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新機能解放

「やあコウくん、昼食の時にちょっといいかな?」

「あ、ああ……」


 ……タケシがこういう口調になるときって、何かあるときなんだよな……。

 まあ、十中八九というか確実にHPが回復する椅子のことなんだろうけど。タケシも落札しようと参加してたし。




「……それで、どうやったらあの椅子を作れたんだ?」

「どうやったらと言っても、普通に椅子を作ってただけなんだよな……そのあと同じ手順で椅子を作っても特殊効果は付かなかったし」

「うーん……と言うことは作れたのは本当に偶然だったのか」

「ああ、2個目に作った椅子に付いたからな。作り方のサンプルにちょっと手を加えただけなんだけど……」

「もしかしたらそれにヒントがあるのかもな。手を加えたことによる変化があって、それで特殊効果が付きやすくなった……とか」

「付きやすくなった、か。そういえば特殊効果が付与される確率は分かってるのか?」


 俺が聞くと、タケシは腕を組んで首を横に振る。


「小数点以下、って噂があるぐらいだ」

「小数点以下って……それレアアイテムが盗める確率みたいなもんじゃ……」

「まあ、あながち間違ってないとは思う。同じものを数千、数万と作ってようやく付与されたって情報はある」

「付与されたアイテムと効果は分かってるのか?」

「ああ、それは剣で、効果は『ダメージ+1%』だ」

「へえ、結構強い付与効果じゃないか。斬るたびに追加ダメージってことだろ?」

「まあ、強いっちゃ強いんだが……ワールドクリエイターズはアイテムや装備に『使用回数』があるんだよ」


 剣の使用回数、か。つまり限度を超えて使おうとすると……壊れてしまうんだろう。

 俺の作った椅子にも使用回数が設定されていたしな。


「強いからって、普段から使い過ぎて壊れちゃ意味がないか」

「そういうことだ。ここぞ、って時に使わないとな」

「使用回数は修理とかで回復できないのか?」

「一応NPCがやってる修理屋ってのがあるんだが……特殊効果が付いたアイテムや装備の修理代ってめっちゃ跳ね上がるらしいんだよ」

「あー……それだと本当に使いどころを考えないといけないんだな。……それにしても、そういう貴重なものですら普通に治せる修理屋って何者なんだ……」

「昔のゲームでもそういうやついたよな」

「ああ、伝説の武器ですら普通に修理してさあ……今思うとあいつ凄いやつだったんだな」


 と、思わず昔のゲームに話が移り変わる。

 その後も話が広がり、昔を懐かしむことになるのだった。




**********




「……さて、今日も何か作りたいところだけど……まとまったお金が手に入ったことだし、町に素材を探しに出てもいいかもしれないな。違う素材で作れば何かしらの変化もあるかもしれないし」


 平日の帰宅後のログインだからあまり時間はないのだけど、たまには散策もいいかもしれないな。

 それと、次回のフリーマーケットは買う側で参加して素材を探してみたい。前回はほとんど見て回れなかったし……焼き鳥とかも食べたいし……。


 おっと、つい本音が出てしまった。

 VRで食べる物ってどんな味がするかちょっと気になってるんだよな。

 ポーションにも飲みやすさがあるみたいだし、飲み比べもしたい……けど、HP回復に使わないのはもったいないよなあ。


 っと、そんなこと考えてたら貴重な時間を浪費してしまう。

 さっさと町に出ないと。


【INFO:始まりの町 エインズへ向かいます】



 ちなみにこの町はプレイヤーが造ったのではなく、運営によって用意されていたもの。

 さすがに『何でも作れる』がキャッチコピーとはいえ、サンプルがないとどうしようもないからな。

 ……それにしても、このレベルの町が自分たちで造れるようになるには、どれぐらいの時間がかかるんだろうか……。

 俺は、レンガ造りの家や外壁、側溝や街灯などを見てふと思う。


「ま、気にせずのんびりやっていくのが一番か。今は椅子を作ってるだけでも充分に楽しめてるし……」


 今は必要な素材を集めて、より良いものを作れるようにがんばろう。



 その後、俺はヒノキやスギ、マツなどのさまざまな木材を少量ずつ、メインで使っているヒノキは少し多めに買い、次の休みの日にいろいろ作って素材の違いを検証しないとなと思いつつ、満足してログアウトしたのだった。




**********




「……よし、ちょっと椅子を作ってからフリーマーケットに出かけようかな」


 朝早くにログインすると俺は作業場に行き、いつも通りヒノキを使って椅子を作り始める。

 まずは自動作成機能で作ることにする。と言うのも、この能力がおそらくベースと思われるからだ。


 自動作成機能で作ると、椅子のランクはD、使用回数は100回となった。

 その後、サンプルと同じ手順で作ると、使用回数は+10の110回、ランクはDのままだ。

 そしてもう1個作ってみると、使用回数は+5の105回、ランクは変わらずD。

 更にもう2個を追加で作ると、使用回数は107回と103回。

 手作業でやると時間がかかるが、使用回数が追加される感じなのかな。

 逆に、サンプルよりも下手……ちょっと手抜きで作ったらどうなるか気になったが、おそらく使用回数が-されるだけだろう……検証するならやった方がいいんだろうけど、わざと手を抜くのはちょっと気が引ける。


 そして、今度は手を加えた場合はどうなるか、だ。

 座面に窪みを作って座りやすくすると……使用回数が更に増えて118回となった。

 次に座面を面取りして角を丸くしてみる。すると使用回数が115回に。

 ……つまり、アレンジをすればそれだけ使用回数が増えて、商品の質が上がり、ランクも高くなるという感じだろうか。




「……おっと、気が付いたらもうこんな時間か……」


 どうやら夢中でものづくりをしていたようで、気が付いたら時計の針はそろそろ12時を指そうとしている。

 フリーマーケットでいい素材が手に入ればもっとランクを上げられるかもしれないし、そろそろ出る準備をしないとな。


 俺は軽く作業場の掃除をして、フリーマーケットへ向かうことにした。




**********




「この焼き鳥、結構おいしいな……どうやって味を再現してるんだろう……」


 フリーマーケットに入場すると同時に、俺は気になっていた焼き鳥を買ってみた。

 このゲームは無料でも嗅覚や味覚がある程度再現されており、課金をするともっと美味しく感じられるようになるとか。

 なるほど、こうやって課金欲を煽って運営資金にしているのか……ま、俺は無料での範囲内で楽しもう。


「お、あっちには木材が並んでる……どれどれ」

「おう、あんちゃんはもしかしてクラフターかい?」

「はい、最近始めたばかりでして、今は椅子とか机を作ってます」

「なるほどな、それじゃこのちょっとランクの高いヒノキはどうだい? 自分が森に行って伐採をしたものだ。町で売ってるやつよりもランクが高いから、いいものが作れる……かもしれねえぜ」


 木材のステータスを見てみると、ランクはCとなっている。

 町で売ってるものはランクDだから、これを使って作ればランクを更に上げられるかも。


「それじゃ、このランクCのヒノキを10個ほど……」

「まいど! 隔週でフリーマーケットに参加してるから、またよろしくな」

「ええ、また買わせていただきますね」


 これはいい買い物をしたな、と喜んでいると……。


【INFO:エインズ周辺の持ち込み制限ダンジョンが初めて踏破されました。突破ギルドは……】


 不意に、全体アナウンスが流れる。

 それと同時に、フリーマーケットにいた全員がざわつく。


「ついに踏破されたか! これで新機能が解放されるな!」

「突破ギルドは……ビースト・ネスト……やっぱりあそこか」

「さて、どんな機能か……アナウンスはまだかな……」


 ……持ち込み制限ダンジョン、(ビースト)……まさかな、と思ってアナウンスのリンクを開くと、そこの踏破者リストにはタイガさんの名前が。

 つまり、あの椅子で本当にダンジョンが突破できたってことなんだろうか。


 などと考えていると、追加のアナウンスが行われる。


【INFO:持ち込み制限ダンジョンのクリアに伴い、『ペットモンスター』の機能が解放されます】


 それと同時に周りから歓声があがる。

 文字通り受け取れば、モンスターをペットにできるってことなのかな。

 戦闘をして倒したモンスターが起きあがったら……とか?


「おい、明日以降のログインで1つモンスターの卵がもらえるってよ!」

「マジか、確定で仲間にできるのか!?」

「どんなモンスターが生まれるかは……どうもプレイヤーの行動で変化するらしいぞ!」


 周りはもうペットモンスター機能の話題で大盛り上がりで、フリーマーケットはそっちのけだ。

 ……まあ新機能が話題をかっさらうのは当然だろうし、いい木材は買えたからそろそろ引き上げて作業の続きをしようかな。


 俺はホームへと帰り、買った木材を作業場に整理する。


「……ペット、かあ」


 俺は現実ではそもそもアパート暮らしだし、ペットにお金を回せるほど余裕もないから飼えないんだけど……。


「まさか、VRでペットを飼うことになるとはなあ……うちにはどんな子が来てくれるんだろう」


 内心ワクワクが止まらない。

 それと同時に、もっとお金を稼げるようになって、いいものを食べさせてあげたい、と思い始めた。まだどんなものを食べるのかとかも分かっていないのに。


「それじゃ、うちの子のために……もっといいものを作れるようにならないとな!」


 こうして、俺は椅子作りを再開するのだった。

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