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ペットモンスター

 エインズの持ち込み制限ダンジョンが踏破された翌日の日曜日。

 ログインをするとプレゼントボックスの中に『モンスターの卵』が入っていたので、早速取り出す。


「ふーん……顔よりちょっと大きいぐらいの卵か……とりあえずステータスを見てみるか」


【モンスターの卵:ランクE、温めることでペットモンスターが孵化する】


「なるほど、温めればいいのか……じゃあちょっとベッドに寝転がりながら温めようかな」


 俺はベッドに横になって寝転がると、卵を壊れないように優しく抱きしめる。

 いったい、どんな子が生まれてくるんだろうか。


 そう思いながら、ゆったりとした時を過ごす。

 平日は忙しいし、ワールドクリエイターズを始める前の休日は動画見たり買い出ししたりで、こんな何もしない時間をゆっくりすることはあんまりなかったなあ。


「どのぐらいの時間温めればいいのか……な……」






「…………はっ!? ね、寝落ちしてた……卵は!?」


 寝落ちしてる間に卵を潰していないか心配で、すぐに卵に目を向ける。

 しかし、卵は特に傷一つなく無事だ。


「ふぅ、焦った……ん?」


 どこからかコツコツという音が聞こえる。

 ホームには俺しかいないし、もしかして……。


「やっぱり、卵から聞こえてきてる」


 おそらく、中の子が卵の殻を破って出てこようとしているのだろう。

 俺は手伝うべきか、それとも……。


 と、迷っていると、パリンと卵の殻の一部が割れる。

 そして、その穴を足掛かりにして、周りの殻も割れはじめ……。


「きゅーっ!」


 卵から顔が勢いよく飛び出てくる。


 髪は生き生きとした葉っぱのように緑色で、一糸纏わない肌は木のように茶色く、胸がほんのり膨らんでるように見えるので女の子だろうか。

 そして、長い耳を持っていて、足の先は木の根っこのような形になっており、なぜか身体がふわふわと浮いている。


 つまり、この子は……。


【INFO:ペットモンスターに名前を付けてください】


 俺がこの子のステータスを見ようとする前に、名前の登録画面に移る。

 いや、ちょっと待って。俺、ネーミングセンスないんだけど……。


 と、俺が戸惑っている中、卵から出てきた子は俺の方をじっと見ている。しかもなんだかワクワクした表情で。

 あっ、これどんな名前を付けてくれるか期待してる目だ。


 ……おそらくこの子は木の精霊のドリアードだろうし、それにちなんだ名前……。

 ……ううむ、この子の期待のまなざしが重い。


「……ええと、それじゃ……『ライア』。君の名前は『ライア』でどう?」

「きゅーっ♪」


 ライアは名前が気に入ったのか、俺の顔面めがけてとびついてくる。


「わーっ! ちょっと待って、胸が! 胸が!」


 顔よりちょっと大きいのサイズのちっちゃい精霊とはいえ、身体は女の子だ。

 女の子に耐性のない俺にはちょっとつらい……あれ? この子の身体、木のように硬いな……。


 俺はいったんライアに顔から離れてもらうと、ステータスを確認する。


【ライア(ドリアード):木の精霊であり、育つと植物を操る魔法が使えるようになる】


 へえ、木の精霊だから植物魔法か、わかりやすいな。

 ……おっと、スキルも持ってるのか。


【光合成Lv1(パッシブスキル):日光を浴びるとMPが回復する。回復量はスキルレベルによって変化する】

【シードバレットLv1(アクティブスキル):魔力で種を撃ちだして敵を攻撃する。地属性】

【成長促進 (ユニークスキル):畑に植えた植物の成長速度を上げる(収穫必要日数-1)】


 ……俺、スキル持ってないから、ライアの方が強いんじゃ……。


 その後もステータスを確認していくと、ライアはMP、生命力、魔力が高いことが分かった。

 つまり、後方支援向きだ。


 ちなみに、このゲームの基本ステータスは、HP、MP、STR(力)、VIT(生命力)、INT(魔力)、MEN(魔防)、AGI(速さ)、DEX(器用さ)、LUK(運)となっている。


 俺はものづくりをするためにHP、STR、DEXを多めに振っている。

 俺が前衛、ライアが後衛と考えるとバランスがいい。

 生まれてくるモンスターは「プレイヤーの行動で変化する」って言ってた人がいたけど、こういうことなのかな。


「きゅー?」


 俺がステータスを見ていると、ライアが不思議そうな顔でこちらを見ている。


「ああ、ごめん。ちょっと確認をしていたんだ。……ちょっと町にでも出てみるか?」

「きゅーっ!」


 ライアは嬉しそうに俺の肩に飛び乗る。

 ふわふわ浮いてるのにそこがマイポジションなんだ……精霊っていうか妖精っぽいな……。




**********




「きゅーっ! きゅーっ!」


 エインズの町に出てくると、ライアがはしゃぎだす。

 それもそうか、生まれて初めて見る光景だもんな。気のすむまでつきあってあげよう。




 町を歩いていると、すれ違う人の多くがペットモンスターを連れていた。

 狼のようなモンスター、隼のようなモンスター、中には不定形のガスのようなモンスターまで。

 種類が被っている人も少なく、このゲームってこんなにモンスターがいるんだな。

 そして、多くの人たちが自分のペットモンスターを自慢していた。うちの子っていうだけで、もうかわいさが限界突破するからなあ。


「あ、あの……ちょっとよろしいですか?」


 そんなことを考えていると、突然、女性のプレイヤーに声を掛けられる。

 なんだろう、俺は特に珍しい人物……というわけではないような……。


「その子……もしかしてドリアードですか?」

「そうですね、ついさっき生まれた子です」

「……人型のペットモンスター……いいなぁ」


 そう女性プレイヤーは呟く。

 ん? もしかして人型って珍しいんだろうか?


「人型が珍しいのですか?」

「私が見かけた範囲ではですが、そんなにいませんでした」

「なるほど……この辺りには人型のモンスターがいないのですか?」

「はい、そうなんです。……私、服を作るのが趣味で……人型の子の服を作りたいと思ってたんです」

「それなら……よろしければ、ドリアード……ライアの服を作っていただけませんか? もちろん代金はお支払いします」

「えっ、よ、よろしいのですか!? ぜ、ぜひお願いしますっ!」


 俺としても、ライアをいつまでも裸にしておくわけにもいかないしな。

 店で買おうと思ってたけど、そういう想いがあるなら作ってもらった方がいいだろう。


「あ、あの……採寸をしたいので……もちろん時間があるときで大丈夫ですので、私のホームにライアちゃんを連れてきていただけませんか?」

「分かりました。……実は今は特に用事もないので、俺はすぐにでも大丈夫ですよ。ライアも大丈夫?」

「きゅーっ!」


 なんとなくだけど、大丈夫と言っているようだ。


「そ、それでは……」


【INFO:フレンド申請があります】


 あ、そっか。フレンドじゃないとホームに行けないもんな。

 俺は申請を受諾する。


「これで大丈夫ですか?」

「はい、それではお待ちしてます」


 女性プレイヤーはそう言うとホームへと戻っていった。

 あ、そういえば名前を聞いてなかったし、俺も名乗ってなかったな。

 まあ、フレンド一覧で名前が出るから分かるんだけど……ええと、『アテナ』さんっていうんだ。

 よし、それじゃ『ホーム入場申請』を出して……と。


 ホーム入場申請を出した数秒後、俺の身体は光に吸い込まれていく。




**********




「……ここがほかの人のホームか、造りは同じなんだな」

「あ、コウさん……ですね。すみません、名乗るのを忘れていました」

「いえ、こちらもでしたし、大丈夫ですよ」

「そ、そう言っていただけるとありがたいです。それではライアちゃんの採寸、よろしいでしょうか?」

「はい。それじゃライア、アテナさんについていってくれる? 俺はここで待ってるから」

「きゅーっ!」


 ライアは聞き分けのいい子だなあ。

 女の子が採寸されてるところに男の俺がいるのはあんまりよろしくないしな。


「……よし、ちょっとヘルプでも見てみるか」


 俺は手持ち無沙汰になったので、ペットモンスターに関連するヘルプの閲覧を始めた。

 町を散策していてすっかり忘れてたけど、何を食べるかとか気になってたんだ。


「……ふむふむ、ペットモンスターには『魔石』を与えればいいのか。で、『魔石』はモンスターを倒すと確実に落として……」


 ……そういえば俺、まだ町の外に出てないや。

 一応ものづくりでも経験値をもらえるので、レベルは5まで上がってるから苦戦はしないだろうけど。


「でも、その時間を使っていろいろ作りたいんだよなあ……町で売ってないかあとで確認しよう」


 町の外に行くにも、モンスターに遭遇するにも、戦闘するにも、時間を使っちゃうからな。

 もし、ほかのプレイヤーが買っていて売り切れてたら……その時は諦めて外に行こう。


「お待たせしました!」


 ヘルプを読み進めていると、アテナさんがライアと一緒に戻ってくる。

 どうやら無事に採寸は終わったようだ。


「ライアちゃんの身体が硬いので、内側をちょっと丈夫にしようと思います。それと、どんな服のデザインがいいか相談したいと思ってまして……」

「ええと……俺は服のデザインとかよく分からなくて……」

「そうですね……それでは、『実用的な服』と『かわいい服』、どちらがいいですか?」

「うーん……それなら俺よりもライアが選ぶのがいいかもしれないですね。実際に着るのはライアですし、本人が気に入った服がいいかなと」

「あ、それならサンプルを持ってきますね!」


 アテナさんは急いでサンプルを持ってきて、それをライアに見せると……。


「きゅーっ」


 ライアは『かわいい服』の方を指し示す。

 女の子だし、やっぱりそういうのがいいのかな。


「分かりました、それではかわいい服をお作りしますね。ね、ライアちゃん」

「きゅーっ♪」


 採寸の間にいろいろあったのかな。ライアがすっかり懐いている。


「それでは、代金は半分を前払い、もう半分を服の引き取り時にお支払いでいかがですか?」

「えっ、前払いですか?」

「ええ、特注になりますし、その方が安心できますよね。今日初めて会ったばかりですしすぐに信頼というのは難しいと思いますし、妥当だと思ってます」

「……わかりました、それでは前金は500Gでいかがでしょうか?」

「了解です。こちらでよろしくお願いします」

「確かに受け取りました。精一杯作らせていただきますね!」


 こうして、突然の出会いがあったペットモンスター実装初日。

 同じくものづくりを楽しんでる人とフレンドになれてよかったなと思う。

 そして、ライアの服はどんなものができるのかなという楽しみが増えた。


 その後、俺とライアは魔石を買うために町に戻るのだった。

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