プレゼント
「よし、そろそろいいかな……」
俺は昼食を済ませた後、アドヴィス森林に向かう。
午前中はタイガさんのギルド、メッセージを送っておいたタケルのギルドが使っていただろうから、時間をずらして行くことにした。
「きゅー……」
ライアは少し不満顔だ。
『自分たちがいるのに女の子に会いに行くなんて……』とか思われているのだろうか。
「……ライア、ちょっといい?」
「きゅー?」
俺は歩みを止めて草原に腰を下ろすと、アイテムボックスからとある物を取り出す。
「……きゅーっ!」
それは、ライア用の小さい水着。
『バンシーちゃんにワンピースを渡すとライアちゃんたちが嫉妬しちゃいそうですね……あ、でも嫉妬してるライアちゃんたちもかわいいかも……』とアテナさんが言っていたので、こっそり作ってもらっていたものだ。
もちろん、レイの分もある。
「きゅっ、きゅーっ」
早速着てみたいのか、腕にくっついておねだりをしてくるライア。
……こんなところで女の子を生着替えさせてたら、なんか通報されそうな気がするけど……。
まあ、そんな選択肢はライアが用意させてくれないわけで。
少し道を外れたところでライアを装備解除し、水着を着せることに。
ちなみに今回はライアとレイでお揃いの水着で、ブラ+紐パン+パレオの3点セットだ。
紐を結ばないといけない以上、2人とも俺が着せることになるのだが……。
……なんとかライアを着せ替えすると、装備記憶をしておく。
レイは人間サイズだし肌も人と同じなので、できればアテナさんにやってもらいたいんだけど……。
「きゅー」
あ、代わって欲しいってレイの合図が来たんだな……。
いつでも交代できるため、控えにいる子たちにも外の景色が分かるようになっている。
そのため、俺がライアに水着をプレゼントしているのもバレているわけで……。
そりゃあ自分も欲しいから代わって、って思うよな。
「るーっ!」
俺はライアとレイを交代して、レイの装備解除をして……。
「うう……」
レイの外見は足元が花になっている以外は本当に人間と変わらない。
そんな子の裸が目の前にあるので、これをまじまじと見ながら着せるのは結構つらいのである。
一応、『謎の光』機能で大事な部分は隠せるけど……。
「るー」
あっこれ『早くして』の催促か……。
俺は覚悟を決めて着せ替えを始めることに。
「よ、ようやく終わった……」
「るーっ♪」
俺は着せ替えを終えると、装備記憶をしておく。
……これでとりあえずは一安心だ。
「せっかくの水着なんだし、今度ティノーク海岸に行こうか」
「るーっ♪」
……ん? よく考えたら植物に海に含まれてる塩分って大丈夫なのだろうか?
まあ、この前海に入ったライアが大丈夫だから大丈夫なんだろう……おそらく。ファンタジーな世界だし。
とりあえず、ティノーク海岸のボトルメールブームが収まったら泳ぎに行こう。
……そういえば、俺の水着なかったわ。
まあ、プレイヤー用のなら町で売ってるだろう。たぶん。
……と、ちょっとした寄り道をしながら、俺たちはアドヴィス森林へと向かうのだった。
**********
「ふぇーっ♪」
アドヴィス森林にバンシーの花冠を装備して入り、ボスエリアまで進むとバンシーが待っていた。
そして、いつものように隠し通路を案内される。
「るーっ」
案内された先にはバンシーの友達のアルラウネと……そして、壊れた遊具たちが。
まさかこんなに早く使用回数が切れるなんて……。
とりあえず、壊れた遊具の回収と新しい遊具の設置をしておこう。
「「ふぇー♪」」
「あ、あれ?」
遊具を設置すると、どこからともなく複数のバンシーたちが現れる。
……なるほど、みんなで遊んでたからすぐに壊れちゃったのか。
「ふぇっ」
そして、案内をしてくれたバンシーが俺に頭を下げる。
なるほど、この子がみんなの中でリーダーみたいな感じなのかな。
「みんなで遊べて楽しい?」
「ふぇー!」
バンシーは両手を上げて喜びを表す。どうやら気に入ってくれたようだ。
しばらく観察していると、シーソーで他の子が遊んでいるときは、この子やアルラウネはブランコや滑り台で遊んでいるようだ。
そして交代して……なるほど、1日で壊れちゃうわけだ。
ここに来る時間がない時もあるだろうし、もう少し耐久力を上げた遊具も作りたいな。
「さて……そろそろ渡してみようかな……」
俺は機を見計らっていつものバンシーを呼び寄せる。
そして、アテナさんからもらったフリルの付いた白いワンピースを渡してみる。
……果たして気に入ってくれるだろうか?
「…………」
バンシーは渡されたワンピースを時間をかけてじーーーーーっと見ている。
そして、おもむろに今着ているワンピースを脱ぎだ……。
俺は咄嗟に後ろを向く。
み、見てません! 見てませんから!
「きゅー……」
「痛っ」
ちょっと呆れたような目をしたライアに少し腕をつねられる。
うう……俺のせいじゃないのに……。
バンシーの周りは女の子ばかりだし、羞恥心がないのかな……。
「ふぇー♪」
そんなことを考えていると、白ワンピースに着替えたバンシーに回り込まれ、声をかけられる。
顔を上げると、バンシーがくるっと一回転してワンピースを見せてくれる。
どうやらサイズはぴったりで、気に入ってくれたようだ。
……アテナさんの裁縫技術、恐るべし……。
「ふぇー!」「ふぇー……」「るー……」
そして、そんなバンシーの周りで俺に物申したい3人が。
みんなバンシーのワンピースを指差してるので、これは服が欲しいって合図かな。
それなら動画に撮ってアテナさんに送ろう。おそらくサイズまで把握して作ってくれるはず。
「それじゃ、服を作るために動画を撮るから横一列に並んでもらえる?」
俺が声をかけるとサッと一列に並ぶ3人。
しっかりしてるなあと思いながら、俺はサイズが分かるように3人を比較するように撮影する。
とりあえずはこれで大丈夫かな?
「うん、もう大丈夫だよ。また作っておくからね」
「「ふぇー!」」「るー!」
俺がそう言うと、みんなは再び遊具に戻る。
とりあえず、もう1セット設置しておくかな……ん?
「ふぇー……」
白いワンピースをプレゼントしたバンシーが、枝らしきものを持ってきてくれたようだ。
もしかしてワンピースのお礼だろうか? 俺はそれを受け取り、ステータスを見てみる。
【いい感じの枝:ランクC、バンシーがアドヴィス森林で拾ったいい感じの大きさの枝】
俺は枝を片手に持つと、持ち心地が妙にしっくりくる。
確かにこれはいい枝だ……ちょっと太めなので剣というか杖にピッタリな……ん? 杖?
……なるほど、それなら……。
「ありがとう、これは大事に使わせてもらうね」
「ふぇー♪」
こうして、俺はいい感じの枝を手に入れてホームに戻るのだった。
**********
「アトラスさん、地属性の魔玉か鉱石はありますか?」
「おう、あるけどどうしたんだ?」
「実は──」
俺はアドヴィス森林でのことをアトラスさんに話した。
「なるほど、それは楽しそうだな。よし、ちょっと値段はまけておくぜ」
「え、いいんですか?」
「おう、その代わりできたものを一番に見せてくれよ。武器を作る身としちゃそれが楽しみでな」
「分かりました、それでは早速作ってきます!」
俺は代金をアトラスさんに渡すと、急いで町の加工屋へと行き、地属性の魔玉に加工してもらう。
……それにしてもアトラスさん、もう複数の属性鉱石を持ってるとは……。
さすがはクォルトゥス鉱山の常連といったところだろうか。
「──さて、今回は……」
俺はいい感じの枝をまじまじと見る。
持ち手から途中まではほぼまっすぐ、そこから先は少し折れ曲がっている感じか。
これならまっすぐな部分は無加工、折れ曲がっている部分に木材をはめ込み、そこに魔玉を納める形で作ってみようかな。
それと、バンシーは妖精の一種とされているから、バンシーにはないけど羽みたいな飾りを付けてみよう。
……そして、しばらく作業をして、魔玉を取り付ける。
これで完成かな。今回はいい仕事ができたと思う。
【INFO:作業を完了しますか? 完了した後は手を加えることはできません】
よし、『はい』を選択して……と。
それじゃ、結果は……。
【バンシーの杖:ランクB、地属性+30、風属性-30、MP+28、魔力+85、魔防+31、運+23、正式名称は『バンシーからもらったいい感じの枝で作ったいい感じの杖』で、略してバンシーの杖。略し過ぎではないかと思うが、略称なんてそんなものである】
…………。
しばらく絶句していた。
……まさか、ランクBの杖が作れるなんて。
やはり『バンシーからもらった枝』というのが大きいんだろうか。
それにしても魔力が+85とか普通じゃないよな?
前に作ったライアの杖がこんな感じだったし……。
【魔法少女的ステッキ:ランクC、地属性+20、風属性-20、MP+22、力+6、魔力+52、魔防+23、魔法少女が使うようなかわいらしいステッキ】
ステータスを見比べてみると、力こそ上がらないものの、他は属性補正を含めてすべてが上位互換である。
力も、魔法使いで近接攻撃をすることはないだろうし、この差もあってないようなものだ。
唯一の欠点は使用回数か……他の杖よりも低いし、調子に乗って使い過ぎたらすぐに壊れてしまうだろう。
ま、強い武器が壊れなければそれだけを頼って他の武器の使い方とか学ばないだろうし、そういうバランス調整なんだろう。
……とりあえず、アトラスさんに報告に行こう。
**********
「……ふぅ、今日も一日がんばったなあ」
もうそろそろ日が傾き始める。
杖を作ったあとは今度アドヴィス森林に行ったときにあげる予定の遊具を作ったり、アトラスさんに質問攻めにあったり、アテナさんに他の子の服作りを依頼したり……結構忙しかった。
でも、忙しいながらも楽しかったので、満足した疲れだな。
「きゅー」
「るー」
ん? どうしたんだろう。
……ああ、もしかして……。
「ティノーク海岸に行きたいの?」
俺がそうたずねると、2人は頷く。
確かに水着をもらったならすぐに行きたくなるよね。
まだボトルメールブームは終わってないだろうけど、この時間帯なら人は少なくなってるかな。
俺としても作業で疲れたし、俺たちはティノーク海岸で休憩することにしたのだった。
「きゅー♪」
「るーっ♪」
ティノーク海岸に着くや否や、波打ち際に駆け出す2人。
ここは非戦闘地域だから、ペットモンスターを全員出せるのでありがたい。
周りには人はちらほらいるものの、同じように海を楽しみにきているのか、のんびりとしている。
あ、俺は属性鉱石の加工ついでに水着を買ったので準備はばっちりだ。
その後、俺たちは波打ち際で水を掛け合ったり、少しだけ海に入って泳いだり。
……2人はふわふわ浮かべるので泳ぐって概念はないのかもしれないけど。
それでも楽しんでくれているので、水着をプレゼントした甲斐はあったな。
もちろん、2人が遊んでいるところは動画に撮ってあるので、後でペットモンスター愛好会のサークル掲示板にアップしておこう。
「それじゃ、そろそろ帰ろうか」
「きゅー……」「るー……」
2人はまだ遊んでいたいのか、海を見て寂しそうにしている。
「もう日が暮れるし、夜になると危ないからね。それに、また遊びにくればいいんだし……ね?」
そう言うと2人は納得してくれて帰る準備をしてくれる。
……さて、まずは身体を洗い流さなきゃ。
俺はみんなを集めると、頭上に向かってウォーターの魔法を放つ。
これを何回か繰り返し、塩分を徹底的に洗い流す。
そして、タオルで水気を拭いて……と思ったが拒否されたので、どうやら2人には必要ないようだ。
まあ、植物系だから水とは相性がいいからなんだろうけど……。
とりあえず、このまま装備を変更すると服が濡れてしまうので、2人は帰り道はまだ水着のままでいいかな……。すれ違った人に変な目で見られそうだけど……。
帰宅後はみんなでゆっくりとした時間を過ごしてから、夕食のためにログアウトするのだった。




