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隠し階層

「まさかこんな所に隠し階段があるとはな……」

「もしかすると、気づいていないだけで他のダンジョンにも同じものがあるかもしれませんね」

「うむ。そして、この隠し階段を発見するのに、ウルフの『穴掘り』スキルが必要かどうか……これも合わせて検証せねばな」

「確かに、フェアリーサークルになっている部分を自分たちだけで掘っても、同じように隠し階段が出てくるかは分かりませんからね」


 階段を降りながら俺たちは隠し階段について議論する。

 もし、このような隠し階段が他のダンジョンにもあるなら、そこにアルラウネの上位種がいる可能性もある。

 もちろん、ここの隠し階段の先にいてくれるのが一番いいのだが……そううまく行くだろうか。


「……む、そろそろ階段が終わるな。皆、警戒してくれ」

「わたくしたちも入ったことのない階層ですからね……いきなり攻撃を仕掛けられる可能性もあります」

「少し大きめの盾を持っていた方がよさそうですね。装備変更しておきます」

「おれも装備を変えるかな。ペットモンスターはシィルを出しておこう。結構カンが鋭いから役に立つぜ」

「それではお願いしますアトラスさん」


 こうして、充分に準備を行ったうえで、俺たちは次の階層に降り立つ。

 すると……。


「……む、階段が消えた……?!」

「どうやら、閉じ込められたようですね……もしくは、下に降り続けなければならないか……」

「アトラスさん、敵の気配はどうですか?」

「シィル、どうだ? ……今のところ気配はない、か……」

「とりあえず、階段の場所を探した方が良さそうですね。何が出てくるか分かりませんし……」


 この隠し8階層は7階層と同じく草原が広がっている。

 安全が確認できれば穴掘りで掘れるアイテムを調べたいけど……。


「タイガさん、どちらに進むのが良いでしょうか?」

「うむ、見通しがいいからどこに進んでも奇襲をされる心配はないだろう。全方位を警戒しながら、コウ殿が決めた方向に進んでいくのはどうだろうか」

「…………ふーん、しっかりしてるねー……」

「……ッ?! だ、誰だ!?」


 突然、俺とタイガさんの間に女性が入ってくる。周りには誰もいなかったはずなのに……?

 その女性の身体はふわりと浮いていて、髪が風になびいている。服装は……エルフの集落の近くにいる、風の精霊であるシルフにそっくりだが……。


「敵か!?」


 俺が驚いて戸惑っている間にも、タイガさんたちは戦闘態勢に入る。

 しかし……。


「はい、だめだめー。血の気が多い子は嫌いだよー」

「ぐっ!?」


 タイガさんとアルテミスさんの持っていた武器が強風で上空に巻き上げられていく。

 逆に、タイガさんたちは地面へと倒れ込む。


「わたしは戦いに来たんじゃないよー。そこの……ええと、大きい人と優しそうな人に用があるのー」


 女性は俺とアトラスさんを指差す。

 ……俺はこの人と面識がないんだけど……?


「あ、あの……誰かと勘違いされてます? 俺は貴女とお会いしたことはないのですが……」

「うんー。わたしもあなたたちのことを聞いただけー」

「聞いた……? もしかして、外にいるシルフたちにですか?」

「そだよー。この前、風草を取りに来た人間たちにいいものをもらったってー。でも、すぐに壊しちゃったらしくて一緒に遊べなくてー。それがどんなものなのか気になってたのー」


 シルフたちの言う『いいもの』って……もしかして、風車と風鈴のことだろうか?

 一応、このダンジョンでのレベル上げが終わったら、後で追加で渡そうと思って持ってきてはいるが……。


「ねーねー、今持ってるー?」

「え、ええ、一応……」


 彼女の間延びした独特な喋り方に調子が狂う。

 マイペースな人なのかな……。


「じゃあちょうだい! そしたら、ここで何してもいいからさー」

「で、では少々お待ちください……アトラスさん、風鈴は持ってます? それとも作れます?」

「持ってはないが、一応作れる素材はある」

「では作りましょう。俺は風車を先に渡しますので」

「おう、それじゃあおれは風鈴を作るか……」

「わくわくー」


 わくわくって口で言う人初めて見た。

 いや、本当に奔放な人だな……いや、シルフたちもイタズラ好きだったし、風属性だから自由気ままな人が多いのかな……。


「それじゃあ、まずは風車をお渡ししますね。使い方は……」

「ほうほうー」


 シルフさんは風車に風を当てて、くるくる回して遊び始めた。

 そして、ただ風魔法で風を当てるのには飽きたのか、風車を両手に持って飛び回り始める。


「おー、結構楽しいねー。人間っていろいろなことを考えるんだねー」

「う゛っ……」

「あ、アルテミスさん!?」


 急にアルテミスさんが鼻血を吹いて倒れる。

 自由なシルフさんでかわいい成分を摂取し過ぎたのだろうか?


「と、飛び回ってるせいで……大事なところが……見え……」

「あー……」

「そういうの気にしない子いいですよね……っ……」


 アルテミスさんは親指を立てて溶鉱炉……ではなく、草に沈んでいく。

 ……まあ、早いとこアイルビーバックしてくださいね?


「ふふふー、楽しいねー……って、その人どうしたの?」

「まあ、いつもの発作なので気にしないでください」

「そうなのー? まあいいやー」

「……っと、待たせたな。風鈴の方ができたぜ。木の枝なんかに吊るして風を当ててくれ」

「わー、やったー」


 シルフさんは近くの木に風鈴を吊るすと、優しく風を当てる。

 すると、風鈴がリーン……と、静かな草原に優しく響き渡る。


「おー……わたし、草が風でサーッって音を奏でるの好きなんだけど、これも好きー」

「そうか、気に入ってもらえてよかったぜ。よければまだまだ作れるぜ」

「んー、とりあえずこれ一個でいいかなー。その代わり……」

「その代わり……?」


 ……いったい何を要求されるのだろうか?

 これ以外の風を使うオモチャなどはすぐには思いつかないが……。


「わたしもついてくー。あなたたちと一緒にいたら面白そうだしー」

「ええっ!?」

「だめー?」

「いえ、ダメではありませんが……あなたはここの階層の番人というか守護者というか……そういう方ではないんですか?」

「違うよー。ここの風景が好きだからここに住んでるだけー。もっと楽しいこと知っちゃったら、ついてくしかないでしょー?」

「そ、そうですか……」


 本当に奔放な人だ……。

 とりあえず俺はシルフさんをキングウルフさんたちのいる村に迎え入れることを決めた。

 あそこなら遊べるものも多いしね。


「よーし、それじゃ帰ろー?」

「す、すまないが、儂らはコウのレベル上げを頼まれていてな……一応、15階層の魔女を倒すまで潜りたいのだが……」

「ふーん? それなら早く帰れるようにお姉さんも手伝っちゃうぞー」

「よ、よろしくお願いします……」



 ……その後、シルフさんの助力もあり、エルフの集落のダンジョンは軽々攻略できてしまった。

 ジャイアントオーガを風ではっ倒して即瀕死にするわ、魔女の風のコントロールを奪って墜落させるわ、やりたい放題である。

 あ、魔女は命乞いをしてきたのでアトラスさんにペットモンスターにしてもらった。

 アトラスさんは鍛冶をするので、四大属性を使える魔女はいいパートナーになるとか。


 ちなみに、シルフさんのいた階層で穴掘りを試してみたが、その前の階層と内容はほぼ変わらなかった。

 隠し階層だからいいものが出るわけではなさそうだ。ただ、試行回数が足りてないから、確定ではないが……。


 その後、俺たちはタイガさんたちと別れて、キングウルフさんのいる村へとシルフさんを連れて行くことにするのだった。




**********




「おーっ! のどかでいいところだねー」

「……コウ、この女性は?」

「ええと、話せば長くなるのですが……」


 俺はキングウルフさんに事情を説明する。


「なるほど、事情は理解した。我としては特に問題ない」

「よろしくねー、キングちゃんー」

「う、うむ……」


 シルフさんはキングさんの背中に乗って、キングさんの毛に全身を埋める。


「おー、もっふもっふだー…………ぐぅ」

「……キングさん、いいんですか?」

「うむ。我より強いのだ、逆らえるはずもなかろう」


 ええっ、シルフさんってキングさんよりも強いの!?

 確かに、タイガさんたちをいとも簡単に無力化してたけど……人は見た目によらないなあ……。

 ……もし、エルフの集落の近くにいるシルフたちに会っていなかったら、俺たちは速攻で蹂躙されてたんだろうな……。


「あ、コウさーん。頼まれていたものを作ってきました!」

「ありがとうございます、それでは早速設置をお願いできますか?」

「……ん? それはもしかして……ハンモックか?」

「はい、ダンジョン内からメッセージを送って、アテナさんに作ってもらっていたんです」

「シーダちゃんの糸を使った最高級品ですよ! きっとぐっすり眠れます! では設置してきますね」


 シルフさんはこういうのが好きそうだなと思って作ってもらっていたんだけど……既にキングさんの背中で寝ちゃってるんだよなあ。

 あのもふもふに包まれたら確かにぐっすり寝られそうだ。俺もやってみたいなあ……。

 ……はっ! いかんいかん、失礼なことを考えていた。


「コウさん、設置できましたが使ってみます?」

「そうですね……他に試したい人がいなければ……」

「おー、わたし試したいー」

「え……? もう起きたんですか?」

「何やら楽しそうな雰囲気を感じたのー」


 ええ……風だけに空気を感じたってこと……?

 得体の知れない人だ……。


「あ、ハンモックを試される前にその……してもいいですか! 採寸っ!」

「何か作ってくれるのー? わくわくー」

「はい! シルフさんに合うかわいいお洋服を……」

「やったー楽しみー。それじゃあ早速ー……」

「ちょ、シルフさん! みんなの前で脱いじゃダメですって!」

「えー、わたしは気にしないのになー」

「他の人が気にするんですーっ!」


 俺はバンシーたちの件もあって咄嗟に明後日の方向を向いたので、ライアたちから変な目で見られることはなかったが……それにしても、自由過ぎて若干疲れるんですけど……。

 ……それでも、キングさん以上という相当な実力者なので、潜り抜けてきた死線の数は違うんだろうなあ。

 実際にジャイアントオーガや魔女が手も足も出なかったのだ。もしも彼女が本気を出したら……。


「よーし採寸? 終わりーっ! それじゃあハンモック? ってやつ使わせてもらうねー」


 シルフさんは採寸が終わるとすぐにハンモックに寝転がる。


「おー、これは……気持ちいー……そうだ、ここをこうしてー…………ぐぅ」


 何やらシルフさんが謎の動きをすると、ハンモックがゆりかごのような一定のリズムで揺れ始める。

 もしかして、風の魔法で自動的にそういう動きをするようにした……? しかも寝ている間も魔法が途切れなく続いている……?

 さすがは風の精霊であるシルフの上位種……俺の考えの遥か上を行ってるなあ……。

 どうやって魔法を持続できるようにしたのかなど、聞きたいことはたくさんあるけど……。


「……なんか色々あって疲れたから、今日はホームで椅子を作ろう……」


 俺は初心に戻って、椅子を作って休まることにしたのだった。



 あ、シルフさんに会ったためか、アトラスさんのシィルちゃんはジャイアントオーガの魔石で進化できたらしい。

 ライア……ドリアードもジャイアントオーガの魔石で進化したので、精霊系はジャイアントオーガの魔石がカギなのだろうか?


 また、隠し階層の動画をアップしたことで、今までクリアされてからは放置されていたダンジョンの見直しブームが起きた。

 その検証の中で、『隠し階層に行くには「穴掘り」のスキルが必要』、『隠し階層には強力なモンスター、またはお宝が存在する』など、さまざまな新発見がされることになるのだった。

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― 新着の感想 ―
精霊系の上位種って、登場するとワクワクします! ( ̄▽ ̄) あいるびーばっく(`・ω・´)bっていわれると、 勝手に頭の中であの曲がwいつも更新楽しみにしてます!
シルフの上位種かぁ。さすが『風』。イメージ通り自由ですね。 シルフが居るのなら、サラマンダー、ウンディーネ、ノームも居ますよね。他のダンジョンにも隠し部屋があって、と考えるとわくわくしますね。
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