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エインズの町防衛戦②

 俺たちはジャイアントオーガの攻撃をライアの機転(スキル:陥没)で避け、全体チャットにメッセージを送った。

 あとは俺たちが一旦後方に退避して、準備を進めるだけだが……。


 そっと穴の外の様子を見ると、ジャイアントオーガの攻撃の巻き添えになったのか、俺を足止めしていたモンスターたちは数をかなり減らしていた。

 そして残ったモンスターたちも……。


「コウ、大丈夫か!?」

「コウさん、どうやってあの攻撃を……?」


 アトラスさんとアテナさんが掃討してくれた。

 俺はスキルの陥没で攻撃を回避できたことを伝え、準備のために退くことに。


「コウさん、ドリアードがペットモンスターのプレイヤーと、水属性魔法を使えるプレイヤーを集めておきました」

「ありがとうございますアルテミスさん。それでは皆さんに作戦をお伝えします」




**********




「ガァァッ!」


 俺たちが準備を進める中、ジャイアントオーガは町への侵攻を続けていた。

 馬防柵も2撃ほどで破壊され、小型のモンスターたちも馬防柵の中へ雪崩れ込んでいく。


 タイガさんをはじめとするタンク勢が何とか食い止めてくれてはいるが、そう長くはもたないだろう。


「ちっ、向こうに時間をかけ過ぎたか!」


 そんな中、南西方面に援軍に行っていたタケルたちがこちらに戻ってくる。

 どうやら南西方面は落ち着いたようだ。


「さて、ランカーギルドの実力を見せてやるか!」


 タケルは2振りのショートソードを使い、瞬く間にザコモンスターを蹴散らしていく。

 当然、攻撃後の隙は若干あるのだが、ペットモンスターのクロウがタケルに攻撃を仕掛けようとするモンスターに横槍を入れ、タケルに攻撃が行かないように支援する。いいコンビだな。


「コウさん、準備できました!」

「分かりました! 次にジャイアントオーガが攻撃をした直後に仕掛けましょう!」

「はい!」


 俺たちはジャイアントオーガの後方と左右に分かれ、ジャイアントオーガが攻撃で隙を見せるのを待つ。

 ヘイトは今はタイガさんに向いているようだ。


「どうした! まだ儂は倒れておらんぞ! 貴様の力はそんなものか!」


 タイガさんがジャイアントオーガを挑発する。

 そして、ジャイアントオーガは棍棒を振り上げ──。


「今です!」


 タイガさんに棍棒が振り下ろされる瞬間、左右に分かれた部隊はジャイアントオーガに急接近し、ドリアードの『隆起』スキルでジャイアントオーガのつま先付近の地面を押し上げる。

 それによりバランスを崩したジャイアントオーガは後ろに倒れそうになるが、踏みとどまろうとする。

 しかし、そこに左右からレックスさんやウィンちゃんをはじめとする魔法部隊にウォーターの魔法を発射され、水圧に押されて後方へ……。


「ライア!」

「きゅーっ!」


 俺たち後方組はジャイアントオーガが倒れてくる地点の地面を、ドリアードの『陥没』スキルで抉る。

 そして、同時にその周りの地面を『隆起』で押し上げ、高低差を作った。

 ジャイアントオーガは態勢を立て直せず、俺たちが作った穴へと仰向けで身を沈める。


「──よし、これなら……。みなさん、『バインド』で拘束を!」

「「「はいっ!」」」


 ドリアード全員が一斉にバインドを発動させ、ジャイアントオーガを拘束する。

 近接攻撃の人たちはジャイアントオーガが穴から抜け出しても身動きが取れないように足に、間接攻撃の人たちは武器を握れないように手首に、それぞれ集中攻撃を行う。

 そして、ちょうどジャイアントオーガの頭部分の上空に陣取れた俺は、とあるものをアイテムボックスから取り出した。

 それは──。


【ポーション(失敗作):飲むとランダムで状態異常を引き起こす、毒と薬は紙一重】


 今まで何となく処分せずに100個以上をアイテムボックスの肥やしにしてたけど……。

 今なら!


「よし、手伝うぜコウ! シィルなら微調整してくれるはずだ!」

「お願いします、アトラスさん、シィルちゃん!」

「ルシードは万が一のためにシィルちゃんの防御をして!」


 俺は拘束されたジャイアントオーガの口めがけて、ポーション(失敗作)を投擲し続ける。

 距離があるので普通なら外れるものもあるはずだが、シィルちゃんが風で操作してすべてを口元に運んでくれる。

 そして、口元で大量のポーション(失敗作)が割れ……。


「ガァァ……ァァァ……」


 次第に、ジャイアントオーガの覇気が失われていく。


『現在のジャイアントオーガのステータスをお知らせします! 大変なことになっています!』


 そして、全体チャットでジャイアントオーガの状態が知らされる。


【ジャイアントオーガ】

 HP:約1000万/1億

 状態:毒、猛毒、麻痺、混乱、暗闇、スタン、属性耐性-100%、各ステータス減少-75%



「……えっ?」


 まだまともにダメージを与えていないはずなのに、HPが1/10になってる……?

 それに、属性耐性やステータス減少まで……。


「みなさん、一気に畳みかけましょう!」


 何はともあれここがチャンスだ!

 ドリアードをペットモンスターにしている人はシードバレットで、更にドリアードのMPが尽きた人たちはアルラウネにチェンジしてアイビーニードルとシードバレットで攻撃。

 近接攻撃組と遠距離攻撃組もペットモンスターと連携して、ジャイアントオーガに攻撃を加えていく。


 俺もライアからレイにチェンジしつつ、自分の装備をバンシーの杖とバンシーの花冠に変更し、新しく取得したウインドカッターで弱点を突く。


(マナ)に研がれし風よ、鋭き刃と成りて我が敵を斬り裂け……ウインドカッター!」


 MPがまだある人で風魔法が使える人は、ジャイアントオーガの弱点であるウインドカッターを詠唱付きで。

 ……ちなみにこれ、冗談半分で応募したやつなんだけど、なぜか採用されてしまった。

 同じ魔法でも詠唱の長さで威力が変わるシステムで、複数採用枠があったからだろう。

 なお、採用なんてされるはずがないだろうと高を括って、匿名で応募するのを忘れてしまっていたため、採用後はタケルにめちゃくちゃ弄られた。……くそう。




 そして、数分後……。


「ガ、ァ……ァ…………」


 ジャイアントオーガの巨体が消滅する。なんとかHPを削り切れたようだ。

 途中で状態異常が途切れないように、ポーション(失敗作)を持っていた他の人たちが更に追加投下してくれたのもあり、完全に反撃を受けることなく撃破できた。

 ……俺以外にもいたんだな、もったいない病が発動してる人たち……。


「ギャ……? ギャーッ!」


 そして、狂乱状態のモンスターたちは正気に戻り、蜘蛛の子を散らすように逃げ出し始めた。

 おそらく、ジャイアントオーガの放つ異様なオーラ……瘴気のようなものに影響されていたのだろう。


「な、なんとかなった……」


 俺は精神的な疲労からか、その場にへたり込んでしまった。

 ジャイアントオーガの攻撃で死を覚悟した時から、ずっと心臓がドキドキしっぱなしだったしね……。


【INFO:ジャイアントオーガが討伐されたため、エインズの町防衛戦のメインクエストを達成しました】


 ウィンドウが表示され、メインクエストの成功が運営から知らされる。

 それと同時に、プレイヤーたちから歓喜の声が上がったのだった──。




**********




【INFO:フェルトリモ森林において、新規ダンジョンが発見されたため、サブクエストを達成しました】


 ジャイアントオーガを討伐して1時間後。ギルド……ティルナノーグで休息している中、フェルトリモ森林でのサブクエスト達成が知らされる。

 どうやら、向こうのチームも無事に成功したみたいだ。

 これで、メインクエストとサブクエストがすべて成功となった。


「お疲れさまでした。なんとかなりましたね、コウさん」

「ええ、無事に終わって何よりです」

「まさか地形変化魔法にあんな使い方があるなんてな。ただ、イベントボスにまで有効ってことはそのうち修正されかねないが……」


 そうなんだよね。

 陥没と隆起で行動不能にしてからは本当に一方的な戦いだったので、手に汗握る戦いを望んでいるプレイヤーには不評だろうし。


「それに、ポーション(失敗作)の効果も修正が来そうですね」

「ああ、まさか割合ダメージまで状態異常扱いされてたなんてな」

「しかも引いたのが9割の割合ダメージでしたしね……修正が来なければポーション(失敗作)を大量に作製する人も出るでしょうし」


 そう、ポーション(失敗作)には隠し効果として『割合ダメージを受ける』という効果があったのだ。

 本当は『誰もこんなアイテム使わないだろう』と思って、お遊びのつもりで作られた効果なんだろうけど、敵にまで効いてしまったら……ね。ボスに耐性持たせるのを忘れてたのかもだけど。


 そして、更にまずいことに、俺が9割ダメージを引いてしまったことにより、貢献度ポイントがぶっちぎりで1位になってしまったのだ。

 そりゃ9000万なんてダメージ普通には出せないし……。もちろん、これによる貢献度ポイントは無効にして欲しい旨を運営には伝えている。

 もし、このまま貢献度ポイントが修正されず、ランキングで上位になってしまった場合は辞退する予定だ。



「……お、結果がきたようだぜ、コウ」


【INFO:エインズの町防衛戦のイベントが終了しました。結果は下記の通りです】


【貢献度ポイント上位プレイヤー】

 ・タイガ

 ・タケル

 ・ああああ

 ・ツヴァイ

 ・AAAA



 ……って、存在してるのかよ『ああああ』! そして『AAAA』もアルファベットしか入力できないアーケードゲームのランキングで見たことあるネタだな……。

 ネタネームっぽいのに上位に食い込んでくるあたり、相当なプレイヤーなんだろうけど……『ああああ』とか『AAAA』かあ。名前呼ぶ時に大変そうだなあ。

 そして、俺の名前が1位にないってことはちゃんと貢献度ポイントが修正されたんだな。よかったよかった。


 そんなことを考えながらランキングをスクロールしていくと……。


 ・コウ


「……?」


 なぜか俺の名前が上位ランキングの一番下にある。

 おかしいな……俺はたいしたことはしてないはずなんだけど。


 ポイント詳細を見てみると、あの時に指揮を執ってジャイアントオーガを行動不能に陥れたことが評価されているようだ。あとはハイポーションの納品も結構なポイントになっていた。


「めでたいじゃねえかコウ! あの9000万ダメージなしでも上位とはな! 今日はお祝いだ!」

「いいですね! 私、ちょっと食材を買ってきます!」

「よし、おれが金を出すから買える中で一番いい食材を頼む」

「ちょ、アトラスさん、アテナさん!?」


 嬉しいけど、アトラスさんの懐が心配なんですけど!?


「アトラスさん、アテナさん、その必要はないみたいですよ」

「ん? レックス、どういうことだ」

「ここを見てください」


【ジャイアントオーガが予想よりも早く討伐されてしまったため、戦闘に参加できなかったプレイヤーの方が多く見受けられます。

 そのため、お詫びとして上位特典の一部である『焼肉大河のカルビ200g(ゲーム内アイテム)』と『討伐されたモンスターの魔石詰め合わせセット(各種3個)』と『1万G』を参加者全員に配布させて頂きます。

 なお、『焼肉大河のカルビ200g』は焼肉大河のオーナー様よりご提案を頂き、採用させて頂きました。この場を借りて御礼申し上げます】


「焼肉大河のカルビ……?」

「これってアトラスさんが1回食べたことのある……」

「そうだ。……ふふふ、これ以上ないプレゼントじゃないか」

「それでは、早速受け取って祝勝会の準備をしましょう」

「お、せっかくだから七輪みたいなものを自作して肉を焼くか?」

「いいですね、いい感じにできたらフリーマーケットで売り出しましょうか」

「あ、ぜひ私も欲しいです」

「僕も欲しいです!」


 ……さっきまでは凄く緊張してたけど、こういう会話ができるとホッとするな。

 そして新しい道具の発案まで……ありがたい。

 そんなことを考えていると、更に情報が発信される。


【INFO:サブクエスト『フェルトリモ森林に存在すると思われる未発見ダンジョンの調査』の達成により、下記が追加されました】


 ・新規ダンジョン:フェルトリモ森林ダンジョン

 ・新規マップ:エルフの集落(フェルトリモ森林内)

 ・新規プレイヤー素体:エルフ



 みんながこれを確認した瞬間、ワッと歓声があがる。


「おいおいマジかよ、エインズの町の次の拠点マップか?」

「エルフ素体もいいですね、初期ステータス、成長ステータスは魔力、速さ、器用さ振りですか」

「ええとすみません、素体というのは……?」

「ああ、コウは知らないのか。実は素体はデフォルトは人間(ヒューマン)なんだが、変更することができるんだ。……もちろん課金要素だが……」

「人間はよく言えばオールラウンダー、悪く言えば特徴なし。獣人はHPと力と速さが高めですね」

「なるほど……」


 デフォルトの人間は何にでもなれる。獣人は物理アタッカー。エルフは魔法アタッカーみたいに特徴が分かれているってことか。

 これからはエルフで活動するプレイヤーも多くなりそうだ。

 俺もちょっと気になるけど……まだ始めたばかりだし、しばらくは今のままかな。


「よっしゃ、話のタネはできたし、ちゃちゃっと作って盛り上がろうぜ」

「ですね!」



 その後、焼き肉用の道具を作ってから、盛大な祝勝会でみんなで盛り上がったのだった。

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― 新着の感想 ―
個人的に”ボスだから”で設定的に耐性持ってて当然の以外も無効は白けるタイプ(強いやつに効きにくいで耐性ぐらいならいいけど調整めんどいから一括無効はちょっと)だから効くのは良いけど HP多くなってるなら…
ああああとかAAAAとかの人って、名付けが面倒だったんじゃ?他作品にも居ましたけど。基本的に「村人A」という名前の登場人物。 地形変化は修正はされなくて良いと思う。だって、それも含めて魔法だから。あ、…
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