個人イベント その2
「そろそろ的当てイベントを開始しませんか?」
平日の夜、俺はギルドにみんなが集まったところで相談をする。
今は公式のイベント中ではあるのだが、ドワーフの村に多くのプレイヤーが入れるようになり、イベントの残りはマッピングとモンスター調査のみとなっている。
イベントに熱心なプレイヤーは引き続きイベントを進めてはいるものの、他のことをするプレイヤーも多くなってきたのだ。
「確かに最近はマッピングもモンスター調査も進展がなくなってきたからな……おれはドワーフのおかげで鍛冶が楽しいから別にいいんだが、暇になってきたプレイヤーもいるだろうな」
「コウさんがプレゼントでモンスターをペットにする方法を確立したので、そっちの調査に励む人もいますが、一部ですもんね」
「なので、暇になったプレイヤーも的当てイベントがあれば、やることも増えるかなと思いまして。最終調整も終えましたし、的の在庫も充分造りましたしね」
的当てイベントを企画して随分と時間が経ったもんなあ。そろそろ日の目を見せてあげないと。
……キングウルフさんからも『称号のイベントはまだか?』みたいな視線を送られてるし……。
「それで、開催はいつの予定ですか?」
「やはり人の多い土曜日が最有力だとは思うのですが……」
「そうだな、朝から夜までやれば大勢が参加できると思うぜ」
「今回は景品をどうしようかなと思いまして」
「あー……確かにな。前回はロックバードの魔石だったんだよなあ」
あの時はアルラウネさんが来たのもあって大騒ぎだったんだよなあ。ロックバードの魔石はアルラウネの進化に使うしで……。
今回の景品を何にするか……数が造れて、それでいて使いやすいもの……。
「数がある、と言えばトレントの杖なんですけどねえ。増産もできますし」
「コウさん、どんなものか見せて頂いても大丈夫ですか?」
「どうぞ、これです」
トレントの杖を知らないメンバーから声をかけられ、俺はアイテムボックスからトレントの杖を一本取り出し、机に置いて全員にステータスが見えるようにする。
「……え?」
「ランクBで地属性補正付きで魔力の上がり方が90前後……」
「コウさん、これを景品にするんですか?」
「ええ、トレントの枝の在庫がまだ100本以上ありますし、杖も既に50本は造ってるので……」
「私もその杖が欲しいんですけど……」
「僕もです」
などなど、アテナさんとアトラスさん以外のギルドメンバーから声が上がる。
そういえば、エルダートレントの枝は全員がもらったけど、トレントの枝を持っていたのは俺だけだもんな……。剪定組もトレントではなく、普通の木の枝を切って日当たりを良くしていたただけだし。
そういえば、トレントの剪定ってどうするんだろう。意識があるなら神経が通っているわけで……切ったら痛がりそうなもんだけど。……まあ、今は気にしないことにしておこう。
「ええと……的の在庫からして、今の数だとイベントに参加できるのは70人ぐらいですかね。景品というか参加賞で配るので、皆さんの分は確保できますね。そこから余った分を回して的を増産して……最終的に150ぐらいでしょうか」
「コウ、おれも予備が欲しいし、杖の対価は何で支払えばいいんだ?」
「あ、タダでいいですよ。設営などに協力して頂いてるので厳密にはタダではありませんが」
「それなら遠慮なく頂くぜ」
俺はその場で全員にトレントの杖を配ることにした。
ステータスはバラつきがあるが、誤差のようなものなので全員が納得してくれた。
「そういやコウ、エルダートレントの枝は加工できないのか? ノコギリも何もかも文字通り歯が立たなくてさ」
「あ、それならこれで切り分けられましたよ」
「それは……?」
「キングウルフさんの歯です。属性の相性もあってサクサクいけますよ」
「あー、オークションで売ってたやつか。おれも買っておけばよかったな……いや、高くて手が出なかったが……」
確かに、万越えのお金をポンと出せるプレイヤーはそうそういないだろうからなあ……。
それでも即売り切れるからキングウルフさん推しのプレイヤーは怖い。どんな財力だ。
「ちなみに、切り分けた枝を一部ドワーフの村の杖のお店に渡したので、そろそろ加工ができてるころですかね」
「えっ、ドワーフさんが加工できるんですか?」
「ええ、時間はかかるみたいですが」
「おれも加工してもらうか……でも、その前に切り分けないといけないんだよな。まずは性能を見たいところだが……」
「それなら、今からドワーフの杖のお店に行ってきましょうか? できていれば持って帰りますので」
「頼めるか? 内容によってはおれも加工を頼みたいからな……」
「分かりました、少々お待ちください」
俺はギルドを出てエインズの町のポータルに向かい、ドワーフの村に転送されるのだった。
**********
「おお、コウかい。エルダートレントの杖なんだが、ようやく完成してねえ」
「ちょうどよかったです。どんな感じになりましたか?」
「ふふ、今までで一番の傑作さ。ほら、こんな感じだよ」
「ええと……」
【エルダートレントの杖:ランクA、地属性+60、風属性-60、MP+52、魔力+172、魔防+50、装備条件『魔力255以上』、ドワーフの職人がエルダートレントの枝から作った杖。エルダートレントの強大な魔力が宿っており、並大抵の術者では扱えない。ここまで強力な杖が造れるなら、乱獲されないか心配? 大丈夫、そういうヤツはエルダートレントが返り討ちにするので】
……まさかのトレントの杖の2倍ぐらいの補正値である。
更に、ドワーフの人が造っているためか、地属性補正が非常に高い。
装備条件は厳しいものの、装備できたら水属性のモンスターにはかなり強気に出られそうだ。
「これ……とんでもない強さなのでは……?」
「まあ、エルダートレントの枝だからねえ。もっと大きい枝なら更に強くなるけど、さすがにその大きさだとわたしには加工できないよ」
「そこまで難しいんですか?」
「いや、加工に魔力を使うんだけどね。わたしたちドワーフは魔力が人間やエルフに比べると低くてねえ……一度に送る魔力が足りなくなるんだよ」
「なるほど……」
つまり、更に大きい枝を加工するには魔力を鍛えるか、魔力の高い種族になるか、か。
うーん、俺も今後加工する可能性を考えると、ステータスの振り方を見直した方がいいか?
「ところで、この杖はおいくらになりますか?」
「そうだねえ……普通なら10万Gぐらいになるんだけど、久々にいい仕事をさせてもらったし、材料は元々はコウにもらったものだからね。1万にまけておくよ」
「い、いえ、流石にその割引率は悪いですよ……」
まさかの9割引きである。スーパーの総菜コーナーでもそこまで割り引かないって。
しかし、老齢のドワーフの女性は頑なに割引率を譲らない。
「そ、それなら枝を1本お渡ししますので、これと1万Gでお願いします」
「なるほど、それなら同じ杖がもう一本造れるさね。分かった、それでお願いするよ」
こうして、なんとか話をまとめて俺はギルドへと戻った。
「オイオイオイ、やべーわコレ」
「属性補正値もステータス補正値も段違いですね……」
「まあ、お値段も段違いというか桁違いですけどね……」
「強いけど10万、10万かあ……おれは造ってもらっても装備できないから、しばらくはスルーだな」
「私もですね。コウさんがいつか他の使い道を見出してくれると思うので、その時まで取っておきます」
アテナさんの言葉に、ギルドメンバー全員がうんうんと頷く。
……責任重大だなあ……いや、俺も杖自体は強いと思うけど、今のステータスの振り方が合わないから他の使い道を見つけたいところではあるんだよね。
とりあえず、それは追い追いやるとして……。
「それではみなさんは的の増産をお願いできますか? 俺はトレントの杖を造りますので」
「分かりました!」
こうして、各々の作業をこなしていき……。
**********
迎えた、イベント当日。
最終的に参加枠は150人。そこに1000人以上の応募があったため、抽選で参加者を決定することに。
残念ながら今回参加できなかった人は、運営に移管した後に優先的に参加できるようにと、運営にかけあって了承してもらえたので一安心だ。
やはり俺たちだけでは規模をそこまで大きくできないんだよね……イベント運営の大変さを改めて知った。
ちなみに、今回はクイーンドリアードさんとキングウルフさんが参加してくれることに。
「さて、イベント開始前に、クイーンドリアードさんとキングウルフさんにデモンストレーションを行って頂きます。今回、手持ちの弾は8発。それを8個の的にどれだけ当てられるかを競う形になっています。投擲するものは何でも構いません。石、投げナイフ、魔法……何でも大丈夫です。それでは、まずはキングウルフさん、お願いします」
「うむ、任せておけ」
『キングウルフさまー! かっこいいー!』
『その綺麗な毛並みをもふもふしたいー!』
観戦者も盛り上がっているようだ。キングウルフさんはやっぱり人気だな……。
「それでは、始めてください!」
レックスさんの合図と同時に、的が8個立てられる。
キングウルフさんはそれを一瞥すると、魔法で風の槍を創り出す。
「ウインドスピア!」
槍は的に向かって一直線に飛んでいき、中央に大きな風穴を開ける。
そして、命中と同時に新しい槍を創り出し、次々とど真ん中を射抜いていき……。
「……全弾、ど真ん中の命中です……」
「まあ、こんなところか」
『せ、精密過ぎる……』
『な、なんだ!? あんな距離から中央を射抜けるのか!?』
『これ、俺が戦った時は使って来なかったんだけど……手加減されてた……?』
……そういえば、コメントの人が戦ったのはキングウルフさんかどうかは分からないけど、ウルフがキングウルフを呼ぶっていうのがあったな。
遠距離もいけるとなると、本当に隙が無いな……。
「で、では次はクイーンドリアードさん、お願いします」
「うむ、ワシの活躍をしかと目に焼き付けるが良い」
『●REC』
『お巡りさんこの人です』
『タイーホ』
……なんだか懐かしいノリになってるけど、コメントの人たちは同年代か……?
まあそれはさておき、クイーンドリアードさんはどんな感じにやってくれるんだろうか。
「それでは、始めてください!」
「ふぅむ……こんなところか」
クイーンドリアードさんが呟くと、なんと8個の魔法陣が出現し、8個の的すべてに同時にシードバレットが放たれる。
……え? 魔法って多重起動できるのか……?
その事実に驚いていると、観客たちからも驚きの声が上がる。
8個の的すべての中央に、シードバレットの跡が刻まれていたからだ。
「……ふぅ、腕は鈍っておらんようじゃな」
「さすがです、姐さん」
「そうじゃろう、そうじゃろう……ふふふ、ワシを褒め称えるがいい」
『惚れ直しました』
『今の多重詠唱ってどうやるんだ……? プレイヤーでもできるのか?』
『そういうスキルがあるんだろうか? 気になって夜しか眠れないぞ』
……いやあ、まさかこれほどとは。
実はイベント前にデモンストレーションをやらせてくれと頼まれたんだけど、こんなものを用意してたなんて。
上位種特有のスキルとかなのだろうか。
「えー……キングウルフさん、クイーンドリアードさん、ありがとうございました。それでは、次は参加者の方たちによるメインイベントになります。上位入賞者には追加のプレゼントがありますので、がんばってくださいませ!」
こうして、イベントの本編が始まった。
参加者の人で多かったのは弓、投げナイフ、手裏剣で、中にはフリスビーなどの変わり種の人も。
また、ペットモンスター同伴で、息を合わせて同じ的を狙うパフォーマーもいたり、ボールを自作して変化球を投げて見事に命中させる野球経験者もいたり、ブーメランの戻ってくる挙動で的の裏側に当てる人もいたり……それぞれの魅せ方でイベントは大いに盛り上がった。
こうなってくると、芸術点もポイントに含めたくなってくるのだが……それは運営に移管した後、運営に任せようかな。俺たちだけじゃその辺の採点基準を作るのは難しそうだし……。
そして、盛況のうちに的当てイベントは終了。閉会式では運営への移管を発表し、次の土曜日からワールドクリエイターズ運営による的当てが運営されることとなったのだった。




