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虹色の鉱石

「それではデザインの修正案もまとまったので、私は服を作ってきますね」

「お、お疲れ様です」


 アテナさんはそう言うと急いでホームへと帰っていった。

 本当に服が関わると嵐のような人だ……。


「ま、待て! ワシをこの(かわいい)服のまま置いていくのか……!?」


 というクイーンさんの言葉はむなしく森に響いた。

 そういえば着替えさせてもらってなかったですね……。


「……しょうがない。コウよ、地下へ戻るぞ」

「は、はい」


 用事が終わって遊び始めたドリアードやアルラウネたちを見ながら、俺たちは魔法陣で地下へと戻った。


「……さて、脱がせてもらおうか」

「へ……? お、俺がやるんです?」

「当然じゃろう? アテナがいなくなった以上、服を脱がせられるのはお主しかおるまい?」

「し、しかしですね……やはり自身で脱げるようにならないと、これから困るでしょうし……」

「皆の者の前で恥をかかされたのじゃ。そのせいで精神的に疲れてしまってのう……身体を動かしたくないのじゃ」

「わ、分かりました……」


 まあ、ワンピースを脱がすだけならそう手間でもないし……。

 と思ったのが間違いだった。


「ふふふ……手つきがいやらしいのう……もしや、興奮しておるのか?」

「きゅー……!」


 待っていたのはクイーンさんの言葉責めと、それに対してのライアの嫉妬。

 更に脱がせている途中にわざと動いて、俺の手とクイーンさんの胸が触れたり、それで煽ってきたり。

 クイーンさん、あんまりふざけないでください! 後で俺がライアたちに怒られる羽目になるので!

 ……と言うこともできず、俺はされるがまま。


 ライアに厳しい視線を向けられる中、なんとかクイーンさんの服を脱がせることに成功する。


「うむ、ご苦労じゃった。コウをワシの従者にしてやりたいぐらいじゃのう」

「じ、従者ですか……」

「こう見えてお主のことは気に入っておるぞ?」

「きゅー……」

「ん、どうした? ……ふむ、大丈夫じゃぞ。お主のご主人様は横取りなぞせん、ワシがお主に恨まれてしまうからのう」


 俺が取られてしまうと思ったライアがクイーンさんに抗議したようだ。

 ……割とライアも気が強いというか何というか。自分よりもはるかに強い上位種の人に物言いできるし。

 そういえば、クイーンさんはどうやってクイーンドリアードになったんだろう?


「む? ふむふむ、お主もご主人様と話をしたい、と?」

「きゅー、きゅっきゅ」

「そうじゃな……ワシが人の言葉も話せるようになったのは『進化』してからじゃな」

「進化……ですか?」

「うむ、ワシも昔は外の者と同じぐらいの大きさだったのじゃ。森の暮らしが退屈になって外に出てやんちゃしてたらいつの間にかこうなっての……その後、落ち着いた頃に森に戻ってきたら女王と言われるようになってしまって今に至る、ということじゃ」


 やんちゃしてた時代のクイーンさんかあ……何だか想像できないなあ。

 俺たちで言う厨二病みたいなものだろうか。俺も経験あるしね……。うわーっ!


「……ということで、お主もワシみたいに進化したらご主人様と話せるようになるかものう」

「きゅー」


 ライアがぺこりと頭を下げる。


「ワシが代わりに言葉を伝えることもできるが……」

「きゅー」

「ふむ、ちゃんと自分で伝えたい、と。うむ、ワシも応援しておるぞ」


 以心伝心とまではいかないものの、ライアたちの身振り手振りで言いたいことは何となく分かるようにはなってきたけど、言葉以上に伝えやすいものはないからなあ。

 ライアもそのうち進化する時がくるのだろうか。

 もし進化したらクイーンさんぐらいに大きくなるのかな……そうなったらレイと大きさが同じぐらいになって、今では無理なシーソーなども一緒に楽しめるようになるかな。


「さて、それではワシは皆の者の様子を見に行くかのう。危ない使い方をしてたら注意せねばなるまいし」

「あ、それなら俺も同行します。1人だとあの数は見るのも大変そうですし……」

「それならお言葉に甘えようかのう。遊具に関してはお主の方が詳しいでの」

「分かりました。それでは行きましょう」


 こうして、ドリアードたちに遊具の使い方を指導しつつ、ライアやレイ、スコールたちも交代で一緒に遊んでもらうなどして、楽しい時間を過ごしたのだった。




**********




「──あ、そういえば……これの加工がまだだったな」


 俺はアイテムボックスから、クイーンさんから頂いた虹色の鉱石を取り出す。

 加工屋が閉まるまでにまだ時間はあるし、加工してもらってからホームに帰ろうかな。


「すみません、この鉱石を魔玉に加工して頂きたいのですが……」

「ふむ……んんん!? こ、これは……。 分かった、全身全霊で加工しよう」

「え? そ、そこまでですか……」

「久々に腕が鳴る……まさか、またこれが加工できる日が来るとは……」


 ……一体何なんだろう。なんだか盛り上がっているようだけど……。

 まあ、やる気があるのはいいことなんだけど。




 そして待つこと数十分。


「できたぞ、さあ持っていくがいい……あ、お代は要らんぞ。久々にいい仕事ができたからな」

「そ、そうですか、ありがとうございます」


 俺は店主にお礼を言うと、魔玉をアイテムボックスにしまい込んでホームに帰宅する。



 そしてホームに着くとアイテムボックスから魔玉を取り出し、観察する。


「きゅー……」

「るー……」

「がう……」


 机の上に魔玉を置くと、みんなが集まってそれに見入っている。

 それもそのはず、見る角度によって色を変える虹色の魔玉だから、俺も見ていて飽きない。

 これで杖を作ったらいいものができそうだなあ……でも、今はいい感じの枝の在庫もないし……。

 せっかくの極上の魔玉だから、木の方もいい素材で作りたいんだけど。

 ……それなら、今度アドヴィス森林でいい感じの枝を探してみようかな?


 こうして、次の方針が決まるのだった。




**********




「さて、どこから探そうか……」

「がう」


 後日。

 今回のパートナーはスコール。四足歩行なので視線が低く、落ちている枝を見つけやすいからだ。

 とりあえず、アルラウネのいるボスエリアに入って探してみよう。




「……うーん、やっぱり見つからないか」

「がうー……」


 スコールも『役に立てなくて申し訳ない』みたいな表情をしている。

 「そうそう簡単に見つかるものじゃないから」、と言ってあげたがまだ引きずっているようだ。


「ふぇー」

「るー?」


 一旦休憩を……と思って大樹の近くに座っていると、バンシーとアルラウネに声をかけられる。

 俺はここに来た理由を説明すると、バンシーがついてきて欲しいというジェスチャーをする。


「スコール、行ってみよう」


 俺たちはバンシーの後をついていくと、そこはフルーツプラントのいる場所だった。


「ふぇー?」


 バンシーが声をかけると、フルーツプラントのツタが地面を指す。

 そこにはフルーツプラントの実が生っている木から落ちた枝が複数本あった。

 中にはいい感じの形の枝が何本もある。


 もしかして、バンシーはここから枝を持ってきていたのだろうか?

 俺がバンシーの方を見ると、ツタと会話をしているように見えた。


「ふぇー」


 すると、バンシーが指を1つ立てる。

 なるほど、持って行っていいのは1本だけってことか。


 俺はよさそうな枝を複数本離して地面に置き、スコールにたずねる。


「スコールはこの中だとどれがいいと思う?」

「がうー……がう!」


 スコールはその中から1本の枝を選んで咥えて、俺のところに持ってきてくれる。


「それではこれを頂いてもよろしいでしょうか?」


 俺がフルーツプラントに声をかけると、ツタを上下させて了承してくれる。

 よし、早速持って帰って杖を……と思ったが、お礼をしておかないとね。


 フルーツプラントにはウォーターの魔法で水を、バンシーとアルラウネには新しい遊具をそれぞれプレゼントしてからホームへと戻るのだった。


 ちなみに枝の詳細はこんな感じだ。


【フルーツプラントの枝:ランクB、フルーツプラントの魔力が宿った頑丈な枝。いい感じの形で、何かに使えそうな感じがする。剣に見立てて草を薙いでみるのも楽しい】


 実際に持って草を薙いでみたが、枝が頑丈なおかげか、草がスパッと斬りできてちょっと楽しかった。

 これが草薙の剣か……いや違うけど。




**********




「よし、それじゃあ杖を作っていこう」


 さきほどフルーツプラントからもらった枝を使い、新しい杖を作っていく。

 今回の枝は直線的で、枝の先がYのように枝分かれをしている。

 魔玉を設置するのは枝分かれしているところの間にしよう。

 魔玉を保護する器はフリーマーケットで買ったランクCの木材にして……。

 レックスさんやアテナさんに色の付け方を教えてもらったし、今回は色も付けてみよう。魔玉は虹色だから、杖の部分は落ち着いた色……茶褐色にしてみようかな。


 そんな感じで杖は無事に完成し……。


「よし、ステータスを見てみるかな」


【虹の杖:ランクB+、火属性+10、水属性+10、地属性+10、風属性+10、MP+46、魔力+90、魔防+48、虹の魔力により全ての属性が増幅される特殊な杖。杖を天に掲げる(道具として使う)と、パーティーメンバーに虹の魔力が降り注ぎ、全ての属性への抵抗力を上げることができる。キラキラしているためミラーボールとしての使用も可能なので、土曜日以外もフィーバーしちゃおう☆】


 ……最後のは何なんだ最後のは。相変わらず説明文さんはっちゃけてるな?

 それはさておき、属性補正値はバンシーの杖には及ばないが、全ての属性に補正がかかるのは大きいな。

 更に抵抗力を上げることもできるから、活躍の場面は多いだろう。俺はそんなに戦闘はしないから宝の持ち腐れ感はあるが……。

 ランクがB+になったのは数値が大きいからか、それとも補正値のおかげか……。なんにせよ、貴重な杖であることに変わりはない。

 今度、フルーツプラントとバンシーたちに会ったら、お礼に何かをプレゼントしてあげたいな。


【INFO:メッセージがあります】


 おっと、アテナさんからか……って、もう全部の服ができたのか……。

 これからヴァノリモ大森林の深層に行くからついてきて欲しい、か。

 それならアトラスさんとレックスさんも一緒に4人パーティーで行こうかな。

 そうすれば、遊具の作り方を教えられるしね。


 ということで、即座にアトラスさんとレックスさんにメッセージを送り、承諾される。

 その後、ギルドで待ち合わせをして、ヴァノリモ大森林の深層へ。




「きゅー♪」

「るーっ♪」


 到着早々、アテナさんはみんなにワンピースを着せ始め、手際よく10分程度で20人分の着替えを完了させる。しかも、要望を出してくれた子に合ったワンピースを。

 俺だと全然見分けがつかないんだけど、アテナさんは分かってるってことだよな……。商売人って人の顔を覚えるのが得意とは聞くし、アテナさんはいい商売人になりそうだ。


「おお、もう作ってくれたのか?」

「はい、みなさん喜んでくださって、製作者冥利に尽きますね」

「あとから追加の礼を渡さんとのお……そこの新しい2人は遊具の作り方を教えに来たのか?」

「そうですね。アトラスさんは鉄工ができるので、みなさんが木を加工するために使う、ノコギリなどの製作ができます」

「アトラスだ、よろしく頼む」

「レックスさんは新しい遊具を作ってくれましたのでそれの紹介と、遊具の作製方法をお教えできます」

「ぼ、僕はまだ若輩者ですが……よ、よろしくお願いします」

「今日はもう時間も遅いので、紹介と簡単な遊具の作り方、それから新しい遊具の設置にとどめておきますね」

「うむ、よろしく頼むぞ」


 その後、レックスさんは六面体パズルの遊び方を教えた後、俺と一緒に遊具の作り方を。

 アトラスさんはドリアードたちが使う加工道具の採寸を。

 アテナさんはクイーンさんを着せ替え人形として弄……もとい、新しい服の提案を。



 そして、日が暮れ始めたころ、新しい遊具の設置をすることに。


「クイーンさん、ここは手を加えてもいい土地ですか?」

「うむ。しかし何を作る気じゃ? 陥没スキル持ちを集めて……」

「それは完成してのお楽しみです……と言いたい所なんですけど、事前説明は重要ですからね。実は──」


 俺はクイーンさんにプールの設置をしたい旨を伝える。


「ふむ、人工的な湖を作って遊ぶということか」

「そうですね、あとは泳ぎの練習にも使えます」

「なるほどのう。それなら許可を出そうぞ」

「ありがとうございます、それでは……」


 俺たちはドリアードたちに陥没で地面を掘ってもらい、その中に木材を敷き詰める。

 その後、俺とレックスさんの魔法、ウォーターで水を満たし……。


「それでは完成で……」

「「「きゅーっ!」」」

「お、お主ら! 説明は最後まで聞かん……っぷ」


 勝手にプールに入るみんなを怒ろうとしたクイーンさんだったが、ドリアードの放ったプールの水が顔面に当たる。


「あ……あとでおしおきじゃからなー! お尻ぺんぺんじゃぞー!」


 ……ちょっと威厳を失いつつあるクイーンさんの声が森に響く。

 そんな光景に俺たちもつい笑いながら、ドリアードたちを見守るのだった。

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― 新着の感想 ―
サタデーナイトフィーバー(笑)
クイーン様がクイーンさんに見えてきた。 コウさんにお着替えを手伝わせちゃうところでは「クイーンさん、それ、パワハラにならない?」とかツッコミがですね。 しかしプールなんて作ったら、水着とかどうするの?…
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