表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/11

リアルタイム配信

【登場人物紹介】

 キャラの名前の後ろの()内は、ゲーム(ワールドクリエイターズ)上でのキャラの名前となります。


物部ものべ 耕作こうさく(コウ)

 主人公。ものづくりが好きだが、アパート住まいのため最近ではできていない。

 幼馴染の武士に誘われてワールドクリエイターズでものづくりを始めることに。


・ライア

 ドリアード。コウのペットモンスター。

 コウにとても懐いている。人の言葉は喋れない。


本多ほんだ 武士たけし(タケル)

 コウの小学生時代からの腐れ縁の幼馴染。

 ワールドクリエイターズではランカーギルドに所属している。


・???(アテナ)

 服を作るのが趣味。ペットモンスター実装初日にコウと出会う。

 特に人型の女の子モンスターの服を作りたい、らしい。

「おはよう、タケシ」

「おう、おはよう。昨日の動画、大人気じゃないか」

「そうなのか? 今日の朝のご飯炊くの忘れてて、コンビニに弁当を買いに行ってチェックしてなかったな……」

「それじゃ見せた方が早いか。ほれ」


 俺はタケシのスマホを覗き込む。

 すると、とんでもない数値が目に入ってくる。


「んん……? コメント数1万? おい、バグってるぞコレ」

「バグってもBugってもないぞ? 再生回数も10万以上だしな」

「コメント返しどうするんだよコレ!? さすがに全部は返せないぞ……」

「ああ、それならAIが重複する内容のコメントをまとめてくれるフィルタ機能があるぞ。ほら、こんな風に」

「へぇ、便利だな。どれどれ……」


 俺はタケシがフィルタしたコメントを見てみる。


『うちの子はこんなに懐いてくれません……何かコツがありますか?』

「タケシが言ってたように俺とライアが仲良すぎるってことか?」

「ああ、うちのギルドメンバーでもそこまでペットモンスターと仲が良いのはいないな」


『ポーションオブドリアードの販売はどこかでされますか?』

「次のフリーマーケットに出そうと思ってるけど……」

「情報出すと人が殺到するからオークションの方がいいんじゃねえかな」


『ライアちゃんの着ている服の入手方法を教えてください』

「これは作ってもらったものだから、情報出すには許可がいるな」

「確かに、迂闊に情報を出したらその人に依頼が殺到するかもしれないからな」


『ライアちゃんがかわいすぎるので、日常動画とか出してください』

「そういう動画出してる人いるのか?」

「うちの子自慢みたいなもんだな。いろんな種族の子が見られるから割と人気あるシリーズだぞ」


『ライアたん(*´Д`)ハァハァ』

「インターネット老人会かな?」

「それ言うと俺たちも老人になるからやめてさしあげろ」


 ……などなど、いろいろある。っていうか最後のはなんだ最後のは。

 始業時間も近いので、とりあえずこの辺にしておくか。


「しかしコメント返しはどうすればいいんだろうか」

「リアルタイム配信でフィルタしてコメント返しをするのが手っ取り早いぞ。リアルタイムで反応も見られるからな」

「リアルタイムかあ……ちょっと緊張するけど、やってみるか」

「それなら動画の方に固定コメントで開催日時のお知らせを入れておくといいぞ。あとできるだけ早く出すのがいいと思うな、フリーマーケットやオークションでポーションオブドリアードを売りたいってプレイヤーもいるだろうし」

「なるほどな、帰ったらやってみる」

「ついでにコウも連携アプリ入れておくといいぜ、連携しておくとスマホからコメントとかできるようになるし。ちなみに連携の承認にはログインが必要だから必然的に家でやることになるな」

「分かった、じゃあそうするよ」


 と、そんな話をしていると始業のベルが鳴る。

 よし、今日も早めに帰宅できるようにがんばろう。




**********




 仕事が終わって帰宅すると、俺は連携アプリをスマホにインストールして、ワールドクリエイターズにログインする。

 そして連携アプリの連携を承認して、次に動画にコメントを残す。


「コメントはリアルタイム配信で返させていただきます。日時は明日の21時からになります」


 ……よし、これでいいかな。

 次はアテナさんにメッセージを……っと。


 ライアの服に関してはアテナさんの了承を得ないといけないからな。

 ……そういえば服も自動作成機能の対象なんだろうか?


 そんなことを考えていると、すぐにアテナさんからのメッセージが返ってくる。

 どうやらホームで相談したいようだ。


【INFO:ホームへの入場申請があります】


 アテナさんだ。早いな。

 俺はすぐに申請を許諾する。


「お久しぶりです、コウさん」

「こちらこそ、アテナさん。早速相談なのですが……」


 俺はアテナさんに、動画を見た人がライアの服を欲しがっていることを伝える。


「なるほど……でも、この服はライアちゃんの特注品なので量産はあまりしたくないんですよね」

「分かりました、それではコメント返信の際はそう伝えてお断りする方がよさそうですね」

「ただ、その人たちもペットモンスターの子にプレゼントしてあげようと思ってるわけですよね……その気持ちは私にもわかりますので、少しデザインを変えた量産品を作ってフリーマーケットで売ろうかなって思ってます」


 それならライアの特注感は出るし、服を欲しがっている人は服が手に入るし……ちょうどいいかな。


「ちなみに、コメント返信の配信はいつ行われる予定ですか?」

「明日の21時からの配信ですね」

「あの、もしよろしければなんですが……その配信で私が直接お伝えしてもよろしいでしょうか?」

「確かにご本人から直接伝えるのが、情報に齟齬が出なくてよさそうですね。それではお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします。また明日ホームにお伺いしますね。それでは今から量産品のデザインを考えてきます」

「分かりました、それではまた明日」


 アテナさんはホームに帰っていったのだが……そっか、今からデザインを考えるのか。

 俺はデザインとかはできないから、できる人はすごいなと思う。

 それにしても、今からデザインを考えて服の実物も作るんだろうか?

 だとしたらなんて早さなんだ……実際にライアの服を作るときも1日だったし……。


「きゅーっ」


 そんなことを考えているとライアから声をかけられる。


「あ、ごめんごめん。それじゃ今日の魔石だよ」

「きゅー!」


 ライアは魔石を吸収する。ちなみに今日の魔石はクロウというモンスターのものだ。

 ……そういやクロウってタケルのペットモンスターだったな。これ、魔石でも共食い扱いになるのだろうか……?

 一応ライアにはドリアードの魔石は与えないでおこう……。




**********




「コウ、準備ではできてるぜ」

「私も大丈夫です」


 次の日の21時より5分ほど前。

 タケルはモデレーター、アテナさんはゲストとして参加してくれている。

 こういうのに慣れたタケルの力が借りられるのはありがたいな。もちろんお礼はあとでするし。


「っていうか配信待機中の人数が1万人超えてるな。もう大手と言っても差し支えないぜ」

「き、緊張するなあ」

「きゅー。きゅー!」


 俺が不安を隠せないでいると、ライアが頭に飛び乗ってくる。

 自分がいるから大丈夫だと言わんばかりに。


「あ、ありがとうライア。もう大丈夫だから降りてくれないかな?」

「きゅーぅ」


 ライアがイヤイヤと首を振る。

 うーん、ライアがそう言うなら仕方がないか。傍にいてくれたら安心するのは確かではあるし。


「そろそろ始まるぞ。準備をよろしくな」

「あ、ああ。それじゃあ机に移動して……」



「よし、3……2……1……」


 ついに配信が始まる。


「えー、マイクテス、マイクテス。皆さん聞こえますか?」

『聞こえるよー!』

『待ってたぜー!』

『生ライアちゃん! かわいい!』

『お義父さん! よろしくお願いします!』


 どうやら無事に始まったようだ。

 とりあえずそれに一安心しつつ、続けていく。最後のコメントはスルーしておこう。お義父さんって誰だよ。


「それでは動画のコメントについてお答えしていきます。なおこの配信中のコメント・質問はすべて拾うことはできませんので、あらかじめご了承ください。さて、まずは──」




【うちの子はこんなに懐いてくれません……何かコツがありますか?】


「特別なことはしてないと思いますが……卵からライアが孵化してからしたことを話していこうと思います」


 俺はライアが生まれてからエインズの町に散策に行ったこと、最初はスライムの魔石をあげたこと、椅子を作ってプレゼントしたこと、服をプレゼントしたことを順に説明した。

 与える魔石によって反応が違ったように感じたが、まだ確証は得られていないのでここでは割愛する。


『椅子をプレゼント、服をプレゼントは俺はやってないなあ』

『もしかして隠しステータスで好感度みたいなのがあるんじゃ?』

『椅子も手作りだから意味があるのかも? ちょっと明日試してみる』

『試して何かあったら報告よろしく』

『ちなみに椅子って見せてもらえます?』


「分かりました……ええと、こちらになります。ステータスは特に変わったところはないと思いますが……」

【小さな椅子:ランクD、特殊効果なし、ペット用の小さな椅子。作り手の優しさがうかがえる】


 俺は椅子を取り出し、ステータスを開示する。


『確かに至って普通の椅子だな……』

『ちゃんと「ペット用の」って説明文あるのか。細かいな』

『まあ確かにこの大きさじゃ普通の人は座れないしな』


 と、みんなが反応してる中、タケルが合図を出す。

 そろそろ次の質問に行った方がいいか。


「──では、次の質問ですが……」




【ポーションオブドリアードの販売はどこかでされますか?】


「まだそんなに数が作れていないので、次回のフリーマーケットには出品できません。ライアのレベルも1なので1日にそんなに数が作れないのが現状です」


『レベル1!?』

『もしかして戦闘まだなんですか?』

『ん? でもおかしくないか?』

『どした?』

『いや、プレイヤーは錬金術でも経験値もらえるだろ? ポーションオブドリアードを作ってるならライアちゃんも錬金術をやってるよな? なのにペットモンスターが経験値もらえないってさ……』

『ああっ! 確かに!』


 そういえば……俺は気にしてなかったけど、確かに俺は椅子や机、ポーションを作って経験値もらって、今はレベル7まで上がってるもんな……。


『ちなみに今ライアちゃんに錬金術やってもらえますか?』

『確かにこの配信は動画として残るから、証拠にもなるな』


「分かりました、それではちょっと準備します」


 俺は材料を準備し、錬金前と錬金後のライアのステータスを表示する。

 すると、まったく経験値が入っていないことが判明した。


『おけ、俺は運営に報告してくる』

『詫び石くるかな……』

『おいおい、このゲームにガチャ石はないだろ』

『そこに気づくとは……お主、只者ではないな』


 ……ノリがいいなあ、このコメントの人たち。

 と思っていると、タケルが合図を出してきた。

 そうだな、そろそろ次か。


「──では、次の質問ですが……」




【ライアちゃんの着ている服の入手方法を教えてください】


「これに関しては作成者ご本人様から発表していただきます」


 俺はアテナさんに合図を送る。


「え、ええと……ライアちゃんの服を作りました、アテナと申します。ライアちゃんの服は特注品のため、こちらの量産品を今度販売しようと思うのですが……」


 アテナさんは両手で服を持ち、デザインを視聴者に見せる。

 ライアの服から装飾は減ってシンプルになったものの、各所にフリルがついていてかわいいワンピースになっている。


『特注品なら仕方ないか……でもこっちのデザインもいいね!』

『俺はむしろシンプルなデザインが好きだからこっちがいいな』

『特注品ができるなら、俺も特注品作ってもらいたい……』

『ちなみにお値段は……』


「ええと、お値段は600Gとなっています。ライアちゃんの服に比べてシンプルなのでお安くできるのですが、このあたりが限界ですね……。特注品をお求めの場合は、フリーマーケットなどでお声がけください」


『600G!? 絶対買うわ』

『もっと高くても俺も買うと思う。ペットモンスターの服って見かけたことないからさ……』

『これはビジネスチャンスの予感』

『人型のペットモンスター用だけでなく、動物型のペットモンスター用も需要ありそうだな。現実でも犬に服を着せてる人いるし』


 なんか話が逸れていってる気がするぞ。

 と思っていると、やはりタケルが合図を出してきた。


「……えー、では最後の質問に移りましょう」


 俺はアテナさんに控えに戻ってもらうと、話を続けた。




【ライアちゃんがかわいすぎるので、日常動画とか出してください】


「……えーっと、これって需要あります? 俺はものづくり、ライアはポーション作りぐらいしかやってないので、撮れてもほぼ同じ絵になると思うのですが……」


『だがそれがいい』

『ライアちゃん成分の補給助かる』

『日常のさりげない表情とか好き』


 ……どうやら需要はあるようだ。

 ポーションを作っているところの動画はあるし、それ以外も撮ってみようかな。


「わかりました。それでは撮れたらアップしておきます」


 そう返答したところで、タケルが合図を出す。

 そうだな、ちょっと疲れてきたしそろそろいい頃合いか。


「それでは今回はこの辺りで配信終了となります。本日はご視聴ありがとうございました」


『おつかれー』

『乙ー』

『ライアちゃん動画、正座待機で待ってる』


 ……こうして、初めての配信は終わったのだった。




**********




「うう……精神的に疲れた」

「お疲れだぜコウ。しっかりできてたじゃねえか」

「ちょっとこのあと椅子作りして精神を癒すわ……」

「それって癒しになるのか……」

「あ、お二人ともお疲れ様です」

「アテナさんもお疲れ様です。これから服の量産ですか?」

「はい、服でも自動作成機能は使えるんですけど、やっぱり自分の手でひとつひとつ作りたいんですよね。……でも、いずれは頼らないといけない時が来そうなんですけど……」


 まあ、反応を見るに結構な数の人が買いそうだったからなあ。

 ちなみにペットモンスターは自動作成機能が使えないらしく、これはライアにがんばってもらうしかない。……でも、無理はさせたくないので、やりたいだけやってもらうことにしている。


「そうだ、タケルとアテナさんにこれを」

「えっ、よ、よろしいのですか?」

「オレはありがたくもらっておくぜ。もし作られ始めてもしばらくは品薄になるだろうからな……」


 俺は配信を手伝ってくれたお礼に、2人にポーションオブドリアードを渡す。

 昨日の今日だからあまり数は作れていないのだけど。


「もし不要な場合はオークションなどで売って頂いて構いませんので」

「いえ、私もレベル上げのために時々戦闘とかするので……ありがとうございます」

「そうですか、それならよかったです。もし足りない場合は追加のポーションが出来次第お渡ししますので」

「さ、さすがに高価になりそうなものをこれ以上は……」

「コウも売り出し用に数が必要だろ? 俺もこれ以上はいいぜ」

「そっか、それなら……。それでは、またお力を借りることがあるかもしれませんが……その時はよろしくお願いします」


 ──その後、2人がホームに帰るのを見届けると、俺は精神を癒すために椅子作りを始めた。




**********




「よし、今回は補強を入れてみよう」

「きゅーう?」

「今までの椅子は座面、背もたれ、脚4本で構成されていたけど……」


 俺はそれぞれの部位を指で示しながらライアに説明する。


「今回はこんな感じで、脚の下の方に補強を入れるんだ」


 4本の脚とは別に4本の木材を用意し、脚のそれぞれの下部を繋ぐようにするのだ。

 これで椅子の強度が上がるから、おそらく使用回数も増えるはず。

 更に足置きとしても使えるので、利便性も上がるだろう。


「よし、それじゃやっちゃいますか。ライアはどうする?」

「きゅー……きゅーっ」


 ライアはふわりと浮かぶと、椅子を手に戻ってきた。

 見学したいってことかな。


「じゃあ始めるよ?」

「きゅー」



「よし、座面に窪みを入れて座りやすくしたし、面取りもした。脚への補強もできたし、結構いい線いったんじゃ……」


 俺はおそるおそるステータスを開く。すると……。


【丈夫な椅子:ランクC、特殊効果なし、補強されたため、長く使える一品となっている。買い替え頻度が減るのはありがたい】


「──よし!」


 俺は思わずガッツポーズをする。

 使用回数を見てみると、なんと151回。

 自動作成機能で作ったランクDの椅子が100回なのを考えると、かなりの進歩ではないだろうか。

 おそらく、ランクの変化は150が境になっているんだろうけど……これは数を作って確かめるしかないな。


「きゅーっ♪ きゅーっ♪」


 ライアも一緒に喜んでくれている。

 こうやって喜びを分かち合えるって、なんだかいいな。


「ありがとな、ライア。……そうだ、明日はライアの椅子も同じように作ってみようか?」

「きゅー♪」


 俺の言葉に反応して、ライアがぴょんぴょん跳ねる。

 俺が作業している間はライアは椅子に座っているから使用回数もだいぶ減ってきたし、もっといいものを作ってプレゼントしたいな。


 こうして、満足感を得つつ、自動作成機能で普通のポーションを量産してから俺はログアウトするのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ