新ペットモンスター
「むーっ!」
特殊ダンジョンから出てアテナさんのホームに帰ると、先ほどペットモンスターにした子が出迎えてくれる。
ペットモンスターが連れ込めないダンジョンだからか、ペットになって名付けをしたら転送されてしまったので、俺たちは急いで戻ってきたのだ。
「アテナさん、この子はいったい……?」
「ええと……ノームという種族の男の子みたいですね」
「ノームって言うと、地の精霊のノームか? イメージとしては、ヒゲを生やした爺さんみたいなのが頭の中にあったが……」
「あ、それは俺もです」
ここにいるのは、耳がエルフのように長い以外は普通の人間のこどもと変わらない子だ。
耳を隠せば人間として通せるぐらい、人間に酷似している。
「そういえばフロアボスのリビングアーマーを操っていたのはこのノームなのか?」
「そうみたいですね。この子のスキルに『無機物操作(地属性)』というのがあります。おそらく、リビングアーマーの装備が地属性だから、この子がスキルで操っていたんだと思います」
「なるほど、それなら後ろに目が付いてると思わされたのも不思議はないですね」
ボス部屋全体を見渡せる壁のところに、隠蔽魔法か何かで隠れていたから、俺たちの行動は筒抜けだったわけだ。
しかし、カラクリさえ見破ることができれば、リビングアーマーを相手にするよりも格段にボス攻略が楽になるな……装備で強化されてるとはいえ、ウインドカッターの一撃でダウンしたわけだし。
「コウ、この攻略法は動画に撮ってアップするか?」
「そうですね……次に行った時に撮りましょうか。ただ、ノームの位置を判別するには人形使いの協力が必要なので、攻略法が使えるのは限られた人になりそうですが……」
「あー、確かに人形使いはあんまり見ないな。ただ、ノームをペットモンスターにできるんだから、需要はあると思うぜ」
「あ、そっちを忘れてましたね……ノームのために一時的に人形使いになる人も出てくるでしょうし、アップして損はないですね」
ということで、俺たちは次にダンジョンに潜った際に動画を撮ることにした。
今回は男の子だったけど、女の子のノームもいるのかな?
「ところでコウさん、アトラスさん、お願いがあるんですけど……」
「俺にできることなら大丈夫ですよ」
「ああ、おれもだ」
「一つはムーちゃんのために、地属性の大剣、鎧、兜、盾の装備一式を作りたいのですが……」
「あー、リビングアーマーを造って動かしてもらうのか! 確かにそれなら戦力がかなりアップするな。腕が鳴るぜ!」
「それと、もう一つはムーちゃん用の杖、ローブ、帽子ですね。リビングアーマーを動かすのにMPを消費するので、MPを底上げできるものを作れるコウさんが適任だと思うのですが……」
「分かりました、俺も大丈夫です」
アテナさんも人形使いなのでMP管理が大変なのは知ってるだろうし、できるだけMPが上がる装備を作ってあげたいな。
ローブや帽子は作ったことはないけど、アテナさんに協力してもらいながら作ってみよう。俺もライアたちに作ってあげれば喜んでもらえそうだし、作り方を覚えておいて損はない。
「……ところで、ムーちゃんという名前はもしかして……」
「…………ええ、『むーっ』って喋ってたので……」
「その場で決めるのって大変ですよねえ……」
「むー?」
俺たちがそんな会話をしている中、渦中のムーちゃんは首を傾げているのだった……。
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「ふーっ、やっぱり我が家は落ち着くなあ」
特殊ダンジョンに行ってから色々なことがあったから、今日のところはもう店じまい。
ホームに設置したハンモックでゆったりとしている。
ライアたちも俺が疲れているのが分かるのか、それぞれ好きなように遊んでいる。
ライアは的当てのイベントが追加されるのを知っているので、的当ての練習。どうやら、ライアも称号が欲しいようだ。スコールに自慢されてたからなあ……。
レイは最近作ってあげたお手玉をずっと遊んでいる。慣れて来たのか、ツタを使って複数個を同時にお手玉するようになってきた。大道芸人として食べていけそうな感じだ。
スコールはウルフレースのために走りを強化している。少しホームを拡張して、直線コースに似たものを造ったのが嬉しかったのか、ずっと走り込みをしているようだ。
俺はその光景を見ながら、今日を振り返る。
クレイゴーレムはチェンジウェポンが有効なので、紹介したら使い手が増えそうだ。ただし、習得に器用さが必要なので、無駄振りにならなければいいんだけど。
リビングアーマーを操っているのがノームだとは思わなかったな。まさか、あんな線の細い子が、自分の何倍もある大きな武具を扱っているなんて…………ん?
そういえばあの子、どうやってあんな大きな武具を造ったんだ……?
アテナさんにムーちゃんのステータスを見せてもらったけど、完全に魔法使い寄りのステ振りだった。
特に力は壊滅的なまでの低さで、そんな子が武具を造れるとは思えない。
となると、特殊ダンジョンの下層にいるモンスターに造ってもらった……?
地下道……地属性……ものづくりが上手い……。
「……ま、攻略班が先へ進めば正体がわかるかな」
もし、想像通りのモンスターか人物だったら鍛冶の技術が高そうだし、アトラスさんが喜びそうだ。
「……よし。それじゃみんな、一緒に遊ぼうか!」
「きゅーっ!」「るーっ!」「がう!」
身体が充分に休まったのでみんなに声を掛けると、一斉に集まってくる。
今日やるゲームはトランプ。ちなみに絵柄はレックスさんに描いてもらった。
いろいろな遊び方があるけど、今日やるのはスコールも参加できる神経衰弱。
頭の体操にもいいし、トランプを作ってからは毎日のようにやっている。
なお、神経衰弱が強いのはスコール。一度めくった札はほぼ覚えているようだ。
ライアはブラックジャックが妙に強い。引きがいいのかな……?
レイはスピードがめっぽう強い。ツタまで総動員してくるものだから、まず手数が違う。……ちょっとずるくない?
ちなみにライアもレイもババ抜きが一番の苦手。どうしても顔に出しちゃうから……でもそこが年相応っぽくてかわいいんだよね。
とまあ、そんな感じで得意も苦手も三者三葉。でも、みんなで楽しめるからトランプはやっぱりいいものだなと思うのだった。
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「──ん? 運営からメッセージか」
後日、運営からメッセージが届いた。
内容は、キングウルフさん専用の口座を作ってくれる、というものだ。
しかも、キングウルフさんだけでなくウルフたちも使えるから、みんなで楽しんで欲しいと添えてあった。
更に、ウルフやキングウルフさんが冒険者とフリスビーで遊んで稼いだお金や、オークションの売り上げなども自動的に振り込まれるらしい。至れり尽くせりだな……。
俺はこのことをキングウルフさんに伝えると、キングウルフさんだけでなく、ウルフたちも喜んでいた。
自分で稼いだお金で好きなことができるって、やっぱり嬉しいよね。俺も初任給を好きなものに使ったっけな。
……そういえば、動画の再生数でも運営からお金をもらえるけど、キングウルフさんやウルフを主体にした動画の収益を、キングウルフさんの口座に振り込んでもらうことってできないかな。
「……なるほどな。しかし、我らでは人間が喜ぶようなものは作れぬと思うが……」
「日常が好きな人って意外と多いと思うんですよ。なので、キングウルフさんたちの日常とか、キングウルフさんの背に乗って草原を駆けた時の映像とか、そういうのでもいいと思うんですよね」
「ふむ……それでは試しにやってみるか。ではコウよ、我の背中に乗るがいい」
「あ、でもまだ上の者に話を通してないのですが」
「それならコウが動画とやらを公開して、その分の金をもらえれば良い」
「あ、確かにそういうこともできますね」
振り込み手数料とかはかからないみたいだし、それも一つの手か。
直接振り込まれればタイムロスがないってだけで。
「よし、それでは行くぞ」
「分かりました、動画撮影の準備ができたらお知らせします」
「うむ」
俺はウィンドウを開いて動画の撮影を開始し、いつでも大丈夫なことをキングウルフさんに伝える。
「それでは振り落とされないように注意してくれ。『神速』を使うからな」
「……え?」
確か、神速って身体は赤くはならないけど、速さが3倍になるやつ……。
俺は振り落とされないように、しっかりとキングウルフさんにしがみつく。
キングウルフさんが地面を蹴ると、一気にトップスピードまで速度が上昇し……。
「見ろ、皆の者! これが我が見ている世界だ!」
凄まじい速度で景色が流れていく。
これが、キングウルフさんの見ている世界……。
見えるぞ! 私にも敵……じゃなくてキングウルフさんの世界が見える!
……という冗談を言う暇もなく、かなりのGを身体に受けながら、俺は草原を端から端まで駆け抜けることになるのだった……。
「…………」
「コウ、大丈夫か? 顔が青いぞ」
「ちょ、ちょっと酔ったみたいです……」
3Dゲームが始まったころは3D酔いをした記憶があるけど、まさかVRでもVR酔いを体験することになるとは……。
ただ、実際に面白い動画が撮れたのは間違いない。ここまで高速で草原を駆ける映像なんて見たことないしね。
……まあ、見た人が映像酔いしないかが心配ではあるけど……。
「さあ、動画収入とやらが楽しみだな」
「それではこの後アップしておきますね」
一応、動画収益が一目で分かるように、『キングウルフチャンネル』としてサブチャンネルでの運用を開始した。
すると、すぐに大量の視聴とコメントが付く。
俺はそれをキングウルフさんと一緒に眺めることに。
『次は普通の速さでの動画もお願いします。ちょっと酔ってしまったので……』
「ああ、やっぱり犠牲者が……視聴者は酔いの犠牲になったのだ……」
「……少し罪悪感があるな」
『この速さがたまんないですね……自分には出せない速度……』
「ふむ、そういう考えもあるのか」
「一種のスピード狂みたいなものですかねえ」
『私もキングウルフ様の背中に乗って駆けたい……』
「そういう需要もあるのか」
「これでもお金を稼げそうですね」
他にも、『次に神速を使う時は、「キングウルフさん、神速発動」「レディ」のやり取りをお願いします』などのコメントもあったが、そこは華麗にスルーを決め込むことにした。
……とりあえず、こういった動画でも収入を得られるので、しばらくはキングウルフさんはレース代には困らないかな。
こうして、一つの問題? は解決したので、心置きなくムーちゃん周りの装備製作に取り掛かれるようになるのだった。




