魔女のホウキ作り
「さて、この風草を使って魔女のホウキを作るわけだけど……」
俺は風草を持って、じーっと眺めている。
風の魔法を強化する特性があると言っても、見た目はごくごく普通の草だ。
これで空が飛べるホウキを作れるなんて、普通だと考えられないよなあ。
……そういえば、これを靴に仕込んだり、マントに仕込んだりしたら人間でも簡単に空を飛べたりしないかな。
特にマントに仕込んで塔から飛び降りたら対岸まで渡れそうだし。今のところ塔は見かけないけど。
「……まあ、まずは依頼通りホウキを作ろうか」
ちなみに、タイガさんからは「一番いい素材で頼む」と言われたので、「そんな依頼の仕方で大丈夫か?」と返したら「大丈夫だ、コウ殿を信用しているので問題ない」と更に返された。分かってらっしゃる。
それはさておき、俺は風草を採取した帰りに買った竹を、タイガさんに頂いた壊れた魔女のホウキと同じ長さに切る。
次に、風草を竹の周りに巻き付け、それを針金で固定する。針金はアトラスさんに作ってもらったものだ。
更に追加で巻き付けていき、針金で固定して……を繰り返してボリュームを増やしていく。
おそらく、風草が多ければ多いほど、風魔法を強化することができるはず。実際に壊れたホウキの穂先のボリュームも結構なものだったし。
そして、採取してきた風草がなくなったので、穂先の根元を揃えてから針金の本締めをして穂先を固定する。その後、先をハサミで切ってから整えて……と。
一応、これで完成ではあるけど……魔女の子は全身が黒いコーデなので、それに合わせて竹の部分も黒く塗ってみようかな。黒だとちょっとした高級感も出そうだし。……穂先を取り付ける前に塗っておいた方が良かったかなあ……これは次回に活かそう。
……あ、風魔法を強化するなら風の魔玉を使って属性補正も付けるといいかも? でも、魔女は全属性の魔法が使えるし、魔玉での補正は-補正もあるから使わないのが無難か……?
「……よし、これで完成かな」
俺は完成したホウキの詳細を見てみる。
【魔女のホウキ:ランクB、風属性+5、MP+25、魔力+51、速さ+30、魔防+18、風草の特性により、風魔法が強化される特殊な杖。風魔法で気流を操ることにより飛行が可能だが、相当なMPを消費するのでMP管理には注意が必要。普通のホウキとして掃き掃除にも使えるが、それで使用回数を減らすのはもったいない気がする】
なるほど、高速で空を飛べるから速さも上がる設定なのか。……いや、装備するだけで上がるなら飛ばなくても適用されるからこれはどうなんだ……? フレーバー的なステータス補正か……?
そして、属性魔玉を使っていないのに風属性の補正があるのも特徴かな。しかも-の属性補正が無しなので、単純に強化だけなのはありがたい。
……あと、絶対に普通のホウキとしては使わないよな。うん。
風魔法が強化されるなら、魔法で掃除した方が早い気もするし。吸引力が変わらないどころか強化される掃除機とか作ってみたい。
「……とりあえず、タイガさんに納品しよう」
**********
「まーっ!」
タイガさんに魔女のホウキを納品し、魔女……名前はマオというらしい……は、それに乗って飛び回っている。
ホウキの完成までにレベリングもしっかりしたらしく、試運転でMPが切れる様子はない。
「実際に見てみると凄いですね……この速度な上に、ダンジョンボスのステータス補正があるのを相手にしないといけないなんて……」
「ああ、これで儂らの苦労が伝わると思う……そして、それを突破できるように手助けをしてくれたコウ殿には改めて感謝する」
「……ところで、マオって名前、魔女ってことですよね?」
「……分かるのか」
「ええ、俺もたぶん似た名前を付けるでしょうし……」
俺たちはがっしりと握手を交わす。名付け下手同盟ここにあり。
「それにしても、空を飛ぶのって気持ちよさそうですよね」
「うむ。儂もぜひ飛んでみたいものだが……この姿でホウキに乗って飛ぶのは……何か違う気がするな……」
「……あー……確かに虎の獣人がホウキで空を飛んでたら思わず二度見しそうですね」
「儂なら三度見するな」
まあ、俺みたいに人間の恰好でも男だと似合わない気がする。
ホウキで空を飛ぶって魔女っ子とか魔女ってイメージがあるからだろうけど。
「だとしたら、どんな感じで飛んでればいい感じになりますかねえ」
「……タヌキになって尻尾で空を飛ぶとかだろうか」
「あとは帽子に羽が生えてとか……マントもありましたね」
「……意外とあるものだな」
「ですねえ」
……などと談笑をしていたら、マオさんがスーッと空から降りてくる。
「まーっ」
それにしても、こんなに美人の女の人が「まーっ」って喋るのはギャップが凄いな……。
「ふむ、どうやら気に入ってくれたようだ。感謝する」
「よかったです。初めて作ったものなので、マオさんが今までと同じように飛べるか心配でしたが……杞憂だったみたいですね」
「うむ。ところで報酬なのだが……まずはこちらを受け取って欲しい」
「こ、これは……!」
タイガさんから手渡されたのは魔女の魔石だ。しかも3つもある。
今のところダンジョンボスからしか手に入らないはずなのに……こんなに貴重なものをいいのだろうか?
「よろしいのですか?」
「うむ、コウ殿のペットモンスター全員分を渡しておきたくてな。ギルドメンバーに協力してもらったのだ」
「レベル上げを兼ねて、レアドロップを狙いつつ……ですか」
「そうだな。今後魔女のようなモンスターも出てくるだろうし、戦闘経験も積めると思ってな。……それに……」
「……もしかして、レイやスコールが進化しないか、期待してます?」
「……お見通しか」
イベントボスだったジャイアントオーガよりも深い階層で出てくる魔女のことだ。魔石はジャイアントオーガよりも貴重なはず。
それなら、もしかすると進化する可能性もあるだろう。
「……ライア殿が進化したのだ。その2人が次に進化する可能性が高いと思ってな」
「しかし、ライアがなぜ進化したのかはまだ分からないのですが……特別なことはしてないと思うんですけどね」
「確かに、ライア殿よりもレベルは高いドリアードもいるだろうし、戦闘経験の豊富さで言えばそういうドリアードの方があるはずだしな……」
「それに、あの進化動画を投稿してからも、進化したドリアードも聞きませんしね……一体何が原因で進化したんでしょうか」
「謎だな……とりあえず、魔女の魔石を2人に与えてみて様子を見るのもいいかもしれんな」
まあ、確かに今のところはそれしかないかな。
ライアが進化したのはジャイアントオーガの魔石を食べた時だし、魔石が関係しているのは確かだと言えるだろう。
「それじゃ……みんなー、今日の分の魔石だよー」
「きゅー!」「るー!」「がう!」
俺が呼びかけると、遊ぶのを止めて皆が集まってきてくれる。
まずはライアから……。
「きゅー……っ♪」
あ、この反応は大好物の魔石だ。
魔女は魔力が高いから、魔石としても美味しいのだろうか?
さて、次はレイに……。
「るぅ……♪」
あ、こっちも大好物だ。大好物がかぶるのは珍しいな。
魔女の魔石は高級過ぎるからめったにあげられないけど……。
そして、最後にスコールに……。
「が、がう……?」
スコールが魔石を取り込んだ瞬間、辺りにまばゆい光が広がっていく。
もしかして、この反応は……!?
そして、時間が経つにつれて光が弱まっていき……。
「がうーっ!」
現れたのは、キングウルフさんまでとはいかないものの、今までの倍以上の大きさになったスコール。
ゴールデンレトリバーなどの大型犬よりも更に大きいので、今なら俺も背中に乗れそうだ。
……ちなみに、昔実家で犬を飼っていたことがあるが、その時はヨークシャテリアだったなあ。懐かしい。
「おお……まさか進化する場面に同席できるとは……」
「レイよりも一緒にいた時間が短いスコールの方が早く進化するなんて……余計に条件が分からなくなりましたね」
「そうだな……まあ、今は祝ってあげたらどうだ?」
「そうですね、スコール、おめでとう!」
「がうっ♪」
俺はスコールの頭を撫でてあげる。
……このふわっふわの手触り……いくらでも触っていられるぞ……。
「きゅー!」
ライアも触りにきたようだ。少し撫でた後に抱き着いて、思う存分もふもふを堪能している。
「るー……」
……そんな中、みんなとは少し離れて落ち込んでいるレイがいることに気付く。
確かに、一人だけ進化できていないのは寂しいはず。
「がう」
レイに歩み寄ったのはスコール。
頬をぺろっと舐めたあと、尻尾で背中を指し示す。
「るー……」
レイは、ふわりと浮かんでスコールの背中に乗り、ツタで身体を固定する。
「がうっ!」
それを確認すると、スコールは勢いよく走りだす。
今までよりも速く、そして力強い走りだ。
しばらくすると、背中に乗っているレイの表情に笑顔が戻る。
スコールはレイのことを気遣ってくれたんだな。
「きゅー」
ライアの声がして俺が振り向くと、マオさんのことをじーっと見るライアがいた。
もしかして……。
「まー?」
「きゅー!」
ホウキを用意するマオさんと、それに乗るライア。
そして、ライアはマオさんにぎゅーっとしがみついて……。
「きゅー!」
マオさんは飛び立ち、スコールと並走を始める。
ライアはレイに呼びかけて手を振ると、レイもそれに反応を返す。
「がうー!」
「きゅー!」
「るー!」
しばらくの間、3人とマオさんは楽しそうに遊んでいたのだった。
**********
「……すみません、せっかくのホウキの使用回数を減らしてしまって……」
「いやいや、こちらとしても良いものを見せてもらったし、進化の可能性も増えた。収穫はあったから気にしておらんよ」
「ありがとうございます。……しかし、進化はしたものの、謎は深まりますね」
「うむ、何か共通点があればいいのだが……」
共通点……か。
ライアはドリアード、スコールはウルフ。
魔石の好き嫌いは全然違うし、手に入る魔石はレイも含めて全種類与えた。
レベルもライア>レイ>スコールの順だし、レベルが関係しているとは考えにくいか……?
いや、モンスターによって進化レベルが違うのはよくあるが……。
あとは経験だろうか……?
ヴァノリモ大森林、クォルトゥス鉱山、アドヴィス森林、グラティス草原、ティノーク海岸、フェルトリモ森林……あとはアラクネのいる名もなき森……。
だいたいの所はみんな連れて行っているはず……。
ほかには……クイーンドリアードさんにキングウルフさん、バンシーさん…………ん?
ライアはドリアード、スコールはウルフ……。
「……もしかして、『上位種』に出会っている……?」
「コウ殿、何か分かったのか?」
「はい。ライアはドリアードで、クイーンドリアードさんに出会っています。そして、スコールもキングウルフさんに出会っています。ですが、レイは……上位種のアルラウネに出会っていません」
「つまり、上位種と出会ったり、交流したりしたことが進化につながった可能性がある、と」
「そうですね、レイだけアルラウネの上位種に出会っていません。違いがあるとしたらここぐらいでしょうか?」
「なるほどな。しかし、アルラウネの上位種というのは聞いたことがないな……」
アドヴィス森林にいたのはアルラウネだが、そこに集落があったのはバンシー。
名もなき森もアラクネだが、集落があったのはバンシー。
関連性が見出せない以上、闇雲に探してもアルラウネの上位種に出会うのは難しいだろう。
それなら、今現在判明している上位種は……。
「キングウルフ、クイーンドリアード、クロウレギオン……あと正式名称は不明ですがバンシーさん……この中で俺の知り合いがペットモンスターにしてる下位種は……タケルのクロウ……」
「……ふむ、それならタケル殿にクロウレギオンと戦ってもらい、更に魔女やジャイアントオーガの魔石を渡せば……」
「ええ、検証できるかもしれません」
こうして、俺はタケルにメッセージを送り、タイガさんは魔女の魔石を取りに向かうのだった。




