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動画撮ってみた

「おはようコウ、掲示板はもう見たか?」


 出社早々、タケシが話しかけてくる。

 まあ、一応毎日チェックはしてるけどさ。


「ん? 会社の掲示板なら内容は昨日と変わってなかったけど」

「ああ、言い方が悪かった。ワールドクリエイターズの方だ」

「いや、見てないけど何かあったのか?」

「そうだな、新しいレシピが発見されてお祭り騒ぎだったぞ」

「ぶふっ!」


 思わず吹き出してしまう。

 そしてタケシはそれで確信を持ったようで、言葉を続ける。


「その反応ってことは……あれ見つけたの、コウだろ? 確かペットモンスターはドリアードって言ってたし」

「……まあ、そうだな」

「なんでポーションオブドリアードの作り方の動画は投稿してないんだ? 絶対バズってものづくり資金も稼げるハズだろ?」

「ええと……その……」

「まあ、コウは昔っから人前での発表とか苦手だったからだと思うが」

「分かってるじゃないの」

「何年一緒だと思ってるんだよ」

「……まあ、そういうことだ。多分そのうち誰かが投稿するだろ」

「いや、そうもいかないようだぞ? 掲示板見てみろよ」


 俺はタケシのスマホを覗く。

 ワールドクリエイターズをプレイするにはVR機器が必要だが、掲示板や更新情報を見るには連携アプリさえあればいい。

 『情報は常に最新のものを!』ってタケシが言ってるように、さまざまな情報が集まっているから掲示板チェックは欠かさないらしい。その熱量をもっと仕事にも活かしてほしいところなんだが……。


「んん……? 『ドリアードが作業をしてくれない』……?」

「ああ、他にも『錬金術に興味を示さない』、『やらせてみようとしたけど、嫌がられる』とかもあるな」


 おかしいな、うちのライアはめちゃくちゃ興味津々だったけど……何かが違うんだろうか?


「で、今はこうだ」

「『レシピを発見した人、動画を投稿してくれ! 頼む!』、『このポーションがあれば持ち込み制限ダンジョンが踏破できるかもしれないんだ、俺からも頼む……』……」


 ……などなど、結構切実な言葉がどんどん出てくる。


「あ、ちなみに俺もその1人だ。実はまだ持ち込み制限ダンジョンがクリアできてなくてさあ」

「なるほど……確かに『HPが回復する椅子』でタイガさんは回復手段を増やして踏破したけど、ポーションオブドリアードがあれば持ち込めるポーションが増えて……」

「そういうことだ。まあお前がポーションの流通を独占したいなら止めないが……」

「いや、流石に俺だけで流通させるのは無理があるだろ。アクティブプレイヤーが何人いると思ってるんだ」

「まあな。でも動画を撮るのが気乗りしないってなら、無理してまでやらなくてもいいんだぞ」


 確かにポーションの作成動画の再生回数が一千万を超えているから気後れはする。それぐらいの人に見られるかもしれないからだ。

 でも、俺が動画を撮ることで助かる人がいるなら……。


「……やるよ。ただ、ちょっと手伝ってくれないか? こういう動画は作ったことがなくてさ」

「ああ、それなら今日の業後にホームに行くよ。……っと、そろそろ始業時間だな」

「それじゃあ早く終われるように今日はがんばるか」

「よし、そうと決まれば120%の力を出してやる」

「出そうとして出せるならいつも出せよ」

「ハハハ、そりゃあそうだな」


 などと軽口をたたきながら、俺たちは業務を始めるのだった。




**********




「──以上が、ポーションオブドリアードの作り方です」

「うん、まあまあよくなってきたんじゃないか?」

「ならいいんだけどな……」


 有言実行。いつもより早く業務を終わらせると、ホームで動画を撮るためのリハーサルをしている。

 今はそれぞれのパートをようやく終わらせたところだ。


「それじゃあ、通しのリハーサルをやってみるか?」

「ああ、分かった。それじゃあライア、こっちに来て」

「きゅーっ♪」


 ライアは急にタケルがホームに来たので、最初はちょっとおどおどしていたが、今ではいつも通りのライアに戻っている。タケルが悪いやつじゃないって分かったからなんだろうな。

 様子が普段と違ってたらポーションの作成に影響が出て失敗するだろうし、これについては一安心だ。


「よし、じゃあ早速始めてくれ」

「ああ」




**********




「それでは、ポーションオブドリアードの作成を始めていきます。まずは普通のポーションを作る工程をこなしていきます。ドリアードに最初からの作業をしてもらう必要はありません」


 俺は薬草をすり潰し、それを魔法水に入れる。

 ここまでは普通のポーションと同じだ。


「普通のポーションならここで自分で魔力を送り込むのですが……ポーションオブドリアードの場合は、ここでドリアードにバトンタッチします。おいで、ライア」

「きゅーっ!」


 すり潰した薬草の入った魔法水の前に、ライアがピョンと跳ねて登場する。


「それじゃライア、いつも通り魔力を送ってみて」

「きゅー……」


 ライアが魔法水に魔力を送り始める。

 そして……。


「きゅーっ」

「お疲れ様、ライア。……これで作業は終了です。それではステータスを表示しますね」


【ポーションオブドリアード:ランクD、木の精霊であるドリアードの魔力が籠った特別なポーション。普通のポーションよりも効果がある】


「……自分たちがポーション作りで最初は失敗していたように、慣れないうちはドリアードも失敗するかもしれません。実際に、うちの子も最初は失敗しました。ですが、粘り強く教えてあげれば、きっと魔力の操作に慣れてくれるはずです。……以上が、ポーションオブドリアードの作り方です。……お疲れさま、ライア」

「きゅーっ!」


 俺は無事に通しのリハーサルを終えると、ライアを撫でてあげる。

 ライアは嬉しそうにしながら、俺の方を見る。


「カーット! コウ、お疲れさまだ」

「ああ、ありがとう。本番でもこうやってできればいいんだけどな」

「あ、もう撮り終えたぞ」

「…………え?」

「実はカメラ回してた」

「……はああ!? なんで言ってくれなかったんだよ!?」

「だってさ、コウは練習ではうまくできるけど、本番だとガチガチに固まるじゃん? ならリハーサルと称して撮ればいいってことに気づいてさ」


 ……さすがは幼馴染だ。俺のことをよく分かってらっしゃる。


「きゅー?」


 俺が大声を出してしまったからだろう。ライアが心配そうにこちらを見つめる。


「あ、大丈夫だよライア。ちょっと驚いただけだから」

「きゅーう」


 ライアはふわりと浮き上がると、俺の頭を撫でる。

 ……うーん、ライアに心配させてしまったことは反省しないとな。


「それにしてもお前たちは仲がいいなあ。何か秘訣でもあるのか?」

「いや、普通にしてるだけだけど……」

「でも、掲示板だと『作業をしてくれない』とか、『錬金術に興味を示さない』とか、あっただろ? 仲がいいならそういうことはないだろうと思ってさあ」

「うーん……確かにそうかもしれない。なんの違いがあるんだろ」

「それはオレにも分からないが……ま、動画をアップしたらコメントで根掘り葉掘り聞かれると思うから、行動をよーくよく思い出しておくといいぞ」

「う……そういえばコメントなんてものもあるのか……」


 まあ、荒らしとかの悪質なやつは最悪垢BANもあるから、そういうのはなかなか出てこないだろうけど……今までの行動はしっかり思い出しておこう。

 といっても……エインズの町に連れて行ったのと、椅子をプレゼントしたのと、服をプレゼントしたのと……あとは魔石を毎日与えてるぐらいか?

 どれもこれもみんな普通にやりそうなんだけどなあ。


「とりあえず動画の前後の余分なところはバッサリ斬り捨てておいたから、あとは確認してアップするだけだな」

「ありがとう……って、俺がアップするのか?」

「そりゃそうだ。じゃないと収益がコウのものにならないだろ」

「なんかさ……俺に管理できるか心配でさあ」

「ま、確かに不安はあると思うさ。でも、何事も実際にやってみないと、合う合わないって分からないもんだぜ? ここは現実じゃないから、失敗なんて恐れずなんでもやってみるのもいいものだぞ」

「そっか……そうだな」


 実際にこのゲームを始めてからものづくりの楽しさを再確認できたし、フリーマーケットで誰かと交流するのも楽しかったし、俺の作ったものが使われるのも嬉しかった。

 新しいもの(VRMMO)を『自分に合いそうにない』って拒絶するのは簡単だけど、それをしてたらこういう体験はできなかっただろう。


「……せっかくだからこの際、もっといろいろやってみるか!」

「その調子だ。オレにできることであれば手伝うぜ」

「ありがとなタケル。それじゃいつ動画をアップするかだけど……」

「時間を指定しての予約投稿ができるから、それを使うといいぞ。人気の時間帯は日付変更前後ぐらいだな、寝る前にチェックする人も多いし」

「じゃあ、それより後に投稿するのがいいかな……? そこで一気に動画が投稿されたらすぐ流れていくだろうし」

「まあ、話題のアイテムの作成動画だから、タグを付けてればいつでもいいと思うぞ。タグが付いてれば検索して掘り起こす人もいるしな」

「よし、それじゃあ……」



「ふぅ、こんな感じかな」


 俺はタイトル、タグ、説明文などを設定して、予約投稿機能を使ってアップするようにした。

 問題なければ、日付変更後の24:30にアップされるはずだ。


「お疲れ、それじゃオレはこれで……」

「あ、ちょっと待ってくれ」

「ん? まだ何かあったか?」

「ほら、これ」


 俺はタケルにリハーサルで作ったポーションオブドリアードを2個渡す。


「足りないようなら(お金)も渡すぞ。さすがに無料でここまで教えてもらうのはアレだからな」

「おいおい……いいのかよ。まだ市場に出回ってないから、これの相場がいくらになるか分からないんだぜ? 相当高価になると思うが……」

「ポーションはHP50回復で100Gだろ? ポーションオブドリアードはHP80回復だから、高くても2倍ぐらいだと思ってるが……」

「いやいや、需要を考えろ需要を。持ち込み制限ダンジョンがクリアできるようになる……かもしれない垂涎の品だぞ? 初動はもっといくはずだ」

「特需的なやつか……それなら3倍、4倍どころか5倍にもなりかねないか……?」

「ま、作り方動画で作り手が増えればそのうち適正価格に落ち着くとは思うが……それまではそうなるかもな」


 うーん、なかなか難しいバランスだ。

 あまり高くなりすぎても、転売が横行するかもしれないし……。


「そういえば、転売対策とかはできないのか?」

「あ、やっぱりそれが気になるか。実はアイテム作成者はアイテムの詳細で『売買可能回数』ってのが設定できてな。これを超える回数の売買はできないようになってる。1回ならフリーマーケットとかで売ったら、買ったプレイヤーしか使用できないようになるぞ。ちなみにデフォルトは10回だ」

「へえ、ちゃんとそういう対策もできるようになってるんだな……その辺も考えつつ、ものづくりをやっていくよ」

「ああ、それじゃオレは次の土日で持ち込み制限ダンジョンが踏破できるように、アイテム集めとレベル上げやってくるわ」

「引き留めてすまなかったな、それじゃまた明日」

「ああ、またな」


 ……まだまだ知らない機能がいろいろあるんだな。

 それにしても、VR上のアバターとはいえ、自分の動画が誰かに見られる日が来るとはなあ。

 不安もあるが、誰かの役に立てたら嬉しいな。


「きゅー」


 そんなことを考えていると、ライアが服の裾を引っ張る。


「ああ、ごめん。それじゃ、魔石を食べたらいろいろやろっか」

「きゅー!」


 こうして、俺は就寝時間までライアと一緒にものづくりを楽しむのだった。




**********




 ──24:30過ぎ。ワールドクリエイターズ内の掲示板にスレッドが立つ。


『おい、さっきアップされた動画見たか!?』

『ああ、作れてるじゃねえか……ポーションオブドリアード! そうか、最初から全部任せなくてもいいんだな。これならワンチャン作れるか……?』

『実は俺、早速真似してみたんだけどさ……ドリアードが言うこと聞いてくれない……普段の戦闘とかは普通に言うこと聞いてくれるのに……』

『あのさ……うちの子ここまで懐いてくれてないんだけど……うp主たちなんかすっごいラブラブなんだけど? 何が違うんだ……まだ実装されてそんなに経っていないのにこの違い……』

『もしかして、好感度か何かが隠しステータスである? 好感度が高ければ、戦闘とか以外でも言うこと聞いてくれるとか……』

『っていうかさ、あのドリアード……ライアちゃんって言ったか? あの子が着てる服ってどこで手に入れりゃいいんだ?! うちのドリアードにも着せたいんだけどさ、ペットモンスター用の服なんて売ってる店あったか……?』

『ない。自分の行動範囲内では、だけどな。……だとすると特注品か何かか? 作ってる人の詳細が知りたい……』


 ……などと、ポーションオブドリアード以外の話題でも盛り上がってるのを知るのは、翌日タケシが見せてくれてからになるのだった。

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