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イベント一週間前

「よし、このハイポーションを納品して……と」


 俺はイベントの物資補給ミッションの残り……ハイポーションの納品を行う。

 毎日地道に納品して、ようやく今日で全プレイヤー合計1000個の納品になる。


 ちなみに、納品してもすぐには数に反映されず、12時と24時の定期更新で反映される仕様だ。

 これは、納品数ギリギリで複数のプレイヤーが同時に納品した場合、弾かれる人が出るのを防ぐためらしい。


「これで物資補給ミッションは全部完了になるけど……新しいミッションとか出てくるかな?」


 ミッションを全部こなしたら新しいミッションが出現するのはあるあるだけど、さすがにイベント開始までもう1週間だし、更新はなさそうかな。

 ハイポーション以外の納品は全然できなかったので、あったら嬉しいんだけど。


 とりあえず、いったんホームに戻ろう。




「……あ、ホームへの入場申請がきてる。タケルとタイガさんか」


 ホームに戻ってしばらくすると、ホームへの入場申請が飛んでくる。

 俺はすぐに受諾して、2人をホームに招き入れる。


「おはようございます、いつものですね」

「おはようコウ殿、イベント前の最後の補給になるな」

「おはよー、オレは来週までは薬草を育ててもらおうかな……ランクCのがあればランクCポーションが増産できるし……」

「なるほど、確かに儂も同じようにした方がいいか」

「分かりました。それではまずは収穫をしてくるのでお待ちください。中にリンゴを用意してますので、どうぞ」

「おお、ありがたい」


 タイガさんたちは家の中へ、俺は畑へと収穫へ向かった。




「お待たせしました」

「おお、コウ殿。この果物はいったい……」

「こんな美味い果物どこで手に入れたんだ?」

「あ、例のステータスアップアイテムです」

「「ぶっ」」


 思わず2人が同時に噴き出す。

 確かに不意打ちしちゃったけど。


「おいコウ、なんてもの食べさせてんだよ!? あれだけ貴重って言ってたよな!?」

「切り分けることで効果が失われてたりなどは……」

「あ、そこは大丈夫です。最初に食べた人にしか効果が出ないのは検証済みで、2人が来る前に切り分けた1つを食べましたので」

「そうか……それならよかった」

「む……それでは切り分けたアイテムの説明はどうなっておるのだ?」

「そういえば表示したことなかったですね……では」


 俺は切り分けたリンゴのステータスを表示する。


【リンゴ:ランクS、ステータス上昇効果が失われた、ただのリンゴ。しかしランクSのため、美味しさはただのリンゴではない。この場合、ただのリンゴと表記してもいいものだろうか? 美味しいリンゴと表記するべきではないだろうか? ご意見のある方は運営まで】


「これ……バンシーの杖と同じ人が説明文書いてるんですかね……?」

「そんな感じはするが……どうなんだろうな? とりあえず運営に意見送ったらどうだ?」

「面倒だからまあ……機会があれば」

「二度と来なさそうな機会だな」

「よく分かってらっしゃる」


 ツッコみどころを残しておいた方が、他の人が目にしたときに話題にしやすいだろうしね。

 おそらく、あえてそういう説明文にしたんだろう。いや、天然でこういう書き方なのかもしれないけど。


「そういえばタイガさんたちはバンシーイベントの進行はどうですか?」

「儂はバンシーの花冠をもらったところだな」

「オレは2つ目の花冠だな。その先がなかなか進まなくてさあ。コウは何か特別なことでもしてるのか?」

「いや、俺は特にこれといって……バンシーたちと遊具で遊んでるぐらいか?」

「「それだ」」

「え?」


 相変わらずこの2人は息が合ってるな……。

 それはさておき、タケルたちは一緒に遊んでないのかな?


「効率よく進めようとして、滞在時間はそれほど長くないんだよな。それが逆に効率悪くしてるのか」

「相手はNPC……AIとはいえちゃんと感情も持ってるんだから、ちゃんと相手をしてあげないとダメだろ」

「なるほど、NPCもペットモンスター同様に好感度のようなものがあるのかもしれないな。儂も肝に銘じておこう」

「ちなみにコウはその後はどうなんだ?」

「俺は特に進展はないな。ステータスアップアイテムがランクSだし、ここで打ち止めなのかもしれないが……」


 俺はその後も足しげく通ってはいるが、ステータスアップアイテムをもらった後の進展はない。

 普通のRPGとかならイベントが終われば会うことはなくなるが、ワールドクリエイターズは状況が日々変化していっている。

 そのため、できる限りずっと交流はしていきたい。俺の作ったもので喜んでくれるのはこちらとしても嬉しいしね。


「ま、何か進展があったらよろしく頼むぜ。もちろん、言いたくないことがあったら言わなくていいからさ」

「ああ、そうさせてもらうよ」

「……む。どうやらイベントの更新がきたようだぞ」


 タイガさんの言葉で、俺たちはウィンドウを開く。

 一週間前ということで、イベントの詳細が発表されたようだ。

 その内容は……。


【エインズの町防衛戦】

 エインズの町に侵攻してきているモンスターは『ジャイアントオーガ』と判明した。

 二階建ての家よりも大きいサイズから繰り出される攻撃をまともに受ければ、優秀な冒険者でもひとたまりもないだろう。

 馬防柵で侵攻を阻害しつつ、死角や遠距離からの攻撃でダメージを与えて欲しい。


 また、狂乱状態のモンスターの侵攻も確認された。

 出所はグラティス草原よりも遥か南の森、フェルトリモ森林のようだ。

 おそらく未発見のダンジョンはこの森の中にあると思われる。


 これらのモンスターの侵攻を防ぐため、更に物資の納品をお願いしたい。

 詳細は下記に記す。


【メインクエスト】

 ・ジャイアントオーガの撃退、または撃破


【サブクエスト】

 ・フェルトリモ森林に存在すると思われる未発見ダンジョンの調査

 ・物資の補給




「ふむ……ジャイアントオーガの属性は地か」

「おいおい、HPが1億もあるのか? ちょっとインフレが過ぎないかこれ」

「ただし防御と魔防は0だから、誰でもダメージは通せるだろう。そのための調整だろうな」

「なるほど、防御と魔防がしっかり設定されてたら上位陣しか相手できないもんな……」


 タイガさんとタケルはジャイアントオーガの詳細を見ているらしい。

 しかしステータスまで公開されるとは。これでジャイアントオーガに合わせてステータスを変更……ステータスポイントリセット機能を使うプレイヤーがいて、運営も儲かるって仕組みなんだろうか。


 とりあえず、俺は物資の補給ミッションの詳細を見ておこう。


【物資の補給】

 下記の通り、エインズの町の兵士への納品をお願いする

 ・ポーションの納品 0/20000

 ・ハイポーションの納品 0/500

 ・マジックポーションの納品 0/2000

 ・馬防柵の納品 0/300 ※戦闘開始前のみ

 ※1プレイヤーの最大納品数はそれぞれ50とする

  ただし、前回のミッションで納品した分と合計とする


 装備がないってことは、装備は既に納品している分で事足りるってことかな。

 そのほかは前回の半分程度でポーションは逆に2倍か……まあポーション系はいくらあっても足りないからなあ。ハイポーションは作るの難しいから少なくなったんだろう。前回も最後まで残ってたし。

 馬防柵は更に侵攻を遅らせるためにまだまだ必要かな。

 前回はまったく納品できなかった分、今回はがんばろう。



「コウ、オレはちょっと準備があるから失礼するぜ」

「うむ、儂もギルドで相談をせねばな。それではまた」

「それではまた後日、薬草を引き取りにきてくださいね。忙しいなら数日分留め置きしておきますので」

「おお、ありがたい……では2日に1度引き取りに来させていただく」

「オレは3日分かな。よし、ちょっとレベリングに励んでくるか」


 こうして、イベントミッションその2が始まったのだった。


 ……そういえば、タケルたちのレベリングってどこでやってるんだろう?

 アドヴィス森林のアルラウネは推奨レベル20ぐらいだしなあ。どこかのダンジョンだろうか。

 とりあえず、今度来た時に聞いてみよう。ものづくりをするのにHPやMPはいくらあってもいいからな。


 ……よし、俺もギルドに行って今後のことを相談しよう。




**********




「お疲れ様です、コウさん」

「おれたちが集まるってことは……イベントの方針か?」

「はい、そうです。……と言っても、うちはものづくりギルドなので、納品ミッションがメインでしょうね。ギルドのノルマもなしなので、まあ自由でいいかと思います」

「まあそうなるか。ちなみに、イベントの貢献度ポイントは個人のほかにギルドでもランキングがあるからな」

「えっ、そうなんですか?」


 うーん、うちは規模が大きくないし、こういうのはランカーギルドが上位総なめなんだろうなあ。

 力になれず申し訳ない。


「はい、ギルドの上位4人の貢献度ポイントでランキングが決まるんです。4人なのはパーティーが4人だからですね」

「あ、上位4人なんですね。……といっても、うちは戦闘メインの人はいませんし、納品ミッションで稼ぎましょうか」

「そうですね、貢献度ポイントは明示されていませんが、ハイポーションは意外とポイント高いかもしれませんね。作るのに手間がかかりますし」


 そっか、入手難易度によってポイントが違う可能性があるのか。

 ……ん? それならもしかして……。


「コウ、どうしたんだ?」

「いえ、ランクCのポーションを納品したら貢献度ポイントが多くもらえるのかなと思いまして……」

「あ、確かにそれはあるかもしれませんね。私は50個全部ランクDを納品してしまって、確認はできませんが……」

「おれはまだ50個納品できるな。ランクCも少し持ってるから納品できるぞ」

「自分もまだ50個納品できますね。前回は一瞬で納品上限数に達してしまったので、今回は早く行動しないとですね……」


 前回の納品ミッションでの必要数は10000。

 ワールドクリエイターズのアクティブプレイヤーがだいたい2万ぐらいと言われている。

 そして1人での最大納品数が50だから、全員が最大納品をすると200人しか納品できなかったんだよな。

 まあ、生産職の人数は少ないと言われてるし、そこまで納品されないだろうと思っての設定だったんだろうけど……。

 ……そういえば、上位入賞者の豪華景品って今回はなんなんだろう? 前回はVR機器とかだったらしいけど、俺には縁がないだろうなと思って、イベント開始予告の時には確認してなかったんだけどふと気になってしまう。


 俺はウィンドウを立ち上げると、景品を確認する。


【上位入賞者様への景品(下記の中から10万円分お選びいただけます)】

 ・最新VR機器(イベント終了時で最新のモデルです)

 ・焼肉大河(おおかわ)の2時間食べ放題の権利

 ・季節の果物と野菜食べ比べセット(ゲーム内、現実どちらもお受け取りいただけます)

 ・NPCが討伐したモンスターの素材セット(時価)

 ・500万G



 などなど、かなりの品ぞろえである。

 特に目を引いたのは焼肉大河の食べ放題権利。

 うちの近くにあるし、気になってるんだけど……まあ、俺だと入賞はとてもじゃないが無理だろう。

 俺の場合は特に戦闘面がなあ……レベルも上位とはかけ離れてるし、今からレベル上げしても追いつけないだろうし。

 ザコ散らしぐらいならできるかもしれないからそれで稼ぐのと、ハイポーションの納品のポイントが高ければワンチャンあるか……? ぐらいだ。


 そういえば、焼肉大河もなんだけど、季節の果物と野菜食べ比べセットもワールドクリエイターズとコラボしてるお店のものなんだろうか? これも気になるな。


「そういえばコウさん、実は私もいい感じの枝を手に入れたんです」

「本当ですか!? ではそれで杖を作るのもいいかもしれませんね」


 どうやらアテナさんもいい感じの枝を手に入れられたようだ。

 アテナさんもバンシーにたくさん服を贈ってるみたいだし、当然といえば当然か。


「杖はコウに作ってもらうのか?」

「いえ、できれば自分で加工したいんですけど……杖を作ったことがなくって……」

「それなら横で自分が見ておくのはどうでしょう? ちょっとしたアドバイスならできそうですし……」

「いいんですか? それではお言葉に甘えて……」

「分かりました。いったんポーションを納品しに行ってきますので、その後でいかがでしょうか?」

「大丈夫です。えへへ、バンシーちゃんにもらった枝で作った杖、見せてあげるのが楽しみです」


 俺もバンシーに杖を見せてあげたけど、すごく喜んでくれてたな。

 ……そういえば、バンシーも杖を使うんだろうか? 今度、魔法少女的ステッキを作っていってあげようかな?


 そんなことを考えながら俺はポーションの納品に行き、アテナさんのバンシーの杖づくりを手伝うのだった。


 なお、アテナさんの作ったバンシーの杖は風属性の魔玉を使い、風属性を強化できるバンシーの杖になった。性能は俺のバンシーの杖とほぼ同じ。

 今回のイベントボス、ジャイアントオーガの属性が地なので属性有利を取れるんだよな。

 確かアテナさんはウインドカッターを使うし、そこも踏まえての風属性のバンシーの杖なんだろう。




 その後、イベント開始まで俺たちは納品ミッションをこなしたり、ライア・レイ・スコールのレベル上げをしたり、息抜きに新しい遊具……ダーツなどを作ってみたり……。

 忙しくも充実した日々を過ごし……。


 そして、イベント開始当日を迎えた。

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― 新着の感想 ―
ジャイアントオーガとスタンピードということか。 ジャイアントオーガだけだと攻撃人数が限られるから? イベントですもんね。ひとりでも多くにイベント参加機会を作んなきゃね。 そしてリンゴの説明文は、美味し…
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