花冠の検証
「さて、次は何をしようかな……」
アドヴィス森林から帰ってしばらくは、ホームでライアとレイの2人と遊んでいた。
2人とも俺がバンシーに会ってからご機嫌斜めだったしね……。
花冠を作るのに結構な時間かけてたし……ん?
そういえば俺が作った方の花冠のステータスを見るのを忘れていたが、どんな感じだったんだろうか。
もしかしたら……。
「ライア、レイ、ちょっとグラティス草原まで花冠を作りに行かない?」
「きゅーっ♪」
「るー♪」
俺の提案に喜んで乗る2人。
俺が作る花冠は2人それぞれにあげようかな。
それじゃその前に……。
「はい、今日の魔石。お腹いっぱいになったらちょっと休憩してから行こうね」
俺は2人に魔石を渡す。
既に2人の大好物は把握しているので、今はそれをローテーションしている。
そういえば、好物はあるけど苦手な物は今のところないんだよな。
基本的に好感度が上がる仕様なんだろうか。
「きゅー♪」
「るー♪」
……ま、2人の幸せな顔が見られるならそれでいいか。
とりあえず、2人が食事を済ませたら俺もいったんログアウトしてお昼にしよう。
**********
「それじゃ、花冠を作っていこうか。俺もバンシーの子の見様見真似だけど……」
お昼を食べた後グラティス草原に向かい、自分たちより弱いモンスターを出現させない『モンスター出現抑制』を使って、安全な環境下で花冠を作り始める。
まずは俺とライアで作ってみることに。
俺はライア用に、ライアの頭に乗せられる小さいサイズを作る。
「……よし、こんな感じかな」
「きゅー!」
どうやらライアも作り終えたようで、声をかけてくれる。
それじゃまずは……。
「はい、どうぞ」
「きゅー♪」
俺はライアの頭にそっと花冠を乗せる。
そしてお返しにとライアも俺に花冠を乗せてくれる。
「ありがとうライア。それじゃ、レイに交代してもらえる?」
「きゅーっ」
こうして、レイにも同じようにお互いの花冠を作ってもらうことに。
そして、すべての花冠を作り終えると、俺はホームへと帰って確認を始める。
「ええと……今回作った花冠は……」
【小さな花冠:ランクD、魔防+14、ペットモンスター用の小さな花冠。かわいい】
【花冠:ランクD、魔防+12、花で作った冠。かわいい】
【ドリアードの花冠:ランクC、MP+12、魔力+6、魔防+25、ドリアードが作った花冠。ドリアードの魔力が宿っている】
【アルラウネの花冠:ランクC、MP+15、魔力+12、魔防+18、アルラウネが作った花冠。アルラウネの魔力が宿っている】
「……やっぱり」
明らかにペットモンスターが作った方が性能が高い。
ドリアードの椅子やポーションオブ系のポーションなどもそうだったが、ペットモンスターが関わると性能が上がる傾向にある。
バンシーの花冠は更に性能が高いけど、これはイベントアイテムだからか、それとも……。
「レイ、ちょっと花を分けてもらってもいいかな? レイの花で花冠を作りたいんだけど」
「るーっ」
俺の頼みに応えてくれるレイ。
アルラウネは植物を操れるので、花の補充もお手の物だ。
そして、レイにもらった花を使っての花冠は……。
【花冠:ランクD、MP+10、魔力+3、魔防+22、花で作った冠。かわいい】
ランクこそ上がらなかったものの、明らかに性能が上がっている。
もしかして、モンスター由来の素材は性能が上がる仕様なのだろうか?
ワールドクリエイターズのモンスターは、倒すと魔石とG、たまにレアドロップを残して消滅するため、倒した後に素材をはぎ取ることはできない。
つまり、アドヴィス森林のアルラウネやレイのように、素材を分けてもらわないとダメ。
この入手のしづらさが性能に影響しているのだろうか?
更に、モンスターやペットモンスターに作ってもらったものも性能が上がる。
この2つが合わさって、バンシーの花冠はランクBの高性能になったと考えられる。……イベントアイテムだから基本性能が上がるという可能性もあるけど。
……今度は、レイの花を使ってライアとレイに作ってもらうのも試してみようかな。
そんなことを考えていると、アテナさんからメッセージが入る。どうやら、アドヴィス森林に行く準備ができたようだ。
俺はエインズの町の北出口で待ち合わせしようとメッセージを送って、準備してホームを出たのだった。
**********
「さて、それでは準備できましたし……」
「アドヴィス森林に入りましょうか」
俺たちはできるだけ条件を俺がバンシーに会ったときに合わせる。
俺はライアを、アテナさんはルシードをそれぞれパートナーにしてアドヴィス森林に入る。
そして、アルラウネを無力化したあと、ライアをレイに、ルシードをティアちゃんに交代して、アテナさんがハイポーションをアルラウネに与える。
その後、ボスマップから出ようとしたが……。
「……バンシーの泣き声、聞こえませんね」
「そうですね……」
一応、大樹の陰を見にボスマップの出口から引き返してみたが、特に誰もいない。
うーん、アテナさんもティアちゃんの好感度は高いはずなんだけど。
「もしかしたら、プレイヤーがソロで戦う必要があるのかもしれませんね」
「なるほど、俺もソロでやってましたし……アテナさん、ソロでもいけそうです?」
「はい、人形とルシードの連携でツタは何とかなりそうですし、種を撃ち出す植物もウインドカッターの魔法で倒せそうです」
「それなら……いったんアドヴィス森林から出て回復してきましょうか」
「分かりました」
アテナさんの戦闘スタイルはMPをかなり消費するからなあ。
人形を使うにも、魔法を使うにもMPが消費されるわけで。
とりあえず、アイテムボックスからマジックポーションを取り出し、アテナさんに渡してMPを回復してもうらことに。
「いいんですか?」
「ええ、検証に付き合っていただいているので……」
「ありがとうございます。もし、バンシーちゃんに会えたらお礼をしますね」
アテナさんはそう言うと、ソロでアドヴィス森林の中に入っていった。
「……ウインドカッターかあ。便利そうだな」
……実は俺、まだレベルアップでもらえるスキルポイントやステータスポイントを一切使っていない。
ワールドクリエイターズではプレイヤーが個性を出せるように、レベルアップで上がるステータスのほかに、自由に割り振れるステータスポイントが存在する。
また、スキルも自由に取得できるようにスキルポイントが存在する。
……のだが。
俺は失敗するのが嫌で、こういうシステムのゲームだと詰みかけない限り割り振らない人だ。掲示板とかでいろいろ見てはいるんだけどね。
一応、完全に詰みにならないように、ステータスポイントもスキルポイントもリセットはできるんだけど……課金要素だからお世話にならないように気を付けている。ちなみにリセット金額は1000円。
「もし取得するなら、スキルの場合絶対に腐らない基礎ステータスアップスキルかなあ。魔力にあんまり振ってないから魔法スキルはもったいなさそうだし……ん? いや、待てよ……」
「きゅー?」
ライアが不思議そうにこちらを見る。
「ライア、ライアは水って好き?」
「きゅー♪」
そうだよね。レイもだけど井戸水を汲んであげると嬉しそうに飲んだり、根から吸収してるし……。
それなら。
【INFO:ウォーターを取得しました】
試しに初級水魔法のウォーターを取得する。
使用スキルポイントは1だし、失敗してもそう痛くはない。
「それじゃ……『ウォーター』!」
俺は誰もいない方向に向かって、魔法を出してみる。
すると、手のひらから勢いよく水が飛び出す。
高圧洗浄機とまではいかないものの、かなりの勢いだ。
……さすがにこれを直接ライアたちには当てられないよなあ……。
……少し練習してみたものの、勢いの調整は難しい。
それならと上空に放出して、水を降らせる形にしてみる。
「どう? 大丈夫そう?」
「きゅー♪」
ライアは降りしきる水の中で嬉しそうにはしゃいでいる。
これなら大丈夫そうかな。これで井戸水を汲む重労働からも解放されるし……。
それに、これを応用すれば、ライアがスキルの『陥没』で溝を作ったところに水を流し込める……つまり、村を作る際に堀が設置可能になるはずだ。
ライアやレイも喜ぶし、村づくりには役に立ちそうだし、これはお得なスキルだろう。
「コウさーん!」
と、俺がウォーターのスキルの検証をしていると、森から嬉しそうなアテナさんの声が聞こえる。
もしかして……。
「会えました! バンシーちゃんと会えましたよ!」
「おめでとうございます! これで、ソロ(ペットモンスター同伴可)というのが条件というのも分かりましたね」
「はい! ただ、ちょっと残念なことがあって……」
「残念なこと……?」
「はい、お洋服は着てくれなかったんです……コウさんの動画でだいたいのサイズは把握して作っていったんですけど……」
「ま、まあ、初対面の人に『服を着替えて!』って言われたら警戒するでしょうし……仲良くなったら着てくれるかもしれませんよ」
「……そうですね! 私、仲良くなれるようにがんばります!」
……まあ、初対面の人がどこで調べたのか自分のサイズに合った服を持ってきて『着替えて!』って言ってたら、不審者どころの話じゃないよね。
「ところで、それはやっぱり……」
「あ、そうです。私もバンシーちゃんからもらいました! 大事に使わないとですね」
アテナさんが頭に乗せていたのは、やはりバンシーの花冠。
ステータスは自分が持っているものとほぼ同性能だ。
「……ところで、もう一回行けばバンシーちゃんと会えるんです?」
「いえ、バンシーの花冠を装備して入るという条件を満たす必要があるのと、会うのは1日1回限定なようです」
俺も2回目の花冠イベント後に入り直したもののダメだったので、1日1回限定のイベントなんだろう。
イベントの続きが気になるから早く進めたい気持ちはアテナさんと同じなんだけどね。
「そうですか……まあ、三顧の礼と言いますし、3回目にはきっと着てくれるはず……あ、服を1着コウさんにお渡ししましょうか? コウさんの方が早く仲良くなってるので……」
「えっ、あー……そ、それでは1着……」
俺がサイズの合う服をプレゼントできるのも、バンシーからしたら不思議だと思うんだけど……。
不審者がられないか心配だなあ。でも、アテナさんの厚意を無下にもできないし。
……ということで、フリルの付いた白いワンピースを1着頂くことに。
普段着がワンピースだし、きっと気に入ってくれるはず……。
「それでは、もし着替えてくれたら動画送ってくださいね!」
「は、はい……」
「それでサイズの微調整もできますし……うふふ、待っててねバンシーちゃん……」
……うん、相変わらずのご様子だ。
「るー……」
ティアちゃんもちょっと困惑気味である。
まあ、ティアちゃんもアテナさんの服を着てくれているので、ティアちゃんにとっても着心地はいいんだろうな。
「それではそろそろギルドに行きましょうか?」
「そうですね、今日もいろいろ作りましょう!」
こうして、俺たちはギルド……ティルナノーグへ向かうのだった。
**********
「それでは今日の会議を始めます。まずは遊具に関してですが……」
土曜の夜はまず会議から始まる。
この一週間での気づきや、新しく作るものについての話し合いだ。
今回の議題は遊具。
今は滑り台、ブランコ、シーソーと作っているので、そろそろ新しいものを作りたいところ。
ちなみに会議は発言を否定しないブレーンストーミング方式だ。
「鉄棒がまだなので、設置場所も省スペースですし推しておきます」
「鉄棒を作る要領で雲梯もできそうですね」
「それならジャングルジムも……」
などなど、どんどん意見が出る中、レックスさんが少し悩んでいるような表情をしている。
……あとで聞いてみようか。
その後も活発に意見交換をしながら、今日の会議を終える。
今回は作りやすそうな鉄棒を試作することで決着した。
「レックスさん、少しよろしいですか?」
「あ、はい……」
俺たちはギルドの外に出て、話を聞くことに。
「もし、悩みがあるようでしたら、相談に乗りますよ」
「……ええと、僕はポーションオブウンディーネを作ってから、自分も誰かの役に立てればと思ってアイテムの研究をしてきたのですが……一向に新しいものを作ることはできなくて。それで……」
「なるほど。ちなみに、新規アイテムの開発だけが誰かの役に立つことだと思っていますか?」
「え、ええ……」
「それだけではないですよ。例えばアテナさんだったらペットモンスターの服を作って、誰かの役に立ってますよね」
「……確かに」
「それで、このギルドメンバーの中でウンディーネがペットモンスターなのはレックスさんだけですよね? それなら、ウンディーネが喜ぶことを見つけてそれを共有すれば、誰かの役に立ってるとは考えられませんか?」
「ウンディーネ……ウィンが喜ぶこと……そうですね、考えてみます」
「ちなみに考えるには最適な場所……行ってみますか?」
「は、はいっ」
**********
「──ここが、考えるには最適な場所……」
俺たちがやってきたのは、ティノーク海岸。
綺麗な夜空に、波の音が心地よい。
「周りに何もないですし、この一定な波の音が心を落ち着かせてくれるんですよ」
「確かに……」
周りに何かがあると意識がそちらに行ったりする。
PCやスマホがあるとついつい触っちゃう感じだ。
俺たちはしばらく波の音を聞きながらゆっくりしていたのだが……。
「きゅー」
「ん? どうしたの?」
「きゅっきゅっ」
ライアは身振り手振りで俺に何かを伝えようとしている。
何かが降ってきている……ああ。
「もしかして水が欲しいの?」
「きゅーっ!」
今日取得したウォーターで水をあげたからなあ。
そこまで気に入ってくれたのなら嬉しいところだ。
「それじゃちょっと離れて……」
俺はウォーターを空に向けて放ち、ライアの頭上に降らせる。
ライアは大喜びで葉っぱや根で水を受け止める。
「うー! うー!」
「ウィン、どうしたの?」
「うーっ」
突然、ウンディーネのウィンちゃんが声をあげる。
そしてライアを指し示しているが……。
「もしかして、自分もウォーターの水が欲しいのではないでしょうか? 俺じゃなくて、レックスさんの」
「ぼ、僕のですか!? わ、分かりました。スキルを取得してみます」
レックスさんはウォーターを取得し、ウィンちゃんの頭上に向かって放つ。
すると……。
「うーっ!」
ウィンちゃんはその水を操り、自分の中へと取り込んでいく。
……自分よりも大きい水の塊を取り込める……これが精霊の力なんだろうか?
「うーっ……♪」
「これは……大好物の魔石を食べた時と同じ反応……」
「つまり、ウンディーネはウォーターの魔法も大好物、ということでしょうか?」
「そうかもしれません……こんなの、初めて知りました」
「……これを動画にして共有すれば、ウンディーネをペットモンスターにしている人の役に立ちませんか?」
レックスさんがハッとした表情をする。
「でも、これはコウさんが見つけたことで……」
「確かにきっかけは俺かもしれません。でも、ウォーターを取得して水をあげ、それが大好物の反応だったと分かったのは、普段からレックスさんがウィンちゃんをよく見ているからですよね。俺だったら分からなかったですよ」
「そ、それでしたら……お言葉に甘えてもよろしいでしょうか?」
「ええ、俺はちょっと向こうでボトルメールを拾ってますので」
こうして、レックスさんはウンディーネの好物についての動画を作ることに。
初めての撮影はかなり緊張したようだが、きっとみんな見てくれるだろう。
「ふ、ふぅ……何とか撮れました」
「お疲れ様です。最初は緊張しますよね」
「で、ですよね……ところで、ボトルメールはいかがでした?」
「ぜんっぜんですね……たまに来ては探しているんですけど……」
「あ、確かに。僕も9以外は持ってるんですけど、その9が全然出ないんですよね」
と、俺たちが談笑していると……。
「うーっ!」
突然、ウィンちゃんが海の中へと飛び込んだ。
いきなりの行動に俺もレックスさんも固まっていたのだが……。
「うー!」
すぐに海面に顔を出すウィンちゃん。
手には小さな瓶を持っているが……。
「うー、うー」
「開けて欲しいの? それじゃ……」
レックスさんが海藻が巻き付いたボトルメールを開けると同時に、目を見開く。
もしかしてこの反応は……。
「謎の紙⑨です……」
「え、ええっ!?」
「海の底に沈んでいたのでしょうか……それなら見つからないはずです」
「ウィンちゃんのお手柄ですね」
「はい。……でも、今まではこんなことをしなかったはずなのですが……」
確かに、今までも同じことをしていたら、飛び込んだことに驚くはずがないし……。
「もしかして、ウォーターを取り込んだことに関係が……?」
「確かに、あれで元気になった感じはありますし……その辺は要検証ですかね」
「ありがとうございます、コウさん。まさか謎の紙⑨まで手に入るなんて……」
「これ、全部集めたら何かが分かるんですか?」
「一応組み合わせてみますが……書かれている文字が暗号のようなので、解読が必要ですね。確か町にそういった施設があった気がします」
「なるほど、どんな情報が隠されているか楽しみですね」
こうして、予想もしていなかった収穫があったティノーク海岸。
暗号の解読をしているお店は日中にしか開いてないらしく、翌日までお預けになるのだが……。
とりあえずレックスさんの悩みは解決したし、よしとしようかな。
その後、鉄棒の試作をしてから今日はログアウトするのだった。




