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コウはお金を稼ぎたい

「ふぅ、結構な量を買ったし、そろそろ帰るかな」

「きゅーっ」


 アテナさんのホームから町に戻った俺たちは、ペットモンスターであるライアの食べ物となる魔石を買うためにお店を回っていた。

 すると、ペットモンスター実装前までには無かった店ができていて、そこで魔石が買えるようになっていたのだ。

 お値段は1個10G~50Gとかなりリーズナブル。

 懐に余裕があるので、各種2個ずつ購入してホームに帰宅した。


「さて、どれをあげようかな……」


 俺は購入した魔石の一覧を見ながら、どれをライアにあげようか考える。

 好き嫌いとかあるのかな……できれば好物をあげたいけど……。


「よし、それじゃライア、これを……」

「きゅーっ!」


 俺が取り出したのは、スライムの魔石。

 ファンタジーでおなじみのモンスターだ。ちなみに値段は10G。


 ……そういえば、これ石なんだけどどうやって食べるんだろう……。


「きゅー……」


 と、ライアを観察しているとライアの手が光り、魔石が光に包まれて溶けていく。

 そして、水のようにふわふわと浮き、それがライアの身体に吸収されていく。


 魔石は魔力の塊とかヘルプで見たけど、魔力を自分の身体に吸収した、という感じだろうか?


「きゅーっ♪」


 光が収まると、ライアは俺の方を見てほほ笑む。

 どうやらお腹が膨れて満足したようだ。


「よし、それじゃ俺は椅子を作ろうかな」


 俺はライアを連れて作業場に行くと、作業の準備を進める。

 ライアは俺が何をするのか興味津々なようで、じっと見つめてくる。


 ……そういえば、ライアはドリアード。木の精霊の前で木を加工するって、同族(?)をいじめられてるような感覚で嫌にならないだろうか?


「ライア、俺はこれから椅子を作るんだけど……木を加工されて嫌とかは思わない?」

「きゅーう」


 ライアは首を横に振る。

 もしかして俺に気を遣ってくれてるのかな……でも、ライアは感情を思いっきり表に出してくれる子だし、嫌ならきちんと嫌って言ってくれるはず。

 よし、それなら大丈夫だろう。


 俺は木材を準備すると、製作に取り掛かる。


「あ、ちょっと危ないかもしれないから、ライアはちょっと離れて見ててね」

「きゅーっ!」


 ライアは言われたとおりに少し離れて机の上で俺を見守っている。

 ……そうだ!


 俺は今回は椅子は椅子でも、ちょっと違った椅子を作ろうと決めた。




**********




「ふぅ、これで完成かな」

「きゅー?」


 俺はライアにこっちにおいで、と手招きする。

 そして、ライアに今しがた作った椅子を見せる。


「どう? ちょっと座ってみてもらえるかな?」

「きゅーっ!」


 ライアは俺の作った椅子に腰かける。

 うん、大きさもピッタリ……とまではいかないけど、充分に余裕をもって座れるな。


 そう、俺が今回作ったのはライア用の椅子。

 今後も椅子などを作るにあたって、ライアをずっと立たせたままで作業を見せるのもどうなのかと思ったからだ。

 ライアは椅子を気に入ってくれたのか、ニコニコしながら座っている。


 ……そうだ、この椅子のステータスはどんな感じになってるんだろう。


【小さな椅子:ランクD、特殊効果なし、ペット用の小さな椅子。作り手の優しさがうかがえる】


 へぇ、ペット用って認識されるのか。ペットモンスターが追加されたから増えた説明文なのかな。


「きゅーっ♪」


 などと考えていると、ライアが俺の顔に飛びついてくる。

 そして、俺の頬に小さな何かが触れる。

 目をそちらにやると、ライアの頭が見える……ってことは、キスされてる……?


「そ、そこまで喜んでくれるようなら、作った甲斐があったよ」

「きゅー」


 ら、ライアが積極的すぎる……。俺、彼女いない歴=年齢だから、あんまり女の子に免疫ないんですけど!

 まあ、喜んでくれたようなら何よりである。


【INFO:ホームへの入場申請があります】


 ん? 誰だろう?

 確認すると、タイガさんからの申請のようだ。


「よし、承諾して……っと」


 俺はタイガさんを出迎えるために、玄関へと足を運んだ。




**********




「いらっしゃいませ、タイガさん」

「ああ、コウ殿。今日はお礼をお持ちした」

「お礼? 何かお礼されるようなことしましたっけ……?」

「あの椅子のことだな。あれのおかげで持ち込み制限ダンジョンが踏破できたのだ」


 あ、なるほど。回復する椅子が役に立ったようで俺としても嬉しい。


「……ところで、コウ殿の肩に乗っているのは……」

「あ、紹介します。俺のペットモンスターで、ドリアードのライアと言います」

「きゅーっ」


 ライアが頭をペコリと下げる。


「これはご丁寧に。儂はタイガと申す虎の獣人、ライア殿も今後ともよろしく」


 そういえば、タイガさんのペットモンスターはどんな子なんだろう。

 ちょっと気になるけど、またあとでもいいかな。


「立ち話もなんですし、中に入りましょう」

「うむ、失礼する」




「ええと……こんなに頂いていいのですか?」


 俺は、机の上にドサリと置かれたお礼の量に驚いてしまう。

 魔石が数十、ランクCの各種木材、ランクCの薬草の種など、本当にこんなにもらってもいいのだろうか。


「うむ、あの椅子がなければ踏破はできなかっただろう。それほどまでに持ち込み制限が厳しいのだ」

「俺は潜ったことがない……というか町の外にすら出たことが無いんですけど、そんなに厳しいんですか?」

「ああ、『同じ名前のアイテムは1人5個まで』という制限があってな。パーティーは4人までだから最大でも20までしか持ち込めない。ランクCとDの薬草があっても、ランク違いの合計も5個までなのだ」

「なるほど、だから椅子ひとつで回復手段が増えて……」

「そういうことだ。更に初踏破ギルドには褒章も出てな……だからこれは正当な対価として受け取って頂きたい」

「分かりました。そういうことでしたらありがたく頂戴します」


 実際、これから魔石の出費が増えるしありがたい。

 薬草の種も、ライアのおかげですぐに薬草になって収穫できる……というか、ポーション作りでMPが足りなくなるぐらいにたくさん採れるから、ランクが上の薬草で単価が上がるのも嬉しい。


「……ところで、そちらのライア殿はどんなスキルを持っているのだ?」

「ええと……MPが回復する光合成、遠距離攻撃ができるシードバレット、畑に植えた植物の収穫を1日早める成長促進ですね。おそらく他のドリアードと同じだと思います」

「……いや、違う」

「え?」

「成長促進はユニークスキルだろう? ユニークスキルは個別に設定されていて、同じ種族でも効果が全く違うスキルになるのだ」


 ……『ドリアードという種族の固有スキル』という意味でのユニークスキルだと思ってたけど、違ったんだ……。

 もしかして、結構強いスキルなんだろうか。


「……コウ殿、実は頼みがあるのだが……」

「な、なんでしょうか? 俺にできることであれば……」

「成長促進のスキルで、儂のギルドの種を畑の一部で育てて欲しいのだ。もちろん、対価は払わせていただく」

「なるほど、つまり育ち切るまでにかなりの日数を要する種がある、と」

「その通りだ。1日早まるだけでもかなり違う。次の休日に間に合うようになるからな……」


 つまり、8日か9日かかる植物の種があるのか。

 薬草は2日だから、それに比べるとかなり時間がかかるなあ。それだけ効果が強いんだろう。


「分かりました、俺は大丈夫です。薬草が1日で育ってしまうので、畑を薬草で埋めたらポーション作りのMPが足りなくなるところでしたので」

「確かにすぐ枯渇してしまいそうだな……。では、種はまた後日持ってくるとしよう」

「分かりました。……ところで、少し相談があるのですが……」

「ふむ、儂に分かる範囲であれば……」

「ええと、実はお金に関してなのですが……」


 そう、お金の問題。

 椅子などを作る材料費に加え、ライアの魔石の購入費もあるから、出ていくお金は増える。

 幸い、今は回復する椅子をオークションで売ったおかげでお金に余裕はあるけど、入ってくるお金はあればあるほどいい。


「なるほど、魔石の購入費用が新しく増えるから、だな」

「はい、魔石自体はモンスターを倒せばいいんでしょうけど……俺、まだ町の外に出たことないんですよね。ものづくりの時間が減ってしまうので」

「できるだけ外に出ないようにするため収入を増やしたい……か。それにはいくつかあるが……」

「差し支えないようでしたらお願いします」


 もし、あまり外に出したくない金策があれば、無理をして聞きたくはないしね。


「まず、『動画でバズる』ことだな」

「ど、動画ですか?」

「ああ、例えばポーション製作の動画は見たことがあると思うが……」

「はい、これですよね? ……再生回数一千万超え……!?」


 当時はそこまで気にしてなかったけど、よくよく見たらすごい再生回数だ。


「一定の回数以上再生されると、運営から報酬がもらえる仕組みだ。また、視聴者が投げ銭をしてくれることがある」

「投げ銭って聞くと、手持ちのお金が減る代わりにモンスターに大ダメージを与える技を思い出しますね」

「ハハハ、懐かしい。まあ、ここでいう投げ銭はスパチャと同義だな」


 ……このネタ、タイガさんにも通じるんだ。

 と、横道に逸れてもいけないので軌道修正しないと。


「つまり、動画がバズれば運営から報酬が出るだけでなく、投げ銭がもらえる機会も増えるということですね」

「まあ、そこまで動画がバズることはほぼ無いがな。そしてもう1つは……」


 実際、そこまでバズらせるなんて俺には無理だろうしな……。もう1つがもう少し楽ならいいんだけど。


「『新しいレシピを発見する』だな。例えば、ポーションのレシピを最初に見つけたら、その後1年の間、ポーション売買の1%が特許料としてもらえるんだ」

「特許……ですか」

「レシピを発見するのは容易ではないからな。ポーションのレシピもサービス開始から1週間は発見されなくてな」

「確かに、あの手順を発見するのは骨が折れそうですね……魔力の調整も結構繊細なコントロールが要求されましたし」


 ……うーん、どちらも今の俺には難しいかもしれない。

 でも、覚えておいて損はないかな。


「説明しておいてなんだが、どちらもかなり難しいものだからな……力になれなくてすまない」

「いえ、知っておいて損はありませんし、もし新レシピができた時になっても慌てなくてすみますしね」

「そう言ってもらえると助かる。……もし、あの回復する椅子が作れた時の動画があれば前者はいけそうだが……」

「あ、それありますよ」

「……は?」


 すっかり忘れていたけど、釘打ちの音をいつでも聞けるように動画に撮っていたんだった。


「……それを公開したら、高確率でバズりそうだが……」

「……あの椅子の製作者、ってバレますよねえ……」

「もし公開するのであれば、動画の編集方法に詳しい儂のギルドのメンバーを紹介しよう」

「ありがとうございます、ちょっと考えてみますね。今はまだお金に困っているというほどではないので」

「うむ。それでは儂は自分のペットモンスターの様子を見にホームに帰るとするよ」

「分かりました、それでは」


 こうして、タイガさんはホームへと帰っていた。

 さて、どうしようかな……まあ製作者バレしてもいいと言えばいいんだけど……。


「きゅー?」

「あ、ごめんごめん、ちょっと考え事をしてたんだ。それじゃ、椅子の製作の続きをしよっか」

「きゅーっ!」


 その後、椅子の製作方法をいくつか試し、今日はログアウトするのだった。

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