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ライアの服

【登場人物紹介】

 キャラの名前の後ろの()内は、ゲーム(ワールドクリエイターズ)上でのキャラの名前となります。


物部ものべ 耕作こうさく(コウ)

 主人公。ものづくりが好きだが、アパート住まいのため最近ではできていない。

 幼馴染の武士に誘われてワールドクリエイターズでものづくりを始めることに。


・ライア

 ドリアード。コウのペットモンスター。

 コウにとても懐いている。人の言葉は喋れない。


本多ほんだ 武士たけし(タケル)

 コウの小学生時代からの腐れ縁の幼馴染。

 ワールドクリエイターズではランカーギルドに所属している。


・???(タイガ)

 虎の獣人。ランカーギルド『ビースト・ネスト』のリーダー。

 コウの作った椅子がきっかけで知り合う。


・???(アテナ)

 服を作るのが趣味。ペットモンスター実装初日にコウと出会う。

 特に人型の女の子モンスターの服を作りたい、らしい。

「よし、今日の仕事は早く終われたし、スーパーで買い物して早く帰ろう」

「おう、コウ。なんだか楽しそうだな」


 俺が帰り支度をしていると、タケシが話しかけてくる。


「タケシか。おかげさまでワールドクリエイターズ、楽しんでるよ」

「それは何よりだ。そういえばペットモンスターが実装されたけど、コウはどんなペットモンスターだった? 俺はカラスのモンスターのクロウだ、頭が良くて連携も息ピッタリなんだぜ」

「俺はドリアードだな。ユニークスキルの成長促進が『収穫必要日数-1』だからありがたいぞ」

「ほう。それなら畑の拡張も視野に入れておいてもいいかもな」

「えっ、畑って拡張できたのか?」


 知らなかったぞそんなの……。

 今までは普通に植えてただけで手いっぱいだったし。


「ああ、ちょっとお高いけど種が植えられる箇所が10から15になるんだ」

「なるほど、それならポーション用以外にも、薬草のまま売る用に育てられるから便利だな」

「ん? ポーションにした方が高く売れるが……そうか、戦闘でのレベリングをしてないからそんなにMPがないのか」

「ああ、ものづくりでも経験値は入るけど、一日で入る経験値は知れてるからな」

「それなら、マスターギルドでレベリング依頼を出してみたらどうだ? お金はかかるけどな」

「マスターギルド?」

「ああ、マスターギルドってのはだな……」


 マスターギルドは要するにワールドクリエイターズの運営がやっている、すべてのギルドを統括するギルドのようだ。

 ここに依頼を出せば、すべてのギルドの依頼掲示板に依頼が貼り出される仕組みになっている。

 一応、個々のギルドに対して指名依頼もできるのだが、基本的にはマスターギルドに依頼を出すのが楽だそうだ。


「なるほど、情報ありがたい」

「パワーレベリングは効率がいいけど、同行人数が多くなって依頼料も高くなるから、その辺は所持金と相談だな」

「分かった、懐と相談して考えておくよ」

「それがいい。それじゃ俺も帰ってログインするかな」

「ああ、それじゃあまた明日」




**********




「よし、ログインして……と」



「きゅーっ♪」


 ログインするとすぐに、ライアが俺に飛びついてくる。

 ログアウト中はペットモンスターも寝ているのだが、ログインすると一緒に目覚めるようになっている。


「ただいま、ライア。それじゃ今日の魔石を……っと。どれにしようかな……」


 先日はスライムの魔石だったから、今回は……ウルフの魔石にしよう。ちなみにお値段は20G。

 俺はウルフの魔石をライアに渡すと、前回同様にライアが魔石を吸収する。


「きゅーっ♪」


 ……ん? なんか前回と反応が違うような……。

 前回って、耳を嬉しそうにピコピコさせてたっけ……?

 もしかして、ウルフの魔石が好物なんだろうか。次は動画を撮りながら魔石を渡してみよう。


 さて、とりあえず、今日はまず畑の拡張料金を見てみるか。

 ええと、ホームの一覧から畑を選択して……あ、これか。

 拡張の費用は……初回5000Gかあ。結構デカい出費だな……。

 でも、恒久的に収入が増えるならすぐに元は取れそうだ。

 よし、そうと決まれば拡張して種を植えよう。……ポチッとな。


【INFO:畑が拡張されました】


 さて、それじゃ種を植えに……。


【INFO:ホームへの入場申請があります】


 ん? 誰だろう。

 そう思って相手の名前を見ると、アテナさんだった。

 もしかして、もうライアの服が出来あがったのだろうか?

 俺はすぐに申請を受諾する。


「こんばんは、コウさん」

「アテナさん、こんばんは。今日はもしかして……」

「はい、ライアちゃんの服ができましたので、お持ちしました」


 やっぱり。仕事が速いなあ。


「それでは早速着せてあげたいので、ホームの中へよろしいでしょうか?」

「はい、空き部屋でいいですかね」

「そうですね、寝室だとコウさんの物がありますし、そちらがいいかと思います」

「ではこちらへ」



 俺はアテナさんを空き部屋に通すと、ライアを任せて部屋を出ようとしたのだが……。


「きゅーっ」

「ライアちゃん、どうしたの?」


 急にライアがイヤイヤみたいな身振りをする。

 服を着るのが嫌なのだろうか?

 ……いや、服を選ぶときは喜んでたはず……。


「もしかして、コウさんに着せて欲しいの?」

「きゅーっ」


 ……んん?

 俺が着せる???


「あの、コウさん。よければライアちゃんの服を着せてあげてください」

「俺が着せると絵面が犯罪じみてません? アテナさんなら、お人形の服を着せ替えてるみたいな光景で微笑ましいんですけど……」

「たぶん、ライアちゃんはコウさんからのプレゼントって形で服が欲しいんだと思います」

「プレゼント……」


 そういえば、小さい椅子を作ってあげた時、すごく喜んでたっけ。

 それならライアの願いを叶えてあげたいけど……。


 うーん、着せ方を知っておかないと今後、服を洗ったりして次に着せるときに不便ではあるかな。

 ……ということで納得しておこう。


「分かりました。それでは教えてください」

「はい、ではこの服はですね……」




**********




「……それで、ここをこうしてですね……これで終わりです」

「なるほど、髪の毛のボリュームがあるので上からは着づらいから、前でボタンを留めるタイプのワンピースなんですね」

「それと、足元も足先が木の根っこ付近みたいにつながっていて、下からも着づらいからこういう形にしてみました」

「ライアのことをしっかり考えてくださってありがたいですね……」

「あ、これで終わりではないですよ。次はこれです」


 と、アテナさんは手のひらに何かを持って俺に見せる。

 ……小さめの布みたいだけど……。


「ライアちゃんは下着が下から着づらいというか着れないので……いわゆる紐パンにしてみたんです」

「え……? 紐……?」


 脳の理解が追い付かない。

 え? それも俺が着せるの?


「紐を結ぶのってライアちゃんだと難しいと思うので、服と同様にコウさんが着せてあげてくださいね」

「あのう……犯罪じみた絵面っていうか、ほぼ犯罪っていうか……」

「大丈夫、ライアちゃんはコウさんの娘……家族みたいなものですし」


 なんかうまく言いくるめられてる気がする!

 ……でも、確かにこれはライア一人じゃ着づらいだろうし、着せられるようになっておかないといけないか……ということにしておかないと、すごく不健全極まりない絵面である。



 そんなこんなでなんとか俺はライアに服を着せることができたのだった……。



「ちなみに、一度着せた……装備したあとは、『装備記憶』で装備状態を記憶できるんです。これを呼び出せば同じ装備を持っている場合は一瞬で着用できるんですよ」

「へー、便利ですね」

「でも、ライアちゃんがまた着せてもらおうとするかもしれないので、そこは気を付けてくださいね」

「は、はは……了解しました」


「きゅーっ♪」


 俺たちがそんな会話をしていると、ライアは身体を捻ってワンピースのディティールを確認したり、よくあるメイドのお決まりのスカートを持ち上げるポーズをとってみたり、楽しんでいるようだ。

 それでその場の空気が少し和んだ。


「ちなみに、このワンピースなんですけど……ライアちゃんの身体が木のように硬いので、擦れて破けないように裏地を厚めにしています。これでワンピースが透けて身体のラインが出るのも合わせて防げます」

「なるほど、ご配慮ありがとうございます」

「それと、動きやすいように肩回りはある程度出るようにしています。露出は増えますけど、ライアちゃんは元気な子なのでこちらがいいかなと思いまして」


 こういう細かい配慮はとてもありがたい。

 俺は服のこと全然知らないからな……。


「ありがとうございます。それではこちらは代金になります」


 俺はアテナさんに1000Gを渡す。


「えっ!? 前金で500G頂いてるので、ここまで頂くわけには……」

「いえ、下着までつけて頂いたのでこれで大丈夫です。下着も必要とか完全に頭から抜けてましたし……」

「分かりました、それではありがたく頂戴しますね。また機会があればライアちゃんの服を作りたいので、よろしくお願いします」

「ぜひともまたお願いします。ところで……」


 俺はちょっと気になることがあった。

 それは……。


「この服も、戦闘などでダメージを受けたら使用回数……耐久力が減って壊れてしまうんです?」

「いえ、そこは大丈夫です。服や鎧に限っては使用回数が0になっても、装備で上昇するステータスが0になるだけで、壊れたりはしませんよ」

「それならよかったです。このかわいい服が壊れて……破れてしまったらライアが悲しむかなと思ってしまったので」

「ふふ、やっぱりコウさんはお優しいですね」

「それにしても防具は壊れないんですね、戦闘をしたことがないので初めて知りました」

「それは……例えばビキニアーマーとかあるじゃないですか? もしそれが戦闘中に壊れたら……」

「大変なことになりますね……」


 思わず想像してしまう。そりゃ、鎧や服が壊れないわけだ……。

 でも、ライアの服が壊れないということを知れたのはありがたい。


「……それでは私はこれで失礼します。今回の服でインスピレーションが湧いてきたので、またいろいろ作ってみます」

「ありがとうございました。今後もよろしくお願いします」

「こちらこそ。それでは」


 こうして、アテナさんはホームへと帰っていった。


「きゅー♪ きゅー♪」


 ライアは相当服が気に入ったらしく、はしゃいでいる。

 この笑顔が見られたから、服を着せた苦労は報われたかな……。




**********




「よし、それじゃ今日も椅子を作って……と、その前にポーションを作っておこう」


 日曜は作るのを忘れてログアウトしちゃったからな。一瞬で作れるから忘れがちだし。


「自動作成機能を起動して……よしっと」

「きゅーっ?」


 ライアが不思議そうな声を出す。

 そっか、日曜はポーションを作ってなかったから、初めて見るんだ。


「これはポーションを作ってるんだ。お金になるからライアの魔石とかも買えるんだよ」

「きゅー、きゅー」


 ん? どうしたんだろう。

 ……もしかして。


「ライアもやってみたいの?」

「きゅーっ!」


 確かにライアはいろいろなものに興味津々だから、錬金術も不思議なもので興味がある感じなんだろうな。

 それに、もしライアがポーションを作れるようになれば、畑に薬草をたくさん植えても全部ポーションにできるし……。


「それじゃ、やってみよっか。まずは俺がやるから手順をしっかり見ててね」

「きゅー!」


 俺は久々に手作業でポーションを作り始める。


「それで、一番難しいのはここの魔力の調整で……」

「きゅー……」


 ライアは一生懸命俺の作業を見ている。

 本当にやってみたいんだな、って伝わってくるな。


「はい、これで完成。それじゃライアもやってみようか?」

「きゅー!」

「ライアはちっちゃいから薬草をすり潰したり、魔法水が重いからそれを容器に入れたりするのは難しそうだから、最後の魔力を送るのをやってみようね」


 俺は魔力を送る直前までの状態にして、そこから後をライアに任せる。


「きゅー……」

「調整が難しいからね、ゆっくりやってみて」


 ……そして出来あがったのは……『ポーション(失敗作)』。

 まあ、俺も最初は2回失敗したし、魔力操作がうまくいかないのは当然だろう。


「きゅーっ……」

「大丈夫、俺も前はよく失敗してたから。もう1回やってみよう?」


 ライアは長い耳を垂れさせて、しょんぼりしている。

 失敗したのがショックだったんだろうな。


 でも、俺もよく失敗したからと言い聞かせると、立ち直ってもう1回やってくれることに。


「よし、今度は動画を撮影しながらやってみようか。もし失敗してもどこが悪かったか見返せるしね」

「きゅー!」


 どうやらやる気が完全に戻ったようで、かなり気合が入っている。

 そして同じように魔力を送る直前まで俺が作業し、ライアに魔力を送ってもらう。


「きゅー……」


 前回以上に集中してライアが魔力を操作する。

 そして……。


「きゅーっ……」


 ライアは慣れない魔力操作で少し疲れているようだが……ポーション作りは成功した。

 しかも……。


「えっ、こんなポーションがあるんだ……?」


 俺がポーションのステータスを見るとそこには……。


【ポーションオブドリアード:ランクD、木の精霊であるドリアードの魔力が籠った特別なポーション。普通のポーションよりも効果がある】


 ……もしかして、これって新しいレシピ……?


【INFO:新しいレシピを発見しました。一週間以内に申請することで、特許を取得することができます。また、取得する、しないに関わらず、選択肢を選んだ時点で全プレイヤーにレシピが公開されます】


「と、とりあえず選択は一旦保留で! タイガさんかタケルに相談してみよう……」

「きゅー?」


 ライアが俺の顔を覗き込む。どうやら慌てているのを心配してくれたようだ。


「ありがとう、ライアがすごいものを作ってびっくりしただけだよ」

「きゅー♪」


 俺はライアの頭に手を置いて、優しく撫でる。

 ライアは幸せそうな顔で、されるがままだ。



 ──その後、タイガさんに連絡が取れ、特許申請についていろいろと教えてもらった。

 特に、特許を申請する際に、特許者の項目を匿名にできることが一番の収穫だ。

 こうして、俺は新レシピを特許申請したのだが、その日のゲーム内掲示板がお祭り騒ぎになっていたのを知ったのは後からなのだった──。

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