いろいろなものづくり
「そうだ、もう一個ライアのフィギュアを作っておこう」
俺は木材を魔法で変形させ、ライアの形を作っていく。
フィギュアを作るのは結構難しいけど、細かいところまで作ることで経験を積み上げることができるし、何よりうちの子のグッズができるというのが楽しい。
今回のライアのフィギュアはサイズも1/1スケールにして、とあることに使えるようにしようと思っている。
手は広げた状態、服などは着せない方向で、近くにライアに立ってもらってほぼそのままを再現する予定だ。
「……よし、全体的なバランスはこれでいいかな。ありがとうライア、もう遊びに行ってもらっても大丈夫だよ」
「きゅーっ」
ライアは今日も的当てに夢中だ。
以前は5割ぐらいだった命中率も、今は9割。名人の域だ。
やっぱり慣れって重要だな。俺もレベルが上がると出た瞬間にブロックが底に落ちるパズルゲームやってたけど、最初は無理って思ってても、何回もやってると徐々に慣れてきてクリアできるようになったんだよね。
これは植物を操る魔法……チェンジプラントにも言えることだろう。
どんどん使い込んで、熟練の技を目指そう。
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「……よし、こんなもんかな」
十数分後、俺はライアのフィギュアを作り終える。
そしてそれを持ってティルナノーグに行き、アテナさんに話しかける。
「これ、よかったらどうぞ。1/1スケールなので、作っている途中にこれに服を着せれば、その後の作業工程も想像しやすいかと思いまして……」
「えっ、よろしいのですか!? 確かに完成形がイメージしやすくなりますね……ありがとうございます! ……ところで、これはどうやって作られたんです?」
「それは……こんな感じですね」
俺は録画していたさっきの作業動画をアテナさんに送る。
アテナさんは動画の終わりまで食い入るように画面を見つめていた。
「これは……私も習得しておかないとですね」
「裁縫に使えそうですか?」
「いえ、私の職業って人形使いじゃないですか。戦闘で使う人形をこの魔法で作れば、攻撃力も防御力も今よりも高くできそうでして……」
「なるほど、確かに……」
「それに、顔とかも自分好みに作れるので愛着が湧きますし」
確かに品質が安定している市販品もいいけど、自分で作ることでより愛着が湧く。
俺も昔に作ったものは壊れるまで使ったことを思い出す。
そんな感じでアテナさんと会話をしていると、他のメンバーたちが集まってくる。
「そ、それは……ッ」
「ライアさんのフィギュア……?!」
「ず、ずるいです! わたしにも1つ売ってください! いくらになりますか!?」
「え、えーっと……」
すごい勢いのメンバーたちにたじたじしていると、更に集まってくるメンバーは増えていき……。
「チェンジプラントという魔法で木を加工することで作成できます。みなさんも自分のペットモンスター……いわゆる『うちの子』を作ってみるのはいかがでしょうか? 一応、ある程度なら教えられますので……」
「「「やります!!」」」
……最終的に、ティルナノーグのギルドメンバー全員がチェンジプラントを習得し、ここに『うちの子フィギュアを作る会』が爆誕した。してしまった。
最初はうまくできない人もいたが、何回もチャレンジしていくうちにメキメキ上達していき、よその子フィギュア作成を請け負う人まで出てきた。
そして、細かい部分まで作り込みをできるようになったので、それに合わせて武器防具の品質もどんどん上昇していくことに……。
いやぁ、好きこそものの上手なれって本当なんだなあ。
**********
「うーん……何かが違う気がする……」
俺はフィギュア以外のものも作ろうと思い、弓を作ってみたのだが……。
何か違和感のようなものがあるが、俺ではよく分からない。
弓を扱う人に聞けば何か分かるだろうか?
「弓を使うのは……アルテミスさんだよな」
昨日の今日で指名依頼をするのもどうなのかと思うが、メッセージで連絡をしてみることに。
すると、すぐにホームまで来てくれると返信が来た。
俺はティルナノーグからホームに戻ると、すぐにアルテミスさんが来てくれる。
作ったばかりの弓を渡し、実際に使って確かめてもらうことにした。
アルテミスさんは木にかけた的を狙い、矢を射る。
すると、ど真ん中に命中し、思わず拍手してしまう。
「きゅーっ♪」
ライアたち……特にライアは的当てが好きなので、的のど真ん中を射たことにとても興奮しているようだ。
「弓はいかがでしたか?」
「そうですね、おそらく違和感と言うのは、弓が硬すぎて引きづらい……ところかもしれません。あとはしなり具合とか……でしょうか」
「なるほど、耐久力を上げようとして密度を上げ過ぎた感じでしょうか? ……それでもど真ん中に当てる腕があるとは……」
やはりアルテミスさんは凄い射手だ。と言おうとしたのに、ライアに声援を送られたから興奮して鼻血を出してるせいで台無しである。
「ただ、耐久力……使用回数が増えるのはありがたいところですね。使用回数を気にしながら戦闘するのは結構大変ですし、それが軽減されるのは大きいと思います」
「ご意見ありがとうございます。そのあたりのバランスを調整していきたいですね」
「バランスの良い弓ができたらぜひ使わせて頂きたいですね。その際には矢の方もお願いします」
「分かりました。……そうだ、アルテミスさんさえよろしければ、ライアたちと遊んでいきませんか?」
俺はアルテミスさんを見ながら、ライアが好きな的当ての遊具を取り出す。
「きゅーっ!」
「どうやらライアも遊び相手が欲しいみたいですよ」
「わ、わたくしでよろしければ……」
ライアの誘いにアルテミスさんは断れるはずもなく、一緒に的当てをすることに。
的と球のサイズはライアサイズなので、アルテミスさんにはハンデがある状態ではあるが……さて、どうなるか。
ライアとアルテミスさんは交互に球を投げ、5回のうち当たった回数を競うようだ。
先行はライア……お、当たったようだ。
しかし、負けじとアルテミスさんも当てていく。小さいからめちゃくちゃ扱いづらいだろうに、よく当てられるなあ……。
「きゅっ……」
2投目はライアが外してしまう。そして、アルテミスさんも縁に当ててしまい、的を落とすことはできなかった。
3投目はライアが当てて、アルテミスさんはまたしても縁に……いや、これはもしかして……。
4投目はライアが外し、アルテミスさんはギリギリで当てる。
5投目は2人とも当てて、引き分けだ。
「ふふふ、凄いですねライアさんは。わたくしは4投目はギリギリでしたのに、ライアさんは当てた時はすべて真ん中でしたし……」
「きゅっ!」
ライアは褒められて嬉しいのか、胸を張ってドヤ顔になる。
なるほど、アルテミスさんは褒めて伸ばす人なんだな。
2投目にライアが外した時はわざと縁に当てていたのだと思う。
そうでなければ2投連続で縁はそうそうないはずだ。
「アルテミスさん、もう1度遊ばれますか?」
「いえ、これ以上は幸せ過ぎて天に召されそうですので……」
「そ、そうですか……。それで、お二人で遊ばれている所を動画を撮っていたのですが、こちらはお送りしましょうか? 不要なら消しますので」
「頂きます!」
即答である。記念としてはいいだろうしね。
その後、俺はアルテミスさんに動画を送ると、アルテミスさんはホームへと戻っていった。
「1日5回は見返します!」と言っていたが……まあ、喜んでくれてるならよかった。
それはさておき、弓に関しては強度だけがすべてではない、というのが学べてよかったな。
やはり実際に使う人の言葉は参考になるな、と思うのだった。
**********
「コウ、今日もがんばってるな」
「アトラスさんは武器の作製ですか?」
「ああ、今回作ったのはこれなんだけどな……」
アトラスさんは剣身から左右に3本ずつの枝刃が飛び出ている剣を見せてくれる。
「これは……七支刀ですか?」
「おお、よく知ってるな。ちょっと面白そうだと思って作ったんだが……」
「何か問題がありましたか?」
「いや、これの鞘はどうやって作ろうかと思ってな……」
「あー……この枝刃のせいで入らないですよね絶対に」
もし、枝刃の幅に合わせて鞘を作ったら、鞘から七支刀がずるりと抜け落ちるだろうし。
「そうなんだよなあ。ま、このゲームにはアイテムボックスがあるから無理して鞘を作らないといけないわけではないんだが……」
「七支刀は祭事用、もしくは儀式用という説もありますからねえ。ちなみにステータスはどんな感じでした?」
「まあ一応、普通の剣よりかは攻撃力は高いな。あと祭事用と言われているからなのか、魔力も上がるんだ」
「魔法剣士にはいいかもしれませんね。装備した状態で魔法を使ったら、剣の使用回数は減るんですか?」
「あ、それはまだ試してないな……よし、ちょっとやってみるか。意見ありがとうな」
「どういたしまして。あ、ところで少し聞きたいことがあるんですけど……」
「おう、おれが分かる範囲でよければだが……」
「実は──」
俺はアトラスさんに、「村はどうやったら造れるのか。村を作るメリット、デメリットはどんなものか」を聞いてみる。
エルフの集落で大木を住居にする方法を教えてもらったし、ちょっと気になってたんだよね。
「そうだな……村を造ったと判定されるには、プレイヤー含めて10人ほどの村民が必要ってぐらいか。以前造ったプレイヤーの動画があるからそれが参考になるかもな。後でアドレス送っておくぜ」
「ありがとうございます。その村は今でも現役なんですか?」
「いや、造って早々、モンスターに襲撃されて破壊されてな……」
「襲撃、ですか……」
エインズの町の防衛戦イベントを思い出す。
あの量のモンスターに襲われたらひとたまりもないだろうなあ。
「他のプレイヤーたちも何度も造ったが、やはりモンスターの手で壊滅してるぞ」
「うーん……それなら村を造るメリットはあるんですか?」
「ああ、まずはそこを『拠点』にできることだ」
「拠点にすることで有利になる、と」
「そうだな。ログアウトはホームからじゃないとできないだろ? で、ホームにはエインズの町からしか飛べない。でもな、拠点からもホームに飛べるようになっているんだ」
なるほど、ホームに飛べる場所が増えるということか。
「それだと、徐々にプレイヤーの行動範囲が広がりますね」
「ああ。エインズの町からだと、行ける範囲にも限界があるしな。だから多くのプレイヤーが村造りをしてきたんだが……まあ、今のところ全滅だな」
「やはりモンスターのせいですか?」
「その通りだ。ログアウトのためにホームに飛んだら村を防衛するやつがいなくなるだろ? そこをモンスターに襲われて……ってやつだな。NPCを雇って門番などを配置することも可能だが、まあ給金が必要なわけで……」
そうか、ただ造って終わりってわけではなく、ランニングコストがかかるんだな。
全部をプレイヤーだけで賄うのは至難の業だろうし……。
「ちなみに、ログアウト中に村が壊滅したらどうなるんです?」
「その場合はエインズの町に強制送還になるな」
「あー……村を造ってログアウトしたと思ってたら、次の日にはエインズの町に戻されてた。何を言ってるかわからねーと思うが……が現実であるってことですね」
「そう言うことだ。だから村造りが難しいって言われてるんだよな。メリットもデカいがデメリットもデカい。資金をつぎ込んで造った村が1日で壊滅とかシャレにならないよなあ」
確かに数十万Gを使って作った村が一夜で壊滅したら気が滅入るどころではない。
防衛方法も考えて造らないといけないってことか。
「RPGの村とかはよくそんなに持ちこたえられるなって思いますね」
「門番や兵士が強いのか、村人が強いのか、結界でもあるのか……」
「鍬や鎌でモンスターを撃退する村人もいましたしねえ」
「お前本当に普通の村人かよって思うよな」
「ストーリー終盤の敵が強い地域でも普通に生活してますしね」
「お前らどんだけレベル高いんだよ……ってなるよな」
「売られている装備の質も高いのってそういうことですよね」
「ああ、確かに」
そんなことを話した後、俺たちはそれぞれの作業に戻る。
村造り、かあ。
ライア……ドリアードの陥没スキルで堀を造ったりすれば、防衛はしやすくなるだろうか?
あとは跳ね橋、門などの防衛用のものもあれば襲撃しづらくなるだろうし、周りが山や崖のような地形なら攻めづらくもなる。
……この辺は全然分かってないなあ、もし造るなら勉強しないと。
そう思いながら、俺は作業に戻るのだった。