特殊ダンジョン第一階層
「特殊ダンジョンに行きたい……ですか?」
「はい。私、ゴーレムが気になって……」
ウルフレースの新コースが一段落して運営に移管を完了したあと、次の的当ての準備中にアテナさんから声を掛けられる。
そういえばアテナさんは人形使いだったな。将来的にはゴーレムを操ることもできるようになるとか……だから、ゴーレムの実物を見ておきたいというのはあるんだろう。
「お、それならおれも同行していいか? 対ゴーレム用の武器を造れれば人気になるかなと思ってさ。いろいろ持ち込んで試してみたいんだ」
「ゴーレム用の武器ですか……魔玉で風属性を付与して、風魔法の威力の底上げもよさそうですね」
「更に詠唱システムも加えればかなりの威力が出せそうだしな。ええと、魔に研がれし風よ、鋭き刃と成りて……だったか?」
「わー! わー! さすがに恥ずかしいので今は止めてください……」
詠唱システムの詠唱内容、冗談で送ったのに採用されたのを思い出して俺は赤面する。
厨二病真っ只中みたいな詠唱だしさあ……。
さておき、武器に風属性を付与しておけば、魔法だけでなく通常攻撃の威力も上がるはず。
ゴーレムは地属性だから、風属性の攻撃ならダメージも通りやすくなる……と思う。
まあ、その辺を確かめるのも実際に対峙する必要があるだろうな。
「……それでは、準備期間も含めて3日後ぐらいにしましょうか?」
「ああ、おれはそれで構わないぜ」
「私も大丈夫です。私は風属性の杖を作っておきますね」
「あ、それなら元々風属性が付く魔女のホウキに、更に風の魔玉を足してみるのはどうでしょう?」
「確かにそれなら風属性補正がマシマシになりますね。……ところで、この中で風属性魔法が使える人は……」
一瞬の間のあと、俺とアテナさんはアトラスさんの方を向く。
「はぁぁ!? おれかよ!? おれのガタイで魔女のホウキって……似合わないにも程があるだろ!?」
「検証のためですから」
「……いや、コウもウインドカッターを習得してただろ……?」
「……ナンノコトデスカネ?」
「こうなりゃ一蓮托生だ。アテナ、コウの分も頼むぜ」
「はい!」
「グワーッ!」
……こうして、見事に俺も犠牲になるのだった……。
**********
「……あ、運営からメッセージがきてる。なになに……」
俺が運営にウルフレースの新コースを移管した翌日、メッセージが到着する。
コースごとに取得できる称号が異なること、コースが多くなったため参加料金を引き下げることあたりが大事なポイントかな。
確かにコースの種類が増えて、全部に参加してると出費が嵩むからなあ。
1コースあたりの参加料金引き下げのほか、全てのコースに参加できる、いわゆるパック販売も始めるのだとか。商売上手。
称号が増えたのは早速キングウルフさんに伝えに行こう。きっと喜んでくれるはず……。
「……ほう、称号が増えたのか……」
平静を装っているキングウルフさんだが、尻尾をめっちゃブンブンしている。……分かりやすいな。
ただ、普段と様子が違うみたいだけど……。
「実は今日から換歯期に入ってな。しばらく体調が悪くなるのだ」
「換歯……歯が抜け代わるんですか?」
「ああ。我々ウルフは年に一回、主要な歯が生え代わってな。そのたびに歯が強くなるな」
「なるほど、それなら今は安静にしておいた方がよさそうですね」
人間は一生に一回なんだけど、このゲームのウルフは年に一回なんだ。
人間だと歯が抜けたら上の歯は縁の下に、下の歯は屋根の上に投げたりするのだけど、ウルフにもそういう風習あるのかなあ。
「……あと、単純に人間用の金がなくなった」
「ああ……」
「稼ぐにしても、この周辺のモンスターはそんなに多くの金を落とさないだろう?」
「確かに……あ、それなら」
「何かいい方法があるのか?」
「キングウルフさんの抜けた歯、売ればお金になるかもしれません」
キングウルフさんという、上位種の素材ともなれば引く手あまたなはず……。
かくいう俺も欲しい。もしかしたら、エルダートレントさんの枝を加工できるものが作れるかもしれないのだ。
「何! それは本当か!? それなら、抜けたら即売ろうではないか」
「オークションという方式がありまして、一番高い値を付けた人に売るものなのですが……これで売りましょうか?」
「うむ、それで頼むぞ。……む、どうやら今1本抜けたようだな」
キングウルフさんがプッと歯を吐き出す。
俺は布を取り出して唾液を拭きつつ、アイテムの詳細を見てみる。
【キングウルフの歯:ランクA+、多くの冒険者やモンスターを屠ってきた、キングウルフの歴戦の歯。かなり鋭くなっており、切れ味は抜けた今でも健在である。加工して武器にするもよし、旅のお守りにするもよし。……しかし、一生に何度も生え代わるのは羨ましいものである。】
おお、やっぱり切れ味は抜群なんだな。
最後の文は……まあ、人間は一回だけだしなあ。歯が欠けると不便だし……。
「それではちょっと緊急リアルタイム配信で紹介しますね」
「ああ、よろしく頼むぞ」
……ということで、緊急のリアルタイム配信でキングウルフさんの歯を紹介することに。
配信後にオークションに出品することを話すと、キングウルフ好き界隈がどよめいた。
『ぜ、全部で何本生え代わるんですか!?』
『欲しい……お守りにしてずっと一緒にいるんだ……』
『うう……いったいいくらになるんだろ……普段から節約しておけばよかった……』
『すいません、換毛期が来たら毛の出品もお願いします』
なんか重い人いるなあ!?
しかし、いったいどれぐらいの値段になるのか不明なんだよな……万は超えると思うけど……。
「……大人気なようですね」
「喜ばしいことだ。……ククク、これで遊び放題だな。称号は我がもらい受けるぞ」
その後、最終的についた値段は3万G。
これが抜ける本数分掛けられるわけだから……恐ろしいことになりそうだ。
「それでは入金されたらお渡ししますね」
「うむ。……しかし、その大量の金を持ち歩くのは難しいな」
「ああ、確かに……それでは上の者に問い合わせてみます」
俺たちならアイテムボックスがあるから収納は楽々だけど、キングウルフさんたちモンスターはそういったものは持ち合わせていない。
キングウルフさんのウルフレース参加費支払い用の口座みたいなものを作ってもらえないか、運営に問い合わせてみようかな。
……ちなみに2本目は俺が4万Gで直接もらい受けた。エルダートレントさんの枝を加工したかったので……。なんか職権乱用のような気もするけど。
**********
「よし、コウ、アテナ、準備はいいか?」
「大丈夫です」
「私もです。……ただ、ペットモンスターがいないのが不安なんですよね。いつも一緒にいたので……」
「ああ、それはおれも分かるな。シィルが寂しがってたし、用事が済んだら早めに切り上げて帰るか」
「俺もライアたちが離してくれませんでしたよ……」
そんな話をしつつ、俺たちは制限ダンジョンへと足を踏み入れる。
パーティーのレベルの合計によってダンジョンの内容が変わるので、もし3人でゴーレムが出なかったらいったん引き返す予定だ。
「……お、来なさったぜ」
少し広い部屋にたどり着くと、徘徊をしていたゴーレムに出くわす。
身体は泥のようなものでできている……ということは、ゴーレムの中でもクレイゴーレムに分類されるのかな? 石でできたストーンゴーレムよりは防御が低そうなのはありがたい。
動きはゆっくりだが、こちらの動きをしっかりと見ている。
「……よし、まずはおれから行くぜ!」
アトラスさんが剣を持って正面からクレイゴーレムに突っ込んでいく。
クレイゴーレムはアトラスさんに反応して両手を振り上げ、勢いよく振り下ろす。
ズシン、と鈍い音がして床に拳が叩きつけられる。
「さすがに動きは鈍いようだな……喰らえ!」
アトラスさんは剣を両手で持ってクレイゴーレムの足に斬りかかる。
そして、剣がクレイゴーレムに当たる瞬間、剣が槌へと変化し、クレイゴーレムにクリーンヒットした。
「……!!」
クレイゴーレムがバランスを崩し、その場に倒れ込む。
その隙を逃さず、アトラスさんは武器を剣に変化させ、クレイゴーレムの胴体にある核に振り下ろし……再び剣は槌へと変化する。
「……!!!!!」
ガシャン、と音を立ててクレイゴーレムの核が割れ、クレイゴーレムが消滅する。
「おー、やっぱりこのチェンジウェポンは使い勝手がいいな」
「アトラスさんも習得していたんですね」
「ああ、おれも使ってみたくなってな。普通に振るよりも勢いがつけられるから、威力が増すみたいだな。ただ、使いどころを考えないとMP消費は激しくなるが……」
チェンジウェポンの消費MPは5だが、何回も使っていると積み重ねで馬鹿にならない消費量になるからなあ……。
でも、こうやってクレイゴーレムがあっさり倒せるのだから、消耗するよりはいいかもしれない。
「そういえばアテナさん、実際にあってみてゴーレムはどうでした?」
「そうですね……ゴーレムも意志のようなものがあるんだなと思いました。造られたものだから、人形使いのような誰かが動かしてる物だとばかり……」
「確かに……人形使いが使うというゴーレムとは別物なんですかね? それとも……」
「ま、とりあえず次のゴーレムに会ったら確かめてみようぜ」
「そうですね、それでは先に進みましょう」
その後もゴーレムたちに襲撃されながらも、なんとか俺たちはダンジョンを進んでいった。
一応周りも確認してみたものの、ゴーレムを動かしているような存在はいなかった。
これは、モンスターとしてゴーレムという種がいる感じなのかな。まあ、シールドのルシードが意志を持ってるし、そういうものなんだろう。
ちなみに、風属性補正の付いた武器でウインドカッターを放つと、数発でクレイゴーレムの足を切断できた。もちろん詠唱はちゃんとしたうえで、だ。
やはりゴーレムだけあって耐久力は高いな……これは攻略組が苦戦するのも頷ける。タイガさんやタケルたちは俺たちよりもパーティーレベルが高いから、更に強いゴーレムたちを相手にしてるんだろうな……。
そして、俺たちは第一階層のフロアボスの部屋の前へとたどり着く。MPはそろそろ枯渇する頃合いだ。
リビングアーマーと戦ったあとは引き返すことを決めて、俺たちは少し回復をした後にボス部屋に足を踏み入れる。
「…………」
中には、西洋風の鎧と兜、盾と大剣で構成されたモンスター、リビングアーマーが待っていた。
リビングアーマーは俺たちに気付くと、大剣と盾を構えて戦闘態勢に入る。
……しかし、中身のない武具がふわふわ浮いてるのは違和感があるなあ……ポルターガイストみたいだ。
「魔に研がれし風よ、鋭き刃と成りて我が敵を斬り裂け……ウインドカッター!」
アトラスさんは敵との距離があるうちに詠唱付きのウインドカッターを放つ。
しかし、リビングアーマーは盾でウインドカッターを受け止める。盾には少し傷がついたぐらいだ。
「ちっ、魔法防御も高いのか。厄介だな」
「散開して死角から攻撃しますか?」
「そうだな、鶴翼の陣っぽい感じで囲むぞ」
俺たちはリビングアーマーに対してVの字に展開し、リビングアーマーを囲むように布陣する。
両翼には俺とアトラスさんが位置取りをする。
「「ウインドカッター!」」
今度は詠唱なしで両翼からウインドカッターを放つ。
同時ならどちらかがクリーンヒットするはずだが……。
「……!!」
リビングアーマーは背後側のウインドカッターを盾で受け止め、正面側は大剣で受け止めてくる。
「おいおいおい……後ろに目でも付いてるのかよ……」
「でも目すらありませんからね……その分、感覚が研ぎ澄まされているのでしょうか……」
俺たちは今度は時間差でウインドカッターを放つが、やはりどちらも受け止められてしまう。
本当に後ろにも目が付いていると言わんばかりに、まったく死角がない。
『コウさん、アトラスさん、少しいいですか?』
その時、グループチャットにアテナさんから発信があった。
『アテナさん、何かありましたか?』
『はい、私が人形使いだからなのか、なんとなく魔力の流れが分かるんですけど……リビングアーマーに、壁の方から魔力が流れているように感じるんです』
『どの辺の壁か分かるか?』
『はい、私のいる方向とは真逆……リビングアーマーの後ろの方からです』
『……なるほどな。コウ、アテナ、リビングアーマーを狙うフリをして、魔法を壁に撃つぞ』
『『了解!』』
「魔に研がれし風よ、鋭き刃と成りて……ッ!」
アトラスさんが詠唱を始めると、リビングアーマーはアトラスさんに向かい、大剣を振り上げる。
アトラスさんはそれをギリギリで避けると、詠唱途中でウインドカッターを放つ。……わざとリビングアーマーを外すように。
そして、ウインドカッターは壁に命中し……。
「むーっ!?」
壁の方から声がする。
そして、その声があがると同時に、リビングアーマーがガクンと床に崩れ落ちる。
俺は声のした方に向かうと、そこには身長が1メートルもない、小人のようなモンスターが倒れていた。
「むぅ……」
……トドメを刺そうにも、小ささもあってこどものように見え、剣を刺すのを躊躇ってしまう。
「コウ、リビングアーマーは動かなくなったが……なんだコイツ?」
「おそらく、この子がリビングアーマーを操っていたのでしょうけど……」
「……むっ!? ……む、むぅ……」
アトラスさんと会話をしてると小人のようなモンスターが起き上がり、俺たちの方を見ておびえて震え始めた。
「怖いの? ごめんね、すぐに武器をしまってもらうから。アトラスさん、コウさん、お願いします」
「分かりました」
「……これでいいか?」
俺たちは武器をしまうと、小人の震えがようやく止まった。
そして、小人はアテナさんに近寄り……。
「えっ? ……ええっ!?」
「ど、どうしたんですか?」
「えっと……この子、ペットモンスターになりたいみたいなんです……」
「むーっ!」
そういえば、魔女はホウキを壊すことでペットモンスターにできたけど……。
この子の場合は、魔力でリビングアーマーを操っていることを見破って、先にこの子を倒すことでペットモンスターにできるのか……?
「それじゃあ、これからよろしくね、ムーちゃん」
「むーっ!」
……こうして、俺たちはゴーレムたちの観察に来たつもりが、まさかの大収穫を持ち帰ることになるのだった。




