イベント準備
「ふぅ、今日はこの辺にするかな。ライア、お疲れ様」
「きゅーっ!」
イベント発表後、俺たちは引き続きウルフレースの新コースを作製していた。
直線コースは地面を均すだけなのですぐにできたが、クランクとアップダウンのコースはまだ時間がかかりそうだ。
……ちなみに、今あるコースのすぐ隣に造っているものだから見学者も多く、中には応援してくれる人もいる。
「新しいコースができた時はすぐにきますねー!」
と、期待してくれている人も多い。
がんばっていい物に仕上げたいな。
「そういえばコウ、おれたちの他にもウルフレースのコースを造っているギルドもあるらしいな」
「そうなんですか?」
「ま、ウルフレース自体には特許はないからな。少し引っかかる気持ちはあるが……」
「俺としてはコースはたくさんあってもいいと思いますね。うちのコースだけだと、やっぱり待ち時間が長くなってしまうとかありますし……その待機人数を分散できれば、参加者にとってもいいとは思うんですよね」
それに、他のギルドが造るなら、そのギルドならではの特徴とかも出てきそうだしね。
バリエーション豊かになれば、それだけ楽しめるウルフも出てくるだろうし。……そして、コースの数だけ称号も増えていくだろうし……。
「ま、コウがいいなら構わないかな。おれたちはおれたちで出来ることをしっかりやるか」
「ですね、がんばりましょう」
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「……さて、余ったMPはマジックポーションの製作に回すかな」
イベントが1週間後と割と近いので、今のうちに作っておかないとね。
レイたちにも手伝ってもらおう。ライアとレイは光合成でMPを回復できるし。
「……そういえば、ビーたちのハチミツのステータスを見てなかったな」
実はマジックポーションって微妙に苦いんだよね。
良薬は口に苦し、とは言うけど……おいしい方が飲みやすいし絶対にいい。
ハチミツを混ぜたらおいしくならないかなあ……あとマジックポーションGとかになったり……。
などと、余計なことを考えつつ、ハチミツのステータスを表示する。
【ビーのハチミツ:ランクC、ビーたちがせっせと集めた蜜を巣で加工したもの。とても甘くておいしい。パンなどに塗って食べよう。】
【クイーンビーのハチミツ:ランクB、ビーたちがせっせと集めた蜜を、クイーンビーが加工したもの。本来、ハチミツを作るのは働きバチであるが、この世界では女王バチもハチミツを作るようだ。ビーのハチミツに比べて、糖度が更に高くて甘い。そのまま食べても充分満足できる味だ。】
へー、結構ランク高めなんだな。そして説明文見てたらパンが食べたくなってきた……これがステマってやつか……。
さておき、これをマジックポーションを作る時に混ぜてみよう。
まずはビーのハチミツから……入れるタイミングはどうしよう? 魔草と純水を混ぜる時か……それとも混ぜ終わってろ過した後からか……。
とりあえずは前者を試してみようかな。
「よし、魔草2つをすり潰して純水に入れて……そこに隠し味としてビーのハチミツを少々……」
そして、ゆっくりとかき混ぜていき……。
【マジックポーション(失敗作):飲むとMPが50減少する。なぜMPが回復する魔草を入れて減少する効果になるのか……まったくもって意味不明である。】
……うん、失敗だな。
変な化学反応でも起こしたのかなあ。
気を取り直して、次は魔草と純水を混ぜ合わせ、ろ過したものにビーのハチミツを足してみる。
そして、少しゆっくりかき混ぜていくと……。
【マジックポーション(美味):ランクD、飲むことでMPが70回復する。ビーのハチミツが、マジックポーション独特の苦みを消し、ほのかな甘みを感じることができるようになった。革命ですよこれは。
良薬は
口に苦しと
言うけれど
おいしい方が
絶対いいよね
飲用者、心の一句】
……よし!
少しレシピを足しただけだからなのか、今回は特許申請画面は出てこなかった。
まあ、ハチミツを少量足しただけだしね。
……心の一句はスルーしておこうかな……ツッコんだ方がいいのかな……。
いや、触れた時点で俺の負けか。
……そういえばこれ、アイテム名が若干違うけど、マジックポーションとは別扱いになるんだろうか?
それなら、マジックポーション10個とマジックポーション(美味)を10個ずつダンジョンに持って入れるようになるか……?
まあ、持って入れないとしても、マジックポーションより回復量が20も多いから、こちらを持って入るのが良さそうかな。
その後、レシピが分かったのでマジックポーション(美味)を量産してから、本日はログアウトするのだった。
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「コウ、急にオレたちを呼び出すってことは何かあったのか?」
「うむ、儂もまさかタケルと同時とは思わなかったな」
翌日、俺はタケルとタイガさんにホームに来てもらった。
用件はもちろん、昨日作製したマジックポーションだ。
「まずはこちらのマジックポーションを見てください」
「……ほう、普通のマジックポーションに比べて効果が高いな」
「それに美味しいのか。その……(美味)って表現はおいといて……」
「それで、今回お二人に来てもらったのは、これを普通のマジックポーションと同じ扱いになるのか、それとも別扱いになるのか、イベントが始まったら確かめて欲しくてですね……」
俺は微妙に名前が違うから、別種のアイテムとなるか確かめて欲しいと2人にお願いする。
この2人のギルドならイベントダンジョンにも開始早々乗り込むだろうし、効果の高いマジックポーションを持っていて損はないだろうしね。
俺としては別種のアイテムか知れるし、2人は効果の高いポーションを持って入れるし、お互いに損はないはず。
「確かに、ペットモンスターを連れていけない分、MP管理は普段より大変になるからありがたいな……」
「もし、ダンジョン内に魔法しか効かない敵が出てきたらなおさらだろう。……しかしコウ殿、こんな貴重なものを頂いてもいいのだろうか?」
「ええ、この通り量産は既にできてますし……」
俺は昨日と、今日2人が来る前に作った、計30本のマジックポーション(美味)をアイテムボックスから机に取り出す。
「おいおい、もうこんなに作ったのかよ……」
「……む、でもおかしくはないか?」
「タイガ、どうしたんだ?」
「新しいアイテムのはずなのに、レシピが公開されていないだろう? 確か、今日までにアナウンスもなかったはずだが……」
「あ、それなんですけど……」
俺は、マジックポーションのレシピに隠し味としてビーのハチミツを入れたことを2人に話す。
そして、特許申請画面も開かなかったことも併せて伝える。
「ふむ……『同じマジックポーションで味を変えただけ』だから、特許としては薄いということだろうか?」
「味を変えるだけで特許を取れるなら、いろいろな味変をすればそれだけたくさんの特許を取れてしまうからな……特定のプレイヤーに特許を集中させないためもあるかもな」
「しかし、これだと特定のプレイヤーだけが製法を知って独占することもできるだろうが……まあ、その辺は発見者の匙加減といったところか」
「俺としてはレシピを公開してもいいんですけど……少し問題がありまして」
俺はビーのハチミツの入手方法が、現在はほぼ存在しないことを話す。
俺がハチミツをもらえたのも偶然だし、狙ってハチミツを採取はなかなか難しいはず……。
「そうだな、今まで『ビーのハチミツ』というアイテムを手に入れたことも、フリーマーケットなどで売っているところを見たことがないな」
「……最初のモンスターの卵から、ビーが孵化したプレイヤーなら持っているかもしれぬな」
「ああ、確かにそういうスキルもあるかもな。もしくは、スキルではなくてモンスターとしての習性か……」
「それなら、俺が動画を作製して公開しましょう。ビーをペットモンスターにしているプレイヤーからコメントが付くかもしれませんし」
実際にレックスさんはポーションオブウンディーネが作れたことを伝えてくれたしね。
数多くいるであろう、ビーがペットモンスターのプレイヤーの誰か1人でも反応してくれれば、ビーのハチミツが手に入ることが分かるだろう。
「……ということで、お2人にはマジックポーション(美味)を10個ずつ、それから調合用のビーのハチミツをお渡ししておきますね」
「……良いのか? フリーマーケットで売れば繁盛するだろうに」
「ええ、協力して頂くお礼でもありますから」
「オレは遠慮なくもらっていくぜ。今度のダンジョンの攻略に必要だろうしな。……代わりに、ダンジョン内で手に入ったアイテムの一部はコウに譲るぜ」
「うむ、儂もそうさせてもらおう」
「ありがとうございます、それではよろしくお願いします」
こうして、2人の協力を取り付けられたのだった。
さて、俺は動画の作製をしなきゃな……。
**********
「──ということで、以上がマジックポーション(美味)の作り方です。ハチミツ以外でも同じようなものが作れたら、まだ動画にしますね。それではご視聴ありがとうございました」
……これでよし、と。
あとはみんなの反応待ちかな。
「おっと、普通のポーションでも同じように(美味)を作れないか後で試そっと」
……しかし、(美味)って微妙に言いづらいんだよね……『おいしいマジックポーション』とかじゃダメだったのだろうか?
まあ、失敗した時のやつもマジックポーション(失敗作)だし、分かりやすさへの配慮かな? あと、名前順でアイテムをソートした時の並びとか。
……などとどうでもいいことを考えていると、動画にどんどんコメントがついていく。
そして、そのうちの1つに……。
『うちのビー、畑に花を植えていると蜜を集めています。そして、ホーム内にある木に巣を作って貯め込んでいるようです。今度、ビーに許可を取って採取してみますね』
どうやら予想はビンゴだったようだ。
スキルとは書いていないので、おそらく習性なのだろう。
更に、ホームに花を植えていないと蜜を採取しないことから、ビーをペットモンスターにしていてもこのことを知らないプレイヤーもいるはず。
『嘘だろ……俺、畑に花なんて植えてなかった……』
『オレもだぞオレ。薬草とか魔草とか、実用性のあるものしか植えたことない』
『ちょっと花植えてくるわ』
『行動力の化身』
『町で花の種を売ってるのは知ってたが、こういう使い方もあったのか……てっきり愛でるだけのものかとばかり……』
『ガーデニングはいいぞ、心が洗われる。あとアルラウネが喜んでくれる』
『ほう……それはいいことを聞いた』
……などなど、コメント欄は盛況だ。
しかし、一気にこうやって知識が集まってくるのを見ると、集合知って凄いな。
そして、実際にビーの許可を得てからハチミツを採取したプレイヤーが出てきて、マジックポーション(美味)の作製に成功したらしい。
……しかし、若干効果に違いがあるようで……。
『俺の作ったマジックポーション(美味)はランクCでもMPの回復量が65でした。何が違うのでしょうか?』
『もしかして、ビーの集めた蜜の種類が違うんじゃね? 現実だとハチミツと言っても、アカシアとかレンゲとかあるしさ』
『なるほど。その辺を研究して、効果が高くなる花を栽培するのもよさそうだな』
その後、掲示板に専用のトピックが立てられて、ビーのハチミツについて研究するプレイヤーが出てくることに。
最初はビーのハチミツの情報が出てくればいいなと思って作った動画だったけど、ビーをペットモンスターにしているプレイヤーたちの交流の場ができて良かったなと思うのだった。




