ヴァノリモ大森林・深層①
「久々にのんびりできるなあ……」
イベント翌日の日曜日、俺は朝からログインしてライアたちとのんびりした時間を過ごしている。
イベントまではポーションなどのイベントで必要なものをたくさん作っていたからなあ。
「……さて、イベントの上位報酬はどうしようかな」
最新のVR機器、ゲーム内通貨、現実の食品……などなど、どれも魅力的なものばかりだ。
でも、やっぱりこれが一番か。
俺は『焼肉大河の2時間食べ放題の権利』を選択し、決定ボタンを押す。
これは2人まで参加できる……タケルと食べにいけばちょうどいいだろう。商店街にある焼肉大河は前から気になってたしね。
お詫び報酬で配られたゲーム内のカルビも美味しかったので、食べ比べもできるし。
ちなみに、上位特典で他にもいろいろなものをもらった。
全員に配られた『焼肉大河のカルビ200g(ゲーム内アイテム)』、『討伐されたモンスターの魔石詰め合わせセット(各種3個)』、『1万G』のほかに、『ジャイアントオーガの魔石』、『属性鉱石各種×3』、『ランクBの薬草の種×2』、『ハイマジックポーション×10』。
上位報酬以外のサブ報酬もかなり豪華だ。これはイベントガチ勢が生まれるのも無理もないな……。
「このジャイアントオーガの魔石は誰にあげようかな……」
今後どこかのダンジョンなどで出てくる可能性はあるけど、ボスモンスター産という貴重品だしどうしたものか……。
誰か1人だから、選ぶ時にケンカしなきゃいいんだけど。
【INFO:運営からのメッセージがあります】
ん? なんだろう。
そう思ってメッセージを開くと2通あるので、片方を開いてみることに。
【『焼肉大河の2時間食べ放題の権利』を付与させて頂きました。アプリと連携をして、この権利をスマホなどで提示することにより使用できます。有効期限は本日より3か月となっています】
あ、もう反映されたのか。
アプリはタケルに勧められてもう導入してるので、いつでも食べに行けるな。
さて、もう1つの方は……。
【お世話になっております、ワールドクリエイターズ運営です。この度、ワールドクリエイターズのグッズを作製することが決定しました。
そのうちの1つにコウ様のペットモンスター、ライアさんを検討しています。もし、ご協力頂けるようでしたら、メッセージ最後の『承認』ボタンを押してください。以上、よろしくお願い致します】
「ライアのグッズ……?」
となると、アクリルスタンドとかフィギュアとかだろうか?
ライア……ドリアードはヴァノリモ大森林にもいるザコモンスターだから、これがライア! って感じの特徴はないはずなんだけど……。ちょっと前の交流会で他のドリアードの子も見たけど、ライアと変わらない容姿だったし。
それでもライアを名指しで指定してくれてるんだから、ライアだと分かる特徴があるんだろう。多分。
……個人的にうちの子のグッズが出るのは嬉しいので『承認』ボタンを押しておく。
グッズもものづくりの一つだし、間接的に関われるのも嬉しいところだ。
「……そういえば」
ヴァノリモ大森林の深層にドリアードたちがいるのは分かってるんだけど、タイガさんたちはあそこを攻略できたのだろうか?
個人的にもどんなところなのか気になるんだけど……。今度タイガさんに聞いてみよう。
「きゅー」
そんなことを考えているとライアが俺の傍に来る。
「きゅー、きゅー」
そして庭に置いてある的を指し示す。
これは、ダーツの代わりに俺が作ったペットモンスター用の遊具の的当て。
丸くした端材をボールにして、少し遠くに設置した的に当てるゲームだ。
これが結構好評で、特にライアは最近こればっかり遊んでいる。
「よし、それじゃ一緒に遊ぼうか」
「きゅーっ♪」
ちなみにレイとスコールはソリで遊んでいる。
スコールは運動が好きだから、ドッグランみたいな場所が欲しいなあ。
グラティス草原に行けばいいんだけど、外だとペットモンスターは1人までしか出せないから……。
「おっと、そろそろ集合時間か」
今日はフリーマーケット前にギルドの方で集まりがあるので、俺はそれに行く準備をする。
もちろんライアたちも一緒だ。
「それじゃあみんな、行こうか?」
「きゅーっ!」
こうして、俺たちはティルナノーグへと移動した。
**********
「お疲れ様です、コウさん」
「だいたいの準備はできてるぜ」
「ありがとうございます、それでは始めましょうか」
ギルドでやること……それは遊具の試遊。
今回の遊具は……。
「うふふ……みんなの水着姿、かわいいですね……たっくさん動画を撮らなきゃ……」
「アテナさん、キャラ変わってますよ」
「……はっ! す、すみません。ちょっと興奮しちゃって……」
そう、今回の遊具はプール。
ギルドの増築機能で広場の面積を広げ、ライアたちドリアードのスキル『陥没』で地面を抉り、木の板を敷き詰めて床と壁を作ったもの。
そこにウォーターの魔法で水を入れて、簡易プールにしたのだ。
人型の子なら足がつくんだけど、レイみたいに足が花になってたりする子はちょっと危ないので、底の浅いプールも併設している。小学校で言うと低学年用と高学年用の2種類のプールだ。
これならだいたいの子が楽しめると思う。スコールみたいなウルフは……犬かきができるかな? たぶん。
「きゅーっ♪」
ライアたちドリアードは浅いプールで水を手でバシャバシャさせて楽しんでいる。
ライアはちっちゃいけど、浮けるので足がつかなくても問題ないようだ。
よし、せっかくなのであれを教えてあげないと……。
「ほら、ライア。手をこうやってごらん」
「きゅー?」
「それでこうやって水をためて……こう!」
「きゅーっ!」
ライアが目をキラキラと輝かせながらこちらを見てくる。
俺が教えてあげたのは水鉄砲。
これが意外と楽しいんだよね。
最初の方はうまくできなかったライアだけど、次第に水を飛ばせるようになってきて……。
「きゅーっ!」
「きゅっ?」
「きゅー!」
他のドリアードたちに教えてあげている。
こうやってどんどん仲良しが増えるとライアにとってもいい環境だよね。
「うわっ?!」
そんなことを考えていると、ライアたちの水鉄砲が俺に飛んでくる。
「きゅーっ♪」
ライアたちはきゃっきゃと喜んでいるので教えてあげた甲斐があったな。
「よーし、それなら俺も……」
俺はお返しと言わんばかりに水鉄砲をライアたちに向ける。もちろん手加減はして。
その後はお互いに水鉄砲を撃ち続けたり、レイも参戦してきたりと 楽しい時間が過ごせたのだった。
なお、ルシードはずーっとぷかぷかと水に揺られていたんだけど……楽しかったのかなプール。
ライアたちを盾の表面に乗せてあげてたりもしてたし、モンスター同士で言葉が通じて楽しんでたのかな?
アテナさんも『ルシードも楽しそうですね』って言ってたので楽しかったんだろう。きっと。
**********
その後、フリーマーケットが終わるとタイガさんとアルテミスさんがホームへ訪ねてくる。
「実は相談があってきたのだが……」
「どうしたんですか?」
「実はヴァノリモ大森林の深層のことなのだが……」
あ、俺もちょうどそれを聞こうと考えていた所だ。
ただ、タイガさんの様子から順調とは言えないみたいで……。
「バンシーの花冠とポーションオブアルラウネで混乱、魅了の無効化はできるのだが……」
「実はその後に控えてるボスが強すぎてですね……」
ボスか……アドヴィス森林でのアルラウネみたいに、条件を満たしたら出てくるのかな。
タイガさんたちですら強すぎて相手にならないのなら、俺に相談とはなんだろうか。
「ボスというのはドリアードたちの女王……クイーンドリアードとでも言おうか。そのクイーンドリアードの行動パターンが強すぎてな」
「ドリアードを呼ぶ、混乱・魅了以外の状態異常も使う、極めつけは与えられるダメージ以上の回復魔法を使う……と、こんな感じでして」
「ええ……エンドコンテンツの裏ボスじゃないんですから、開発ももう少し手心というものを……」
それに、俺の手持ちの道具でも装備でも対抗できそうにないんだけど?
タイガさんたちには何か考えがあるのだろうか?
「そこで、もし同じドリアードなら戦闘を避けられるのではないかと思ってな」
「ドリアード……ライアさんがペットモンスターで、アルラウネをペットモンスターにしたり、バンシーと仲良くなったコウさんなら、もしかしたらクイーンドリアードとも仲良くなれるのではと……」
「そ、そううまく行きますかね……? それに道中でドリアードやアルラウネが出てきますし、たどり着くまでも大変そうなのですが……」
タイガさんたちがパーティーを組んでも大変そうな道中を俺が突破できるだろうか?
でも、クイーンドリアードが気にならないと言えば嘘になる。
「以前、深層手前で敵意を感じたことはありますよね?」
「はい、確かそこでアルテミスさんが偵察に、俺たちは引き返したのを覚えています」
「もし、ソロでコウ殿がライア殿を連れて深層手前まで行き、敵意を感じるのであれば無理だと言うのが判明する。もし敵意を感じたのであればその情報だけでも充分なのだ。もちろん謝礼は用意してある」
「なるほど、深層に突入しないでも結果が分かるのであれば大丈夫です。無理に突入してライアが痛い思いをするのが嫌だったので……」
ペットモンスターを連れて一旦外に出ると、途中でホームに送還することはできない。
というのも、ペットモンスターが危ない時に送還すればノーダメージで切り抜けられ、更に召喚すればノーリスクで囮ができるためだ。
だから、深層に入って集中攻撃を受けたり、魅了をかけられて俺がライアを攻撃するようなことがないと分かれば協力するのもやぶさかではない。
「それでは早速行ってきますね」
「コウ殿、指名依頼という形にするのでしばし待って欲しい」
「分かりました。その間、深層の情報が欲しいので動画を見ておきますね」
もし深層に入ることになったら、道中のことを知っておかないとね。
「あ、そうだ。実はさっきギルドで新しい遊具を試してたんですけど……これをアルテミスさんに見ていただきたくて」
「わたくしですか? それでは……ッ!?」
俺はさっきのプールの動画を再生して見せる。
すると、アルテミスさんは速攻で倒れて地面とキスをすることに。
「はぁ……心臓が止まるかと思いました。わたくしもライアさんに水をかけられたい……」
「止めるのは鼻血だけにしておいてくださいね……」
相変わらず鼻血を出しているアルテミスさん。
現実ではさすがに出してないと思うけど……あくまでゲーム内での演出ということで。……言っておいてなんだが鼻血の演出ってなんだ鼻血の演出って。
「それにしてもずるいです……わたくしも知っていれば一旦ギルドを抜けてから参加したのに……!」
「いえ、うちのギルドもう満員ですからね?」
相変わらず行動力の化身だなあアルテミスさん。
それにしても戦闘の時とのギャップがひどい。
「コウ殿、指名依頼が完了したぞ」
「分かりました、それでは受諾してから行ってきます」
「気を付けてくださいコウさん。他のドリアードに鼻の下を伸ばしてたら、ライアさんに嫉妬されますから」
「気を付けるのそこ!?」
まあ実際、ライアはちょっと嫉妬深いところはあるけど……一応心に留めておこう。
**********
「ふう……ここが深層の入口だったな」
道中はソロではきついかと思ったけど、ジャイアントオーガの経験値が全員に分配され、俺はレベル35まで上がっていた。
そのため、高レベルのウルフやクロウも難なく倒せ、深層の入口まで楽々到達できたのだ。
「前は入ろうとしたら敵意を感じたけど……今回は……」
俺はライアを連れて深層の入口に立つ。
前回はこれで敵意を感じたわけだが……今回は一切敵意を感じなかった。
(……入ってくるがいい……)
「ッ!?」
「きゅっ……?」
ライアが反応をした……ということは幻聴ではなさそうだ。
もしかして、これはクイーンドリアードの声……?
「……分かりました、それでは失礼します」
こうして、俺は深層へと一歩踏み込むのだった──。




