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植物操作魔法

「それでは、大木を住居にする方法を説明させて頂きます」


 俺はヴァイス……エルフの集落に来ていた。今回はティルナノーグの木工担当たちと一緒に。

 大木を住居にする方法を学べれば、今後やるであろうプレイヤーの町づくりにも応用できると思ったからだ。


「私たちエルフは地属性魔法が得意な者が多く、それを使っています」


 なるほど、地属性魔法か。エルフは弓を使うイメージだから、追い風などを使用するために風属性のイメージがあるんだけどね。地属性はドワーフが使うイメージ。


「地属性魔法の中に、『チェンジプラント』という植物を操る魔法があります。これで木の(うろ)を拡張していくのですが、木の内部を空洞にすると同時に、元々そこにあったものを外側に圧縮して強度を上げます」

「なるほど、勉強になります」


 エルフの技術者は魔法で器用に洞を拡張し、内部を空洞化していく。

 そして、人が入れるぐらいに拡張したところで、俺たちを内部に招き入れてくれた。


「あとはこれを繰り返していくだけですね。家具はあとから設置するのもいいですが、こういう風なことも可能です」


 エルフの技術者は魔法を使い、木を階段やテーブルなどに作り変えていく。

 その見事な手際に俺や同行者から感嘆の声が漏れる。


「この魔法は結構な量のMPを消費しますので、長い目で加工していくのが基本です。そして、最初は加工が思うようにいかないと思いますので、イメージしやすいもの……枝を変化させるなど簡単なところから始めるのがいいと思います」

「ありがとうございます、小さなことから始めたいと思います」


 確かに成功体験は大事だよね。いきなり難しいことに挑戦してできない……からのやーめたコンボなど何度したか知れないよ。特に音ゲー。しばらく後にちゃんとやり直してハマったりもしたけど。

 その後、俺たちは集落に落ちている枝を掃除がてら拾い集めてからティルナノーグに戻った。




**********




「うーん……なかなか難しいな……」


 俺たちはティルナノーグに戻ってから1時間ほど、枝と向き合っていた。

 枝の一部を伸ばしたり、短くしたり、細くしたり、太くしたり。

 更には枝を曲げてみたり……したらポッキリと折れてしまうなど、なかなかに苦戦していた。

 一緒に行った他のみんなも苦戦しているようだ。


 エルフは長寿だから、あそこまで魔法の扱いを成熟させることもできたんだろうか。

 果たして俺も大木を住居にするぐらいのことができるようになるだろうか?


 まあ、1日目だしそんなにすぐにはできないのは当然なので、長い目で見ていこう。


「……そういえば」


 もしかしたら、この普通の枝を魔法で変化させて、いい感じの枝にすることはできるのだろうか?

 そうなったら能力の高い杖を量産できそうだが……。

 他にも、長い木を曲げて弓にしてみたり、一部を肥大化させてハンマーにしてみたりも……。

 アイテムを変化させて別のアイテムにするのってロマンあるんだよね。俺も何度壺に矢を一本ずつ入れたことか。


「まあ、まずは思い通りに変化させられるようになってから、かな」


 どんなものもまずは基本から。

 一歩一歩着実に進めていこう。



 その後もMPが尽きるまでチェンジプラントの魔法を練習するのだった。




**********




「……よし、いい感じに伸ばせるようになってきたな」


 次の日、俺は枝の先端をある程度まで伸ばせるようになってきた。

 ……そういえば、木の中を外側に圧縮したら強度が上がるって言ってたな。

 つまり、質量はそのままで体積が下がって密度が上がるってことか?


「ということは……」


 俺は丸太を持ってきて圧縮してみる。

 そして形状を変化させ、一回りほど小さいハンマーの形にする。


「次に同じ大きさのハンマーを木材を切り出して作って……」


 そして完成した2つのハンマーのステータスを確認する。

 すると、使用回数が50ぐらい増えただけでなく、攻撃力も増加していた。

 つまり、密度が上がったことで強度と攻撃力が上がったということか。

 しかし、見た目は同じでも密度が高い分、重量は魔法で作った方が重く、同じように扱おうとすると相応の力が必要そうだ。


「おう、何してるんだコウ」

「アトラスさん、実は……」


 俺はアトラスさんに植物を操作する魔法を説明する。

 そして、それで密度を上げて武器を強化する方法も。


「なるほど、そいつは興味深いな」

「武器もですけど、馬防柵みたいなものでも同様のことをすれば、ジャイアントオーガレベルの攻撃にもかなり耐えられる強度になりそうだなと思いませんか?」

「確かに。それならランクCのベッドを作る時に木に使えば、使用回数が増えて長く使えるようになるな」

「他にも遊具に使えば入れ替える回数が少なくなりますね。あとは……」


 俺たちはその後もこの魔法の使い方の話に花を咲かせた。




**********




「うん、ベッドの使用回数も、遊具の使用回数も1.5倍ぐらいになるな……」


 実際の効果を確かめた後、俺はバンシーたちのいるアドヴィス森林や、ドリアードたちのいるヴァノリモ大森林の深層に、遊具の入れ替えに訪れた。

 遊具の作り方を教えているドリアードたちには、魔法を使って強度を上げる方法もついでに伝えておく。

 これで、彼女たち自身でも長く遊べる遊具が作れるようになるはずだ。ドリアードで使える子は少ないみたいだけど……。


 更にこの効果を動画にして紹介し、多くのプレイヤーがこの魔法の恩恵を受けられるようにした。

 ……取得にスキルポイントを3消費するので代償も割と大きいけど。


「これでより快適にものづくりができるようになったらいいな……」


 量産品なら自動作成機能もあるが、ランクの高いものを作るために、ランクの高い貴重な素材を使う場合は有効だしね。

 武器も……植物の操作なので今思いつくのは杖や弓、槍に斧に盾あたりだけど……こちらも使用回数が増えれば戦闘中に壊れてしまう事も防ぎやすいはずだ。

 ほかにも……。


「きゅー?」


 俺が木を操作しているのが気になるのか、ライアがこちらをじーっと見ている。

 ……そうだ。


 俺はライアの方を見ながら、木を変形させていく。

 次第にライアの表情が不思議そうな表情から、驚きの表情へと変化していく。

 それもそのはず。


「はい、ライアにプレゼント。……似てるかな?」

「きゅーっ!」


 ちょっとまだ作り慣れていないので似ていないところはあるけど……木でライアのフィギュアを作ってプレゼントしたのだ。

 服はひらひらが難しいので水着にしてしまったが……それでも喜んでくれているようだ。


「るーっ!」

「がうー!」


 そしてこの騒ぎを聞きつけてきたレイとスコールが、ライアと俺を交互に見る。


「もちろん、2人の分も作るからちょっと待ってね」

「るーっ」「がう」


 2人とも聞き入れてくれたようで、じっと座って待っている。

 ……そこまで見られると緊張するけど……いいものが作れるようにがんばろう。




 その後、2人にも木製のフィギュアを渡す。

 ……そういえば、ライアのグッズ化のメッセージがあったけど、あれは進展あったのかなあ。

 まあ商品の企画から製造なんて年単位でかかったりもするから、気長に待とうかな。商品化されるって確定したわけでもないし。


「……そうだ、もう1個ライアのフィギュアを作っておこう」






「……珍しいですね、コウさんがわたくしに用事があるとは……」


 俺はアルテミスさんのホームにお邪魔することに。


「アルテミスさん、実はこういうものがありまして……」


 俺がそう言ってライアのフィギュアをアイテムボックスから取り出すと……。


「うっ」


 アルテミスさんがその場に崩れ落ちて、片膝をつく。

 ……まあ、ある程度は想像してたけど、鼻血を出して倒れないだけ成長している……?



「……ふぅ、今回はなんとか耐えましたよ」

「せ、成長してますね」

「ええ、ライアさんたちに恥ずかしい姿は見せられませんからね」

「そ、そうですか」


 崩れ落ちてる時点で恥ずかしいと思うんだけどなあ。

 まあそれはさておき。


「実はこのフィギュアをプレゼントしようと思いまして」

「分かりました、全財産お渡しします」

「プレゼントですって……」

「そんな……こんな素晴らしい作品がタダだなんて……」

「……では、こうしましょう。必要な時に指名依頼を受けて頂ければ大丈夫ですので」

「分かりました。……それではこちらは神宝として安置しておきます」

「そこまで」


 ……アルテミスさん、もしライアのグッズが出たら破産しないかな……大丈夫かな……。

 観賞用、保存用、布教用、予備用みたいな買い方しそうだし……。

 まあおそらく大丈夫だろう。大丈夫だと思いたい。




**********




「コウ、お前が奢りなんて珍しいな。明日は雨か?」

「天気予報じゃ100%晴れだぞ」

「そこまで調べられちゃしょうがねえな。……ちなみにどこに行くんだ?」

「ま、楽しみにしておけよ」


 俺はタケシを連れて商店街に行き、そして……。


「ん? ここはまさか焼肉大河(おおかわ)……? ってことは」

「ああ、イベントの報酬は『焼肉大河の2時間食べ放題の権利』にしたんだ。」

「俺でいいのか?」

「……俺、彼女いない歴=年齢なんだからさ……言わせんなよ」

「……すまん」



「すみません、予約をしていた物部ですが……」

「お待ちしておりました、それではこちらへどうぞ」


 俺たちは奥の小部屋に通される。

 そして、俺はアプリから権利を表示し、バーコードをスキャンしてもらう。


「確認できました、それではご注文が決まりましたらボタンでお呼びください。食べ放題の時間は最初の注文から2時間、ラストオーダーは終了20分前となりますのでご注意ください」

「ありがとうございます」


 定員さんは一度厨房へと戻っていく。


「コウ、お前は何にする?」

「イベントの報酬でもらったカルビが美味しかったからな。食べ比べもしたいし、まずはカルビからだな。タケシは?」

「オレはロースからかなあ。あとホルモンと……野菜もちゃんと食べないとな。それと飲み物はどうする? オレは生中だ」

「黒烏龍茶かな。金曜じゃないから次の日に響きそうだし、このあとワールドクリエイターズで遊びたいしな。タケシは酒に強くて羨ましいぞ」

「ま、オレもこの後遊ぶから一杯目だけだな。よし、それじゃ呼ぶぞ」


 タケシはボタンを押して店員さんを呼び、手際よく注文を伝える。

 外食が多いからか手慣れてるな。


「そういえばあの植物を操る魔法、結構応用ができそうだな」

「ああ、でも効果範囲が狭いので戦闘で使うには厳しいかもな」

「いや、例えば木剣を持ってるとするだろ? 斬る瞬間にそれを伸ばせばリーチが伸びるだろ?」

「ああ、そうか! なるほど、そういう使い方もあるのか……」


 意外と応用力高いな……咄嗟に発動させるには慣れが必要だろうけど。

 これは盾に使うことで防御範囲も広くなりそうだな。


「お待たせしました、生中と黒烏龍茶、カルビとロースになります」

「ありがとうございます」

「よーし、早速焼こうぜ。どんな味か楽しみだ」

「その前に……」


 俺はグラスを持ち上げる。


「おっと、そうだった。それじゃ今日もお疲れ。乾杯」

「乾杯」


 俺は黒烏龍茶を一口飲み、お肉を焼き始める。

 その間に他の注文も運ばれてきて、どんどん網に投入する。


「お、もうそろそろいいんじゃねえか?」

「そうだな……それじゃいただきます」


 俺は小皿に焼肉のタレを入れて、それにカルビを浸して食べる。


「……うまい……」

「お前は食レポ下手だもんなぁ。でも、昔っからその反応はめちゃくちゃうまい時の反応だよな」

「ああ、ゲーム内でもうまかったんだけど、それ以上だ……こりゃ行列ができるのも頷けるわ」

「マジか、そこまでか……オレもゲーム内で食べてうまかったから、最初はカルビにしときゃよかったか」

「一切れやるよ、代わりにロースくれ」

「オッケー、それじゃ交換だ」



 などなど、楽しい食事をしていると、偶然来店していたオーナーが挨拶に来てくれた。

 牧場を経営しているだけあって、とてもガタイのいい男性だ。


「今回は焼肉大河をご利用頂きありがとうございます。そして、ワールドクリエイターズのイベント上位おめでとうございます」

「ありがとうございます、と言っても偶然でしたけど……」

「まあ、そう謙遜するなよ。コウも全体に指示出してがんばってただろ」

「ん……? コウ……全体指示……」


 オーナーが腕を組んで考え込んでいる。


「イベント上位……もしかして、コウ殿……?」

「えっ……その呼び方はもしかして……?」

「ええ、私もワールドクリエイターズをプレイしてまして……」


 オーナーはアプリで情報を表示してくれる。

 そしてそこに出た名前は……。


「た、タイガさん……?」

「マジかよ、まさかこんな近くにいたなんて……」

「いえ、今回は在庫補充で来ていたのですが……まさかお会いできるとは」

「偶然ってあるものなんですね……」


 ん? ということはタイガさんの名前って……。


「……もしかして、大河(おおかわ)だからタイガなんですか? タイガーからではなく……」

「ええ、ベータ版の獣人がいないころからプレイしてまして。人間の時でもタイガだったんですよ」

「ああ、そういえばベータ版のころのランキングでもタイガって名前を見かけたなあ」


 ……と、偶然タイガさんと現実でも会え、ワールドクリエイターズの話が弾み、楽しい焼肉となったのだった。

 もちろん他のメニューも絶品で、普段はしないレビューまで書いて投稿したのだった。



 それにしてもこういう事もあるんだな……正に現実は小説よりも奇なりってことか。

 そんなことを考えながら帰路につき、いつもより遅くワールドクリエイターズにログインするのだった。

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― 新着の感想 ―
おぅ、まさかのタイガさん=オーナーだったとは。 コウさんやタケルさんは言いふらさないから良いでしょうけれど、そうじゃなければ身バレがどうのって言われそう。 そういえばカルビって牛バラ肉の韓国語らしいで…
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