持ちの俺は気が気ではなかったけど、ライアは空の旅を存分に楽しんだようだ。
「きゅー、きゅー!」
「んー、なになにー……『他の子にもやってあげてー』?」
「なるほど、レイたちも同じように飛ぶのを経験して欲しいんだ?」
「きゅっ!」
自分だけでなく、他の子にもと気を利かせるライア。いい子だ……。
「んー、それじゃあ帰りは他の子に代わってねー」
「いろいろとすみません、シルフィーさん」
「いいってことよー。その代わり遊ぶものたくさんー」
「りょ、了解です……」
うん、どんどんハードルが上がっていく。
借りもどんどん積みあがっていく。
果たして完済はいつになることやら。
「……それにしてもここ、絶景ですね……」
切り立った崖、谷底に流れる荒々しい河川、山に広がる多種多様な植物たち。
できることならゆっくり観光をしたいところだけど、モンスターも強いしそれは土台無理な相談である。
必要な素材を採取してからすぐに帰らないと。
「シルフィーさん、例の木はどのあたりにあるんですか?」
「こっちこっちー」
シルフィーさんはふわふわ浮いて俺を誘導してくれる。
モンスターがいない道を選んでくれているのか、途中でモンスターに出くわすことなく、目的の木に到着する。
途中、飛んでいかないのはなぜかと聞いたら、『だって、うっかりコウを岩にぶつけちゃうかもしれないしー』と答えられた。確かに勢い余ってぶつかったら大惨事だ。地形的にも狭いし、あり得る話なんだよね……。
あと、飛んでいると目立つから、モンスターの襲撃確率も上がりそうだし、歩いていくのが無難という判断なんだろう。
「この木……なんだか普通の木とは雰囲気が違うような……」
「えっとねー……ずーっと風が吹きつけてたから、木なのに風の属性を持ってるのー」
「なるほど……」
確かにこの辺りは強い風が吹いてるけど、それによって属性まで変化するものなんだ……正にファンタジー。
「枝を切ればいいですか?」
「うんうん。幹を傷つけちゃダメだよー」
「分かりました、ありがとうございます」
枝は小振りだけど、チェンジプラントである程度の太さに変化できるし、杖として使う分には問題ないだろう。
俺はシルフィーさんに相談しながら、古くなって折れそうになっている枝から順番に切り落とし、アイテムボックスに回収していく。
「……ガァァッ!」
俺が枝を切るのに集中していると、突然熊のモンスターが強襲してきた。
おそらく山に棲息しているモンスターだろうけど……レベル差があり過ぎて、俺には絶対に勝てない相手だ。
「……うるさい」
「ガッ……」
しかし、シルフィーさんがその一言を発すると同時に、モンスターは俺たちに背を向けて走り去っていく。
普段のシルフィーさんの声とは違う、少し低いドスの効いた声だった。
「ごめんねー、うっかり近くまで来させちゃったー」
「いえいえ、助かりました」
しかし、次の瞬間にはいつものシルフィーさんに戻っていた。
……キングウルフさんよりも強いんだから、今さっきのがシルフィーさんの本気の時の気迫なのかな……。
これは敵には絶対に回したくないな……。
その後も、植物に負担をかけないように、数本の木から枝をもらいうけていく。
そして、50本ほど貯まったところで、シルフィーさんにエインズの町の近くまで送ってもらうことに。
「ありがとうございました。アイテムの情報だけでなく、協力までして頂いて……」
「いいってことよー。その代わり……」
「はい、事が終わったら遊具をたくさん造らせていただきます」
「楽しみー。楽しみ過ぎて天に昇りそうー」
シルフィーさんはそう言いながら、本当に天に昇って行った……上昇気流でも発生させてるのかな。
……とりあえず。
シルフィーさんの話なら、これで属性補正値が高い杖が造れるはず……。
そして、そこからアクセサリーなどもどんどん造っていって、鉱石喰らいの討伐パーティーに提供しよう。
俺はそう思いながら、杖を造り始めたのだった。




