特殊ダンジョン攻略開始
「コウ、準備はできたか?」
「はい、この一週間ずっとものづくりをしてましたよ」
「まあコウにとっちゃものづくりはいつも通りかもしれないけどな」
「ははは、確かに。ちなみに、できたのはこんな感じです。まずはビーのハチミツを使ったマジックポーションです」
【マジックポーション(美味):ランクC、飲むことでMPが120回復する。さまざまな要因により、回復量がかなり上がったマジックポーション。ところで、ハイマジックポーションよりも回復量が多いのに、マジックポーションとはこれ如何に? MPの回復量が名称の線引きではないのなら、マジックポーションとハイマジックポーションの違いとはなんなのだろうか?】
「なあ、回復量が凄いって感想より、この説明文はなんだ? って感想の方が強いんだが」
「それは俺も同じですね……」
ハイマジックポーションのレシピがまだ判明していないので、おそらく作り方の違い、かつ初期回復量の違いが名称の違いなんだろうけど、確定ではないな……。
さておき、ハイマジックポーションの入手方法が今のところクロウレギオンのドロップ以外にないため、それ以上の回復力を持つアイテムを作れたのは、ダンジョン攻略においてかなり大きいだろう。
「ちなみにクイーンビーのハチミツを使ったマジックポーションも作りましたが、そちらはMPの回復量が180まで上がりましたね。さすがにクイーンビーのハチミツはビーのハチミツよりももらえる量が少ないので、それほど数は作れませんでしたが……」
「いや、充分だぜ。というか、クイーンビーだとそこまで上がるのか……さすがは上位種といったところだな……」
「でも、もらうために多大な犠牲を払いましたが……」
そう、クイーンビーのハチミツをもらうにはレイの蜜が必要。
ある程度の量をもらうにはそれだけ蜜が必要なわけで。
レイに頼み込んで、蜜をクイーンビーに多く渡すために俺が承諾した条件は……。
「今日、帰ったら徹夜でみんなでトランプをするんです」
「死亡フラグ立てるのやめろって言いたいところだが、睡眠時間が犠牲になったのか……ま、ライアたちはまだこどもだし、それほど長くは起きていられないだろ」
「だといいんですけどねえ……」
前は深夜の1時まで起きてたからなあ。それに、今回はクイーンドリアードさんたちに知られて、一緒にすることになったから……ま、なるようになるか……。
……あっ、アテナさんが仲間にして欲しそうにこちらを見ている。
「……で、おれは武器を造ってきたぜ。地属性の大剣を予備を含めて3つ。それと、おれとコウ用に風属性の槌……ハンマーだな」
「弱点属性を突いて、ゴーレムを倒しやすくするためですね。前回は無属性でもかなりの有効打でしたし、弱点を突けば更に楽になりそうです」
「そういうことだな。それから、コウも造ってきてくれたか?」
「はい、風属性の補正がある杖と、地属性補正をより高めたトレントの杖ですね。後者はノームやブラウニー、ゴーレムから受けるダメージ軽減でしたよね?」
「ああ、チェンジウェポンで咄嗟にチェンジできれば、それだけダメージを抑えられると思ってな」
「なるほど、そういう使い方もアリですね……」
普段は風属性補正のある杖でウインドカッター、受ける時は地属性補正のある杖でダメージ軽減。
チェンジウェポンのMPの消費はあるものの、ポーションの使用回数を抑えられるのは良さそうだ。
「そして、私は補正値の高い防具ですね。無属性で良かったんですよね?」
「ああ、地属性補正を付けると、風属性補正が-になるからな。これだとモンスターの弱点を魔法で突くときに困るだろ?」
「確かに……その辺を簡単に切り替えられるのがチェンジウェポンの真骨頂ですね」
「もし、この作戦で踏破できれば使うプレイヤーも増えそうだな。……さて、あとはスキルの確認をしてから突入するか」
「分かりました。では、俺とペットモンスターのスキルなんですが……」
**********
「ま、攻略方法が分かってるから楽勝だな」
「そうですね。ノームは俺はペットモンスターにはしない予定なので、アトラスさんかアテナさんにお願いします」
「では私が行きますね」
第一階層はマップ、ボスの攻略法ともに分かっているので、即座にノームにウインドカッターを撃ちこみ、リビングアーマーとの戦いを回避する。
道中のクレイゴーレムは動きが遅いのでスルーが可能なため、無駄な戦いをせずにボス部屋まで進められるのも楽だな。
この調子なら回復は必要なさそうかな。
「それじゃあまたねー」
「むー!」
どうやらアテナさんとノームの方の会話も終わったらしく、ノームがいずこかへと去っていった。
仲間にできない場合は撤退してくれるんだな。倒さなくてもいいのはありがたい。ちなみに、和解した場合でも経験値はもらえるみたいだ。
「よし、それじゃあ次は第二階層だな」
「前回、ある程度のマッピングはしましたが、ボス部屋まで辿り着けてないんですよね」
「その辺は先人……こと攻略班のマップを参考にさせてもらうから大丈夫だ。今は第四階層のボス撃破まで進んでるから、そこまでは楽に進めるはずだぜ」
「私は戦闘面でのMP消費が激しいので、できるだけエンカウントは避けたいところですね……」
「一応、第二階層のメインモンスターはストーンゴーレムだから、逃げれば問題ないと思うぜ。ブラウニーは基本的に戦う意志はないみたいだからな」
ちなみに『基本的に』ということは、戦うこともあるわけだ。
ブラウニーを行き止まりに追い詰めたら、ものづくりに使うハンマーで攻撃してくるらしい。そして、意外と力があるのでなかなかのダメージを受けてしまうとか。
ただ、それをするメリットが全くないので、避けて進むのが正攻法のようだ。
「……第二階層のマップを確認しましたし、階段を降りましょうか」
「おう!」
ボスを倒したあとのボス部屋は安全地帯と思われがちなのだが、実は時間が経つとザコモンスターが侵入してくるらしい。
今回俺たちが椅子などの時間経過での回復アイテムを持ってこなかったのは、これが原因だ。
第二階層に降りると、俺たちはボス部屋まで最短ルートで駆け抜ける。道中のストーンゴーレムは一切無視だ。
ボスのトロールは力こそリビングアーマー並みではあるが、動きが遅いため遠距離攻撃ができれば問題なく倒せる。
地属性なのでウインドカッターが効果抜群な上に魔防も低いため、一層のリビングアーマーよりも弱いという評価になってしまっている。ちょっとかわいそうだ。
接近戦が強いのでペットモンスターにしようと試みたプレイヤーも多いのだが、いまだにその方法は判明していない。俺も少し気にはなっているのだが、今回は攻略が目的なので魔法の集中攻撃でさっさと倒してしまう。
「……しかし、本当に力は凄いですね……棍棒が振り下ろされた地面、抉れてるじゃないですか……」
「それだけ力が強いってことだな。接近戦が強いのもいいが、これだけ力があれば村づくり要員としても重宝されそうだな」
「あ、確かにそうですね。身体も大きいので、私たちでは持てないような木材も楽々運べそうですし……」
「それじゃあ、今回のダンジョン攻略のあと、ペットモンスターにする方法を調べてみますか?」
「それもいいな。おれも鍛冶の相棒にペットモンスターにしたいところだ」
そんな話をしつつ、俺たちは第三階層のマップを確認する。
第三階層では先に進むために仕掛けを作動させる必要があり、仕掛けがある部屋に中ボスが存在するようだ。
中ボスは……地属性のケット・シーと風属性のクー・シーのコンビかあ。
「私、ケット・シーは聞いたことがありますが、クー・シーってどんな子なんです?」
「クー・シーは犬の妖精ですね。ケット・シーは猫の妖精です。シーが『妖精』という意味で、ケットが『猫』、クーが『犬』をそれぞれ表しています」
「へー、おれはそこまでは知らなかったな。ケット・シーがたまにゲームに出てくるって知ってたぐらいでさ。コウは博識なんだな」
「まあほら……神話とか伝承って男の子のロマンが詰まってますので……それに一時期ちょっと中二病を患ってたので……」
「分かるぞ」
「そういうものなんですねえ……」
その後、ケット・シーたちへの対策を立ててから、第三階層へと降りていくのだった。
**********
「……よし、この先が中ボスの部屋だ。準備はいいか?」
「もちろんです」
「……うう……かわいいのでぜひペットモンスターにしたいのですが、方法が分かりませんし……うう……」
迷ってる迷ってる。
アテナさん、動画で行動パターンを予習していた時から『かわいい……』って呟いてたもんなあ……。
「ま、今回の探索が終わったら付き合うからさ、今は我慢してくれ」
「分かりました……今回は心を鬼にします……」
アテナさんの心も決まったようなので、俺たちは中ボスの部屋へと突入する。
「……ニャッ!? 侵入者ニャ! クー!」
「クーッ!」
ケット・シーとクー・シーは俺たちを見ると、即座に戦闘態勢に入る。
ケット・シーは人語を喋ると言う伝承があるから、下位種? のモンスターなのに喋ってるのだろうが……その喋り方、ちょっとあざとくない?
……さておき、ケット・シーはクー・シーの背に立ち乗りをし、ポーチからレイピアと玉を取り出す。
ポーチの大きさ以上のアイテムを取り出しているのを見るに、おそらく俺たちのアイテムポーチと同じような、いわゆるマジックポーチなのだろう。
ケット・シーは二足歩行なので、空いた手でアイテムを多用してくると攻略情報にある。今回取り出した玉は……。
「喰らうニャ!」
ケット・シーは俺たちに向かって勢いよく玉を投げる。
玉が地面に落ちて炸裂すると、そこから煙幕が立ち上り始め……。
「煙玉か! だが、対策は済んでるぜ! テイルウィンド!」
「ニャッ!?」
アトラスさんがスキルを発動させると、追い風が吹き、煙を押し返す。
「……ッ……煙なんかなくても、我輩たちは強いのニャ! クー、行くニャ!」
ケット・シーが合図を送ると、クー・シーが俺たちに向かって突進してくる。
クー・シーは牛並みの大きさではあるものの、その素早さは犬そのもので、バイクのような重さと速さで俺たちに向かってくる。
俺たちは盾を構えながら横に避けるが、ケット・シーのレイピアが盾にかすり、衝撃で腕に若干の痺れを感じる。身体は細いのに、速度も合わさってかなりの力だ……。
「運がいいやつニャ。でも、次は外さないニャ!」
クー・シーが旋回をして、勢いをつけたまま俺たちに向かって再び突進を仕掛けてくる。
「アテナさん!」
「……了解です!」
アテナさんは敵の突進に合わせて、リビングアーマーの盾だけを取り出し、無機物操作のスキルでケット・シーたちに向かって思いっきりシールドバッシュをぶちかます。
「フギャッ!?」
アテナさんの不意打ちを避けきれず、バイク並みのスピードで大盾と正面衝突をしてしまい、ケット・シーの身体は宙に投げ出され、地面に叩きつけられてしまう。
そして、その隙を逃すはずがなく……。
「……チェックメイトですよ」
「ニャ……」
俺はロングソードをケット・シーの首に当てる。
これでもう抵抗はできないはずだ。
「うう……参りましたニャ……」
「それならここから撤退して頂けますか? そうすればこれ以上は何もしませんので」
「わ、分かりましたニャ……クー! 帰るニャ……あいたた……」
どうやら、先ほどのシールドバッシュで2人ともかなりのダメージを受けたようだ。……まあ、人間界で言う車両同士の事故ぐらいの勢いだったからなあ……。
「……はい、これを。2人ぶんありますので……」
さすがに罪悪感が出てしまったので、ハイポーションを2つ、ケット・シーに渡してあげる。
これである程度の痛みは引くはず……。
「ニャ!? い、いいのニャ……? 見逃してくれるだけでなく、こんなものまで……」
「さすがにこのまま帰すのは罪悪感があって……」
「……こ、この恩はいつか返すニャ! え、えーと……」
「あ、俺はコウです。他の2人はアトラスさんとアテナさん」
「コウ、アトラス、アテナ……覚えたニャ! もう我輩たちはコウたちには敵対しないニャ!」
「クー!」
ケット・シーたちはそう言うとハイポーションを飲み、ダンジョンの奥へと消えていった……。
「ええと、すみません。貴重なアイテムを2つ減らしてしまって……」
「いや、さすがにおれも罪悪感はあったからな……分かるぜ」
「コウさんが渡してなかったら私が渡すところでしたし……あ、せっかく打ち解けたので記念撮影してもらったらよかったかも……」
「ははっ、アテナさんらしいですね」
「もー、コウさんってば……。ところで、この後はボスまで一気に行く感じですか?」
「そうだな。それじゃあ仕掛けを動かして先に進もうぜ」
こうして俺たちは仕掛けを作動させて道を拓き、第三階層のボスへと進んでいくのだった。




