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レアモンスター検証

「で、オレに相談したいことって何だ?」

「そうがっつくなよ。まずは食堂だ食堂」


 翌日、俺はバンシーのことをタケシに相談してみることに。

 タケシはホントに情報収集能力めちゃくちゃ高いんだよな……ランカーギルドだからノルマもあるはずなのに掲示板も欠かさずチェックしてるし。

 とりあえず、食券を購入して席に着く。


「レアモンスターって知ってるよな?」

「ああ、キングウルフとクロウレギオンが確認されてるな」

「……じゃあ、これを見てくれ」


 俺はワールドクリエイターズのアプリを起動して、バンシーの花冠を見せる。

 最近のアップデートで掲示板以外にも所持アイテムなどもチェックできるようになったんだよな。


「バンシー……聞いたことないけど、もしかして……」

「タケシでも聞いたことがないってことは……たぶん、レアモンスターだな」

「しかもなんだよコレ、ランクBの頭装備なんて初めて見たぞ? ステータスが高いわ異常無効まで付いてるわ……物理防御は皆無だけど魔法防御高すぎだろ」


 なるほど、ランカーのタケシがこの反応ってことは、相当なものなんだな。


「……もし、コウが要らないっていうなら大金出してでもうちで引き受けたいが……」

「あ、それはないから安心してくれ」

「だよなぁ」

「ま、そもそも『譲渡・売買不可』ってステータスに明記してあるし、俺のために一生懸命作ってくれたものを誰かに渡すのはな」

「ん……? 作ってくれた……?」

「あー……話せば長くなるが……っと、食券の順番が来たか」


 俺は定食を受け取ると、席に戻る。

 そして食事をしながら、ゆっくりとバンシーの花冠を手に入れたいきさつを話した。


「──とまあ、こんな感じだ」

「なるほどな。でも、同じように導きの蝶の2匹目を持ってるギルドメンバーはいるがバンシーとは会えてない。そして、2人目のアルラウネはペットになるのかって試したギルドメンバーもいるが、その時も会えてない。なにかしら他の条件があるんだろうな」

「俺は普通にレベリングしてただけなんだけどなあ……。ところで、2人目のアルラウネってペットになるのか?」

「いや、ならない。2人目以降は確率かと思って調査したけど、うちのギルドメンバーが合計1000回ほど試してダメだったぞ」

「同じモンスターは1人まで、ってことか。……なんか2人目狙いっていうと、昔のゲームで仲間モンスターの名前が固定だった時、2匹目以降の名前が気になってずっと同じモンスターと戦ってたの思い出すわ」

「ああ、やったやった。懐かしいな。それで、2匹目を仲間にしたら3匹目を……って沼っていくんだよな」


 ちょっと脱線して昔を振り返りつつ、食事を進めていく。


「……ところで、その装備は公開するのか?」

「いや、まだ同じ行動でバンシーに会えるかどうかの再現性が確認できてないし、ある程度調査をしてからかな。期待させといて再現性ダメでした、はよろしくないしな」

「確かに偶然に偶然が重なって……とか、残念! 実は超低確率のレアイベントでした! とかあり得るからなあ。特にランクBの装備なんてそうホイホイ手に入っていいものじゃないし」


 確かにそれもそうだ。

 『アルラウネに2回導きの蝶をもらう』ってだけだと、ランクBの頭装備が量産できてしまうわけで。


「とりあえず土日は検証に時間を割いてみるよ」

「おう、楽しみにしてるぜ」

「……それにしても、あと2週間でイベント開始なのに、こんなにゆっくりしてていいんだろうか?」

「ま、もし確定で手に入るってなったら全体の補強につながるし、もしバンシーをペットモンスターにする方法が分かれば更に戦力強化にもなるだろ?」

「あー、それもそうか。ただ、レアモンスターってペットにできるんだろうか? ウルフキングはまだしも、クロウレギオンなんて複数のクロウが集まった姿だしさ」

「だよなぁ……ま、ドロップ品調査も兼ねて、オレたちもがんばるわ」

「そうだな、お互いがんばろうぜ」


 ……こうして、次の土日は検証をメインに行うことを決めたのだった。

 もちろん、ものづくりの時間はちゃんと取った上で、ね。




**********




「さて、まずはバンシーの花冠を手に入れるまでの流れをおさらいしてみるか」


 一応、途中……バンシーが出てから動画には撮っていたんだけど、それより前から見ていこう。


 ・ライア(ドリアード)と一緒に、ボスアルラウネを導きの蝶入手条件(攻撃手段なし)にする

 ・レイ(アルラウネ)に交代して、ボスアルラウネに『ハイポーション』を渡す

 ・ボスマップから出ようとする

 ・大樹の陰にバンシーが出現する

 ・膝を擦りむいているのでポーションを渡す

 ・バンシーに導きの蝶を渡す


 ……なんだろう、至って普通というか、誰にでも起きそうな条件というか……。

 何か特殊な条件があるとしたらアルラウネに渡したのが『ハイポーション』ってぐらいか?


 とりあえず、同じ条件でバンシーが出現しないか試してみようか。





「るーっ」


 俺はハイポーションを渡したアルラウネから3匹目の導きの蝶をもらう。

 そして、ボスマップから出ようとするが……バンシーの声は聞こえてこない。

 そのまま入口まで戻ったが、特に何かが起こることはなかった。


「まあ、そうなるよな……」


 既に『バンシーの花冠』を持っているし、もう1度起きてしまったら量産できてしまうからだ。

 2人目のアルラウネがペットにできないみたいに、ランクの高い装備を複数入手は無理なんだろう。


 となると、別の人に試してもらうか、それとも……。


「……もしかしてこれ、連続イベントか……?」


 ランクが高くて強いとはいえ、『譲渡・売買不可』と明記されているのは不思議だった。

 まるで、『手放してはならない』と言われているようで。

 俺としてはがんばって作ってくれたものを売ったり譲ったりはしないと決めていたけど。


「それじゃあ……」


 俺は一旦アドヴィス森林から出るとバンシーの花冠を装備して、再びアルラウネのいるボスマップへと進んでいく。

 そして、ボスマップに到着すると、普段とは何かが違う感じがした。

 ……そう、どれだけ待ってもアルラウネのツタによる攻撃がないからだ。


 俺は不思議に思って、大樹の近くへと歩み寄る。


「……ふぇーっ!」


 すると、森の奥からバンシーの声が聞こえてきた。

 おそらく、あの時助けた子だろう。


 俺は声のする方に歩いていくと、草むらからバンシーが飛び出してくる。


「ふぇーっ♪」


 そして、俺の胸に飛び込んでくる。

 急なものだったので受け止めきれず、地面に倒れ込んでしまう。


「きゅー……」


 痛い。ライアからの視線が痛い。

 まさか少女に押し倒される形になってしまうとは……違うんですライアさん、そんな目で見ないでください。


 ……気を取り直して。

 俺はバンシーにどけてもらうと、服に付いた土を払う。

 そして、どうして俺に声を掛けたのか聞いてみると……。


「ふぇーっ」


 バンシーは立ち上がり、森の奥へと進みだして俺を手招きする。

 今回は導きの蝶は必要なさそうだ。


 俺はしばらく獣道を進んでいくと、突然開けた場所にたどり着く。

 そしてそこには、バンシーの母親やアルラウネたちが集まっていた。


「バンシーとアルラウネって共存関係にあるのか……?」


 俺が驚いていると、バンシーはアルラウネに何かを話し始めた。

 すると、アルラウネは自分の花の一部をちぎってバンシーに渡す。


「もしかして……」


 俺はバンシーの花冠を外してよくよく観察する。

 そして、今しがたアルラウネがバンシーに渡した花と見比べてみると……形状が一致する。


 もしかして、バンシーの花冠ってアルラウネとの共同制作なのか……?


「ふぇっ」


 そんなことを考えていると、バンシーは俺に花を手渡してくる。

 もしかして、これをくれるという意味だろうか?

 ……と思ったら、自分も同じ花を持ち、俺に見せるように他の花と組み合わせ始めて……。


「もしかして、一緒に花冠を作りたいの?」

「ふぇっ!」


 ニコニコしながら元気よく答えるバンシー。

 なるほど、一緒に遊びたいってことなのかな。


 それなら、と思って俺はバンシーの花冠作りに付き合うことに。




「ふぇーっ」

「お疲れ様」


 しばらくして、お互いに花冠ができあがる。

 作り慣れたバンシーに比べて、俺のはちょっと不格好だけど……。


「ふぇー……」


 バンシーは俺の作った花冠をじーっと見ている。

 もしかして……。


「それじゃ、交換しようか?」

「ふぇーっ」


 俺は作った花冠をバンシーの頭に乗せる。

 そして、バンシーも俺の頭に今作ったばかりの花冠を乗せてくれる。


「今日も花冠、ありがとうね」

「ふえっ♪」


 俺はバンシーの頭を撫でると、長いエルフのような耳を上下させて喜んでいる。

 年相応っぽいかわいい喜び方だなあ。


「……そうだ」


 もし、バンシーが遊びたいのなら……。

 そう思った俺は、アイテムボックスからシーソーを取り出して設置する。


「ふぇ?」

「るー?」


 見たことのない道具に、バンシーだけでなくアルラウネも興味津々な顔で覗き込んでくる。


「ええっと、これはシーソーって言う遊具で……ほら、バンシーちゃん、こっちに乗ってみて」

「ふぇー?」

「それで、アルラウネちゃんはこっちに……」


 バンシーには端っこに、アルラウネには中央寄りに乗ってもらう。

 すると、シーソーが傾き始め……。


「ふぇーっ♪」

「るー♪」


 初めての体験だからか、2人ともとても楽しそうである。

 最初は少しぎこちなかったものの、遊び慣れてくるとスムーズに上下運動を繰り返していた。


 そんな2人を微笑ましく思いながら、さっきもらった花冠のステータスを見てみると……。


【バンシーの花冠:ランクB、MP+28、魔力+20、魔防+48、運+40、混乱・即死無効、バンシーが心を籠めて作った花の冠。渡された者には幸運が訪れると言われる】


 ……個体差のためか、少しステータスが異なるものの、まさかのランクB2つ目を手に入れてしまった。

 もちろんこれも『譲渡・売買不可』とある。


 つまり、まだ連続イベントは続いている……?


 俺はそう思いながらも、目の前の2人に癒されるのだった。




**********




「今日は楽しかったよ。それじゃまたね」

「ふぇーっ♪」


 せっかくなので、あの後滑り台とブランコも設置してしばらく遊んでいたのだが、そろそろ帰らないとギルドのみんなに心配をかけてしまうだろうと思い、帰ることに。

 バンシーは森の入口まで一緒についてきて、見送ってくれた。


「それじゃ、帰りに迷わないように……これ」

「ふぇーっ」


 以前のようにバンシーが迷ってはいけないので、導きの蝶を手渡す。

 バンシーはそれを受け取り、嬉しそうに森の奥へと帰っていった。


「きゅー……」

「ご、ごめんごめん。後からゆっくり遊ぼうね」

「きゅっ」


 ライアはちょっとご機嫌斜めである。

 というのも、俺がさっきまでバンシーと遊んでたからだろうけど……。

 ただ、このあと遊ぶという約束を取り付けることで、ちょっとだけ機嫌を直してくれた。

 ……きっと、ホームに帰ったらレイも同じ感じなんだろうなあ。


 さて、どうやって言い訳したものか……と思いながら、俺たちはエインズの町へと歩き始めるのだった。




**********




「──さて、今回のイベントで分かったことは……」


 ・バンシーのイベントは連続イベントである

 ・バンシーの花冠を装備してアドヴィス森林に入ることでイベントが進む

 ・アルラウネがイベントに絡んでいるため、自分のペットモンスターのアルラウネの好感度がイベント発生に関係する?

 ・バンシーの花冠の2つ目が確定でもらえる?

 ・バンシーやアルラウネが喜ぶアイテムがあるといい?


「……ダメだ、余計に謎が深まった気がする」


 とりあえず、アルラウネからの好感度が高そうな、アテナさんに協力を仰いでみよう。

 もしそれでバンシーの花冠をアテナさんが手に入れられた場合は、最近アルラウネをペットモンスターにしたばかりの人にも協力してもらって……。


 うーむ、検証ってやっぱりマンパワーが必要だなあ。

 条件の絞り込みも時間がかかりそうだし、公開できるようになるのはまだまだ先だろうな。




 その後、アテナさんに相談したところ……「私でよければ協力します! えへへ、バンシーちゃんにはどんな服が似合うかなあ……着てるのはワンピースだったけど、絶対に他のも似合うよね……」と、既に着せ替えをする気満々である。

 アテナさんの時に出てくるバンシーの個体は俺と同じ子か、それとも別の子か。

 どちらにせよ、アテナさんのお着替え攻勢をくらうんだろうなあと思うと、少し同情するのだった。

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― 新着の感想 ―
検証って人手も時間もかかりますよね。事と次第によってはお金もかかる。 よく小説なんかに書かれている『検証班』の方々ってスゴいなぁと思います。私だったら「こうしてみたら?ああしてみたら?」というのは、た…
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