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スコールの装備

「ふぁぁ……もう朝か……」


 月曜の朝。今週もまた仕事が始まる。

 ……のだが。


「ん? 何だか身体が重いような……」


 もしかして病気だろうか。しかし風邪とかではなさそうだが……。

 身体が重い……重い……? ……まさか!


 俺は脱衣所に行くと、体重計の上に乗る。


「ふ……増えてる……」


 そう、病気とかで感覚的に重いわけではなく、物理的な意味で重かったのだ。


 確かにワールドクリエイターズを始めてから、外に出かけることが減ったなあ。

 食料を買いだめしてゲームする時間も増やしたし……。

 うん、絶対これが原因だわ。


「っと、そんなことを気にしてる時間は……」


 電車の時間もあるので、俺は早めに着替えや朝食を済ませてから出社するのだった。




「あっはっは、それでちょっと落ち込んでたのか!」

「笑いごとじゃないぞタケシ。もうすぐ健康診断だし、これからもワールドクリエイターズやるならずっと付きまとう問題だしさ」

「それなら、1駅の区間を歩くとか、日常的に運動する時間を作るといいぞ。オレもやってるからな」

「ああ、だからお前は体型変わんないのか。ランカーだからプレイ時間減ることはやらないと思ってたが……」

「体調管理もランカーの必須条件だからな。体調崩してログインできないってことがないようにな」


 なるほど、言われてみればそうである。

 俺も真似して運動を取り入れるかあ。


「あ、もし時間あるなら明日ゲーセン行こうぜ。着替えの服も持ってきてさ」

「ん? まあいいけど……」


 さすがにスーツでゲーセンは暑いからな……音ゲーやってた頃は汗かいてたし……。

 とりあえず、タケシの提案に乗ってみよう。時間とお金以外減るもんじゃないし。いや、体重は減って欲しいけど。




**********




「じゃ、これやってみようか」

「こ……これは……」


 翌日、タケシに連れてこられた所は……。


「ダンスゲームじゃねーか!?」

「ま、全身運動になるからいい運動にはなるぜ?」

「いや、確かに有酸素運動でもあるからいい運動だけどさ……ダンスやった事のない俺にやれとかどんな羞恥プレイだよ」

「しょうがねえ、まずはオレがやってやるよ」


 タケシはそう言うと、100円を投入してゲームを始める。

 ふーん……ノーツが落ちてきるタイミングに合わせるタイプか。

 ……あれ? この曲は……。


「お前この曲好きだっただろ?」

「よく覚えてるな……5、6年ぐらい前のか」

「他にもいろいろあるぜ? 好きな曲ならリズムも取りやすいだろ?」

「確かに……」

「おっと、曲選択の制限時間がそろそろだ。んじゃやってくるわ」



 その後、タケシは2曲をフルコンボで踊り切る。


「おいおい、お前ダンスこんなに上手かったっけ?」

「いや、このゲームしかやってないぞ。オレも最初は運動不足解消に始めたんだけどハマっちゃってさ。結構楽しいんだぜ。消費カロリーも出るから達成感もあるしな」

「なるほど、確かにピッタリだ」


 これなら運動不足の解消になるだろう。

 とりあえず、やってみるか……昔っからタケシが勧めてくるゲームは俺にも合うものが多かったし……。


「……ワールドクリエイターズ内での動きがカロリー消費になってたらいいのになあ」

「ああ、確かにそれはオレも思うな。ワールドクリエイターズは脳内で考えたことが行動に結びつくタイプで、実際に身体で動かしてるわけじゃないからな」

「まあ実際に動かしてたら、いくら部屋の広さがあっても足りないからな……おっと」


 俺は俺たちよりちょっとぐらい年下っぽい女の子がこちらを見ているのに気づいた。


「もしかして、順番待ちされてました?」

「い、いえ……ちょっと友人を探してまして……すみません」


 俺が声をかけると、女の子は慌ててその場を立ち去った。

 ……なんか、どこかで聞いたような声だったけど……。


「おいおいコウ、ゲーセンでナンパかー?」

「違うわ。もし順番待ちなら譲ろうと思っただけだよ」

「ま、そういうことにしとくか。……なんか、ワールドクリエイターズの名前を出した時に反応してたから、もしかしたらプレイヤーなのかもな」

「おいおい、目ざといな。お前の方がよっぽど……」

「……まあ、とりあえず早くやろうぜ。帰ってワールドクリエイターズもやるんだしさ」

「……だな」


 自分が不利になりかけると話を逸らすの、昔っから変わってないなあ。

 まあ、時間が惜しいのは実際そうなので、俺も試しでプレイを始める。



 その後、チュートリアルを含めて3曲プレイするころには汗だくになっていた。

 おかしいな、クーラーは充分に効いてるはずなのに……。


「な? 割と運動になるだろ?」

「た、確かに……それに知ってる曲ならテンションも上がるし、たまにやりにきてもいいな」



 ……こうして、体重を元に戻すための運動手段を確保できたのだった。


 ちなみに、このゲーセンは俺の住んでるところから1駅離れている。

 そのため、ゲーセン帰りに歩くようにすれば更に運動が可能だな……そう思いながら帰宅するのだった。……疲れたので今日のところは電車で、だけど。




**********




「スコールたちはいいよなあ、ここで運動ができて」

「がう?」


 俺は地面に座って、スコールをもふもふしながら話しかける。

 スコールからしたら『?』って感じなんだろうけど……ああ、それにしても癒される。


「きゅー!」

「るー!」


 おっと、スコールに構い過ぎてた。ライアとレイが自分にもして欲しいと言わんばかりに頭を差し出してくる。もちろん撫でてあげるのだが……。


 ライアは植物だけど頭の葉っぱ部分だけは植物の手触りで、髪の部分はちゃんとした髪質なんだよな。

 肌は樹木を意識して創ってあるのか硬いんだけど。なんか不思議だ。


 レイは人間部分は普通の人間と同じ手触りで、花びらやツタなどは植物っぽい感じだ。

 これを再現してるって、相当な作り込みだよなあ……。


「……よし! それじゃあ今日は……」


 充分なお相手の後、俺は立ち上がってギルドの作業場へと向かう。




「お疲れ様です、コウさん」

「おう、魔玉は仕入れてきたぜ」


 アテナさんとアトラスさんの2人は既に準備万端だ。

 今回俺たちが作るのは……。


「それにしてもスコール……ウルフに取り付けるタイプの鞍を作るとはなあ。ちょうど今ウルフをペットにするのがブームだし、結構売れそうだな」

「まあ、ドリアードやシルフなどのちっちゃい子が既にペットモンスターのプレイヤーには限られますけどね……」

「安全面を考慮して、鞍に背もたれとシートベルトを取り付けるんですね。確かに直に乗ると振り落とされちゃう子もいるでしょうし……」


 ライアはバランス感覚がいいのと、万が一落馬……正しくは落狼しそうになっても宙に浮かべるので安心なのだが、中にはそうはいかない子もいる。はず。

 手綱を付けることも考えたけど、力が弱い子もいるだろうし、身体を固定した方が安全かなという考えだ。


 ちなみに戦闘面に関しては全く考慮していない。

 あくまで非戦闘地域でペットたちだけで楽しむためのものだ。自分の子が複数出せるのも非戦闘地域だけだしね。


 もし戦闘でも使うことになるなら強度とかも考え直さないとだし。

 ウルフの機動力とドリアードやシルフの遠距離魔法のヒットアンドアウェイできる組み合わせは強いとは思うんだけど……とりあえずは遊べるものを作りたい。


「それで、鞍を作り終わったらソリか」

「コウさん、これは戦闘面でも使うことを想定しているんですか?」

「はい、イベントの時に大量にプレイヤーが出陣するでしょうし、ソリに乗せてポーションを配給するのを考えてます。戦闘中にウルフの機動力で配給できれば、ポーション切れの人に有効でしょうし。……ただ、配給中にポーションが壊れないように固定する必要があるでしょうが、そこはトライアンドエラーで作っていこうかと思ってます」

「なるほどな……よし、それじゃ作ろうぜ」


 こうして、俺たちは作業を開始した。




**********




「よし、完了か。コウ、ここですぐに装備していくか?」

「どこかの道具屋みたいですね」

「はっはっは、一度言ってみたかったんだ」

「ああ、分かります。『武器は装備しないと意味がないんだぜ』とかも言ってみたいセリフですよね」

「おお、分かる分かる」


 ……と、俺とアトラスさんが盛り上がっているとアテナさんは『?』な顔をしている。

 RPGでのよくあるネタなんだけど、プレイしてないと分からないだろう。


「……さて、それではスコールに装備してもらいましょう」

「そうだな。それじゃ付けるのは頼むぜ」


 俺はスコールを呼び寄せて鞍を付ける。……おとなしくしてくれるのはありがたいな。

 そして、ぐらつきがないか確認した後に、ライアに座ってもらう……のだが、ライアは足がつながっていて鞍に跨れないので、横向きに座ってもらう。

 これを考慮して、背もたれを回転して角度を変更できるようにしておいた。もちろん、走っているときに回らないように角度を固定できるようにもしている。

 ちなみに魔玉は飾りとして目立つところにはめ込んでいる。オシャレも大事だよね。


 そして、ライアが落ちないようにシートベルトをしてもらい……。


「よし、これで準備は完了かな」

「コウさん、私、動画を撮っても大丈夫ですか? ライアちゃんがはしゃいでいるところを見たいので……」

「あ、大丈夫ですよ」


 そして、ほかのギルドメンバーたちが集まり始め、テスト走行をすることに。

 アテナさんには宣言通りに撮影をしてもらう。何かあった時に見返せるしね。

 もちろん、掲示板に投稿すれば道具の宣伝にもなるし。


「それじゃライア、危なくなったらスコールに言って止まってもらうんだよ」

「きゅーっ!」

「がうがう!」


 こうして、スコールは広場を走り始め……。


「うん、強度は充分そうかな」

「スコールの方向転換による背もたれの回転はなし……と」

「ベルトサイズも調整できるようにしましたし、ぐらつきはなさそうですね」


 いろいろなチェックをしながら、2人を見守る俺たち。


 しばらくして、スコールが走るのを止めて戻ってくる。


「きゅー♪」

「楽しかった? よかったねライア」


 どうやら鞍の方は問題なさそうだ。

 途中で走る速度も少し速くしてもらったけど、それによる不具合も見当たらない。

 これなら充分に商品化できそうだな。


「よし、じゃあ次はソリを試してみるか?」

「そうですね、今度はレイに乗ってもらって……」

「あ、その後にティアちゃんも試乗させて頂けますか?」

「それなら、おれも後でシィルを……」


 ギルドメンバーたちも次々に自分も試乗させてあげたいと言うので、順番待ちの行列ができることに。

 中にはウルフをペットにしている人もいたんだけど、『憧れのコウさんのペットのスコールくんとの2ショット動画が欲しいんです!』と力説されて俺が折れた。何の憧れかはよく分からないけど。




**********




「うん、ソリも実用に充分耐えそうかな」

「コウさん、女の子のウルフもいるでしょうし、ソリをかわいくしてみるのはどうでしょうか?」

「なるほど、そりゃあいいな。デザインはみんなで考えて、何個が作ってみるのはどうだ?」

「それはよさそうですね。みなさん、緊急会議を開いても大丈夫ですか?」


 俺がギルドメンバーに聞くと、「もちろん!」「かわいいソリに乗ったうちの子を見られるチャンスですね! がんばります!」「クリスマスにも使えそうですね……」などなど、いろいろな返答が。

 ものづくりギルドの募集できてくれた人たちだから、みんなやる気があっていいな。




 その後、緊急会議でデザインを決定し、明日2通りのデザインのソリを作製することにした。

 また、アテナさんに撮ってもらった動画は、ペットモンスター愛好会のサークル掲示板にアップしてもらい、動画収益はアテナさんが受け取るようにしてもらった。

 アテナさんは遠慮してたけど、今後作る道具や装備などの材料費に充ててもらうという形で話は決着。

 現に、今までいろいろと作ってもらってたしね。


「……そういえば、スコールくんの装備はどうするんです?」

「あー……確かに考えてませんでしたね。爪とかみつきが攻撃手段なので、武器は持たせづらいんですよね」

「確かにな。おれも考えてみたが……刃のついた翼のようなものを背負わせて、突進で攻撃するとか……スコールが距離感つかむのにちょっと苦労しそうだが……」


 確かに四足歩行の狼に武器を持たせるのは難しいな……。

 防具なら頭や胴を保護する感じでできそうだけど……。


 アトラスさんの言っているものが、攻防どちらもできそうだけど……ある程度軽くしてあげないと、機動力も損ねそうだし難しいところだ。


 でも、こうやってアレコレ考えるのが楽しいんだよな。ものづくりの醍醐味だと思う。


「コウさん、全員で考えて後日会議を開いてみてはいかがでしょう?」

「……確かに、すぐに決めないといけないってわけではないので……それでは2日後の木曜日に開催しましょう。レックスさん、ご提案ありがとうございます」


 こうして、今日のワールドクリエイターズでの活動は終わったのだった。




 ……ただ、現実の方はアパートの室内でもできる運動をネットで探して、実践しなくてはならない。

 思ってたよりも増加してたんだよな、体重。

 とりあえず、来月の健康診断に間に合わせられるようにがんばろう。

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― 新着の感想 ―
スコールの装備と自分の体重管理が目下の課題ですね。 アパートでも出来る運動かぁ。飛んだり跳ねたりが出来ないですから、難しいんですよね。ルームランナーもけっこう音がするし。エアロバイク? 馬、ラクダ、ゾ…
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