レアモンスター
「……結構な数だな」
「ですね……」
ギルド名が正式に決まって数日、そろそろギルドメンバーを増やしてもいいだろうと思い、新規に9人の募集をかけたところ、100人を超える人が申請をしてきてくれた。
内訳では特にサークルのペットモンスター愛好会の人が多い。おそらく、あちらのサークル掲示板に動画投稿したライアやレイがいるからかな……?
既にいる3人を含めて全員で12人にしたのは、パーティーメンバーが4人のため、4の倍数にした方がいいという判断だ。
ものづくり中心とはいえ、素材集めに外に出る必要もあるからね。
ちなみに、今回は木工4人、鉄工4人、服飾4人にする予定だ。
なお、錬金はほとんどの人がやっているだろうと判断して、今回は予定に入れていない。
「……あれ? この人は……」
申請プロフィールを見ていると、以前動画にコメントしてくれたポーションオブウンディーネの人が応募してきてくれている。
詳しく見てみると、木工もやっているようだ。……へえ、ウンディーネ用の水槽を作ってるのか。
「おっ、面白い人材じゃねえか」
「そうですね、木材でプールを作ったらペットモンスターの子たちも喜びそうで……応用すれば木風呂とかもできそうですね。この世界でどうやってお湯を出すかが問題ですけど……」
「プールができたら水着を作るのもよさそうですね。うふふ、ライアちゃんやレイちゃん、シィルちゃんにティアの水着……考えただけで捗りますね」
「アテナさん、ステイステイ」
「……はっ! すみません、つい……」
アテナさんは服飾関係のことになると若干暴走しがちである。
それだけ好きってことでもあるんだろうけどね。
「エインズの町の近くにも海岸があるから水着はよさそうだな。動画撮影勢に売れると思うぜ?」
「そうですね、ワンピースにビキニにパレオに……いろいろ種類を作れば組み合わせもできて、その人の個性が出そうですね」
俺の場合、ライアにはビキニの上にパレオ、レイにも同じのがいいかな……? 2人とも下の方が着せづらいからなあ。
シルフのシィルちゃんはサイズこそ妖精サイズだけど、ほぼ人間なので何でも着られそうだ。羽があるから水着に干渉するせいで若干着せられる範囲が狭まりそうなぐらいかな?
「……って、よく考えたらギルドメンバー選定中じゃないですか、今」
「あっ……」
「つい盛り上がっちまうんだよなあ……ま、新規メンバーが来てくれたら更に意見交換も活発になるだろうし、先にメンバー決めだな」
「そうしましょう」
……まあ、脱線したのは俺のプールの話のせいだから、俺のせいなんだけど。
その後、ポーションオブウンディーネの人を始め、9人を新規のギルドメンバーに迎えることになったのだった。
**********
「よろしくお願いします!」
「こちらこそよろしくお願いします。それではまず、新規メンバーの自己紹介から──」
後日、時間を合わせて全員が集まれる時間帯にギルドに集合する。
できれば全員と顔合わせしておきたかったしね。
でも一つ不安がある。
……俺、顔と名前をこんなに一気に覚えられるかなってこと。
現実でもちょっと苦手なんだよな。
そんなことを考えながらも、自己紹介は進んでいく。
俺たち既存メンバーを含めて一通り自己紹介が終わり、次にギルドの方針を話すことに。
「えー、このギルドはものづくりを中心に行っていきます。なお、ノルマはありませんので、ご自由に活動してください。自分の得意分野以外の情報を得て新しい気づきが得られるよう、時々集まって意見交換を行いますが、参加は強制ではありません」
「意見交換の内容は掲示板にまとめるから、参加したいけど時間が合わずに参加できない……って時は掲示板に立てたスレにレスしてくれても大丈夫だ」
「ものづくり中心ではありますが、もちろん素材を集めるためにパーティーメンバーを募って冒険に出ても大丈夫です。ものづくりをする以上、財源が必要ですからね」
「パーティーを作る際、前衛後衛やレベル、活動時間などの情報が必要だと思いますので、あとで掲示板にステータス公開用のスレを立てておきますね」
とりあえず、こんな感じかな。
「あ、あの……質問があるのですが」
「大丈夫ですよ。どういった内容でしょうか?」
この人は確か……ポーションオブウンディーネを作ったレックスさんか。
「ギルドの設備をレベルアップする場合は、関係する人からお金を集める形でしょうか?」
「あ、確かにそこは気になるところでしょうね。今のところは俺が出してますが……」
俺の返答に「えっ?」と新規メンバーからどよめきが起こる。
……この反応からして、普通はこうじゃないんだろうな。
「あの……設備のレベルアップは結構な金額なのですが……?」
「あっはっは、困惑してるな。それはおれたちも通った道だ」
「ホームの設備レベルを上げるより、ギルドの方がたくさんの人にとって利益になりますし……より良いものを作れるようになれば、自分たちだけでなくプレイヤー全体にも良い影響を与えられますしね。ただ……」
「ただ……?」
「もし、自分だけではどうしようもなくなった時は協力をお願いするかもしれません。しかし、そうならないように努力はします」
俺はリーダーだからずっとこのギルドに関わるだろうけど、メンバーは他のギルドに行くなどして入れ替わる可能性がある。
その際、投資したものは戻ってこないから、できるだけ俺だけでなんとかしたいというのが心情だ。
「……僕はコウさんのおかげで今でもものづくりを楽しめています。ですから、恩返しをしたいので必要になったときは言ってください」
「分かりました、ありがとうございます。……さて、それでは次の質問などありましたら──」
こうして、しばらく問答は続いた。
その後は交流を深めるべく、みんなのペットモンスターを集めての遊具交流会を行った。
ペットモンスター愛好会の人だけでなく、普通のクラフターの人たちにも好評だったので、またこういう交流会をやりたいな。その時は新しい遊具も作っておこう。
**********
交流会の翌日、作業をしているとレックスさんに話しかけられる。
「コウさん、よろしいでしょうか?」
「レックスさん、どうされましたか?」
「レアモンスターはご存じですか?」
「レアモンスター? 初めて聞きますね」
そんなモンスターがいるんだ……出現率がめちゃくちゃ低いとかだろうか。
「ええと、『特定の行動をすると出現するモンスター』がいるらしいんです」
「おっ、昨日夜遅く掲示板で話題になってたやつだな」
「アトラスさんもご存じなんですか?」
「ああ、確かその出現方法が……えーっと、何だっけ?」
「『グラティス草原のウルフに仲間を呼ばせ続けると、キングウルフが出てくる』ですね」
グラティス草原……確かエインズの町の南に広がる草原だな。
ウルフはたしか、そこに出てくるレベルが2のいわゆるザコモンスターだ。
「キング……ってなると結構強そうな感じですね」
「ええ、実際に出会った冒険者が速攻で倒されたらしいんです。掲示板を見る限りではレベル40のパーティでもダメだったとか」
「れ、レベル2が呼んでいいモンスターじゃないような……」
「だよなぁ……ま、相当特殊な方法だから普通じゃ出てこないだろうし、当然かもしれないな」
確かに仲間を呼ばせ続けるなんて特殊なこと普通ではやらないだろう。
……いや、昔のRPGで敵に付いたアルファベット一周するかな? って思ってやったことはあるけど……。俺は特殊だったのか……。
「それで、今はレアモンスター出現方法の調査がブームになっているんです」
「実際に見つかった報告もあるんだよな。ヴァノリモ大森林のクロウを倒さずに放置して仲間を呼ばせ、一定の数を集めるとクロウからクロウレギオンになるとか」
「……どうやったらそんな発想ができるんですかね……」
こっちは複数集まったら変化が起きるタイプかあ。
おや? クロウたちのようすが……。 みたいなメッセージが表示されるんだろうか。
「今のところ、1つの地域に1匹のレアモンスターがいるんじゃないかって噂だ」
「ヴァノリモ大森林は入口、迷いの森部分、深層で3パターンあるのでは、という意見もありますね」
「……そういえば、レアモンスターはいいアイテムを落とすんです?」
「キングウルフはまだ討伐されていないが、クロウレギオンはハイマジックポーションを落とすらしいぞ。マジックポーションの2倍の回復効果だ」
「……ということは」
「ああ、ヴァノリモ大森林が大人気スポットになってるぞ」
あー、やっぱり。
アルラウネが仲間にできるって分かったときのアドヴィス森林と同じ状況か。
今は向こうは落ち着いてきているらしいけど。
……ん?
1つの地域に1匹……って仮説から考えると、もしかしてアドヴィス森林にもレアモンスターがいるかもしれない……?
でも、あそこはアルラウネしかモンスターが出現しないんだよなあ。
しかも一本道。寄り道すらできない。
それなら出現トリガーはアルラウネにある……?
「ところで、アドヴィス森林は……?」
とりあえず、何かしらの情報が欲しいので2人に問いかけてみる。
「あそこはなあ……一本道だしアルラウネしかいないし……。今判明してるのはどっちもザコがトリガーなんだよな」
「検証はされているようですが、あまりにも考えられるパターンが少ないですし、それを試してもレアモンスターは見つかってはいないそうです」
「なるほど……」
モンスターをトリガーにするならアルラウネだけだし、それで試行しても出ないならどうしようもないか。
もしマップの方にトリガーがあるにしても、一本道だから探しようがない気がする。ちょっと道を逸れると外に出てしまうし……。
ま、もし何かあるとしたらそのうち誰かが発見するだろう。
……ただ、以前ライアがあの森に反応したことがあるから、そこがちょっと気になっている。
あれは同じ地属性のアルラウネがいるから反応しただけなのかもしれないけど。
「やっぱりコウも気になるのか?」
「そうですね、もしかしたらいい素材を持っているレアモンスターもいるかもしれないですし」
「だよなあ。それなら後から行ってみたらどうだ? 俺はレックスと一緒にクロウレギオンのハイマジックポーション狙いに行こうと思ってるから同行はできないが……」
「大丈夫ですよ。攻撃パターンは把握していますし、アドヴィス森林までの道中でちょっとレイのレベル上げもしたいですし、ソロで行ってきます」
「おう、気を付けてな」
そう、実はレイのレベリングがまだなんだよね。
最近のアップデートで戦闘中にペットモンスターを交代できるようになったから、途中交代することで経験値を配分するのがかなり楽になった。
アルラウネから導きの蝶をもらうパターンなら、最後にポーションを与える際にレイに交代するだけでレイにも経験値が入るから、安全にレベルアップできる。
俺とライアだけで戦うのはちょっと骨が折れそうだけど、パターンは把握しているしレベルもあの時よりも上がってるのでおそらく大丈夫だろう。
よし、それじゃちょっと行ってみようかな。
**********
「ライア、バインドで種を撃ってくる植物の足止めを!」
「きゅー!」
ライアのバインドで、アルラウネの植物の動きを封じ込める。
俺は足元から出てくるツタを避けつつ反撃で数を減らし、ライアは拘束した植物をシードバレットで遠距離から攻撃する。
俺とライアだけだから時間はかかるけど、確実に一つずつ攻撃手段を削いでいく。
そして、5分ほどすると攻撃がピタリと止んだ。どうやらアルラウネのすべての武器を倒したようだ。
ここでライアをレイと交代し、アルラウネに接近。
以前と同じようにポーションを……と思ってポーションを取り出したが、ふと思った。
もし、ポーション以外のものを渡したら……?
俺はアイテムボックスの中を見て考える。
ポーションは50回復、ハイポーションは100回復。
ポーションオブドリアードは80回復で、ポーションオブアルラウネは50回復。
俺はハイポーションを渡す。
すると、以前はツタだけしか復活しなかったが、今回は種を飛ばす植物も復活する。
しかし、反応自体は前回と同じ。
渡されるものも導きの蝶だったし、回復量によって違うものがもらえるわけではなさそうだ。
っていうか、導きの蝶は使ってもなくならないのに、2匹目を渡されても意味がなさそうなんだけど……?
そう思いながらアルラウネのいたマップから外に出ようとすると、どこからか誰かがすすり泣くような声が聞こえてくる。
俺は慌ててレイと一緒に辺りを捜索することに。
すると、大樹の陰に小さな女の子が、目に涙を浮かべながら座っていた。
髪からちらりと見える耳は、エルフのように少し長い。
もしかして……モンスターだろうか? しかし、敵意はない。
「大丈夫?」
「ふぇ……」
俺が声を掛けると、女の子はぎゅっと身体をこわばらせる。
見ると、ワンピースから覗く膝に擦り傷がある。
「……はい、これを飲んでみて」
「……?」
「ポーションだから、飲んだら痛いのがなくなるよ」
「……」
女の子は俺が渡したポーションを恐る恐る飲むと、膝の擦り傷が癒えていく。
すると、少しだけ表情が柔らかくなる。
「もしかして迷子? お母さんかお父さんとはぐれちゃった?」
「ふぇ……」
俺が聞くと、女の子はコクンと頷く。
なるほど……迷子になった上に転んじゃってケガをしたのか。
どうにかして探してあげたいけど……。
「るーっ」
突然、それまで静観していたレイが俺の服の裾を引っ張る。
そして、ツタで地面に蝶のような絵を描いてみせる。
「蝶……そうか、導きの蝶!」
アイテム説明では『迷った冒険者を導く』とあるが、この子が使えばもしかしたら両親のところへ導いてくれるかもしれない。
そう思った俺は女の子に導きの蝶を渡し、使ってもらうことに。
すると、蝶は森の更に奥の方に向かって飛んでいく。
「ちょっとごめんね」
「ふぇっ……!?」
俺は女の子をお姫様抱っこする。膝の傷が治ったとはいえ、無理はさせたくないからね。
そして、蝶を追いかけていくと、隠し通路のような感じで獣道が続いていく。
しばらく道を進んでいくと、少し開けた場所に出る。
そしてそこには……。
「ふぇーっ!」
女の子が喜びの声を出す。女の子の母親と思しき人がいたのだ。
母親は慌ててこちらに駆け寄ってくる。
俺は女の子を母親に引き渡すと、踵を返して帰ろうとする。
しかし。
「ふぇー」
女の子に呼び止められる。
どうやら、少し待っておいて欲しいようだ。
俺はその場に腰を下ろし、掲示板を眺めながら女の子を待つことにする。
そして数分後……。
「ふぇーっ……♪」
女の子から、花の冠が手渡される。
「もしかして、これを作ってくれてたの?」
「ふぇー……」
女の子は少し頬を赤く染めながら、下を向く。
「ありがとう。大事にするね」
俺は女の子の頭を撫でながらお礼を言う。
そして、もらった花の冠を頭に乗せる。
「それじゃ、またね」
「ふぇーっ!」
俺は女の子に手を振りながら、元来た道を帰っていく。
**********
アドヴィス森林の入口に戻ったころ、俺は花の冠を手に取り、ステータスを表示してみる。
【バンシーの花冠:ランクB、MP+32、魔力+18、魔防+50、運+33、混乱・即死無効、バンシーが心を籠めて作った花の冠。渡された者には幸運が訪れると言われる】
……やっぱりあの子、モンスターだったんだ。
バンシーっていうことは、もし機嫌を損ねてたら即死攻撃が飛んできてたかもしれないな……。
とりあえず、お互い無事に帰れたことに感謝しよう。
おそらくこのバンシーがアドヴィス森林のレアモンスターなんだろうけど……条件はいったい何だったんだろうか?
特に変わった行動はしてないはずだし……うーむ。
謎は深まったが、一人の女の子を無事に送り届けられたのでよしとしよう。
そう思いながらホームに戻ってログアウトするのだった。




