ステータスアップアイテム
「あ、運営から返信がきてる」
タケルたちが帰ってしばらくすると、昨日のステータスアップアイテムについての質問への返信が届いたので、早速メッセージを開くことに。
【平素よりワールドクリエイターズをご愛顧頂き、ありがとうございます。
さて、今回のご質問についてですが、ステータスアップアイテムを使って上昇したステータスは、ステータスリセット後も維持されます。
リセット、またはステータスポイントへの変換はされない仕様となっております。
詳細はヘルプのステータスの項目に追記させて頂きました。
今後ともワールドクリエイターズをよろしくお願いいたします】
なるほど、リセットはされない仕様なのか。
ちょっとヘルプも見ておこう。
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「ふむふむ、ステータスはそういう計算式になってたのか」
現在のステータス:初期ステータス+初期割り振り+レベルアップステータス+ステータスポイント+アイテム上昇ステータス
初期ステータス:全てのプレイヤーで固定
初期割り振り:キャラクリエイト時の100ポイント割り振り分
レベルアップステータス:レベルアップによる固定上昇分
ステータスポイント:レベルアップによる割り振り分
アイテム上昇ステータス:アイテムによる上昇分
こうやって分かれてデータに記憶されているから、アイテム上昇ステータスがステータスポイントリセット機能でリセットされることはないんだな。
更にヘルプによると、ステータスポイントリセット機能では、初期割り振りもリセットできるらしい。
ちなみに初期割り振りは各ステータスは初期ステータス+30まで。
極振りはできないんだよなあ。力または魔力に振って遠距離で攻撃しまくってたSRPGが懐かしい……。
さておき、リセットでステータスポイントに変換はできないなら、職業によって死にステになるものが上がるかもしれないので、ステータスアップアイテムは自分で使うのがいいかな……。
誰かに売ってその人の死にステが上がったら『がああっ!』ってなりそうだし。
……それに、フルーツプラントの果物がどんな味なのか気になるし。
このゲームは食べ物の味が再現されていて、コラボしている店もある。
……つまり、Sランクの果物は美味しいのではないか、というわけだ。
まあ、ただ単に効果が強いという理由でのSランクなんだろうけど。
それでも味は知っておきたいよね。果物好きだし。
特にブドウ。皮ごと食べられるシャインマスカットをはじめとして、ピオーネ、デラウェア、紅瑞宝、紫玉……挙げていったらキリがない。
フルーツプラントにもらった果物の中にブドウもあったので楽しみだ。
……そして、もう1つ気になることが。
これに関してはアテナさんたちに協力してもらおう。
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「おれとアテナとコウ……ってことは今日はリーダー会議か?」
「そうかもしれませんが、そうでもないかもしれません。これについてなのですが……」
「コウさん、このブドウは……?」
「あ、こういうものです」
俺はホームに来てもらった2人にブドウのステータスを開いて見せる。
「……おいおい、マジかよ。掲示板で話題になってたアイテム上昇ステータスって、コウが追記させたのか……」
「掲示板……?」
「ああ、これだな」
アトラスさんはサークル掲示板の雑談スレを開く。
そこではアイテム上昇ステータスについての議論が交わされていた。
『おい、ステータスのヘルプの追記項目見たか?』
『ああ、アイテム上昇ステータスのことだろ? 追記されたってことはステータスアップアイテムが追加、もしくは既に存在しているってことになるよな』
『今までヘルプになくて急に出てきたってことは、サイレント修正か誰かが手に入れたものを問い合わせしたか……』
『ステータスリセットした場合のアイテム上昇ステータスに関しての追記もあるから、ステータスアップアイテムで上昇したステータスをリセットした場合はどうなるのか、って問い合わせしたのが自然じゃね?』
『ってことは……ステータスアップアイテムを手に入れる方法があるってことだよな?』
『譲渡や売買ができるようなら買いたいな……でも永続上昇だからとんでもない金額になるか……?』
『大金出して買っても、要らないステータスが上がることもあるからギャンブルだよなあ』
『俺はオールラウンダー目指してるから欲しいな。どれが上がっても嬉しいぞ』
「なんか……凄いことになってます……?」
「1か3とはいえステータスが永続上昇だぞ。レベルが上がれば必要経験値も増えていって、レベルアップ間隔がだいぶ開いていった時にこれがあったらどうする?」
「私なら頼ってしまいますね。1/5レベルアップみたいなものですし」
「書かれている通り、職業によっては必要ないステータスが上がる場合もあるが……ステータスはあって困らないしな。アップデートで、重要なステータスがいつ変わるかも分からないだろうしさ」
「……とりあえず、これのオークションなどは控えておいた方がよさそうですね」
「ああ。……それで、会議はこれについてか?」
その通り。
俺はこのブドウを複数人で食べた場合はどうなるのか、というのを検証したいという旨を伝えた。
「なるほどなあ。昔のゲームで実とか種とかあったが、使うと1人で全部食べてたな」
「確かに複数人でシェアした場合の効果は気になりますが……そんな貴重なアイテムを使ってもよろしいのですか……?」
「ええ、ちょっと味が気になってしまって……」
「「味?!」」
アテナさんとアトラスさんが息ピッタリでそこにツッコむ。
……やっぱりそうなるよなあ。
「はー……マジか。めちゃくちゃ高く売れるであろうアイテムの味が……か」
「だってランクSですよランクS。もしかしたら、すごく美味しいかもしれないじゃないですか」
「た、確かに私も気になります……たまにフリーマーケットで売られているという、現実のお店とコラボした食べ物もありますし、それぐらい美味しいのかなって……」
「あー、アレか。おれは焼肉大河の肉を食べたことがあるが……」
「えっ、アトラスさんは食べたことがあるんですか?」
「ああ、めちゃくちゃ美味かった……で、実際の店舗にまで食べに行ったこともある」
実際の店舗か……俺の職場近くの商店街にも焼肉大河があったな。
人だかりができていたので、かなりの美味しさなんだろう。
「あの、ワールドクリエイターズ内と実際の店舗ではだいぶ違いました?」
「もちろん、現実の方が美味かったな。ただ、再現度はかなり高いから気になるなら食べてみるといいぜ」
「探してはいるんですけど、全っっっ然見かけないんですよね……」
「俺もちょこちょこ探してますが、確かに見かけませんね」
「まあ、結構運も絡むだろうし、人気アイテムだからなあ……一度食べたプレイヤーが血眼でフリーマーケットで探し回ってるとか……って、話がズレていってるな」
「あ、す、すみませんでした」
「いえ、俺も近くに焼肉大河があるので気になってましたし、ちょうどいい情報でした」
そうか、やっぱり現実の方が美味しいのか。
今度行列に並ぶのを覚悟で、タケルと行ってみるかな?
……とりあえず、それはさておき。
「さて、それでは実際に食べてみましょうか」
「ああ、食べる順番はどうする?」
「俺が食べてからお二人に食べてもらいましょうか。おそらく最初の1人にだけ効果があると思いますが……」
「じゃ、まずはコウが食べてみれくれ」
「分かりました……と、その前に」
俺は運を上げるためにバンシーの杖とバンシーの花冠を装備する。
その後にブドウを1粒ちぎり、口へと放り込む。
そして、1度噛むと芳醇な甘さが口の中へと広がる。
皮はちょっと薄く、おそらく皮ごと食べられる品種だろう。なお種は入っていないため、かなり食べやすくてありがたい。
これは……現実でもお高いブドウぐらいの美味しさだな……。
【INFO:器用さのステータスが1アップしました】
しばらく味を堪能してから飲み込むと、ステータスが上がった通知が出現する。
なるほど、飲み込んだ時点で使った判定になるんだな。
それにしても、まさか一番欲しかった器用さが上がるなんてな……バンシー装備の運アップ効果のおかげだろうか。
「コウさん、どうでしたか?」
「器用さが上がりました。バンシーのおかげですかね」
「きゅー……」「るー……」
「痛っ」
今度はライアとレイに同時につねられる。
「うう……あとでスコールも一緒に4人で遊ぶから勘弁して……」
「嫉妬してるライアちゃんたち……かわいいですね」
「……おれも気を付けないとな……」
アトラスさんの言葉を聞くに、シィルちゃんも割と嫉妬しちゃうタイプなんだろうか。
そして、意外とアトラスさん、尻に敷かれるタイプなのだろうか……。
「そ、それではお二人も食べてみてください」
「おう。……こ、これは……」
「おいしい……しかも食べやすくてついつい次々と食べちゃうタイプですね」
「ですよね。そういえば、ステータスはどうでした?」
「おれは上がらなかったな」
「私もです」
ということは、やはり『効果があるのは最初の1人だけ』っぽいな。
まあ予想通りか。
「残念でしたね、コウさん……」
「いえ、『全部自分で食べないと効果がない』ではなくてよかったですよ」
「ん? そりゃどういう……」
「だって、全部自分で食べないといけないなら、シェアできないですからね」
「はー……ランクSの美味いものを独り占めではなくシェアか……」
「コウさんはお人好し過ぎるというか……」
「う……た、確かに現実の知り合いにも言われますが……」
そして、タケルだけでなく、タイガさんにも言われたんだよな。
それでも変われないのが俺。三つ子の魂百までと言うしなあ。
「ま、でもそこがいいんだよな」
「そうですね、そんな優しいコウさんがギルドリーダーでよかったと思います」
「あ、ありがとうございます……そ、それじゃ早速ブドウをギルドに差し入れにいきましょう」
「おいおい、照れてるのかー? 照れるのはライアちゃんたちの裸を見た時ぐらいにしようぜ」
「ちょっとアトラスさん?!」
まあ冗談なんだろうけど……。
しかしライアたちが聞いていたから、服を脱ごうとするなどして慌てて止めることになったのだった。
その後、ランクSのブドウをギルドに差し入れすると、大好評だった。
どこで手に入れたか聞かれたが、そこはアトラスさんたちがうまくはぐらかしてくれて助かった。
……俺も、アトラスさんたちがサブリーダーでよかったな。そう思うのだった。
**********
「ほら、レイ。これを向こうに投げてみて」
「るー……るーっ!」
レイが円盤を投げると、スコールが猛ダッシュしてそれに追いつき、口でキャッチする。
そう、今やっているのはフリスビーだ。
「がーう」
フリスビーを取ってご満悦の表情のスコール。
背中ではきゃっきゃとライアがはしゃいでいる。
ライアの大きさだとフリスビーが投げられないけど、スコールの背中に乗ることで、いつもと違ったスコールの走りを堪能できるようにした。
ライアの表情を見るに、とても好評なようで安心した。
ちなみに、フリスビーを作ろうと思ったきっかけは、現在ギルドで作っている輪投げ。
輪投げの輪を作っている時に、ふとフリスビーのことが浮かんだのだ。
「るーっ」
フリスビーを返却するスコールの頭を撫でて褒めるレイ。
もうすっかりお姉さんという立ち位置だな……。
そしてもう1回フリスビーを投げて……スコールが取って……。
とても楽しそうにみんなで遊んでいるので、見ているだけでほっこりする。
「そういえば……フリスビーの要領でブーメランも作ってみようかな。武器としても使えそうだし……」
ブーメランを武器にするなら刃が必要だから、アトラスさんの協力も必要だな。
……そういえば、アトラスさんからもらったハンマー、やっぱり普通に振り回すしか使い方が分からないんだよな……。
器用さがあれば別の戦い方ができるかもしれないとは言われたけど、勢いよく殴るのが基本なので力こそパワーなんだよな……。
器用さが絡むスキルがあれば……ん? スキルか……それならいけるか……?
俺は取得できるスキル一覧を表示した。
そして、取得に器用さが必要なスキルで絞り込むと……。
「これは……」
俺が見つけたのは、装備を変更できるこんな感じのスキル。
【チェンジウェポン:攻撃中でも手持ちの武器を交換できる。消費MP:5、必要スキルポイント:3、必要ステータス:器用さ80】
意外と必要スキルポイントが高いな……不要だった時のリスクはあるけど……ポチっとな。
「よし、ちょっと実践してみるか」
俺はショートソードを装備して、剣を振ると同時にチェンジウェポンを使用する。
すると、持っていた武器がハンマーにチェンジし、振った勢いはそのままだ。
「これは……」
もしかすると、これを応用すれば普段よりも重い一撃が放てるのでは?
しかし、武器変更のタイミングは結構難しそうだな……あと、ショートソードを片手持ちしてる時にハンマーに切り替えた場合は、片手でハンマーを持つことになるのか……。
それでも、使い方によっては面白い運用ができそうだな。
「がーう」
おっと、スコールがフリスビーを持ってきた。俺にやって欲しいのかな。
「分かった、それじゃ……それっ!」
「がうー!」
その後もフリスビーをしながら、まったりとした時間を過ごしてログアウトするのだった。




