個人イベント アフター
「コウさーん、お客さんが来てますよー」
「俺にですか?」
個人イベントの翌日、壊れた的などの後片付けをしていると、ギルドメンバーから来訪者があることを告げられる。
もしかして運営の人だろうかと思い外に出てみると、どこかで見たことがある銀髪のエルフの女性が立っていた。確かこの人は……。
「お忙しいところ申し訳ありません。私、配信者のユニコと申します」
「……ああ! 確かブーメランで参加されてた……」
「そうです! 覚えて頂けているとは光栄です。本日は相談に参りましたが……片付けにお忙しいようですので、まずはお手伝いさせて頂ければと」
「いえ、もうほぼ終わりましたので大丈夫ですよ。こちらを優先するのも、ギルドメンバーから了承を得ていますし」
「お気遣いありがとうございます。それで、相談の内容ですが……」
ユニコさんの相談とは、的当ての新しい難易度を作って欲しいというものだ。
例えば、的を動くようにする、的の大きさを変える、一定時間で的が倒れて消える……要するに早撃ちみたいなもの……などである。
「的を動かすのは考えていたのですが、今回は全部固定的にしたんですよ」
「そうなのですか?」
「はい、動く的を狙うというのは難しいと思うので、まずは『的に当てる』という楽しさを知ってもらいたかったんです。最初から的が動いていて難しいと、面白さを知る前にやめてしまうと思ったんですね」
「確かに……アクションゲームなども、最初は簡単で徐々に難しくしていくものがありますしね」
「そうです。それで、徐々に難しくしていくことで成長を実感して欲しかったんですね。……ユニコさんみたいに、投擲物を変えて自分で難しくする……いわゆる縛りプレイをする方も今回は多かったのですが」
本当に多種多様で見ていて楽しかったのはある。配信向きだなあと思ったし。
ユニコさんのブーメランの戻ってくる挙動で当てるのは、配信向けのパフォーマンスとして最適だっただろう。
これが動かない的ではなく、動く的でできれば更なる注目を浴びることも可能だろう。
「それでは今後、動く的などの実装はされるのですか?」
「はい、運営への移管後も少々手を加えようと思ってます」
「ありがとうございます。楽しみにお待ちしていますね」
「……実は試作品があるのですが、よろしければ試されますか?」
「よろしいのですか? ぜひお願いします!」
俺は片付けの終わった会場のスペースの一部に動く的を設置し、ユニコさんに試し投げをしてもらった。
最初は外したものの、すぐにコツを掴んでバックアタックに成功しているのを見ると、かなりの使い手であることが分かる。配信者としてだけではなく、冒険者としても上位と思わせるぐらいだ。
「凄いですね……普通に当てるだけでも難しいはずなのに、ブーメランでとは……」
「普段からモンスターの相手をしていますからね。モンスターの複雑な動きに比べれば一定な動きは予測しやすいですし」
「なるほど……」
なんだか強者の言葉だと感じる。
次は坂に設置して、徐々にスピードが変わるタイプのも試してみるか……。
「今回は貴重な体験をさせて頂き、ありがとうございます。新しい難易度が完成したら、コウさんやライアちゃん、ギルドメンバーの方たちと配信をご一緒したいですね」
「は、配信ですか……」
「はい、製作者さんたちにインタビューしながらって、楽しそうじゃないですか。製作した時の話とか聞きたい方もいらっしゃると思いますし」
「なるほど、相談しておきますね」
「ありがとうございます。それではこちら、今回の謝礼になります」
ユニコさんはそう言うと、俺に2万Gを差し出す。
「え、ええと……さすがにここまで高額なのは……」
「いえ、今回のイベント、動画の撮影と配信許可を出されてたので、それをアップした際の報酬の一部です。コウさんたちのおかげでアップできた動画ですので、どうかお収めください」
「そ、それでは……今後の運転資金とさせて頂きます。ありがとうございました」
「それでは続報を心待ちにしております。本日はありがとうございました」
……本当にこんな大金、いいのだろうか……。
とりあえずメンバー1人にそれぞれ1000G、残りはギルドで使う共同資金として使うことを決めたのだった。
**********
「……よし、こんなものかな」
昼過ぎ、俺はトレントの島の人たちに魔石を渡すため、エインズの町で買い出しを行っていた。
フリーマーケットも少し覗いてみたんだけど、属性補正のある装備やアクセサリーがかなり出回っていた。
その人たちから感謝の声をかけられながらも買い物をして、充分な数は準備できた。
今回はシルフィーさんがいないから、アトラスさんに頼んでシィルちゃんに連れて行ってもらうことに。
うーん、やっぱり島に渡る手段がもう少し欲しいよなあ……。
「お義父さま! おでかけですの?」
エインズの町を出て歩いていると、クイーンビーに話しかけられる。蜜の収穫に出歩いているのだろうか?
「ちょっとトレントの島までお届け物をね」
「トレントの島……気になりますの! ワタクシもついて行っても大丈夫ですの?」
「ええと、海を渡ることになるけど……。アトラスさん、シィルちゃんの場合はヨットの定員はどのぐらいになりますか?」
「そうだな……あれからレベルは上がったけど、人間の大人2人ぐらいかな。重ければ重いほど推力の風を起こすMPが増えてさ。島に渡るだけでも消費がバカにならないんだ」
「大丈夫ですの! ワタクシは飛んでいけばいいですの! だから一緒に行きたいですのー……」
クイーンビーが潤んだ瞳でこちらを見ている。これは……連れて行かないと罪悪感が……。
そう思っていると、アトラスさんが助け舟を出してクイーンビーもついてくることに。
飛ぶとは言ったけど、潮風とか大丈夫なのだろうかとふと思う。ハチの生態は細かいところまでよく分からないのだけど。
「ありがとうですの! アトラスはお義父さまと同じで優しいですの!」
「はっはっは、あんまり褒めても魔石は出ないぜ?」
「もし潮風がきつかったら降りてきてね。体調は大事だし」
「分かりましたの!」
こうして、クイーンビーもトレントの島についてくることに。
ちなみに自分のペットモンスターはニア。今回が初めての島訪問だし、航海も楽しんで欲しいからと思って選んだ。
船酔いしないか心配だったけど、波に揺られるのが楽しいのか、きゃっきゃとはしゃいでいたので杞憂だったようだ。
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「それじゃ、おれはエルダートレントの方に行ってくるぞ」
「はい、俺はアルラウネさんたちの所に行きますので、後で合流しましょう」
「ワタクシはお義父さまについていきますの!」
俺はアルラウネさんたちの所に行く前に、水辺の方へと寄り道する。
お目当ての魔石、どのモンスターのものかは分からないけど……落ちてないかな。
「探し物ですの?」
「うん、レイが進化する魔石が落ちてないかと思って」
「それならワタクシも探しますの!」
それから10分ほど散策したものの、魔石と思しきものは落ちていなかった。まあ、そう簡単には見つからないか。
せっかくなので少しだけ潮干狩りをしてから、再びアルラウネさんたちの住む場所へと歩き始める。
「おー、コウじゃないか。久しぶりだね」
「ご無沙汰しております。今回は魔石をお持ちしました」
「いつもありがたいね。それじゃお返し……の前に、その子は誰なんだい?」
「ワタクシ、クイーンビーですの! お義父さまがいつもお世話になってますの!」
「へぇ……コウ、あんた娘がいたのか」
「い、いえ、娘ではないのですが……」
俺はクイーンビーと仲良くなった経緯を話し、クイーンビーにもアルラウネさんとの出会いを話した。
「なるほどねえ。レイの蜜のおかげか」
「そうですの! だからおねえさまはワタクシの想い人ですの!」
「ははっ、面白いやつだねえ。アタシはあんたみたいな子、好きだよ」
「ありがとうですの! ……ところで、アルラウネおねえさま?」
「ん? なんだい?」
いつもは明朗快活なクイーンビーが神妙な面持ちになる。
いったい何なのだろうか?
「おねえさまの花から……素敵な匂いがしますの……」
「ああ、ちょうどさっき蜜を作ったばかりだからね」
「蜜……その蜜を使ったら、今までにないハチミツを作れそうですの」
「ハチミツか……それはアタシも気になるね。なんなら持って帰るかい?」
「いいんですの?! ありがとうですの!」
……まさかの蜜交渉だった。
まあ、確かにアルラウネさんは上位種だし、蜜の味も違うんだろうな。
とりあえず、俺はクイーンビーにビンを渡し、アルラウネさんから少し蜜を分けてもらうことに。
俺はそのお礼にと、クイーンビーのハチミツをプレゼントする。……とすぐにアルラウネさんが蓋を開けて食べ始める。
「おー……これもかなり甘くて美味しいじゃないか。これ以上のが作れるかもしれないなんて、期待しちゃうね」
「が、がんばりますの!」
二人はしっかりと握手を交わす。
……これは、クイーンビーを連れてきて正解だったかな?
俺としてもアルラウネさんの蜜を使ったハチミツが気になるし。
「あ、あの……コウさん」
「アルラウネさんの娘さんじゃないですか、お久しぶりです」
「お、お久しぶりです。あの……これ、よろしければお持ち帰りください」
アルラウネさんの娘さんは、両手いっぱい……と更にツタにも持った魔石を俺に渡してくる。
「これは……」
「はい。海岸で拾い集めた魔石です。お探しのものがあればいいのですが……」
「ありがとうございます。まさかこんなに集めて頂けるなんて……」
魔石が打ち上げられる確率なんてそう高くないはずなのに、20個ほどの魔石を集めてくれたようだ。
この中にレイの進化に関わるものがあればいいんだけど。
「ええと……それではこれをお礼として受け取って頂ければと」
「えっ、よ、よろしいのですか……?」
俺はウッドブローチとウッドリングを数個、アルラウネさんの娘さんに手渡す。
そして、ブローチの付け方を説明すると、喜んで服に付けてくれた。
リングは……薬指以外のところに付けてもらうことにしておこう。
「おっ、それいいなあ。アタシも欲しいところだ」
「ワタクシもですの!」
「で、では次に訪島するときに造っておきますので……クイーンビーにはあとから造るから」
うーん、もしかしてアクセサリーは結構人気があるのかな?
他のアルラウネたちも羨ましそうに見てるし……次までに増産しておかないと。
その後、俺はアトラスさんと合流してから、本土へと戻ったのだった。
**********
「おい、コウ。これを見てみろよ」
「ええと……これは!」
俺はギルドでウッドリングとウッドブローチを造っていると、アトラスさんから話しかけられる。
画面を見ると、どうやら特殊ダンジョンに隠し部屋があるのではないか、という情報だ。
「確かに、5階層分のマップを重ねると、3層以降は不自然に東側に空白がありますね……」
「だから、2層に隠し階段があるのか、それとも3層以降に隠し通路があって、その先が隠し部屋になっているのか……って話題になってるみたいだな」
「うーん、『穴掘り』スキルはペットモンスターのユニークスキルなので俺たちは使えませんし……スコップで2層を掘るか、ツルハシなどで3層以降の壁を掘るか……でしょうか?」
「おれはツルハシを造って3層以降の壁を掘ってみたいんだが……今度、ダンジョンを潜るのに協力してくれないか?」
「もちろんです」
俺としてもまだ見ぬモンスターが気になるし、もしかしたら埋蔵金みたいな財宝があるかもしれない。……そういえば最近、徳川埋蔵金発掘みたいな番組見ないなあ。
……などと余計なことを考えながらも、新しい発見ができるのではと思い、次の探索に期待を膨らませるのだった。




