新イベント予告
「──さて、今日もまずはビーたちに蜜を届けに行って、その次にクイーンドリアードさんの所にも行こうかな」
俺はレイの作ってくれた蜜をビンに詰めて、出かける準備をする。
毎回レイだとライアやスコールに怒られるので、今日はライアを連れて行くことに。
スコールはレイと遊んでいてもらおうかな。スコールが進化して大きくなってからは、ライアもレイもスコールの背中の取り合いだし。
……そのため、最近スコールはお留守番が多いのだが……。
「それじゃあライア、行こうか」
「きゅーっ!」
ライアが進化して大きくなってからは、ふわふわ浮きながら俺の隣にいるのがホームポジションとなっている。
システムで進化前の姿に戻すことも可能だけど、ライアは進化後の姿が気に入っているらしい。
進化前に戻しても、すぐに進化後の姿に戻して欲しいと目で訴えてくるのだ。
クイーンドリアードさんいわく『そりゃそうじゃろ、好きな者と同じ大きさで隣にいる方が嬉しいと言っておるぞ』とのこと。
……さすがに直球でそこまで言われると照れてしまうのはライアには内緒だ。
とまあ、そんなこんなでライアとのんびり散歩がてらビーたちの巣へと足を運ぶことに。
「えーっ! 今日はおねえさまいないんですのー?!」
開口一番がこれである。さすがレイ大好きクイーンビー。
最初はさん付けで呼ぼうとしたけど「お義父さまは呼び捨てでいいですの!」と言われた。なるほど、まずはレイの外堀から埋める作戦か。
……それはさておき。
レイがいないとガッカリするだろうなとは分かってはいたけど、ここまでとは。
一応、ライアと交代はできるんだけど、レイがたぶん拒否する。たまにはゆっくりしたいのだろう。
「たぶん、今頃はがんばって蜜を作ってるところじゃないかな」
「……!」
落ち込んでいたクイーンビーがハッとした顔になる。
「もしかして……ワタクシのために蜜をたくさん作ろうとして……! ワタクシ感激ですの!」
……今泣いた烏がもう笑うとはこのことだろうか。
見事なまでの過剰なポジティブシンキングで立ち直るクイーンビー。うーん、キャラが濃い。
まあ、機嫌が直ってくれたようでなによりだ。
なお、隣にいるライアはちょっと呆れ気味だ。
「……とりあえず、今日の分の蜜を置いておくので、あとに皆にも分けてあげてね」
「はいですの! あ、これはお礼ですの」
クイーンビーが渡してくれたものは複数のビンだ。
中には粘性のある液体が詰まっているけど、これはもしかして……。
「ワタクシたちが作ったハチミツですの! お義父さまのお口に合えば嬉しいですの!」
「ありがとう、帰ったら早速食べてみるよ」
「えへへぇ……嬉しいですの。あ、こっちがワタクシが作ったもので、こっちがビーたちが作ったものですの」
よくあるハチミツと同じ色をしているが、クイーンビーが作ったものの方が透明度が高い。材料か腕の違いなんだろうか?
あとからアイテムのステータスを見てみようかな。
「それじゃあまたね。俺はクイーンドリアードさんの所に寄ってから帰るよ」
「はいですの!」
……ん? なんでついて来ようとしてるんだろう?
クイーンドリアードさんに用事でもあるんだろうか?
「あの……どうして一緒に?」
「ワタクシ知ってるんですの。クイーンドリアードおばーちゃんにもおねえさまの蜜を届けてるんですの。だからついていって、ワタクシのハチミツと交換するですの」
あー……そこまでしてレイの蜜が欲しいのね。
これ、もしこの子がペットモンスターにでもなったら、ホームで毎日レイが追いかけ回されそうな気がするぞ……。
「……まあ、怒らせないようにね」
「はいですの!」
こうして、俺とクイーンビーは一緒にクイーンドリアードさんの所に行くことになったのだった。
**********
「……ん? コウか」
俺たちはドリアードの集落の地下にあるクイーンドリアードさんの部屋に来たのだが……珍しく落ち込んでいるような表情だ。
「何かあったのですか?」
「うむ……地下道のダンジョンのことなのじゃがな……」
ダンジョンのこと……もしかして、かなり強いモンスターが潜んでいるとかだろうか?
しかも、クイーンドリアードさんが落ち込むということは、もしかして敵わない相手とか……?
「あのダンジョン……入れなかったのじゃよ」
「入れない……?」
「うむ。結界のようなもので守られておってな。ワシも、他のドリアードも、バンシーやアルラウネさえも入れなかったのじゃ」
「もしかして……モンスターは入れないのでしょうか?」
持ち込み制限ダンジョンがあるんだ。もしかしたらモンスター禁止ダンジョンがあるのかもしれない。
確かめるには現地に行かないとだけど。
「それを確かめないとと思っておった所じゃ。すまぬが、協力してくれるかのう?」
「もちろんです。ダンジョンを放っておくと、ヴァノリモ大森林やアドヴィス森林に棲んでいる人たちに危険が及ぶかもしれませんしね」
「よろしく頼むぞ。……で、そっちのクイーンビーは……」
「お願いがありますの!」
クイーンビーはレイの蜜が欲しいことを熱く語り始める。
……結果的にレイの蜜とクイーンビーのハチミツを交換してもらえたのだけど、たぶん途中でクイーンドリアードさんがめんどくさくなって折れたんだろうな……というのは伝わってきた。
「ありがとうですの! おばーちゃん大好きですの!」
「誰がおばーちゃんじゃ……そこへ四つん這いになれ。お尻ぺんぺんじゃ」
「お尻痛いのはいやですのーっ!」
……とまあ、そんなドタバタがあったものの、クイーンビーは巣に戻り、俺たちは地下道のダンジョンへと向かうことになった。
「ここですね」
「うむ。ではまずワシが入ろうとしてみるぞ」
クイーンドリアードさんがダンジョンに入ろうとすると、途中で見えない壁に阻まれて奥へ入っていけないようだ。
「一度周りを掘ってみたが、どうも土の中まで見えない壁があるようでの。ワシでは完全に入れぬようなのじゃ」
「なるほど……それでは俺が入ってみます」
俺がクイーンドリアードさんが壁に阻まれたところに行くと、すんなりと中に入れた。
……なるほど、人間、もしくはプレイヤー限定のダンジョンということだろうか?
「きゅっ?! きゅー……」
俺についてこようとしたライアが見えない壁のところで立ち止まる。
もしかして、ペットモンスターも入れないのか……?
「ごめん、ライア。すぐ戻るから」
俺はダンジョンから出てくると、ライアが俺に飛びついてくる。離れ離れになってしまうのではないかと思ったんだろう。
「ふーむ……これは人間しか入れぬようじゃの……」
「となると、人間が調査に行くしかないようですね。俺だと力不足なので」
「うむ。しかし、この地下道は知られたくはないのじゃが……」
「……それなら、こういうのはいかがでしょうか──」
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「……まさか、地下のダンジョンと地上をつなげるとはのう」
俺たちは陥没スキルで地上からダンジョンへつながる道を造り、クイーンドリアードさんがスキルを駆使して元の地下道に別ルートを作製することにした。
こうすれば地下道のことを秘匿でき、人間がダンジョンの調査をすることが可能になるわけだ。
ちなみに、陥没スキルは使い込むと切削スキルを覚えることができ、横に穴を掘れるようになるとか。
スキルを使い込むことで新スキルが覚えられるという情報はありがたいな。どこまで使い込めばいいのか分からないけど……暇があったらライアにたくさん陥没スキルを使ってもらおう。
「これで人間の調査隊を送り込むことができますね」
「そうじゃな。それでは頼んだぞ、礼はちゃんとするでの」
「分かりまし……」
【INFO:特殊ダンジョンが発見されたため、イベント『未踏ダンジョン調査』が、1週間後に開催されます。また、これに伴って新システムが導入されます。特殊ダンジョン、新システムの仕様は詳細をご覧ください。】
「ん? どうかしたか?」
「いえ、大丈夫です。それでは戻りましょうか」
「うむ。帰ったらクイーンビーのハチミツを食べてみようかの」
その後、クイーンドリアードさんを見送り、俺はホームに戻ってイベントの詳細を確認するのだった。
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【未踏ダンジョン調査:依頼文】
グラティス草原に突如出現したダンジョンの調査を依頼する。
君たちにはダンジョン内のマッピングと、出現するモンスターの調査をお願いしたい。
どうやら特殊なダンジョンのため、外からモンスターが侵入することは不可能なようだ。
ペットモンスターなしでの調査となるので戦力が落ちるため、充分に気を付けて欲しい。
報酬については調査の進捗に応じて支給する。また、多大な成果をあげた者には相応の品物を与える。
【特殊ダンジョン詳細】
・ペットモンスターの連れ込みが不可となります。
・アイテムボックスは使用禁止となります。
・アイテムポーチ内の持ち込みは100個まで、同種のアイテムはランク違いを含めて10個までです。
【新システムの詳細】
・ペットモンスターを連れていない時に限り、ホームにいるペットモンスターのうち、選択したペットモンスターのアクティブスキルを使用可能になります。 ※一部の、モンスター依存のスキルを除く
・消費MPは1.1倍となります
・戦闘中のペットモンスターの選択のクールタイムは3分です。戦闘終了時には即座に0分となります。
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このイベントの発表直後から、掲示板の話題はイベント一色だ。
『新システムの詳細見たか?』
『ああ、自由にペットモンスターのアクティブスキルを使えるとなると、戦術が増えるな』
『モンスター依存のスキルってどんなんだ?』
『「光合成」とかそういうやつじゃないかな。これはアクティブスキルじゃないけど』
『なるほどサンクス』
『俺は消費MPが1.1倍と言うところに商機を感じたね。これ、イベント中はマジックポーションが高値になるだろ?』
『なるほどな……よし』
『俺はクロウレギオンを狩ってハイマジックポーションを量産するかな』
『それもいいな……持ち込み数には制限もあるし、マジックポーションとハイマジックポーションを10個ずつが理想か』
……などなど、会話に花が咲いている。
一方、俺のギルドは……。
「さて、新イベントが発表されましたが、ウルフレースのコース追加や的当てはどうしましょうか?」
「私は続行でもいいと思いますね。特殊ダンジョン内にペットモンスターが連れていけない分、あとで遊んであげようと思う人もいるでしょうし」
「おれもその意見に賛成だな。ダンジョンのレベルにもよるが、全員が全員参加できるとも限らないしな」
「では作製を続行しましょう。もちろん、ダンジョンに潜りたい人、アイテムを作製して売りたい人はそちらを優先してくださって大丈夫です」
「はいっ!」
……こうして、それぞれの思惑を乗せて新イベントが動き出すのだった。




