個人イベント
「なるほど、南のダンジョンはサハギンが主な敵でしたか」
「はい、1階ですら今の僕たちで勝てるかどうか怪しい強さだったので、撤退しました」
「となると、北のウンディーネも同じぐらいの強さでしょうね。ロックバードもエルダートレントさんに俺たちでは勝てないと言われていましたので」
「そういえばコウ、東の草原地帯にある丘にもダンジョンがあるんじゃなかったか?」
「そうですね、そちらはまだ入っていませんが、おそらく同じぐらいの強さのモンスターがいそうな気がします」
元々いたトレントさんたちも強いんだろうし、あの島に到達するのが早すぎたのかもしれない。
運営としてはもっと後に訪れる場所として想定していたんだろう。
ヨットと……シルフィーさんがイレギュラーなのかな。
「ダンジョンは自分たちにはまだ早そうですね……それでは、アルラウネやトレントとの交流の報告ですが──」
こうして、島の情報を共有した結果、『アルラウネを進化させる目的以外で島を訪れるのは早い』という結論になった。
本土のダンジョンでもまだ攻略されていない隠し階段の先のボスがいるので、島は後回しでも良さそうだ。
もしくは、タイガさんたちみたいなトップランカーの協力を仰ぐか……。
「ただ、定期的に魔石や服、遊具の提供は行いたいですね。これは島に行く前に希望者を募ることにします。定員はヨットに乗れる人数……4名ですね。希望者が多い場合は順番にしましょう」
「了解だ。……ところでコウ、ロックバードの魔石なんだが、そんなにたくさんもらって何に使うんだ? 商売か?」
「いえ、ちょっとしたイベントを行いたいと思ってまして。それの景品にしようと考えてます」
「個人イベントですか! 確かに今は防衛戦みたいなイベントがない期間なので、ちょうどいいかもしれませんね」
エインズの町防衛戦イベントから今まで、追加のイベントは行われていない。
エルフの集落のダンジョンが攻略されたのは最近だし、まだ早いという運営判断なのだろう。ダンジョンの攻略者もトップランカーの一部だけだしね。
「……となると、どんなイベントをするかだな。コウはどんなのを開催するんだ?」
「それは開催までヒミツです。……と言いたい所なんですけど、自分だけでは造れそうにないので、みなさんに協力して頂きたいですね。イベントの内容は──」
**********
「──本日はお集まり頂きありがとうございます、僕は進行役のレックスです。よろしくお願いします」
そして、準備をすること約一週間。人が集まりやすい土曜日に開催をすることに。
参加料は1000G、参加人数は100人で募集をかけたところ、速攻で枠が埋まってしまった。
初めての大規模イベントのため、運営の仕方のノウハウの蓄積などもないから少なめにしたんだけど……まさか募集して30分もしないうちに埋まるとは思っていなかった。
ちなみに、今回のイベントは『ウルフレース タイムアタック版』になる。
俺たちのギルド……ティルナノーグがウルフが走るコースを造り、そこをペットモンスターのウルフに走ってもらってタイムを競うイベントだ。
最初は複数のウルフに同時に走ってもらうレースをしようと思っていたが、それだと互いのウルフが走りに干渉しあって親御さん同士がギスギスしないか心配だったので、今回は個別に走ってタイムを競うルールにした。
なお、ワールドクリエイターズ運営に、クォルトゥス鉱山のような『同じマップだがプレイヤーごとに独立したマップに入る』機能が使えないか相談したところ、今回は快くその機能を使わせてもらえることになった。
ただし、緊急での対応になるため『独立マップは10個まで』という制限が設けられたので、100人全員が走り切るには10回行う必要があるので、そこそこ時間がかかるイベントになりそうだ。
……人数少なめで募集しておいてよかった。
「えー……今回はイベントにご参加くださりありがとうございます。企画者のコウです。このイベントでウルフをペットモンスターにする皆さまが交流を深められたらと思い、企画させて頂きました。事前に通知させて頂いた通り、今回のイベントの参加者様には『ロックバードの魔石』を、上位3名様には『キングウルフさんと一緒にコースを走る権利』をお贈りさせて頂きます」
「今回は我が代表として観戦させてもらう。我の血を滾らせるような走りを期待しているぞ」
「キングウルフだ……」
「上位レベルのパーティーすら即壊滅するキングウルフが観戦……?」
「やっぱりたらしさんは違うな! そこに痺れる憧れるゥ!」
キングウルフさんが登場して激励の言葉をかけると、参加者の人たちがざわめく。
……というか最後の誰だよ!
「これ、お主ばかり目立つでない。ワシも入れぬか」
「そーそー、ずるいよー」
「アタシも応援してるから、がんばれよー!」
そして、キングウルフさんの後ろからクイーンドリアードさん、シルフィーさん、アルラウネさんが出てくると、大きく会場がどよめく。
「クイーンドリアードと……あと2人は誰だ……?」
「1人は見た目はアルラウネだけど……もう1人は……?」
「シルフに似てる感じがする。ただ、アルラウネもだけど大きくないか……?」
「あ、紹介が遅れました。こちらクイーンドリアードさん、シルフの上位種のシルフィーさん、アルラウネの上位種のアルラウネさんです」
「は!?」
「上位種が4人!?」
「人脈力どうなってるんだよ!?」
「がああっ! パ、パワーが違い過ぎる……」
……こうなると思ってたから、最初はキングウルフさんだけにしようと思ったんだけどね。
準備中にクイーンドリアードさんとシルフィーさんに知られて、トレントの島に支給に行った時にアルラウネさんに知られて。
で、アルラウネさんは「アタシが行けばその場でアルラウネが進化できるんじゃないか?」って言われて、観戦で参加することに。
「あれ? アルラウネの上位種がいるってことは進化条件が満たせるんじゃ……」
「そうか、それなら後でうちのアルラウネに会ってもらえれば……!」
『ちょっと待てよ! リアルタイム配信観戦止めて俺も今からそっち行く!』
『俺も俺も』
『あれ? でも会場のギルドメンバー以外の入場上限って参加人数の100人じゃ……』
『出待ちしてもよかですか?』
うん、そうなるよね。知ってた。
この会場は俺たちのギルドの村という扱いになっている。
俺だけでは造れそうにないと言ったのは、広大なコースの周りを堀にして村にするためだ。
これにより、マップが村として独立するので、『同じマップだがプレイヤーごとに独立したマップに入る』機能が使えるようになる。
……本当は、ペットモンスター含めて皆で応援したいから村にしたんだけども。外だと1人しか出せないからなあ。
「アタシなら逃げも隠れもしないから、皆お利口にして待ってな。あ、ロックバードの魔石が欲しいならアタシの仲間の好きな魔石と交換するぜ。レートはあとからコウに出してもらうぜ」
『ん? 会ってくれるだけじゃなくて、ロックバードの魔石も交換してもらえるのか?』
『ロックバードの魔石って何に使えるんだろう?』
「えー……後からお知らせするつもりでしたが……ロックバードの魔石はアルラウネの進化に使います」
「『え?』」
「『ええええぇぇぇ!?』」
うん、そうなるよね。知ってた。パート2。
「実際にうちのレイが進化した際の動画がありますので、後からアップしておきます。その時のレベルも併記しておきますのでご安心ください」
「神か」
「祀らねば」
「今日からたらし神とお呼びせねば」
……などなど、開催前からどったんばったん大騒ぎである。
そのあと、一旦みんなが落ち着くまで待ってからレースを開催。
10個の独立マップを10個のカメラで同時にリアルタイム配信して、レックスさんやキングウルフさんたちが実況をする。
堅実な走りをするウルフ、カーブの内側ギリギリを攻めるウルフ、攻めすぎて転ぶけど最後まで頑張るウルフ……など、同じウルフでも走り方はさまざまだ。
ただ、最後は走り切ったウルフをみんなが称えていた。
人によってレベル差があるから、最初はレベルの高いウルフか進化したウルフが1位だと思っていたものの、最終的に1位をかっさらっていったのは、普段からこういったコースに慣れていたウルフだった。
どうやら、そのウルフをペットにしているプレイヤーも、同じようにコースを造ってウルフと遊んでいたのだとか。
「まさかうちの子のために造ったコースがここで役に立つとは思っていませんでした。また遊びに来てもよろしいですか?」
と、レース後に言われたので、フレンドになってメッセージを送れるようにしてもらった。
今度はスコールとの並走もやってみたいとか。
ちなみにスコールのタイムは1位よりも7秒ほど遅い。
これにはスコールも悔しかったようで、『後から自分もしたい!』と目で訴えてきたのだった。
意外と負けず嫌いなのかな。まだ知らなかった面を見られて、今回のイベントの収穫は大きかったかも。
ちなみに、ライアやレイ、クイーンドリアードさんにシルフィーさんにアルラウネさんは観戦が楽しかったらしく、次はいつやるのかと聞いてくるほどハマってしまったようだ。
キングウルフさんは参加する方が楽しいと言うことで、次は自分もレースに参加したいとか……でも、能力が違い過ぎるんだよなあ……やるとしたらハンデ戦とかだろうか?
なんにせよ、みんな楽しい時間が過ごせたようで何よりだ。
**********
「おーおー、まさかこんなに人が来るなんてねえ」
「まあ、視聴者が1万を超えてましたからね……」
イベントが終わって外に出ると、そこには長蛇の列が。
ざっと数千はいるけど……捌ききれるのだろうか……。
それにしても、きっちり1列に並んでるあたり、民度が凄いな……。
「よし! お前ら順番に応対するから待ってな! ロックバードの魔石は今回は2000個しかないから、足りない分は後日コウに渡すので……頼んだぜコウ!」
「お、俺ですか!?」
「ま、この後の魔石を島に持って帰るのもコウがいないと無理だしなー。今度サービスするから許してくれ」
「わ、分かりました……」
その後、最後の1人までアルラウネさんはしっかり対応するのだった。
結構な人数いたのに、疲れた表情をまったく見せないあたり、尋常じゃない体力だな……。
「いやー、楽しかったねー」
「ワシは人が多すぎて少し酔いそうになったぞ……」
「昼間からお酒は控えた方がいいよおばーちゃん」
「だからおばーちゃんじゃないと言うておろうが……」
本当に疲れたのか、クイーンドリアードさんはいつものキレがない。
シルフィーさんと一緒に、プレイヤーの人たちから質問攻めにあってたからなあ。
シルフィーさんはのらりくらり躱してたけど、クイーンドリアードさんは根は真面目だからしっかり答えていたのもあるかもしれない。
ちなみに、キングウルフさんは3位までの人たちと一緒に走ったあと、走り込みにいってしまった。
……今考えたらキングウルフさんなりの危機回避だったのか……?
「さて、それじゃアタシは島に帰るからシルフィー、コウ、よろしく頼むぜ」
「おー」
「みんなが魔石を喜んでくれるといいですね」
「ああ。ただ、ロックバードの魔石は進化が終わったら下火になるだろうから、新しい何かも考えなきゃな」
確かに、今は進化特需があるから多少高くても交換できるけど、必要な分が行き渡ったら価値は下がるだろう。
「ま、必要な分はちゃんと供給しなきゃな。明日からまたダンジョンに籠る日々だ」
「身体には気を付けてくださいね。体調を崩したら娘さんも心配するでしょうし」
「ああ、ありがとよ。……さて、それじゃそろそろ出発するか」
「分かりました」
「マッハでごーごーごー」
「いや、ほどほどにしておいてくださいね?」
「ちぇー」
こうして、個人イベント……というか、ギルドイベントは何とか無事に終わったのだった。




