進化条件の絞り込み
タケルやタイガさんと進化の検証をして数日。
タイガさんのギルドがドリアード入りのパーティーで魔女を倒せるようになり、進化に関しての動画がアップされて掲示板は今日も進化の話題で大賑わいだ。
『今のところ進化が確認されてるのは「ドリアード」「ウルフ」「クロウ」か』
『でも、ペットモンスターにできる方法が確立されてるのはウルフだけなんだよなあ。ドリアードもクロウも配布のモンスターの卵で引いたプレイヤーしかペットにできてないんだよな』
『ドリアードかクロウをペットにする方法が分かれば、一気に戦力強化できるんだけどな……どうにかならないものか』
『あとは単純に上位種のモンスターを探し出せれば、該当モンスターを進化させられるが……』
『モンスターたらしさんに期待するか』
『たらしさんのおかげで村を造れるようになったから行動範囲が広がったし、これから新種のモンスターや別の上位種が発見されることに期待だな』
『俺としては魔女をペットモンスターにしたい。……やましい意味じゃないぞ?』
『そうやって言い訳してる時点で黒だろ。運営さんこのプレイヤーです』
『うわなにをするやめr』
……相変わらずだなあ。
この先、上位種がどんどん出てきたらペットモンスターもどんどん進化していくだろうし、楽しみは尽きないな。
……そういえば、同じモンスターでも別の種類に進化したりするのだろうか? 進化の系統図埋めるのも楽しいんだよね。
「……ん? アテナさんから入場許可が……もしかして……」
俺はホームにアテナさんを招き入れると、アテナさんはアイテムボックスからライアのフィギュアを取り出す。
あれ? 他のプレイヤーがいる状態では取り出せないって説明にあったけど……ライアは俺とアテナさんの共同って判定になってるのかな?
「す、すごいです……私の作った服が、私の作った服が……フィギュアになっちゃいました……!」
アテナさんはフィギュアを大事そうに抱きしめて、涙を流して喜んでいる。
確かに、自分の考えたものが現実で形になるってそうそう経験できないよな……。
「そ、それにこっちは公式絵師さんの描きおろしで……私、嬉死しちゃいそうです……」
アルテミスさんどころかアテナさんまで……嬉死って流行ってるのか……?
でも、自分の考えた服がプロのイラストレーターに新規で描きおろされるって、こちらもまず経験できないよなあ……。
「これも全部コウさんのおかげです! ありがとうございます!」
「い、いえ……俺じゃなくても、他の人にアテナさんが服を作っていたら、そちらでも話題になっていたと思いますし……」
「いえ、あの動画やリアルタイム配信がなければ注目はされなかったと思いますし……改めて感謝します」
「こちらこそ、アテナさんのおかげでライアがフィギュアやアクリルスタンドになったので……俺も感謝してます」
こうやってうちの子が商品化されるなんて、ワールドクリエイターズを始めた時は全く思っていなかったなあ。
そして、ライア以外のラインナップはまだ聞かないけど、どんな感じになっているのか気になる……。
「いつか水着ライアちゃんとか、メイドライアちゃんとか、バニーライアちゃんとかもフィギュア化されませんかね……」
「女の子モンスターも結構いますし、他の子も出るかもしれませんね」
「レイちゃんのも欲しいですよね! 花びらとかツタが結構大変そうですけど、スケールの大きいフィギュアっていいですよね、存在感があって」
「確かに。置く場所はある程度の広さが必要ですけど、存在感は半端ないですね」
……などなど、いろいろと話し込むのであった。
**********
「む? コウか、遊具はまだ大丈夫じゃが……」
「いえ、今日は別の用がありまして」
「ふむ、なんじゃ?」
「確かクイーンさんには後継者の候補がいらっしゃると聞きましたが、どなたになるんですか?」
「……よし、呼んでくるから待っておれ」
……そう言ってクイーンさんは地下から外に出よう……として、遊具を片付けてから地上に出た。こっそり遊具で遊んでること、まだ隠してるんだな……。
「コウよ、連れてきたぞ」
「きゅー」
礼儀正しくお辞儀をするドリアードだ。こちらも合わせてお辞儀をする。
「それで、用事とはなんじゃ?」
「はい、その人にこれを渡したくてですね……」
俺はアイテムボックスから魔石を取り出す。
この魔石はタイガさんからもらったジャイアントオーガの魔石だ。
「……ふむ、よかろう。取り込むがいい」
「きゅー…………きゅ?!」
ドリアードが魔石を取り込んだ瞬間、地下がまるで外のように明るい光で満たされる。
これは進化の光。ドリアードの進化にはジャイアントオーガの魔石が関わるのはこれで確実だろう。
「……ほう、進化したのか」
「はい、ライアが進化したので、もしかしたらと思いまして」
「きゅー……きゅー!」
「きゅーっ!!」
進化したドリアードはお礼なのか俺に抱き着こうとして……ライアが割って入り、俺に先に抱き着いて阻止する。
いや、もっと他に止める方法あったよね!?
「ほれほれ、そこまでにせぬか。……さて、こやつが進化したなら、そろそろワシも引退して悠々自適に過ごせるかのう」
「そこまで信頼してる人なんですね」
「うむ、ワシが地下にいる間は他の者の統率を任せておってな。実質的なリーダーと言ってもよかろう」
「ただ、クイーンさんにしかできないこともありますよ。こうやって、人間と話すのはまだできないでしょうし」
「ふむ……それもそうか。最近ここに来る人間も多くなってきたし、引退はまだ先かのお……」
……人間が多くなってきたのは俺の責任でもあるかな……動画で紹介しちゃったわけだし。
それはクイーンさんには黙っておこう……。
「そうじゃ! こやつが更に進化して人の言葉を話せるようになればよいのじゃ! ということでコウよ、頼んだぞ」
「ええ……」
まさかそれを振られるとは……まあ、俺としてもライアを進化させてあげたいし、ライアが更に進化する方法を見つけたら持ってこよう。
「ところで、アルラウネの上位種を見かけたことはありませんか?」
「ふーむ……旅をしている時にどこかで会った気はするが……いかんせん昔のことじゃからのう。ま、思い出したら教えてやろう」
「ありがとうございます」
ペットモンスター以外の普通のモンスターでも進化することは確認できたし、ジャイアントオーガの魔石が進化に必要なのもほぼ確定したし、結構いろいろ知ることができたな。
前者は意味がなさそうかもしれないが、もしかしたらそのうち『ペットモンスターにするには、敵の時に進化させることが必要』ってモンスターが出てくる可能性もあるし、無駄ではないはずだ。
そういえば、俺の動画に『ドリアードにジャイアントオーガの魔石を与えたけど進化しなかった』というコメントをもらったが、おそらくレベルか……それか他の条件があるのだろう。そこが判明したのも大きいはず。
「……そういえば、そちらの方はレベルはどのぐらいですか?」
「確か200ぐらいだったと思うが……それがどうかしたかの?」
「いえ、進化にレベルが必要なのかと思って確認したかっただけです」
……さすが後継者だけあってめちゃくちゃ高いな……。
ライアよりもレベルが高いから、魔石が足りなかっただけなんだろう。
あとは、進化しなかった人からドリアードのレベルを聞けば、レベルが一定以上必要なことも進化の条件だと分かるはず。
こうやって少しずつ情報を埋めていくのって意外と楽しいんだよね。
「それではこれで失礼します」
「うむ、早くワシが引退できるようにがんばるのじゃぞ。引退したらコウのところで世話になるかの」
「それって遊……」
そこまで口にしたところでバインドで口を塞がれた。そういえば後継者のドリアードがいるから、聞かれるわけにはいかないんだな……。
「コホン。……ということで頼んだぞ」
「は、はい……」
……うかつなことは言えないなあ、と改めて思うのだった。
その後、コメントをくれた人と連絡を取ってドリアードのレベルを確認したところ、使った時点ではまだ20だったようだ。
ということはレベルを上げてもらって、ジャイアントオーガの魔石を再度使ってもらえばレベルが条件であることが確定するかな。
俺はその人とフレンドになって、レベル30になったらメッセージを送ってもらうことにするのだった。
**********
「ふぅ、今日はかなり歩き回ったし、休憩がてら何か作ろうかな」
クイーンドリアードさんのあとはバンシーさんのところを訪問し、遊具の補充やアテナさんに頼む服の相談などを行った。
また、バンシーさんのところでもアルラウネの上位種について聞いてみたが、やはり情報は得られなかった。
早くレイも進化させてあげたいんだけどね……。
あと、いつまでも『バンシーさん』呼びだとアレかな……? でも、クイーンというわけでもないし、モンスター名を表示しても『バンシー』のままだし……。
エルダーバンシーとでも呼ぼうとも思ったのだが、エルダーって年長者……結構お年を召されているイメージがあるんだけど、あのバンシーさんはまだこどもがいないって言ってたから、まだまだお若いはず。
……うーん、なかなか難しい問題だ。
「よし、まずはマジックポーションを作ろうかな」
作業をすればポンといいアイデアが浮かんでくるかもしれないと考え、とりあえず手を動かすことにした。別の事やってるときって意外とアイデアが降りてくるんだよね。
スコールの新スキル『穴掘り』の検証のために、MP回復手段はいくらあってもいいから、マジックポーションがちょうどいいだろう。
俺はマジックポーションの素材である魔草2つと純水を用意し、作業を始め……。
「きゅー」
「るー」
……ようとすると、ライアとレイの2人がこちらを覗き込む。
どうやら、自分たちもやってみたい、と言っているのだろう。
「それじゃあ、お願いしようかな。まずは自分がやるから見ててね」
「きゅーっ!」「るー!」
俺は純水に魔草をすり潰したものを投入してかき混ぜ、別の容器にろ過する。
そして、ろ過した混合物に魔力を注ぎ込み……。
「……よし。完成だよ」
俺はできあがったマジックポーションを確認する。ランクはいつも通りのDだ。まあ、素材もDランクだしね。
ちなみに、色は綺麗な紫色をしているので、観賞用に飾ってもいいかもしれない。
「それじゃあ、2人の分も用意するからちょっと待ってね」
その後、俺たちはマジックポーションを作り始めたのだが……。
……あれ? 2人で一緒に魔力を注いでる……?
2人の様子が気になって横目で見ていたのだが、思わぬ行動を取っていた。
……そういえば、ハイポーションは2人でないと作れなかったし、もしかしてより良いものを作ろうと思ってやってくれているんだろうか?
俺は2人の邪魔をしないように、自分の作業に集中することにした。
「きゅーっ♪」
「るーっ♪」
俺は2人の嬉しそうな声を耳にして、2人の方を見る。
すると、透き通った緑色をした液体が容器の中に見える。……あれ? これはマジックポーションの色ではないような……。緑色……?
「2人とも、ちょっとこれを見てもいい?」
「きゅっ」「るっ」
2人は『どうぞ』と容器に手を向ける。
俺は容器を手に取り、詳細を確認してみることに。
【ポーションオブフォレスト:ランクC、MP自動回復効果を付与(10分)。1分ごとに最大MPの2%が回復する。異なる種族が力を合わせて作った、ほのかに森の香りが漂うポーション。朝露に濡れる木の葉のように澄んだ緑色をしている。……ところで、森の香りとはいったいどんな香りなんだろうか?】
いや、説明文が疑問を投げかけるなよ。しかも森の香りって言ったの自分だろ!?
……まあ、昔たまに近くの森に遊びに行ってたから何となく分かるけど。
そのうち『雨が降る前に匂う空気の香り』みたいなのも出してきそうな気がする……。
さておき、MP自動回復効果かあ……パーセンテージは低めだけど、レベルが上がれば上がるほど有用度が上がるタイプのアイテムだな。
最大MPが100だと2しか回復しないからマジックポーションの方がいいけど、10000になったら200ずつ回復するようになるんだよな……そこまでMPが上がるかはまだ不明だけども。
「ライアもレイもすごいね。新しいものを作っちゃうなんて」
「きゅーっ」「るーっ」
2人はえっへんと胸を張る。かわいい。
俺は2人を撫でつつ、特許を申請しておく。
……へえ、ドリアードとアルラウネじゃなくても、地属性2人で同じもの作れるんだな。と、特許の作成方法を見て気付く。
こうなると、相反しない別の属性でも大丈夫なのかとかも気になってくるな……。
それと、今になってこういうのが作れたのはライアが進化したのもあるのだろうか?
以前、2人が遊びで同じようなことをしてたことがあるけど、そのときは失敗してたし……。
相変わらずこのゲームの錬金術は奥が深いなあと思いながら、俺もがんばろうと決意を新たにするのだった。




