村づくり(仮)をしてみよう
「さて、今回の議題は今後作るものに関してですが……」
土曜日、ギルドメンバーで集まって作るものの方針を立てている。
もちろん、これで決まっても全員で作るわけではなく、あくまで参考程度のものだ。
目標があった方が作りやすい、って人もいるからね。
「おれはチェンジプラントを使って馬防柵の強化をしてみたいな」
「なるほど、今後のイベントのために防衛用の道具の強化はよさそうですね」
「あ、それなら投石器とかも作ってみたいですね」
「防衛兵器で防衛力の強化か。確かにジャイアントオーガみたいな巨大なモンスターには効果的かもしれないな」
「僕は空を飛ぶモンスター対策もしたいですね。三國志で名前が出てきた連弩とか……」
「それもいいな。空を飛ぶ大型モンスターが今後出てくる可能性もあるし……」
今日も活発に意見交換が行われている。
三國志かあ……懐かしいな。教科書の記述はほとんどない時代で、俺はゲームで知った類だ。
いろいろな猛将が出てくるけど、そういえば兵器の記述も結構あった気がする。
連弩、木牛、流馬、衝車、井闌、雲梯車……あたりだったかな。
攻城戦があれば衝車なども使えそうだけど、ワールドクリエイターズにはPVP要素はないからなあ。
町を造るぐらいに知能があるモンスターがいれば、ワンチャン出番があるかも……ぐらいだろうか。
「コウは何かあるか?」
「俺ですか……そうですね、個人的には村づくりが気になっているんですけど……」
「あ、それは僕も気になってました」
「私もです」
「北のクォルトゥス鉱山の近くに造れば、ポータル費用が浮くのと、近くの森に採取にも行けそうなんだよな」
「南の方でも同じですね。ヴァイスの近くに造れば新しいダンジョンに行きやすいのと、ダンジョン内で倒れてもすぐに復帰ができますし……」
村づくりは難しいと思っていたので消極的になるかと思いきや、意外とみんな食いついてきた。
そうか、もし全滅してホームに戻されても、自分たちの造った村から再出発できるのか……確かにこれは大きいな。
「なるほど……では、村づくりに関して疑問点があるので、少々よろしいでしょうか? 動画を見ても分からないことがありまして……」
「ああ、おれの分かる範囲でなら答えられるぜ」
「僕も昔調べたことがあるので、もしかしたらお力になれるかもしれません」
「分かりました、それでは1つ目は『村……拠点からホームに飛べるが、ホームからは拠点とエインズの町どちらにも飛べるのか』です。おそらくポータルの意味が薄くなるので、最後にホームに飛んだ場所にしか行けないと予想していますが……」
もし自在に飛べるなら、複数の村を造ってポータル代わりにできてしまうからなあ。
さすがにそこまで便利にはなってないだろう。
「ああ、それはその予想の通りだ。最後にホームに飛んだ場所にしか戻れないようになってるみたいだな」
「さすがにそこまで便利じゃないんですね……。次は『村が壊滅したという判定はどうなっているのか』です。村が造られた判定は、『土地を何かで囲い、家またはテントを建て、一時的に10人以上が同時に存在したことがある』なので、それの逆だと思ってるのですが……」
『土地を何かで囲い』は、城壁や柵、堀などで土地を囲むこと、という解釈だ。
『家またはテントを建て』は、居住スペースが1つ以上ある、ということだろう。
『一時的に10人以上が同時に存在したことがある』は、村民が最低でも10人であること、達成した後はログアウトなどでいなくなっても問題ない、という解釈をしている。
最後の条件以外が1つでも潰れたら、村としては機能しなくなると思っているのだが……。
まあ、1つ目の条件が崩れたら2つ目もだいたい連動して潰れそうだけど。
「それはまだ判明してないな。というか、せっかく造った村の壊滅条件を調べる奇特なプレイヤーがいるかというと……な」
「あー……そうですよねえ」
ごもっともな話である。
検証班でもコスト高すぎて調べるのを躊躇しそうなレベルだしなあ。
「僕も壊滅した村の跡地の動画を見ましたが、柵もテントも壊されていましたね。『居住ができなくなる』が条件だとは思いますが、確定ではないです」
「なるほど、ありがとうございます」
「……で、コウは実際にこういう風に造ってみたいというのはあるか?」
「そうですね……失敗する確率の方が高いですけど、あまりコストをかけずにお試しでしてみたいというのはありますね」
「おれにできることなら協力するぜ。コウには世話になってるからな」
「僕もです」
「私も……」
みんながアトラスさんに同意する。
……こうやって協力を申し出てくれるのはありがたいな……。
俺はそんなに特別なことはしてないと思うんだけど、みんなの気持ちが嬉しい。
「ありがとうございます。それでは俺の考えなのですが──」
**********
「よし、準備できたしそろそろ出発しようぜ」
「それでは予定通り、3パーティーでクォルトゥス鉱山を目指しましょう」
俺たちは買い出しに行き、必要なものを各自が持ってから、モンスター出現抑制機能を使用してクォルトゥス鉱山の近くへと向かう。
南ではなく北にしたのは、出現するモンスターのレベルが南よりも低いからだ。モンスターが村を襲うなら、攻撃力の低いモンスターの方が防衛が楽だからね。
また、飛行系のモンスターがいない点でもプレイヤー側に有利に働く。
飛行系がいたら、直接テントや家を襲われてしまうからだ。
これらの条件を満たすのが、クォルトゥス鉱山の近くにある、川が存在するエリアだ。
出現するモンスターはウルフと、ボアというイノシシのモンスター。
どちらも地上系のモンスターなので、堀で足止めが可能な点がありがたい。
「……しかし、これだけ大所帯だとピクニックみたいですね」
「あっはっは、確かにな」
「小学校では遠足とかありましたね。私の地域では近くに自然公園があるのでそこに行ってました」
「そういうところがあるのはいいですね。俺は──」
そんな楽しい会話をしながら進むこと約30分、目的地に到着した。
「なるほど、確かにここなら条件に合いますね」
周辺を見渡すと、5メートルぐらいの幅がある川が流れている。
これを背後にして村を造れば、川からの侵入は難しいだろう。
「それでは作業を開始しましょう。……ライア、頼んだよ」
「きゅーっ!」
まずは、ドリアードの『陥没』スキルを使って堀を造る。
ウルフとボアの足がつかなければいいので、深さはとりあえず1メートルぐらいにしてみる。
ちなみに川と堀はつなげないようにしている。川の水が勢いよく流入すると土地が削られてしまうからだ。
つなげていないところはモンスターの侵入経路になってしまうので、そこは『隆起』スキルで逆に土地を高くし、侵入を防ぐ。また、その高台には念には念を入れて馬防柵を設置する。
また、堀の内側も『隆起』スキルで土地を高くし、堀を飛び越えてこられないようにする。
ここにも柵を使ってもいいんだけど、今回はお試しの村づくりなので、コストを抑えるためにドリアードのスキルを主に使用している。
……まあ、ドリアードがペットモンスターなのは俺を含めて6人しかいないから、MP回復のためにマジックポーションを使うので、それなりのコストがかかってはいるんだけど。
ヴァノリモ大森林の深層のドリアードをペットモンスターにする方法が分かればなあ……と思いながらも作業を進めていく。
……その後、順調に作業は進み、堀で囲まれた土地が完成する。
次に、エインズの町で買った木材を繋ぎ合わせて、簡易的な一本橋……まあただの長い板なんだけど……を作る。とりあえずこれを6つ作り、メンバーに配布する。
さすがに仮の村づくりで跳ね橋なんて造っていられないからね……。
この橋を堀と外の土地との連絡手段とし、プレイヤーがいないときはアイテムボックスに片付けることで外から村へ侵入できないようにするわけだ。
「よし、これでだいたいは完成かな……」
「ただ、まだ村を造れた判定になってないんだろ、コウ」
「そうですね。おそらくテントを建てれば完成となるはずですが……一斉に建てるのではなく、1つずつ建てていきましょう。そうすることで、村民と家の関係が分かるはずです」
今回のテントは4人用で、俺たちは全員で12人。
この場合、3つ建てて12人全員がテントに入れるなら村となるのか、それとも1つ建てただけで村となるのかが分かる。
「それでは1つ目を建ててみましょうか」
俺はテントを建て始める。
そういえばテントって初めてなんだよね。キャンプがブームになってタケシに誘われたことはあったけど、その時期は忙しくて行けなったんだよなあ。
飯盒炊爨もやってみたかったな……などと過去を振り返りながらもテントを作っていき、10分後にテントが完成する。
【INFO:村が完成しました。名前を付けてください】
すると、INFO画面が表示され、村の名前を付けることに。
……そういえば全然考えてなかった。でも、今はみんながいるから相談してみよう。
「……ということでこの仮の村の名前を決めたいのですが、どうしましょう?」
「おれはネーミングセンスないからな……アテナは?」
「私ですか……そうですね、1番目の村なのでファーストをもじってファスタでどうでしょう?」
アテナさんの意見にみんな賛成のようだ。
俺は入力画面で村の名前を決定し、画面を閉じる。
【INFO:ファスタが村として登録されました。これ以降、ここからホームへ移動することができます】
これで正式に村として承認されたようだ。
つまり、家を建て終わるまでは村として承認されない……引き延ばすことができそうだ。
もし、村として承認されてからモンスターの襲撃を受けるなら、堀や柵などを充分に設置してから承認を受けるのが良さそうだな。
「みなさん、お疲れ様でした。俺はしばらくここに留まってモンスターの動きを観察してみます」
「よし、それじゃおれは一旦ベッドで休んでからクォルトス鉱山に行こうかな」
「私はテントを建ててみます。実はキャンプに憧れていたんですよね」
「僕も少し休んでから周辺を探索してみます。まだ名前の付いてない森に採取にも行きたいですし」
他のギルドメンバーたちも休憩や探索など、各自が自分のやりたいことをすることに。
探索に出たメンバーを見送ると、俺はファスタに架かる橋を収納してモンスターの侵入を防ぐ。
そして村の入口に座り、モンスターの動向を探ることに。
観察を始めて1時間。
時折モンスターはやってくるものの、堀に沿ってこちらを伺っているだけのようだ。
ボアは勢いよく走っているから、止まれずに堀に落ちて自滅することも。これで倒したモンスターの経験値やGは村にいる人数で等分されることが判明した。
これならしばらくは村として機能しそうだ。そう思っていると……。
「コウさん、あれ……」
アテナさんが指し示した先にいたのは、ウルフとボアだけでなく、本来この辺りには生息しないはずのクロウとビー。
もしかして、ウルフやボアが他の地域から仲間として呼んだのだろうか?
確かに、ペットモンスターたちは普通に会話をしていたので、モンスターたちにも独自の言語があるという可能性は高い。
「みなさん、敵襲です! 戦闘準備を!」
俺たちは迎撃態勢を取る。
村を襲うクロウとビーだけでなく、仲間を呼んできたウルフとボアも倒さないとまた仲間を呼ばれてしまうと判断し、橋を架けて外のモンスターたちも掃討することに。
その後、村に被害なく撃破できたものの、やはり数時間後にはまた村が襲われることになる。
もしかして、フィールドはモンスターたちの縄張りだから、村を造ることでヘイトが村に向くようになっているのだろうか?
ちなみに夜中であろうと襲撃は継続し、夜目の効かないクロウは来ないものの、ビーの襲撃はあるようだ。
……確かにこれは村づくりは一筋縄ではいかないようだ。
なお、俺たちの初めて作った村……ファスタは誰もいなくなる平日昼間にモンスターたちに破壊されることになる。
ただ、堀を埋めることはできなかったのか、テントと一部の柵が壊されただけで終わったようだ。
この情報は収穫だろう。テントや家を建てる前に充分に堀などを造ればそれだけ防衛力が高くなる。
……ゴブリンやオークなどの二足歩行モンスターなら道具が使えるので、堀を埋めてくるかもしれないが……それはまた検証したいところ。
こうして、初の村づくりは失敗に終わったものの、充分な成果を得ることができたのだった。