進化②
「あ、ヘルプに進化の項目が追加されてるんだ」
翌日になって、ライアのことも落ち着いてきたので、ゆっくりと更新情報を読んでいる。
どうやら、ライアが進化してすぐに更新情報がアップされていたらしい。
「へー、いろいろと便利な機能があるんだな」
要点をまとめるとこんな感じだ。
【進化前の姿に戻すことが可能】
前のデザインの方が良い、進化後の装備がまだ整っていないなど、確かに前の姿の方でいて欲しいって状況はあるな。
俺の場合は自作とアテナさんの協力ですぐに現状復帰できたけど、旅の途中で進化したら大変だろうしね。
ちなみに戦闘中に姿を変えるのは不可らしい。当たり判定の関係で、変化させて避けることができるためだろう。
【装備記憶は進化段階ごとに設定できる】
ライアみたいに大きさが変わる場合、装備できるものも変わってしまうための措置だろう。
なお、進化段階を変化させた場合、最終的に装備していたものが自動的に装備されるとのこと。
装備できないものはアイテムボックスに送られるので、進化前のライアの服がアイテムボックスにあることは確認した。
【ステータス、スキルはどの進化段階になっても変わらない】
進化によってステータスは上昇し、スキルも強化されるが、進化前に戻ってもこれは継続されるらしい。
つまり、進化前の姿に戻って戦闘して『いつからライアが普通のドリアードだと錯覚していた……?』ができるってことか。使う機会なんてないだろうけど。
どちらかというと、進化前のデザイン好きな人向けかな。
……他にもいろいろ書いてあるけど、現状はこれぐらいかな。
そういえば、まだライアのステータスを見てなかったなあ……昨日はいろいろと忙しかったから……。
俺はライアのステータスを開いて確認することに。
能力は基本的にほぼ+10、得意なステータスは+20強化されているので、これだけでもかなりの戦力強化である。
更に、シードバレット、光合成、バインドのスキルレベルが上がり、威力や弾数、回復量や拘束時間が増えた。
極めつけは成長促進。収穫日数が-1から-2になっていて、更に収穫速度が上昇した。
なお、どんなに収穫日数を減らしても12時間未満にはならないらしい。それでも、半日で収穫できるようになったので、かなりの効率アップだ。
「きゅー?」
「あ、ライアがすごく成長したなあって思って」
「きゅーっ……♪」
褒められて嬉しいのか、ライアは頬を紅潮させる。
……う、人間サイズになると表情の変化も分かりやすくなって、威力が高いぞ。
「るー……」
「がう……」
そして、先にライアが進化したせいなのか、ちょっと不満気味なレイとスコール。
2人も進化させたいけど、この2人の進化条件もジャイアントオーガの魔石なのだろうか?
「2人とも進化できるように、俺もがんばるから待っててね」
「るー」
「がう」
どうやら納得してくれたようで、2人は遊びに戻っていった。
ジャイアントオーガはエルフの集落にあるダンジョンにいるんだよな……でも、俺のレベルじゃ足りないだろうし、タイガさんたちに頼んでみようかな。
そういえば、大きくなったからライアの装備も更新したけど、杖はチェンジプラントのおかげでかなり能力が上昇していた。
比較するとこんな感じだ。
【杖】
前:ランクC、地属性+20、風属性-20、MP+22、力+6、魔力+52、魔防+23
後:ランクB、地属性+20、風属性-20、MP+25、力+48、魔力+57、魔防+25
【服】
前:ランクC、MP+11、生命力+5、魔力+10、魔防+35
後:ランクC、地属性+20、風属性-20、MP+18、生命力+15、魔力+25、魔防+36
服はアテナさんが進化祝いとして地属性の魔玉を付けてくれたから、属性補正が付いている。
更にアラクネの布を使用しているのもあり、能力が全体的に高くなっている。
風属性にはめっぽう弱くなるけど、地属性がかなり強化されるのでライアにはいい感じだと思う。
属性補正は%強化と弱化になるので、杖と服を併用すると地属性攻撃が1.4倍と大幅に強化される。
……しかし、杖はランクBとはいえ、その力の+要らないだろ! もっと他のところをさあ……一応使用回数は増えてるんだけど。
まあ、殴りヒーラーやってる人にはいいんだろうな、力も魔力も上がるのは。
この杖そのものは属性は付いてない……あくまで属性補正値だけなんだけど、武器に属性付与できるスキルがあれば、両手に持ってみだれうちで属性付き8回攻撃とかできそうだし。
「そういえばライア。大きくなったのなら、レイとシーソーができるようになったんじゃない?」
「きゅ……? きゅーっ!」
ライアはそれに気づくと、レイを誘ってシーソーを始めるのだった。
多少の位置調整は必要だけど、無事に2人で遊べている光景を見るとほっこりする。
「さて、俺は動画の編集を終わらせてアップしようか……」
クイーンドリアードさん、キングウルフさん、そしてライアの進化。
すべて動画に収めているので、これが他のプレイヤーの参考なればいいな。
もちろん、クイーンさんたちの威厳が保たれるように編集している。まあ、実際に会ったら2人とも威厳崩壊するだろうけど……。
……あ。
動画を編集してて気づく。
ライアは進化して装備が外れたから、動画中のライアが裸になってしまっている。
ライアは娘みたいなものだから、できれば裸は見せたくないけど編集の仕方が分からない。いや、普通のドリアードは基本的に裸だから裸の方が自然なんだろうけど。
文字で隠すか? それとも……。
とりあえず、動画に詳しいアルテミスさんに連絡を取って、編集を手伝ってもらうことに。
その際、めちゃくちゃ鼻血を出して倒れそうになったけど……まあ、いつものことか。
**********
「よし、順次アップしていこう」
動画の準備ができたので、ライアの進化、クイーンさん、キングさんの順に、何日間か間を開けてアップすることにした。
一気にアップしても情報の洪水をワッと一気に浴びせることになるだろうしね。
掲示板を確認したけど、やはり進化の話題で溢れてたし、進化を一番最初にアップするのが正解だろう。
「……よし。予約投稿できたし、バンシーたちに会いに行こうかな。大きくなったライアを紹介したいし……」
クイーンさんとキングさんにはもう知られているから、あとはバンシーたちに紹介すれば終わりかな。
動画の予約投稿が終わるまではライアを連れていると驚かれそうだし、アドヴィス森林に到着するまではスコールを外に出しておこうかな。
俺はバンシーたちのための遊具をアイテムボックスに収納してから、スコールを連れてホームから出発する。
「お、コウか。どこかに行くのか?」
「アトラスさん。ええ、ちょっとアドヴィス森林に遊具を届けに」
「相変わらずマメだなあ。移動時間もバカにならないだろうに」
「でも、喜んでくれている所を見ると、こっちも幸せになりますしね」
「ま、それがものづくりのいいところだよな。現実だと間に仲介業者とかが入って、ユーザーの顔を見ることなんてほとんどないしさ」
「ええ、それがこのゲームのいいところですね。それでは行ってきます」
「ああ、おれはキングウルフと遊ぶことにするよ」
俺はアトラスさんと別れると、アドヴィス森林に向かう。
モンスター出現抑制機能を使って歩いていたが、途中でウルフに出会う。
特に敵意があるわけでなく、こちらに擦り寄ってくるのでいつものキングウルフさんのところのウルフだと分かった。
俺は瓶詰めしていたレイの蜜を小さな木のお皿に移すと、ウルフたちに渡してその場を後にする。
「お皿は後から回収するから、持って行かないようにねー」
ウルフたちは頷いていたが、他のウルフたちも集まってきたので、はてさてどうなることやら。
**********
「ふぇーっ♪」
ライアの紹介を終えてから遊具を取り出すと、バンシーたちは目を輝かせて喜んでいる。
今回は新しい遊具も持ってきたので、それに多くのバンシーたちが集まっているようだ。
「あらあら、みんな楽しそうねえ」
……ん? 誰かの声が聞こえて来たけど……。
「……え?」
俺はそちらに振り向くと、普通のバンシーと同じ格好をしているものの、身長も高くて大人の雰囲気を出している女性だ。俺が最初に助けたバンシーの母親とはまた別の人のようだが……。
人の言葉を喋っているということは、キングさんやクイーンさんと同じく、進化したバンシーなんだろうか?
「ふふ、みんなから聞いてるわ。あなたがコウさんね」
「え、ええ……そうですけど……。貴女は……?」
「あら、ごめんなさい。私は他の森のバンシーの長をやってるの。あなたの噂を聞いて待っていたのよ」
ここ以外にもバンシーの集落があるんだ……確かにウルフもいろいろな場所に存在してるし、おかしい話ではないな。
それにしても俺の噂とはいったい……?
「この子たちが、コウさんが楽しいものを持ってきてくれる、と言って遊具で楽しんでいてね。それを私の森にも持って帰りたくて……」
「なるほど、それでしたら俺が向かいましょう。アイテムボックスはお持ちではないでしょうし……」
「あら、それは助かるわぁ。もちろんお礼はさせて頂くわ。うふふ……」
「きゅーっ!」
突然、ライアがバンシーと俺の間に入ってくる。
どうやら俺が誘惑されてるのではないかと思って、俺にぎゅっと抱き着いてくる。
「あらあら、大丈夫よ。あなたからコウさんを取ったりはしないから、ね?」
「きゅー……」
少し不満そうな顔をしたものの、ライアは俺から離れたのでおそらく納得したのだろう。
「それじゃ、用事が済んだら声をかけてね。私は他の子を見ながら遊具の使い方を勉強しておくわね」
こうして、用事を済ませたあとバンシーさんとアドヴィス森林の外に出る。
そして向かうのは……。
「ここから北東にある森が私たちの集落なの」
「あれ? それってアラクネがいる……」
「あら、ご存じだったの?」
「ええ、しかしアラクネがいる以外のことは分かりませんでしたが……」
「それは私が魔法で認識阻害をしているの。だからあの森は普通の森のように見えてるのよ」
「なるほど……」
確かに、あの森はただボスのアラクネがぽつんといるだけだと思ってたけど、アドヴィス森林と同じで隠されていたんだな。
意外とそういう隠し要素が多いのかな……最近行ってないティノーク海岸とかにも何かあったりするかも……?
それからしばらくはバンシーさんと話をしながら歩き、アラクネのいる森へと到達する。
「あら、アラクネちゃん。いつもご苦労さま。この人は例のコウさんだから襲わないようにね」
「くーっ!」
アラクネが敬礼してる……この世界でも敬礼ってあるんだ。
それにしても、アラクネがここまで従順だなんて……このバンシーさん、相当な実力者なんじゃ……。いや、おそらく進化してるであろう時点で、実力はかなり上だと思うけども。
「それじゃ、コウさんたちにだけは認識阻害の魔法を無効化するわね。えい」
バンシーさんは俺の額を人差し指でコツンとする。
すると、ただの森だったはずの景色が一変し、バンシーたちの棲む集落が現れる。
「ふふふ、驚いた? 魔法にかかっているとここが見えないどころか、干渉できないようになってるの」
「それ、認識阻害を逸脱してるような……」
なんか物理法則が捻じ曲げられてるような発言を笑顔でするあたり、やっぱり普通の人じゃないな……。
「ふぇーっ!」
そんなことを考えていると、俺たちはバンシーに取り囲まれる。
「あらあら、ダメじゃない。お客様が困ってるわよ。めっ」
「い、いえ……俺なら大丈夫なので怒らないであげてください」
「もう、コウさんは優しすぎるんだから……たまにはきつく言わなきゃダメなこともあるのよ?」
「は、はい……」
バンシーさんは他のバンシーたちを離れさせると、俺を広場へと案内する。
なるほど、ここに遊具を設置するわけか……。
「ここはみんなが集まる場所だから、ちょうどいいかなと思ってね」
「分かりました、それでは……」
俺はまずブランコと滑り台を3台ずつ設置する。
見たところ、バンシーの人数は20人ぐらいだから、交代交代で使えばこれぐらいで充分だろうか。
「それじゃみんな、私が使い方を説明するから、よーく聞いてね」
バンシーさんがそう言うと、バンシーたちは整列して遊び方の説明をしっかり聞く。
「──ということで、安全に使ってね。まずは一番ちっちゃい子を優先してあげてね」
さりげなく順番もハッキリとさせている。確かに我先にと群がったら危ないしね……。
柔和そうな人だけど、しっかりしてるなあ。
「それではコウさん。お礼はこんなものしかありませんが……」
バンシーさんは俺に巻物のようなものを渡す。
これは……?
「それは『バインドのスクロール』で、読むとスキルの『バインド』を覚えることができるの。昔、私が旅をしてたころに手に入れたの」
「い、いいんですか? そんな思い出の品物を……」
「ええ、これであの子たちが楽しい思い出を作れるんだもの。お安いものよ」
「わ、分かりました。ありがとうございます」
……まさかスキルポイント無しでスキルを覚えられるなんて……。
これ、たかが遊具6つじゃ釣り合わないような値段なんじゃ……。
「さすがに遊具では頂いた物に釣り合わないと思うので、また遊具を納品しに来ますね」
「えっ、いいんですか?」
「はい。それに、これだけだと使い過ぎてすぐに壊れてしまうと思うので……」
実際にアドヴィス森林のバンシーたちも速攻で壊してたしなあ。
バンシーたちなら自分たちで作れるだろうし、作り方を教えてあげるのもいいかもしれない。
「もう……そんなに優しくされると私、本気で好きになっちゃいますよ?」
「きゅーっ!!」
「うふふ……冗談よライアちゃん。取らないって約束したもんね」
……こうして、友好関係になった集落がまた1つ増えたのだった。
そして、進化動画にとんでもない量のコメントが来ているのを知ったのはまた後の話である。




