特殊ダンジョン第二階層
「きゅーっ♪」
ライアを乗せた盾が空を飛んでいる。なんとも不思議な光景だ。
今、ノームの無機物操作(地属性)で盾を動かし、その上にライアに乗ってもらっている。
これは、ダンジョン内などでのショートカットで、ノームのスキルを使えないかの検証だ。
「アテナさん、どうですか?」
「そうですね……どうやら無機物操作のスキルは重量で消費MPが変動するようです。ライアちゃんが乗るのと、コウさんが乗るのとでは、後者の方が大きくMPを消費します」
「……となると、大人数を盾に乗せた場合……」
「最悪、MPが尽きて途中で墜落しますね。マジェネでMPを自動回復状態にしておく、マジックポーションを飲ませ続けてMPを高く保つ……などの対策が必要でしょう。もちろん、レベルを上げてMPの最大値を増やせば、それだけ長時間持続できるようになって、それが対策になりますが……」
「最大値が増えればそれだけマジェネの効果も強くなりますしね。……それにしても面白いスキルです」
こういう無機物操作スキルを持っている他のモンスターがいれば、他の属性でも同様のことができそうだ。
ただ、MP消費が激しいのがなあ……。コストが重すぎる気がする。
「おー、何やってるのー? おもしろいことー?」
「シルフィーさん、実は今は空を飛ぶ実験をやってまして」
「ふーん? 風魔法を使えばいいと思うよー」
「いや、流石にシルフィーさんレベルの魔法は俺たちには難しいので……」
「てへへー、褒められちゃったー。照れる照れるー」
いや、真顔で照れる照れる言われましても。全然照れてないですやん。
「……そういえば、以前シルフィーさんがハンモックを揺らしてたのは、ハンモックに風属性を付与してスキルで揺らしてたんですか?」
「それもできるけどー、わたしは風を操ってただけだよー。わたしがひと眠りする時間ぐらいは維持できるのー」
あっ、これクイーンドリアードさんと同じで規格外なやつだ。
っていうか、風属性付与とかもできるんだ。
それなら地属性付与ができれば、どんな無機物でもノームが動かせることになるな……?
「難しい顔してどうしたのー?」
「いや、シルフィーさんもやっぱりすごい人だなって……」
「ふふーん、崇め奉るがいいー」
「……実際、そういう人はいますが」
「えっ、いるの? やったー、わたしはその人たちの神となるー」
シルフィーさんもだけど、クイーンドリアードさんやキングウルフさんたちにはファンクラブ的なサークルがある。
活動内容は『オレはこの写真が好き!』『私はこれ!』みたいに、動画の切り抜きや実際に撮ったスクリーンショットを掲示板に貼る、といったものだ。
……なんで活動内容を知ってるかって? ふと見て気になって俺も参加しちゃったからだよ。
まだ掲示板への投稿はしてないけど。
「ところでわたしも乗せてもらっていいー?」
「えっ、シルフィーさんは普通に飛べるのでは?」
「自分で飛ぶのと誰かに飛ばせてもらうのは別ー。別腹なんだよー」
「そ、そういうものですか……」
俺はアテナさんに頼んで、ライアとシルフィーさんを交代させてもらうことに。
ライアは凄く楽しんでいたようで、終わった今もすごくニコニコしている。
ライアは基本的に飛んで移動するけど、無機物操作で操る盾みたいな速度は出せないから新鮮だったんだろうな。
こうなると、うちにもノームを迎え入れようか迷うな……でも、ライアとレイとノームで地属性と地属性と地属性で被っちゃうんだよなあ……。無機物操作スキル持ちの他の属性のモンスターが出てきてくれれば、迷いなくペットモンスターにするんだけど。
とりあえず、しばらくはマジックポーションを量産して提供し、アテナさんに頼んで遊ばせてもらおうかな……。
あ、ムーちゃんにポーションを作ってもらったところ、下記のポーションができたらしい。
【ポーションオブノーム:飲むとHPが30回復する。また、地属性+50、風属性-50(効果時間:5分)】
地の精霊らしい効果というか、敵によってはかなり強力なアイテムになるはず。
もともと地属性の補正を持っているペットモンスターに飲ませたり、地属性武器を使うプレイヤーに飲ませたり……攻撃だけでなく防御にも補正がかかるので、地属性のモンスターを相手にするときには効果的だろう。
ただし、モンスターが風属性の攻撃をしてきた場合は厳しい戦いになる。実際に、複数の属性魔法持ちの魔女とかいるしね……。
使うなら、出現が固定されているダンジョンボスとかがいいかな。
実際に、攻略班はかなりの数のポーションオブノームをオークションで買ったとか。
今後のダンジョンで必要になる可能性はあるし、初期投資ってやつかな。
自分たちでノームをペットモンスターにしても、作製する数にも限度があるし、無機物操作のスキルの連携の練習にもMPを割かないといけないだろうし……攻略班は大変だなあと思うのだった。
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「……あ、特殊ダンジョンの2層の攻略情報が出てる」
いろいろとものづくりを終えて、攻略掲示板を見ながら一息ついていると、2層の情報が飛び込んできた。
どうやら2層もゴーレムが中心で、ボスとしてトロールが出現するとのことだ。
まともに戦った場合のリビングアーマーほどではないものの、その巨体と剛腕から強力な一撃を繰り出してきて、まともに受けるとHPが半分以上吹っ飛ぶらしい。
また、帽子をかぶった小さな子を見かけたとの情報もあるが、その姿はノームとはまた違っていたようだ。
ノームの上位種ではないかと言う声がある一方、攻略班が近づこうとすると一目散に逃げだしたこと、リビングアーマーを伴っていないことから、ノームとは別のモンスターと言う声もある。
小さいことからドワーフではないか、実は鉱脈があってノッカーではないかなどと予想するプレイヤーもいる。
「……ちょっと気になるなあ」
気にはなるけど、あのダンジョンに一人で行くのは自殺行為なわけで。
アテナさんもアトラスさんも動画のコメント対応などに忙しく、一緒に行って欲しいとは言えない。
……と、思っていたのだが。
「コウさん、特殊ダンジョンに潜りませんか?」
「おれも行きたいと思ってる。ちょっと現実逃避したくてな……」
どうやら2人とも気分転換したいらしく、向こうから誘ってきてくれた。
俺も2層に出るという小さいモンスターが気になっていることを伝えると、よしきたと言わんばかりに準備を始めて即ダンジョンへと向かうことに。
「いやあ、攻略方法が分かってると楽々だな」
「そうですね。……ところで、ノームはコウさんとアトラスさん、どちらがペットモンスターにしますか?」
「あ、俺は地属性が既に2人もいるので、アトラスさんにお譲りします」
「いいのか? おれとしちゃ、専用の装備を造ってあげるのが楽しみになるから嬉しいが」
「確かに、それはものづくり冥利に尽きますね」
そういうことならアトラスさんにペットモンスターにしてもらうのが一番だろう。
ということで、アトラスさんにお願いしたのだが……。
「あ、そういえば名前を考えてないな」
「地属性だから、男の子ならアース、女の子ならスーとかどうでしょう」
「いいな、それもらったぜ。ええと、それじゃあ……男か。よし、お前の名前はアースだ。今日からよろしくな」
「むーっ!」
こうして、一層は驚くほどあっけなくクリアできたのだった。
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「……ふぅ、まさかレベルが低いとはいえ、ストーンゴーレムも出てくるとはな」
「石だからクレイゴーレムよりも耐久力が高いですね……。幸い、動きが遅いので逃げることもできますが……」
「初めてのモンスターだからな、魔石が何かの進化に使えるかもしれないし、倒しておいて損はないからなあ」
「そうですね、攻略班の人たちもある程度の量が貯まるまでは放出しないでしょうし、自分たちで取る方が安くつきますしね」
その後も俺たちはストーンゴーレムを撃破しながら探索を続け……。
「おっ、あったぜコウ、あれだ」
「おお……あんな高所に横穴があるんですね……確かに事前に情報を仕入れていないと普通は入れないですね」
実は小さいモンスター以外にも俺たちには目的があった。
ダンジョンの中に、普通には行けないような高所に横穴があり、その先に多くの宝箱があるという情報が載っていたのだ。
「それでは木材を取り出して……」
俺はチェンジプラントを使うと、木材を梯子へと作り変えていく。
そして、それを切り立った壁に立てかけ、地面に設置する部分を固定する。
アテナさんがムーちゃんの無機物操作(地属性)のスキルを使って盾に乗り、それで上に行くのもありなんだけど、消費MPを考えるとチェンジプラントの方が良いという判断だ。
「それでは俺、アトラスさん、アテナさんの順に上りましょう。ストーンゴーレムは入って来られない狭い空間なので大丈夫と思いますが、モンスターの急襲には気を付けてください」
「おう、コウも気を付けろよ。横穴から何か出てこないとも限らないからな」
「ありがとうございます。それでは行きますね」
俺たちは梯子を上り、無事に横穴までたどり着く。
そして先を見ると、今度は地面に大きな穴が開いている。底が見えないので、落ちたら一巻の終わりだろう。
今度は木材を橋に作り変え、充分に固定してから先へと進んでいく。
……しかし、チェンジプラントは優秀だな……これ一つで様々なことへ対処できるし、パーティーに1人は欲しいスキルじゃないだろうか? うちのギルドは全員覚えてるけど……。
その後、更に先に進むと目的の宝箱が見えてきた。その数なんと10。
「おっ、こっちにはハイマジックポーションが入ってるぜ」
「こちらは地属性の鉱石ですね!」
「や、薬草……」
「あっはっは、コウはついてねーな」
「いえ、最低を引いた次こそは……!」
などと、楽しみながら宝箱を開けてから、俺たちは来た道を帰っていく。
「……ん?」
「どうかしたか?」
「いえ、何か橋に違和感があるような……」
俺は橋を近くでじっと見る。
すると、ところどころ手直しされているような跡が見受けられる。
試しに橋に足を乗せると、先ほどよりもしっかり固定されているように感じられる。
「……罠ではないようですね」
「モンスターの仕業なんでしょうか?」
「それなら、橋を落とせばいいと思うんだがなあ」
「ですよね……わざわざ橋を立派にするなんて……」
俺たちは不思議に思いながらも橋を渡り、梯子を下りていく。
その梯子も、先ほどよりも丈夫になっているように感じるのだが……。
「うーん、謎ですね……こんなこと、掲示板には書いていませんでしたし……」
「なんだろうな……もしかして、例の帽子のモンスターか?」
俺たちが不思議に思い、その場に留まっていると、岩の陰から視線を感じた。
「……もしかして……」
俺は木材を取り出すと、チェンジプラントを使って竹とんぼを作ってみる。材料は竹じゃないけど。
そして、岩陰に向かって飛ばしてみる。
カランと音を立てて竹とんぼが地面に落ちると、岩陰から帽子をかぶった子が、こちらを警戒しながらトコトコと竹とんぼに歩み寄る。
「……ものづくりに興味があるの?」
「……らー……っ」
その子はコクンと頷くと、竹とんぼを拾ってじーっと見ている。もちろん、こちらへの警戒は忘れていない。
「それじゃ、こんなのはどうかな?」
俺は更に木材を取り出すと、次はその子に似せたこけしサイズの人形を作ってみせる。……さすがに色を塗ったり、目などを描いたりはできないけど……。
「らーっ」
どうやら興味を持ってくれたようで、こちらに歩み寄ってくる。
「はい、どうぞ」
俺はその子にこけしを渡すと、一歩引いて様子を見守る。
「らーっ♪」
どうやら喜んでくれたらしく、人形をぎゅーっと抱いて笑ってくれた。
そして……。
【INFO:ブラウニーがペットにして欲しいようです。どうしますか?】
「……いいの?」
「らー!」
ブラウニーの性別を確認すると、どうやら男の子のようだ。
俺はしばらく悩んだ末……。
「それじゃあ、『ブラウン』……で、どうかな……?」
「ら!」
ふぅ、どうやら気に入ってくれたようだ。
俺はブラウニーをペットモンスターにすると、ブラウンはホームへと転送されていった。
「……コウ、さっきのはどんなモンスターだったんだ?」
「ブラウニーみたいですね。たしか、伝承では人の仕事を手伝ってくれる妖精だったような……」
「なるほど、だからコウさんの作った梯子や橋を補強していたんですね」
「しかし、今までもここを梯子や橋で突破して宝箱を回収したパーティーがいるだろうに、ペットモンスターにできなかったのは謎だな……」
「その辺はまた検証しましょう。……ところで、このまま第二階層のボスまで進みますか?」
「いや、おれはブラウニーのスキルやステータスが気になるな」
「私もです!」
どうやら、俺も含めて全員がブラウニーの能力が気になるらしい。
……ということで、いったんダンジョンから脱出してホームに戻ることにするのだった。




