エルフの集落
「よし、それじゃ遊具を作ろう……と言っても、自動作成機能で一気にできちゃうんだよね」
量産するなら自動作成機能が一番早いからね。使用回数の底上げをするなら手作りが一番なんだけど、今回は別のものも作る予定だ。
それは……六面体パズル。
まずは正六面体のブロックを木で複数個作る。
次に各面に絵を描いて、ブロックを同じ面に合わせると絵が完成するように調整する。
終わり。ね、簡単でしょ。
……と言いたいところなんだけど、俺は絵心がないんだよなあ……。
そんなわけでティルナノーグに絵を描ける人がいないか相談に行くことに。
「あ、僕描けますよ」
「それではレックスさんにお願いしてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです。使うブロックの個数と、六か所に描く絵はどうしますか?」
「そうですね……」
あまりに少なすぎると早くできすぎてしまうか?
でも、複数人が遊ぶと考えると待ち時間が少ない方がいいか?
絵柄は分かりやすいように、各面でメイン色は異なる方がいいか?
……などなどを考慮した結果……。
「ではブロックの個数は9、絵柄はこれでお願いします」
・ドリアードの絵(メインカラー:緑)
・アルラウネの絵(メインカラー:赤)
・湖の絵(メインカラー:青)
・ひまわりの絵(メインカラー:黄色)
・夜空の絵(メインカラー:黒)
・桜の絵(メインカラー:ピンク)
「なるほど、自分たちの絵があると嬉しいですもんね」
「あとは森の中で見られる光景を選んでみました。……どうでしょうか?」
「いいと思いますね……ん? ウィン、どうしたの?」
「あー……たぶん、ウィンちゃんも自分を描いて欲しいんだと思いますよ」
俺がそう言うと、ウンディーネのウィンちゃんが頷く。
やっぱり、ちょっと嫉妬してるんだろうか。
「それじゃ、ウィンの絵を使ったパズルをまず作ろうか?」
「うーっ!」
「……ということで、ドリアードたちのパズルを作るのはその後になりそうですが……大丈夫でしょうか?」
「もちろんです。うちの子優先で行きましょう」
「ありがとうございます。さ、ウィン、あっちで絵のモデルになってくれる?」
「うーっ!」
さて、ウィンちゃんの機嫌も直ったし、他にも何かできないか考えよう。
こういう知育系のオモチャも結構楽しいんだよね。積み木であえてグラつく際どい建築にしてみたりとか。
「せっかく日本に住んでるんだし、日本人になじみ深いオモチャもいいかもしれないな……。ここはファンタジーの世界だから異質感はあるけど」
だるま落とし……意外と白熱するんだよね。胴体を各自の手持ちにして、パターゴルフみたいな感じでハンマーで打ってコースを進ませてみたりもしたなあ。
コマ……最初は全然回せないんだけど、回せるようになったらどれだけ長く回せるかチャレンジとかやったなあ。
けん玉……これも結構難しい。特に剣先には全然入らなかった……高等テクニックが必要な大技とかもあるみたいだけど、そこまでうまくなれなかったなあ……。
……いかん、ノスタルジーに浸っている場合ではない。
ほかにもあるけど、この中で作りやすく大勢が遊べるものとしたらだるま落としかな。
ハンマー、頭、胴体部分。中心には穴を開けてハンマーを差し込めるようにして……。
こうすると片付けるのに楽だし、遊ぶときに中心を揃えるのにも便利なんだよね。
よし、ちょっと作ってみよう。
**********
「……よし、こんな感じかな」
俺は試しにハンマーで胴体の真ん中を叩いて……カコンと音がして胴体が飛んで行き、上の胴体が落ちてくる。
うん、いい感じじゃないかな。
「よう、コウ。だるま落としか、懐かしいな」
「アトラスさん。ちょっと新作を作ろうと思いまして。アトラスさんは何をされてたんですか?」
「おれは動画を見てたな。ほら、エインズの町防衛戦のクエストで新しいエリアが解放されただろ?」
「確かフェルトリモ森林にあるダンジョンと、エルフの集落でしたっけ?」
「ああ、エルフの集落……ヴァイスと言うそうなんだが、動画のここを見てみろよ」
アトラスさんに促されて画面を見ると、エルフたちは大木を住居に改造して住んでいるようだ。
……現実には難しいから、こういうの秘密基地みたいで憧れるなあ。
「こういう住居、憧れますね」
「だろ? 実際に行って住み心地とか確かめたいよな」
「そうですね、今の依頼が終わったらぜひ行ってみたいところです」
「ただ、ちょっと今は時期が悪いみたいでな……」
「時期が……? どういうことです?」
「こういうことだ」
再び動画を見ると、破壊されている住居が映る。
どうやら、この前のモンスターの暴走でエルフの集落も襲われたようだ。
そこをクエストのために偵察に行った部隊が助けて……という流れらしい。
「これは……酷いですね……」
「ああ、今は復旧作業をしてるみたいだが……新しい住居を作るのにも人手が必要だし、住居にできる大木がなかなかないようでな……」
「魔法で成長を早めたりはできないでしょうかね……地属性魔法で……ん? 地属性……」
ふととある人の顔が浮かぶ。
それは遊具の依頼者でもあるクイーンドリアード。
タイガさんたちすら軽々とひねり潰せるほどの魔力があるならもしかしたら……。
「どうした?」
「いえ、ちょっと考え事をしてまして……」
「コウのことだ、どうにかして住居を作り直せないか、ってやつだろ?」
「……バレてましたか」
「まあな。もし何か案があるなら行ってみたらどうだ? ちなみにポータルがあるから、一度行っておけばあとは楽に訪問できるようにもなるぜ」
「分かりました、それでは今の作業を終わらせてから行ってみます。あ、あと動画のアドレスを教えてもらえれば……」
「了解だ」
こうして、俺は再びクイーンの元へと足を運ぶことに。
**********
「おお、コウか。もしやもう出来たのか? それとも……ワシの顔が見たかったのか? ライアが嫉妬するぞ?」
「……半分正解です」
「ふむ……?」
俺はエルフの集落の現状、そして住居をクイーンの力でどうにかできないか相談した。
そういう意味では顔が見たかった……会いたかったとは言えるだろう。
「なるほどのう……できるかできないかで言えば、できる」
「……もし可能でしたら、エルフの集落まで足を運んでいただけないでしょうか?」
「そうじゃな……」
「これを差し上げますので……」
俺はそっとだるま落としを差し出した。
クイーンはそれを好奇心に満ちた目で見る。
それに応え、俺はだるま落としの遊び方を説明し……。
「ほう……ほう……」
「いかがでしょうか?」
「うむ、これは楽し……いや、皆が楽しめそうなものじゃな。1人で黙々やるもよし、複数人で集まってワイワイやるもよし、というところか」
クイーンは遊びながらそう答える。
気づいてないけど、頭の葉がピコピコ動いてるんだよなあ……レイの感情を表現するアホ毛みたいだ。
「よかろう、エルフの集落まで同行してやろう。感謝するがいい。……あとだるま落としは増産を頼むぞ」
「分かりました、ありがとうございます。しかし、お願いしておいてなんですが、長がしばらく不在になっても大丈夫なのでしょうか?」
「うむ、次期長候補の者がおるでの。ワシもそろそろ引退を考えておるからのう」
もしかして引退して遊具で好きなだけ遊びたいのでは? と言おうとしたが、そこはぐっと堪える。
後継者を期待している人がいるなら大丈夫だろう。
「よし、それではワシをおんぶして連れて行くがいい。この歳になると飛ぶのも疲れるでな」
「えっ」
クイーンをおんぶする、ということはその頭ほどに巨大なサイズの胸が背中に当たるということで。
しかも両手が塞がるから戦闘ができないわけで……いや、『モンスター出現抑制』機能を使えばそこは問題ないか……?
でもこれ、確実にライアたちが嫉妬するし、みんなに弄られるよなあ……。
「くふふ、冗談じゃよ。やはりお主をからかうのは楽しいのお」
「く、クイーンさん、ライアが怒るので冗談もほどほどにしてください……」
「すまぬのう。そして、ワシの名前はクイーンではないぞ? ま、今のところ立場上はクイーンでよいがの」
「そうだったんですか? それは申し訳ありませんでした。それでは本当のお名前は……」
「ま、気にせずともよい。それよりも早く行こうぞ。遊具で遊ぶ時間が減……エルフたちも困っておるじゃろう」
今本音出ましたよね?
まあ、円滑に話を進めるためにスルーするけど。
そんなこんなで俺たちはエルフの集落……ヴァイスまで向かうことにするのだった。
**********
「あ、ありがとうございます……! まさかこれほど早く木々が復活するとは……!」
「礼は要らぬ。報酬は既にこやつからもらっておるでの」
……遊具がこれの報酬で本当にいいのだろうか。どれだけ気に入ってるんだか……。
ヴァイスに到着すると、クイーンはすぐに破壊された大木を除去し、種を植え、一気に同程度の大木まで成長させた。
相当な魔力が必要だろうに、破壊された全ての大木を元通りにしても平然としている。化け物か。
「ありがとうございます、あなたは我らの救世主です……!」
「いえ、俺、何もしてないですからね?」
確かにクイーンは連れて来たものの、俺は何もやってないよ? 全部クイーンがやってくれましたよ?
それで救世主扱いされるのは何かが違う気がするんだけど。
「お礼に何か差し上げたいのですが……今はこのような状況でして……」
「いえ、本当に何もしてないから大丈夫ですので……あ、でも……大木を住居にするところの見学をしたいのですが、可能でしょうか?」
せっかくなら大木を住居にする方法を見ておきたい。
今後のものづくり……いや、村づくりのヒントになるかもしれないからだ。
「そんなものでよろしければ……いつでもお声がけください」
「ありがとうございます。それではまた時間のある時に訪問させて頂きます」
「分かりました、いつでもお待ちしております」
こうして俺たちはいったんヴァノリモ大森林の深層に戻ることに。
ちなみに、ヴァイスからエインズの町へはポータルで移動したのだが、これにクイーンは興味津々。
面白いから何回かやってみようとか言い出して、往復したのもいい思い出ではある。お金はかかったけど。
そういえばヴァイスってどういう意味なんだろうと思って後で調べたのだが、ドイツ語で『白』という意味らしい。
確かにエルフは色白だからぴったりなのかな?
俺は主人公と真逆の道を行くキャラを思い浮かべたが……まあそれはどうでもいいか。
「……そういえば、クイーンさんはレベルはどれぐらいなんですか? あんなに強力な魔法を連続で使って、疲れたような素振りはありませんでしたが……」
「そうじゃのう……たしか3000はあったはずじゃが……」
「さんぜ……?」
え? 300とかじゃくて3000? 文字通りケタ違いなんですけど?
そんな化け物キャラが始まりの町のすぐ近くに?
本当にエンドコンテンツの裏ボスなんじゃ……。
いや、そういう事ならバンシーの連続イベントで、仲良くなることで深層を突破できるようになっているのも頷けるのか……?
しかも、自分で作ったものをプレゼントすることで仲良くなれるのは、ものづくりをキャッチコピーに打ち出してるゲームならではだろうか。
とりあえずタイガさんへは『バンシーの連続イベントを進めて、仲良くなれたら攻略できます』と伝えておこうかな……。
**********
「あ、コウさんとクイーンさん、お疲れ様です」
「おお、アテナか。お主が来たということは……」
「はい、服が完成しました! 最初はやはり長のクイーンさんからと思いまして……」
「うむうむ、分かっておるのう。では早速着るとしようか」
「それなら、俺は外で遊具を設置してますので……」
俺はいったん外に出て、ドリアードサイズの遊具を設置する。
既に壊れた遊具がちらほらあったので、どれだけたくさん遊んだんだろうか……。
まあ、設置するとすぐにみんなが寄ってきて遊んでいたので、さもありなんといった所だろう。
ちなみにライアも混じってみんなと遊んでいる。
楽しそうな表情を見るに、ともだちが増えて嬉しいというところだろうか。
「コウさーん、クイーンさんのお着替え終わりましたよー」
「アテナさん、早かったです……おおっ」
アテナさんと一緒に外に出てきたクイーンが着ていたのは、黒を基調としたドレス。ついでにヴェール付き。
ドレスやヴェールの一部には草や花をモチーフにした飾りが入っている。
そして、フリルが施されている部分もあり、かわいさを取り入れるのも忘れていない。
確かにこれなら威厳とかわいさが両立できているように思える。
周りのドリアードたちからも好評で、羨ましそうにクイーンさんを見ている。
「それでは、次はみなさんの服のベースとなるものをお見せしますね。大きいと見やすいので、まずはクイーンさんサイズで作ってきました。少々お待ちください」
なるほど。
みんなの服のデザインサンプルと称してクイーンさんの分を作れば、みんなにデザインを確認してもらうという体でクイーンさんもかわいい服が着られるわけだ。
「お待たせしました、こちらがみなさんの服のベースになるデザインです」
「う……や、やはり少々恥ずかしいのじゃが……」
クイーンさんは恥ずかしそうにしながらも、まんざらでもない様子。
服はワンピースタイプで、遊具で遊びやすいように袖は無し、スカート部分もミニになっている。
スカート部分にはフリルが付いており、かわいさを増すのも忘れていない。
「「「きゅーっ!」」」
これはドリアードたちからも好評で、みんな目を輝かせている。
「それでは、こういうデザインを追加して欲しい、というものがありましたらお知らせください。私はドリアードの言葉は分かりませんが、クイーンさんが通訳してくれると思いますので……」
「なっ……も、もしやこの服のままやるのか……?」
「もちろんです。そうした方が、どの部分に足せばいいのかわかりやすいですしね」
「う……そ、それはそうなのじゃが……」
クイーンさんが顔を赤くする。
どうやらかなり恥ずかしさに耐えながら着ているようだ。
「あ、ちなみに相談の時は動画に撮らせて頂きますね。あとで相談内容を見返したいので……」
「お、お主は鬼か……ッ!」
「だって、動画を撮る許可は頂いてますし……」
「ぐぬ……っ……」
クイーンさんを前に一向に退かないアテナさんを見て俺は少々苦笑い。
ほんと、アテナさんは服が絡むと人が変わるな……そう思いながらみんなから相談されるアテナさんを見ているのだった。




