うちの子商品化発表
「おはようコウ、いろいろ大活躍じゃねーか」
「おはようタケシ、まあいろいろな偶然が重なったな」
俺は先日のクイーンビーの件を動画として投稿していた。もちろん本人に許可は取っている。
進化した瞬間は撮影できていないものの、クイーンビー本人がレイの……進化したアルラウネの蜜を食べたことにより進化したと証言しているため、信憑性はかなり高い。
念のため、初回で進化したのか、何回か食べる必要があるのかも質問したが、答えは後者だった。
その間、レベルは変動していないので、おそらく何回か摂取する必要があるのだろう。
フルーツプラントは一回で進化したので、モンスターの種類によって回数はマチマチということだろうか。
……フルーツプラントは存在自体がかなりヤバいので、公開はできないが。公開したらフルーツプラント狩りをしようとする人も出そうだしね。
「しかし、魔石以外の進化もあるとはな……レアな進化方法なんだろうけど、配布のモンスターの卵から孵ったモンスターでまだ進化できてないモンスターもいるから、そのモンスターたちも似たような進化方法なんだろうか」
「その辺が分かれば、もっとダンジョンの攻略が楽になっていくんだろうな。タケシたちはもう魔女のダンジョンはクリアしたんだよな?」
「ああ、ちゃんと魔女もペットにしてるぜ。……しかし、タイガたちにはいつも先を行かれてるなあ……レベル自体はそんなに変わらないはずなんだが」
タケシもタイガさんもトップランカーではあるが、ダンジョンの初踏破やボス攻略動画の撮影はタイガさんたちの方が早い。
パーティー構成も似たようなものらしいが、戦術の違いだろうか?
……まあ、魔女の攻略については俺がタイガさんにバインドのスキルをスクロールを使ってもらったのもあるが……。
「ま、そのうち俺たちが先を行くようにがんばるとするかね。……ん? ちょっと待ってくれ」
タケシはスマホのプッシュ通知を受け取ったようだ。
そして、確認をしてから俺をじっと見る。
「ん? 俺がどうかしたのか?」
「おい、これを見ろ」
「どれどれ。……ッ!?」
そこに表示されてたのは、ライアのフィギュアの商品化のお知らせだった。
ほかにも、何人かの有名な配信者のモンスターたちが名を連ねている。
「まさかライアちゃんがフィギュア化かあ……確かにうちの子配信の先駆けの子だしな」
「俺も最初に運営から連絡をもらった時は何事かと思ったよ」
「全国のゲームセンターで展開とあるから、いつものゲーセンにも入荷されるかもな」
「それなら今からクレーンの練習もしておかないとな……」
「よし、それなら今日の帰りに行こうぜ。ついでにダンスゲームの腕が上がったか見せてもらうか」
「マジか……。っと、そろそろ始業時間か。行こうぜ」
こうして、俺たちは業後にゲーセンに行くことになったのだった。
**********
その頃の掲示板。
『おい、商品化のお知らせ見たか?』
『ああ、モンスターのフィギュアとアクリルスタンドだろ?』
『いいよな、推しを飾っておけるって』
『分かる』
『俺はドリアードのライアちゃんとウンディーネのディーネちゃんを確保したい』
『精霊推しなのか』
『もちろん。観賞用、保存用、布教用の3種類は確保しておきたい……が、俺はクレーンゲーム苦手過ぎ問題』
『分かる……』
『制限個数設けられてると、下手したら揃わないんだよなあ』
『他の有名VRMMOと比べると知名度がまだ低いから、どれだけ入荷してくれるかにもよるな』
『その場合は複数店を回るか……同じこと考えてる人も多そうだが』
『お互い最善を尽くそうぜ』
『私はウルフのウールちゃんが欲しい……もふもふのフィギュアは貴重』
『前から思ってたけど、ウルフなのに名前がウールなのはツッコむところなんだろうか』
『それ、配信者さんが前に自分で言ってたぞ』
『マジか』
そんなノリのレスが書き込み制限数になるまで続けられていたのだった……。
**********
「ふぅ……疲れたけど心地いい疲れだったな」
俺はゲーセンから帰り、お風呂に入ってからワールドクリエイターズにログインする。
今日は遅めのログインだから、レイの蜜を配って歩いて終わりにするかな。
……それにしてもタケシのやつめちゃくちゃクレーンがうまかったな……。
代行プレイは禁止だから俺自身が取る必要があるので、入荷されたらがんばらないとな。
一応、ライアの親ということでサンプルとしてフィギュア自体はもらえるんだけど……こういうのは自分で獲っておきたいというのがゲーマー魂。
さすがに観賞用、保存用、布教用に3つ獲る気はないけど……。
「……ということで、先日お伝えした通り蜜を持ってきました」
「うむ、ご苦労じゃのう。それでは代わりにこれをやろう」
クイーンドリアードさんは蓋つきの木の器を俺に手渡す。
「中身を見ても大丈夫ですか?」
「うむ」
「これは……樹液ですか?」
木の器の蓋を開けると、液体が入っていた。
この辺で取れるといったら、おそらく樹液なんだろうけど。
「その通りじゃ。ワシの樹液じゃから味は保証するぞ」
「クイーンドリアードさんのですか……? どこかケガでもされましたか?」
樹液は木が傷ついた時に出るものだから、クイーンドリアードさんがケガをした時に出たものだと思うのだが……。
「いや、ワシがケガをするはずがなかろう?」
「……この前、ブランコで立ちこぎをしてからジャンプしようとして転んだのはどこの誰だったでしょうか?」
「う、うるさいわ! その話を蒸し返すでない! ……まあ、ワシレベルになればケガ以外にも樹液を出すことは可能なのじゃよ」
「なるほど、ありがとうございます。アルラウネの蜜のように、ドリアードの樹液が進化条件の子もいそうですし、ありがたく使わせて頂きます」
「うむ、必要ならまた取りに来るがいい。その時も対価はもらうがな」
……しかし、クイーンドリアードさんレベルになると、樹液も自由自在なのか。
元々規格外のレベルだし、まあ納得はできる……かな?
樹液が進化の条件になるなら、虫タイプのモンスターになるだろうか。
「そういえば、地下通路の途中に横穴があったんですけど、クイーンドリアードさんは何かご存じないですか?」
「ふむ……? 横穴があった話は聞かぬが……少し気になるのう」
「それではその場所まで行ってみませんか?」
「そうじゃな、面白いことがあればいいのじゃがのう」
その後、俺たちは横穴の場所に2人で行くことに。
「……これは、今までにはなかった穴じゃのう」
クイーンドリアードさんが穴を覗き込むとそう言った。
急にこんな横穴ができるものなのだろうか?
「もしかすると、新しいダンジョンかもしれぬ」
「えっ、ダンジョンってそうやってできるものなんですか……?」
「そうじゃの。突然どこからともなく出現する……そして、できてすぐにモンスターが徘徊するようになっての。そのモンスターもどこから出てくるか分かっておらぬのじゃ」
クイーンドリアードさんですらそう言うなんて、結構な謎の存在なんだな、ダンジョンって……。
しかし、新しいダンジョンとなると中が気になるところだ。
「この中のモンスターは強そうですか?」
「ふむぅ……それほど大きな魔力は感じられぬが、弱いモンスターでも状態異常攻撃が強い者とかがおるからのう。一概には弱いとは言い切れぬな。まあ、ワシには状態異常なぞ効かぬが……」
さらっと状態異常無効なことを告白するクイーンドリアードさん。
……本当にやり込みゲームの裏ボス並みの強さだよこの人。
「このダンジョンの者たちがここから出て悪さをせぬように、一度とっちめて来るとするかのう」
「ほ、ほどほどにしてあげてくださいね」
クイーンドリアードさんが言うと凄みがあるからなあ。
でも、地下通路からモンスターがあふれ出すと、ヴァノリモ大森林、アドヴィス森林のどちらにも出られてしまうからなあ……。
ヴァノリモ大森林はクイーンドリアードさんがいるけど、アドヴィス森林にはバンシーやアルラウネたちしかいないから、心配ではあるな。
もちろん、そこまでレベルの高いモンスターがダンジョン内にいればの話だけど。
「さて、それでは仕事をしてくるとするかの」
「お気をつけて」
……まあ、クイーンドリアードさんがやられるモンスターなんていないんだろうけど……。
それでも、念のためにね。
「さて、俺はホームに帰ってハイポーションを作って寝ようかな……」
**********
次の日。
「おっ、またいろいろな花と……なんだろうこれ?」
ビーたちからもらった謎の種を蒔いた畑に、花や草が生えたのだけど……。
見慣れない草があるのだ。薬草や魔草ではないようだけど。
「とりあえず収穫してみるか」
俺は草をゆっくりと引き抜いてステータスを見てみる。
すると……。
【蘇り草:ランクC、アイテムポーチに入れている時に戦闘不能になると、25%の確率で蘇生される。蘇生の成功、不成功に関わらず、戦闘不能時には雑草になる。複数所持している場合、成功するまで、または無くなるまで判定され続ける。……しかし、25%は心許ない確率だ。敵の25%は当たるのに、自分の25%は外れる。確率なんてそんなものである。】
……説明文なっっっがいなオイ。
しかも最後のやつ、RPGやSRPGへの恨みが籠ってる気がする。
蘇生魔法や即死魔法などに限らず、低命中率の行動は味方のは当たらないのに、敵のはやたら当たるんだよね……ソフトリセットからのロードなんて何度やったか知れないよ。
あと、ポーチ内であっても、草を壺に入れてたら効果を発揮しないんだろうか? ……とか思ったけど、そういえば今のところ壺のアイテムってみてないな。
さておき、これは結構有用なアイテムだと思う。確率が仕事さえしてくれればだけど。
俺の場合はソロで旅することも多いから、ポーチに入れておいて損はなさそうだな。
ちなみにアイテムポーチというのは、アイテムボックスとはまた別のアイテム収納システムだ。
アイテムボックスの場合は一旦メニューでアイテムの取り出しをしてから使用しないといけないが、アイテムポーチの場合はメニューから即座に使用できる。
更に、アイテムボックスは戦闘中や一部のダンジョンでは使用できないようになっている。
そのため、アイテムポーチは便利なのだが、その分ポーチ内の所持数が限られるので、内容をどうするかがプレイヤーの悩みの種となっている。
「……掲示板も見てみたけど、似たようなアイテムは見つかってないみたいだな。俺の探し方が悪いのかもしれないけど……」
一応、『蘇り草』で掲示板内は検索はしたけど、出ないのでおそらく初出なんだろう。
しかし、とんでもない種があったもんだな……まあ、これがおみくじの当たり……大吉ってことなんだろう。ビーたちには感謝しないとね。
こうして、レア(?)アイテムを手に入れて満足してログアウトするのだった。




