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プレゼント②

「ふぇー♪」


 最近は日課になっているアドヴィス森林への訪問。

 ボスエリアでいつものバンシーから声を掛けられ、森の奥へ。


 今回の訪問の理由は……。


「みんなー、お待ちかねの服を持ってきたよー」


「「ふぇー!」」「るー!」


 声を掛けると、一呼吸おいてみんなが勢いよく返事をして駆け寄ってくる。

 ……いや、アルラウネだけはふわふわ浮いてだけど、勢いはいつもよりいい。

 移動方法、もう少しなんとかならなかったんだろうか。ねえ運営さん。


 ……それはさておき、みんなに服を渡していく。

 アテナさんは、動画からそれぞれの子の性格を想像してアレンジしてくれたみたいだけど、気に入ってくれるかな。


「それじゃまず、君にはこれだね」

「ふぇー!」


 ちょっとツリ目がちな、短髪で活発そうなバンシーにはワンピースのスカート丈を少し短くした、ミニスカート風味のワンピース。

 もちろん、動いた時にめくれて大事なところが見えないぐらいの調整だ。

 おまけとして、活発なイメージを連想させるひまわりの刺繍がしてある。


「次に、君にはこれを……」


 前髪で目が隠れている、長髪のおとなしそうなメカクレのバンシーには、いつもの子と同じデザインのワンピース。

 ほかの子に比べて胸が大きい(当社比)とアテナさんは言っていたので、カップ付きのワンピースらしい。

 おまけは胸元の小さいリボン。きっとかわいいのが好きだと思うとはアテナさん談。


「最後に、君にはこれかな」


 バンシーたちのともだちのアルラウネにはバンシーとお揃いのデザインのワンピース。

 もちろん、アルラウネでも楽に着られるようにと工夫がされている。

 おまけはバンシーの顔のアップリケが左胸に入っている。バンシーとアルラウネの友情の証らしい。



 ……バンシーたちはしばらくワンピースを眺めていたが、突然服を脱ぎだし……。



 急な生着替えやめてください! この後ライアやレイに怒られる俺がいるんですよ!?


「きゅー……」

「痛っ」


 ほらまたライアにつねられる。

 まあ、かわいいものなんだけどね。


「ふぇー……」


 次に言葉を発したのは、いつものバンシー。

 おそらく、自分だけ何ももらえないのが寂しいのだろう。

 そんなこともあろうかと……。


「はい、これ」

「……ふぇー!」


 俺はバンシーの髪にリボンを付けてあげる。

 アテナさんに教わりながら、俺が作った3つ目のリボンだ。


 ちなみに1つ目はライア、2つ目はレイにそれぞれプレゼントした。

 ライアもレイも今日それを付けてくれているので、製作者冥利に尽きるなあ。


「「……ふぇー……」」「るー……」


 あっ、他の子にバレた。


「う、うん。もちろん今度はみんなにも作ってくるから……今日は勘弁してね」


 その言葉に納得してもらえたのか、みんなはうんうんと頷いてくれた。

 ……アテナさんにアドバイスしてもらいながら作ろう。今回のワンピース、みんな気に入ってくれたみたいだし。


「ふぇー」


 ……と、そんなことを考えていると、いつもの子に服の裾を引っ張られる。

 どこかについてきて欲しいのだろうか。


 俺は、バンシーに案内され、更に森の奥深くまで足を踏み入れていく。

 しばらく鬱蒼と茂った草をかき分けていき、3分ほど進んだ先には……。


「うわぁ……ここは……果樹園?」


 頭上を見上げるとさまざまな果物が生っている。

 リンゴ、梨、ブドウなど……どうやって作られてるんだろう。接ぎ木とかでいけるんだろうか?


「……あ、あれ……? なんかツタが動いてるような……」


 しばらく眺めていると、急に植物のツタが動き出す。

 もしかして、モンスター……?


「ふぇー!」


 バンシーが声をかけると、植物のツタが実ってる果物を器用にもぎ取っていく。

 そして、それをバンシーの元へと持ってくる。

 バンシーはツタから渡された果物を微笑みながら俺に手渡す。


「くれるの?」

「ふぇっ!」

「ありがとう、それじゃあ遠慮なくもらっていくね」


 その後もツタとバンシーの果物リレーは続き、アイテムボックスに10個の果物が納められた。

 ……食べきれるかなこれ。まあ、ボックス内では腐敗が進まないそうだし、ゆっくり食べていこう。


 それにしてもこのツタのモンスターは何なんだろう? プラント系のモンスターかそれとも……。

 まあ、気にはなるけどバンシーのともだちみたいだし、詮索はしないでおこう。


「……そうだ。俺、ウォーターの魔法で水が出せるんですけど……必要でしょうか?」


 俺はツタに向かって対話を試みる。

 すると、ツタを縦に振って意向を返してくる。


「それでは、どの辺に水を出せばいいのでしょうか?」


 俺が聞くと、ツタはとある木の方を指し示す。

 なるほど、あの木にあげればいいんだな。



 その後、何回かウォーターの魔法を木の周りに放つと、満足してもらえたのか、更に果物を追加で5つもらってしまった。

 お礼のスパイラルになっててなんだか申し訳ないけど、厚意はありがたく受け取っておこう。



 それから他のバンシーたちのいる所に戻り、遊具の新調などをしてからホームへと帰宅したのだった。

 もちろん、アテナさんへのリボン作りの講習はメッセージで忘れずに取り付けておいた。




**********




「そういえば、あの果物ってステータスを見たらおいしさとか分かるんだろうか?」


 ホームに帰ってのんびりしていると、ふと果物のことが気になり始めた。

 アイテムボックスからリンゴを1個取り出し、ステータスを見てみると……。


【リンゴ:ランクS、ランダムに選ばれたステータスを1だけ上昇させる(HPまたはMPの場合のみ3)。フルーツプラントが育てたリンゴ。市場に出回ることは極めて稀で、フルーツプラントが気に入った者にしか与えない幻の果物】


「……は?????」


 うん、なんかステータス上昇とか書いてた気がするけどきっと幻覚か気のせいだろう。ドリアードは木の精だろう。

 もう1回見てみよう。


 俺は目を擦り、深呼吸をして再度ステータスを表示する。



【リンゴ:ランクS、ランダムに選ばれたステータスを1だけ上昇させる(HPまたはMPの場合のみ3)。フルーツプラントが育てたリンゴ。市場に出回ることは極めて稀で、フルーツプラントが気に入った者にしか与えない幻の果物】



 ……見間違いじゃなかったな?


 このゲーム、レベルが上がるとステータスが上がるんだけど、更にステータスポイントというものが5だけもらえる。

 これは自由に割り振ることができ、プレイヤーの判断で特化型にも万能型にもなることができる。


 で、だ。


 レベルアップ1回で5しか入らないステータスポイント。

 そしてランダムとはいえ、ステータスが1上がる果物。


 凄まじい効果というのは火を見るよりも明らかだ。さすがランクSだけある……。

 しかもそれが合計15個もあるわけで。単純に考えるとレベルアップ3回分の効果……やべーやつだわコレ。


 もちろん、ランダムだから不要なステータスがアップする可能性もあるわけだけど……どのステータスでもそうそう腐らないとは思う。


「……ん?」


 とある事がふと頭をよぎる。


 割り振ったステータスポイントは課金でリセットできるけど、これはどういう扱いになるんだろう。

 このアイテムで上がったステータスはそのままなのか、それともリセットされてしまうのか。


「……とりあえず、運営に質問を送っておこうかな」


 どこまで考えても結論は出ないので、俺は運営に頼ることにした。

 確実に仕様を知っているはずだしね。



「さて、そろそろギルドに顔を出して、アテナさんに相談しよう」


 俺は質問を運営に送ると、ホームからギルド……ティルナノーグへと場所を移動した。




**********




「──ということで、残りの3人にもリボンを作ってあげたいのですが……」

「なるほど、個性に合わせたリボンと……分かりました、明日までに考えておきますね」

「ありがとうございます。ちなみに、アテナさんの作った服はもちろん、俺の作ったリボンも喜んでくれてましたね」

「よかったです、本当にあのアレンジでよかったかちょっと気になってたので……それならそれを参考にしてリボンのデザインも考えたいですね」


 アテナさんほどの腕でも、その辺が気になるんだな。


「おう、おふたりさん。例のバンシーたちの話か?」

「はい、さっきアドヴィス森林に行ってきたので……それで次に作るものの相談をしてました」

「まさかコウも小物を作るようになるとはなあ。しかもかわいいやつを」

「それを言うならアトラスさんもですよね」

「ははっ、そこを突かれると痛いな」


 実は俺がリボンを作ろうとしたきっかけはアトラスさんのシィルちゃん。

 シィルちゃんが小さいリボンをしていたので、俺もライアたちにと思ってアテナさんに相談したんだけど、実はアトラスさんがアテナさんに教わりながら自作したと聞いたのだ。


「ま、おれもシィルに何か作りたかったんだよ。武器だといずれ壊れちまうから防具でな。それでアテナに聞いたらリボンが作りやすいってなって……」

「シィルちゃんの身長が小さいので最初は苦戦したんですよね。私もあのサイズだと苦労するだろうなとは思ってたんですけど……」

「そこはアトラスさんのシィルちゃん愛ですよね」

「ですです」

「まあ否定はしないが。なにせたくさんいるモンスターの中から、シィルが来てくれたわけだからな。何かしらの『縁』があったんだろうと思ってな」


 『縁』かあ。

 確かに、このエインズの町周辺だけでもかなりの種類のモンスターがいる。

 レアモンスターみたいに、まだ出会ってないモンスターもいるだろうから詳しい数までは分からないが、ダンジョンも合わせると50以上はいるのではないだろうか。

 そんな中から来てくれた子とは何かしらの縁で結ばれているのかもしれないな。


「そうなると、このギルドのメンバーやフレンドも同じことが言えますね。数万いるプレイヤーの中からこうして集まったわけですし」

「ものづくりやペットモンスターっていう共通点はあったかもしれねえが、それでもこうやって出会う確率を考えたら低いよな。もしかしたら、現実でもどこかですれ違ってるかもな」


 そういえば先日ゲーセンで会った人、どこかで聞いた声のような気がしたけど、それは過去のどこかなのかそれともワールドクリエイターズなのか。

 まあ、もう1度会う確率って非常に低そうなので、心の内にとどめておこう。


「コウさーん、お聞きしたいことがー……って、お話中でしたか。また後にしますね」

「あ、大丈夫ですよ。アテナさん、アトラスさん、それではまた」

「おう、またな」

「リボンのデザイン、がんばりますね」


 俺はその日は声をかけてくれたギルドメンバーと一緒に、新しい遊具の開発に取り掛かるのだった。




**********




「おう、オレとタイガに相談したい話ってなんだ?」

「うむ、重要そうな話だとは思うが……」

「ええと、それではまず、こちらを見てください」


 翌日、俺はタケルとタイガさんにメッセージを送り、2人の都合のつく時間にホームへと来てもらった。

 それは……。


「おいおいおい、なんだよランクBの杖って!」

「このステータス補正、属性補正どちらも見たことのない値だ……」

「「しかしこの説明文は……」」

「ん?」

「む?」


 バンシーの杖を2人に見せたところ、予想通りの反応である。

 さすがにこの補正値の杖は見たことがないようだ。

 ……それにしても、2人ともやっぱり説明文に息ぴったりの突っ込みを入れるんだなあ。仲良し仲良し。


「コウ殿、この杖の作り方を聞いても……?」

「はい、それは──」


 俺はアドヴィス森林での一連の出来事を撮った動画を2人に見せる。


「なるほどな。レアモンスターの連続イベントだから強いのか?」

「しかしよくこれを杖にしようと……」

「いい感じの枝だったんでつい……」

「分かる」

「分かるのかタケル殿……」


 ちょっとタイガさんには理解ができなかったみたいだけど、幼馴染のタケルには理解ができたようだ。

 まあ、下校中にいい感じの枝を見つけて剣みたいに振り回してたしな。


「今回もいい話を聞けたぜ。それじゃ……」

「あ、これで終わりじゃないんだ」

「つまり、ランクBの杖よりも重要な話がある、と」

「そうです、これを見てください」


 俺はステータスをアップさせる果物のステータスを表示した。


「──嘘だろ? まさかのステータスアップアイテムか……」

「しかも、『譲渡・売買可能』、か」

「なあコウ、ちなみに売る気は……」

「とりあえず今のところない……とは思うけど、もし売るとしたらどれだけの金額になるのかなと思って」


 俺のその言葉に頭を抱える2人。

 ……だよなぁ、ランクSでしかもステータス関連だからな……。


「……少なく見積もっても、10万G以上ではないだろうか……」

「オレはもう少し行くと思う。ただ、前例がなさ過ぎてだなあ……」

「そのうちこのイベントに遭遇するプレイヤーもいるだろうし、価格は変動するだろうが……ステータスアップは唯一無二だからなあ……」


 いくら考えても結論が出ないので、とりあえずしばらくの間は俺がそのまま持っていることに。

 もし安くなっても、自分で使うという選択肢はあるからな。



 こうして、とんでもないプレゼントの騒動は一旦落ち着くのだった。

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― 新着の感想 ―
売買不可のアイテムを売る事が可能なの?
このフルーツをジュースとかに加工したら効果はどうなるんだろう? ステータスポイント増えて、加工品だから他の人も飲めるとかになるとヤバくない?
もらって困るプレゼント。嬉しいんですよ?嬉しいんですけどね。 しかもこの「もらって困るプレゼント」、ひとつだけじゃないんです。15個あるんです。どうしましょう? ギルド員で消費?ランカーに売り付ける…
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