イベント開始
多くのプレイヤーがビーのハチミツでマジックポーション(美味)を作り始めて、市場に出回ってきたころ、イベント開催が近づいていた。
ほとんどのプレイヤーたちがイベント開始を待ってそわそわする中、俺たちはウルフレースのコースを造ったり、回復アイテムを作ったり、いつも通りの作業をこなしている。
ものづくりギルドを作るからと集まった人たちだから、基本的には何かを作ってることがほとんどだしね。
もちろん、必要な素材がダンジョンなどにあれば、採取に行くだけの実力はある程度は持ち合わせているけど。
今回のダンジョンも、内部に新しい素材があればギルドでパーティーを組んで採取に赴くだろう。
「コウ、ビーのハチミツの研究結果が出てるみたいだぞ」
「アトラスさん、本当ですか? どれどれ……」
ビーが採取する蜜の種類によって、回復量にどんな違いが出るのかをまとめた情報が掲示板に貼られているらしい。
覗いてみると、今ある花での回復量の下限は55で上限は70、回復量は5刻みで上がっていくとのことだ。
俺が作ったものが最高値となると、ヴァノリモ大森林のビーたちは良質な蜜を採取していることになるな。
ちなみにクイーンビーのハチミツを使ったマジックポーション(美味)の回復量はなんと140。実に2倍もの回復量になる。
これは、レアモンスターであるクロウレギオンがドロップする、ハイマジックポーションの回復量の100を上回るもので、欲しがる人がかなり出るのではないだろうか。
そして、もしハイマジックポーションのレシピが分かれば、ハイマジックポーション(美味)が作れるようになり、更に回復量が増えるのではと考えている。
……まあ、同じようにハチミツを加えただけで変化がある保証はないのだけれど。
ほかにも、ポーションの作製過程でハチミツを加えるとポーション(美味)になり、回復量が50から75に上がる。また、ランクCのポーション(美味)の場合は100になり、ハイポーションの回復量に並ぶことに。
更にハイポーションも美味化でき、こちらも回復量が100から130になるなど、ビーのハチミツの効果は絶大なものとなっていて、取引の相場がかなり上がっている。
俺はヴァノリモ大森林のビーたちにほぼ毎日もらっているけど、自分の周り……お世話になってるギルドのみんなやタイガさんやタケルに配りはするものの、残ったものを売りには出していない。これから先、更に新しいレシピが判明したとき、どれだけ必要になるか分からないしね。
ちなみに、レイ……アルラウネの蜜でもほぼ同様に効果の上昇の恩恵が受けられる。
ただし、上昇率はビーのハチミツよりも低めで、回復量が50から55~60に上がるぐらいだ。
それでも、ビーのハチミツを入手できないプレイヤーは、こちらを作ることで回復量を上昇させることができる。アルラウネをペットモンスター化する方法が分かっていることも大きいだろう。
……なお、クイーンドリアードさんからもらった樹液はまだ使っていない。ちょっと畏れ多すぎるというかなんというか……。あ、ちなみにアイテム説明はこんな感じになっている。
【クイーンドリアードの樹液:ランクA+、高レベルのクイーンドリアードの樹液。糖分を豊富に含み、精製された砂糖よりも甘いと言われる。クイーンドリアードは自分の樹液を他人に渡すことは滅多になく、幻の樹液と呼ばれている。もし樹液を渡されたのなら、相当なお気に入りということだろう。誇っていいよ。】
……なんで最後でフランクになるんだよ!?
さておき、俺は普っっ通に渡されたんだけど? しかもレイの蜜と引き換えに。
普段からいろいろ納品しているとはいえ、クイーンドリアードさんも自分の樹液の価値が分かっていないはずがないと思うのだが……。
まあ、説明文とはいえ流石に幻だと言われたらおいそれと使えないよね。そうだねエリクサー病だね。
「……そういえば、ウルフレースの新コースのお披露目はいつにするんだ?」
「そうですね、イベント開始日と同日だと人がバラけると思いますので、イベント開始の翌日にしましょうか」
「イベントダンジョン2日目にもなると、情報も集まってきて離脱する人もいるだろうしな。それがいいと思うぜ」
ウルフレースの新コースの方も、ギルドメンバーの協力のおかげで完成が近い。
一番苦労したのはアップダウンのコースだな……スキルの陥没と隆起だけだと立方体をそのまま上下したものになるから、傾斜の手入れが必要だからだ。
手間がかかった分、自分もギルドメンバーもこのコースが一番愛着があったりする。
試走した時も、スコールをはじめとしたウルフたちにはこのコースが一番人気だった。
二番目は直線コースで、三番目はクランクコース。直線コースは、本当に自分の速さが分かるからかな?
クランクはたぶん、直角に曲がらないといけないので、足に負担がかかりやすいのがあるから不人気かな……テクニカルなコースだから、玄人人気は出そうだけど……どうだろうか。
「それでは開催日には以前同様にクイーンドリアードさん、キングウルフさん、アルラウネさん、シルフィーさんを呼びましょうか。あと、今回はできたらクイーンビーさんにバンシーさんも呼べたらいいかなと」
「……挙がった名前を聞くと、やっぱりコウの人脈すげえな……エルダートレントも含めて全員上位種だしさ……」
「本当に偶然に偶然が重なってるんですよねえ……」
俺にはそういう縁でもあるのだろうか?
まあ、その縁のおかげでいろんなプレイヤーの人の役に立ててるのもあるし、ありがたいところだ。
「コウさーん、そろそろ最終調整に入りますよー」
「分かりましたー、終わったらまた試走しましょう」
こうして、俺たちはコースの最終調整を始めるのだった。
**********
──そして、イベントの特殊ダンジョンが解禁されたその日の夕方のティルナノーグ。
「おー、やっぱりどこもかしこも特殊ダンジョンのスレッドばっかりだな」
「アトラスさんも情報収集中ですか?」
「ああ、どうやら今回はパーティーメンバーのレベルの合計によってダンジョンの構成が変わるらしい。初心者でも参加できるようにといった配慮みたいだな」
「あ、それなら安心ですね。ちなみに、マジックポーション(美味)は普通のマジックポーションとは別物扱いのため、持って入れる個数が増えると聞きました。ただし、回復量が違うマジックポーション(美味)はランク違いと同じ扱いになるそうです」
「さすがにそれは許してくれなかったか……でも、(美味)のあるなしをそれぞれ持って入れるなら、明日から取引の値段が上がるだろうなあ」
タケルやタイガさんはイベント開始後に、即刻結果報告を送ってくれた。
マジックポーションを多く持ち込めたぶん、探索も捗ったそうだ。
ただ、今回のダンジョンはやはり難しいようで……。
「しっかし、持ち込み個数に制限があるのに、アイテムとかの消耗が激しいモンスターで構成されてるのはえげつないよな」
「物理攻撃が効きづらいゴーレムが主体で、1層のフロアボスにはリビングアーマーでしたっけ」
「ああ、どっちも物理防御には定評のあるモンスターだからな……武器の消耗が激しくなって、撤退に追い込まれるパーティーも多いみたいだ」
ちなみに、リビングアーマーとは甲冑が魔法か何かの力で動いているモンスターだ。
アテナさんのルシード……シールドの上位種みたいなものなんだろうけど……残念ながらペットモンスターは連れて入ることができない。今後、どこかで通常モンスターとして出てくればいいんだけど。
「予備の武器も持ち込みアイテムの個数に含まれるので、武器を持ち込み過ぎたら回復アイテムが、回復アイテムを持ち込み過ぎたら今度は武器がおろそかになるんですね……」
「ああ、100個までって言うのが曲者だな。レベルが高くなれば割合回復のアイテムが輝くが……コウ、お前の椅子がまた大活躍するんじゃないか?」
「あー、確かに……」
ドリアードの椅子なら1分ごとにMPが最大MPの1%するし、10分の間MP自動回復効果が付与されるポーションオブフォレストもある。
ただ、前者は休めるところ……セーフティーエリアがあるかどうかで使い勝手が変わるし、後者はレベルによってはハイマジックポーションで回復した方が回復量が多い場合もある。なかなか難しいところだ。
「まあ、必要になったら作りましょうか。まずはウルフレースの開催準備をがんばりましょう」
「そうだな、イベント中でもプレイヤーの息抜きは必要だしな。常にイベントに全力なランカーはおいといて……」
こうして、俺たちは翌日開催されるウルフレースの最終準備を始め……。
「本日はイベント中にもかかわらず、お集まりいただきありがとうございます。リアルタイム配信でご視聴中のみなさまも今日はよろしくお願いします」
『新コース楽しみ!』
『イベントダンジョンは情報が集まるまで待つから、こっちで楽しませてもらうよー!』
なるほど、攻略情報待ちのプレイヤーもいるのか。
確かに、消耗が激しすぎるとお財布に大打撃だからな……。
「それでは今日のゲストを紹介させて頂きます」
『かわいい四天王かな?』
『俺はシルフィーちゃん推し』
『私はキングウルフさん。もふもふしたぁい……』
かわいい四天王とは……。
まあ、人気があるのはいいことだ。たぶん。
「まずはレースの覇者、キングウルフさん」
「今回も良い走りを期待しているぞ」
『きゃー! もふもふー!』
『背中に抱き着いて毛を感じたい……』
「次に、ヴァノリモ大森林のクイーンドリアードさん」
「さあ、ワシを楽しませるが良い」
『クイーンドリアード様……尊い……』
『そのジト目……もはや殺人級のかわいさ……』
「トレントの島のアルラウネさん」
「今回も一緒に楽しもうぜー!」
『アルラウネの姐さーん!』
『貴女の僕になりたい……』
「シルフの上位種のシルフィーさん」
「ごーごー、れっつごー。かっとべまぐなーむ」
『不思議な雰囲気がいいよね……』
『いい……』
……なんか、みんなコアなファンがついてるなあ……。
ちなみにキングウルフさんは女性人気が高いらしい。
「今回が初参加のバンシーさんになります」
「うふふ……みなさん初めまして。よろしくね」
『四天王が……5人いる!?』
『あらあらうふふは凶悪過ぎる……ママーっ!』
『がああっ! 母、母性力が違い過ぎる……』
「同じく初参加のクイーンビーさんです」
「ワタクシ、レイおねえさまが大好きですの!」
『6人目!? やはりたらし神……』
『むう……しかも百合要素アリか…………私はいいと思う!』
……なんかコメント欄があったまってきたな……。
盛り上がる分にはいいんだけど、他の人に迷惑はかけないようにね、とやんわり注意しておいた。
「……さて、今回のコースは3種類になり、複数のウルフで競うコースもあります。なお、今日のイベントが終わりましたら運営に移管しますのでよろしくお願いします。それでは、まずは直線コースから始めていきましょう!」
**********
「──今回も面白かったのう」
「うんうん。特にキングウルフが直線コースに乱入して他のウルフをなぎ倒していって、1位を取ったシーンは感動的だったー」
「そんなシーンなかったと思うの……」
あ、クイーンビーがツッコミ係になるなんて珍しい。それだけシルフィーさんが自由過ぎるんだろうけど……。
「うふふ……こんなにドキドキするのは初めてよ。みんながんばってて、応援してあげたくなっちゃうし」
「アタシはみんなにも見せたかったなあ。でも大所帯でここまで来るのは大変だしねえ……」
「あ、それなら……アルラウネさん、これは見られます?」
俺は配信の一部を切り取った動画をアルラウネさんに見せる。
果たして、ウィンドウがアルラウネさんに見えるのだろうか……?
「へえ、人間はこんなことができるのか。不思議な魔法だな」
「それなら、今度島に行った時にみんなで見ませんか?」
「お、いいのかい? それじゃあお願いしようかね」
「分かりました。後で日程を相談しましょう」
……こうして、第二回ウルフレースは盛況のうちに幕を閉じた。
ちなみに直線コースはもちろんキングウルフさんの独壇場。
そもそも、3倍のスピードで動けるスキルの『神速』が強力過ぎて敵なしというか……。
アップダウンでも勢いを付けてジャンプしてショートカットしてたし、クランクでも緩急を付けるのがうますぎて敵なしだった。
「称号はもらえないのか?」
と、ワクワクした目で見られたが、俺は運営ではないから称号の付与はできないので、それとなく伝えるとちょっとしょんぼりしてた。
ただ、運営に移管した後はおそらく称号ももらえるようになると思うので、そこまで待ってもらうことにするのだった。




